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決裁と行動ができない日本の課題とは

Biden makes surprise visit to Ukraine nearly one year after Russia’s invasion.

(バイデン大統領はロシアの侵攻からほぼ一年経ったウクライナを電撃訪問)
― NBC より

「決裁」に対する日本と海外との意識の違い

 今週早々、アメリカのバイデン大統領がウクライナを電撃訪問したニュースが世界を駆け巡りました。これによって西側主要国の中で、ウクライナでゼレンスキー大統領やウクライナの国民に直接語りかけることができなかったリーダーは、日本だけとなりました。もちろん、日本の首相もウクライナを訪問したい意思はあったようで、ウクライナ側とも打ち合わせを重ねていたようです。しかし、それが様々な理由によって阻まれてきたのです。
 
 ここにある単純な図面が、いつも日本と海外とのプロジェクトの進行の妨げになっていることを物語っています。

 この図面が示すことは簡単なことです。それはDecision Making、つまり何かを進めるか進めないかという物事の決裁についての、日本と海外との意識の違いを示しています。
 よくいわれることですが、日本では組織の中で事前にコンセンサスをしっかりとらなければならないことと、何か起きたときに誰が責任をとるかとらないかの問題に振り回されるために、前に進む決裁ができずにプロジェクトや他社からの提案が澱んでしまうことがよくあるのです。
 言い換えれば、日本では根回しを繰り返して、多くの関係者の同意を得た上でそのプロジェクトを進めるかどうかを決めなければなりません。決裁までの過程では、できる限り完璧な準備が要求されます。ですから、決裁まで時間がかかり、いったん決裁をしたらそれを変更することは並大抵なことではありません。
 
 それに対して、多くの国では真逆の方法をとります。
 誰かが発案をし、前に進めようとするとき、プレゼンテーションが合理的であるかどうか、その場で全員が忌憚なく意見を述べ、戦わせ、アイデアをブラッシュアップします。その上で、補足したり、特別な調査が必要であったりした場合は、アクションプランを立てて、次の会合などでさらに詰めてゆきます。
 
 それが完了すれば、その段階で決裁を行います。それは、日本のようなコンセンサスを完全にして、詳細な準備まで整えたりするものではありません。彼らには、その後の状況は環境の変化や予測できない事態に直面することもあるので、最初から準備しておくことは不可能だという意識があるのです。
 70%の準備で充分だという考え方が、戦争というリスクの高い作戦の立案を学ぶアメリカの士官学校などですら共有されています。残りの30%は実際に何が起こるかわからないわけで、その場で即応しなければならないからです。従って、一般の国の方針のみならず、企業でも決裁をしたあとで、状況に応じて柔軟に変更を重ね、ときには計画そのものまで改変したりすることは当然なことなのです。
 

実験での完璧さを求めるのか、現実での試行錯誤を繰り返すのか

 この意識の違いは、新たな商品の開発においても顕著です。日本と欧米とが共同プロジェクトを組むときに、日本側は相手が常に納期を守ってくれず、品質管理も充分ではないと批判しがちです。「彼らは、プレゼンはうまいけど、あとでどんどん思うようにいかなくなる。それを指摘すると言い訳ばかりしてくる」と海外と仕事をする日本人は苦情をいいます。
 それに対して、海外の人は「日本人ははっきりと意思表示をせず、決裁にとても時間がかかる。催促すると逃げてしまい、情報共有も充分にしてくれない」と反論します。
 
 この決裁に対する感覚の違いが、日本の首相のウクライナ訪問の機会を奪いました。
 これと似たようなことは、欧米から新たな製品が発表されたとき、日本のマスコミの反応にも顕著に現れます。その昔、Amazonが書籍のオンラインショップとしてデビューしたとき、日本ではネットでの情報が不安定で、書店のように行き届いたサービスができていないとして、業界誌などがこぞってその弱点を批判していました。現在、Amazonが書籍を超えて、あらゆる商品の物流を担い、消費者の心を捉えていることは、ご承知の通りです。
 
 TESLAが世の中にお目見えしたときも同様でした。日本の自動車業界の関係者の多くは、その安全性に問題があることを強調しただけでなく、乗り心地の悪さや細部まで行き届いていない内装などを批判していました。しかし、TESLAはその新しい発想で自動運転の領域を見事に牽引していったのです。
 そして、今回ChatGPTが紹介されたときの反応も似ています。日本のマスコミは、ChatGPTがもつ日本についてのデータベースがまだ希薄で、AIによってまとめられる文章の不正確性を指摘することに熱心だったのです。
 
 しかし、Amazonにしろ、TESLAにしろ、ChatGPTにしろ、彼らは最初から完璧なものをお披露目しようとは思っていないのです。商品を発表して消費者の指摘を受けながら試行錯誤を重ねて、品質を向上させることは最初から折り込み済みなのです。もし、日本の企業が完璧になった商品を発売しようと年月をかけているとしたら、その同じ期間に試行錯誤をし、消費者に叩かれながら成長した欧米の商品の方が、最終的には互換性にも優れ、より広範な消費者に好まれ進化した商品を発売できるようになっているわけです。
 
 実験室の中での完璧性と、実世界の中での完璧性との差異は大きなものなのです。この差異に気づくことなく、硬直化した組織の中で組織内のコンプライアンスと責任の共有だけに終始したことが、日本の官民の競争力に悪い影響を与えてきました。さらに、マスコミなどでも、そんな組織の小さなミスを大きく報道するために、組織自体が萎縮せざるを得なくなっている現状も指摘されます。
 

日本がものづくりの試行錯誤に対する寛容さを取り戻すには

 新しい商品を開発するときは、できるだけ多くの人のフィードバックを得ることが肝要です。例えば、TESLAの試作車がいきなり高速道路を走行したときは、その不安定な走行で周囲の車から嘲笑されながら走ったことは有名な話です。日本で同様のことをしたら、きっと批判の嵐に晒されたかもしれません。そして、ChatGPTの将来もバージョンを重ねるごとにTESLAと同じような道を通って成長してゆくはずです。
 
 日本がその昔、経済成長をしてきた頃にあったおおらかさを取り戻し、ものづくりの試行錯誤に消費者や投資家も寛容になるには、どうしたらいいのか。それは教育の問題なのか、それとも組織のあり方、社会そのもののあり方の問題なのか。課題は深刻なのです。
 

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