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トルコ・シリア地震の陰に隠れたもつれた国際情勢

One week after quake, relief efforts stymied by lack of supplies and housing.

(地震から1週間、救援活動が住居と物資の供給不足によって妨害されている)
― New York Times より

地震発生の地域は国際情勢を揺るがす震源地

 トルコ南部とシリア北部で発生した地震は死者が3万6000人を超え、東日本大震災の犠牲者を上回るまでになりました。
 実は今年の1月には、トルコやロシアとの国境に近いイラン北西部の町フボイでも直下型の地震があり、多くの家が倒壊しています。フボイからトルコに至る地域での地震は、地質学的には同一の地殻変動によるものではないかといわれています。
 
 しかしこの地域、すなわちイラン北西部からトルコ南東部、さらにシリア北部に至る地域は、現在の国際政治を見るときに最も不安定な場所であるという点で共通しています。地震の被害の拡大、そして犠牲者の増加は、単に耐震性が弱い建物が多くあったことだけが原因ではないのです。
 

シリア・イラン・トルコ――各国の状況と思惑

 被災したシリア北部は、この10年間でインフラの大半が破壊されました。2011年にアラブ各地で始まった反政府運動の波がシリアに及んで以来、ロシアに支援されるシリアのアサド政権と、その独裁体制に反抗する人々の間で内戦が続き、シリア北部で特に激しい戦闘が展開されたのです。
 シリアの反政府勢力を支援していたのはアメリカでした。そして、アメリカと対立するイランとロシアは、必然的にアサド政権に接近します。
 
 ところで、イランはイスラム教でいうならば、シーア派の拠点となる独裁国家です。シーア派といえば、シリアの隣国レバノン南部に展開するシーア派武装組織ヒズボラが、イランに支援されながらイスラエルを北から脅かしています。シリアがヒズボラとイランとのラインを仲介しているという疑惑があり、アメリカと絆の強いイスラエルが、シリアへの空爆を行なったこともあるのです。
 
 さらに、シリア内戦の影響で、シリア東部から東の隣国イラクにまたがる広大な地域が無政府化するなかで、2015年前後にイスラム教過激派組織ISIL (IS)が、その地域に拠点をおいて勢力を拡大したことも忘れてはなりません。シリア政府はISILの掃討にあたっても、ロシアの強い支援を受けたのです。ロシアの影響力の拡大を懸念したアメリカは、当時シリアの反政府勢力を支援しながら、最終的にISILの指導者バグダーディーを殺害し、ISILは壊滅します。こうした経緯を経て、シリア北部では今でもアサド政権に対抗する勢力が根強い抵抗をしているのです。
 
 一方で、トルコ側から見ると国境周辺での政情不安が自国に及ぶことに危機感を滲ませます。特に、エルドアン大統領が西欧諸国と対立した政策を実施すると、トルコとアメリカの緊張も高まります。トルコはトルコ政府に対抗するクルド人が国境をまたいでシリアにも居住していることから、シリアへの侵攻も実施します。しかし、さすがにロシアがウクライナに侵攻した段階で、トルコもロシアとは一線を画そうとしています。そこに起きたのが今回の地震です。被災した地域は、実はこうした世界の火薬庫だったのです。
 
 さて、トルコからシリアにまたがる地域での大地震の直前に発生したイランでの地震は、多くの被害が出たのではないかといわれていますが、報道が厳しく規制され、その実態はわかりません。ですから、我々もそのニュースを知ることはほとんどできませんでした。
 この地域は、歴史的に民族問題に絡んで旧ソ連やそれ以前のロシア帝国とイランとが対峙していた地域です。しかし、イランでイスラム教革命が起こり、アメリカとイランが激しく対立すると、イランは急速にロシアに接近します。その接点としての軍事的な拠点が、地震が起きたフボイを中心とした地域なのです。また、この地域は経済制裁を受けるイランにとって貴重なレアメタルの産地であるともいわれています。
 
 さらに、トルコにしてもシリアにしても、今回の地震が起きた地域、あるいはその周辺には、先に解説したクルド系の人々が多く居住しています。彼らは国境を持たない民族として自治を訴え、イランや以前のイラク政権、そしてシリアやトルコといった彼らの居住地域の政府に対抗する姿勢を崩していません。シリア北部、トルコ北東部、そしてイラク北部と面でつながるクルド人の居住地域は広大で、トルコ東部からイランに至る地域は東クルディスタンと呼ばれています。
 そんなイランに住むクルド人が、現在イランで起きている反政府運動との連携を唱えています。ですから、イラン政府はここでの地震の情報を秘匿しながら、国内に拡大する反政府運動を抑え込もうと懸命になっているのです。
 

政治によって見捨てられる被災地の人々

 こうしてみると、それぞれの政権が今回の大地震の被災者に対して、決して一枚岩となって救援をしない実情が見えてきます。シリアに至っては、被災地域への支援はアサド政権を通さないと受け付けないと言明しています。さらに、トルコのエルドアン大統領は、被災地を訪れて救済を約束してはいますが、その動きは決して迅速であるとはいえません。シリアやイランほど露骨ではないにしろ、大統領としてどのようなスタンスで救済にあたるのか、戸惑いが見えています。
 
 そうした間にも、がれきの下で人々が命を落とし、寒波の中で家を失い凍える人たちが為すすべもなく助けを求めています。政治が天災によって生死をさまよう人々を見殺しにしているといっても過言ではありません。
 神のご加護をと被災者が叫ぶなか、その宗教と民族の対立に世界の強国が肩入れし、事態をさらに複雑にしているのです。
 

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今、世界でさまざまな影響を与えている事象について、単にニュース的な見解と報道を紹介するのではなく、日本人には理解し難い歴史的・文化的背景を踏まえ、問題の向こう側にある課題を解説。そして未来へのテーマについても考察します。また本書では、学校では習わないものの、世界の重要な課題に対して頻繁に使われる単語や表現もたくさん学べるので、国際舞台でより深みのある交流を目指す学習者にも有用な一冊です。

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