On May 12. 2025, an estimated 68 million Filipino voters will participate and will elect over 18,000 officials include 12 senators.
(5月12日に6,800万人の有権者が、12人の上院議員を含む18,000人を超える関係者を選択する)
― フィリピン政府の広報 より
汚職や貧富の格差に悩まされるフィリピンの実情
来月12日にフィリピンで中間選挙も兼ねた総選挙が実施されます。
多くの地域で地方行政の選挙も同時に行われることから、街には至るところに候補者のポスターが貼られています。
実際、現在フィリピンでおきていることからは、第三世界といわれる地域に共通した社会の矛盾がみえてきます。
そんなフィリピンで高速道路を走っていると、何台かの車が警察官に止められていました。
「近くにカメラ(CCTV)が置いてあってね。スピード違反でつかまったんだよ」
運転を頼んでいる知人がそういいます。
「あれって、賄賂を渡せばうまく逃げられるの?」
「彼らは賄賂を取りたがっている。でもカメラがあるので無理だよね。だから警察官も機嫌が悪い」
彼はシニカルに笑います。
「で、罰金は?」
「3,500ペソ(約8,700円)。しかも、マニラに講習を受けに行かなければならないんだよ。その交通費は自費だしね。全部いれると5,000ペソはかかってしまう」
「地方のオフィスに出頭すればいいのに」
「そんなシステムはないよ。違反をすればマニラまで行かなければならない。大変さ」
「それはびっくり。で、警察官の月収は?」
「36,000ペソ」
だいたい円を2.5倍すればどれくらいの金額かわかります。
「一般の人は?」
「地方都市だと月給が12,000ペソ(30,000円)ぐらい。労働者の日当は600から700ペソだからね。でも、みろよ、この先にあるサービスエリアにあるマクドナルドで食べれば、一人あたり400ペソ。そうさ、高速道路を走れるのは金持ちということになるよね」
「じゃあ、高速道路の代金は?」
「今日は200キロ走るので片道1,250ペソ。そして、ガソリン代金は1リットルあたり51ペソ。俺はこれでは生活できないから、運転の仕事のない日は建設現場に行って、日当700ペソを稼いでいるよ」
彼は私のオフィスに勤務するマネージャーの知り合いです。英語もでき、真面目に働いてくれるので、ずっと運転をお願いしているのです。いつも日本から焼酎をお土産にもってゆき、レモンのスライスを浮かべて飲むことを楽しみにしているようです。

物価の高騰に賃金の上昇が追いつかない経済的困難
「警察官は副業ができるの?」
「いや、公務員はできないよ。その点は大変さ。多くの人は生活ができないので2つか3つの仕事をもっている。でも彼らはそうでないから、賄賂も取りたいってことかな」
「これじゃあ皆、不満だろう。物価が上がっているのに賃金はそれほど高くなっていない。みんな豊かになっているように見えるのは副業をしているからだよね。それも長時間」
過去にも解説したように、これはフィリピンではごく当たり前の習慣なのです。
私の知人で、月収350,000円ほど稼いでいるフィリピンの人がいます。
彼は日中8時間働いて、仮眠をとって、午後9時から朝の6時までアメリカとのオンラインの仕事をしたあとで、再び仮眠をとり昼の仕事にいくのです。
「そんなことせずに長いキャリアのことを考えて、一つの仕事やビジネスに打ち込んだ方がいいんじゃない。高額なアルバイトだからといって、身を削ってただ続けているだけでは何も身につかないし、体を壊せばおしまいだよ」
よくそう言い聞かせていたのを覚えています。
そんな彼がある日、目に涙を浮かべながら私のところにやってきました。
「小さな屋台を開こうと借金したけど、返せなくなって、オンラインのギャンブルに手をだしてしまった。負けが込んで、もうどうしようもない」
よく聞くと、借金の残額は100,000ペソ。すでに友人からもお金を集めてギャンブルの蟻地獄からは足を洗おうとしているものの、昼と夜の仕事はやめられません。
とりあえず手持ちの50,000円を貸してあげました。幸い一年後、彼は無事に借金を返済し終えたものの、過剰な労働は今でも続いているのです。
「コロナのときに外出禁止令がでたけれど、警察官が理由もなく外に出ている人を取り締まった。彼らは指を上に3つ立てれば3,000ペソ。下に向けて伸ばせば300ペソと、キャッシュで罰金を取り立てた。あの多くは彼らのポケットに入っていたと思うよ」
ある人がそう言っていたことを思い出しました。
「ドゥテルテが大統領だったときは、少なくとも麻薬や公務員の賄賂を撲滅しようということで頑張ってくれた。それで社会は落ち着いたし、犯罪も激減した。コロナの時に小金をつくったケチな警察官は別だけどね。でも、彼は犯罪者の人権を蹂躙したという問題で国際司法裁判所に送られてしまった。気をつけなよ。空港あたりのタクシーも悪いやつが多くなって。危険なことも増えているから」
最近、フィリピンに出張する前によくこうした注意を受けるようになりました。社会全体に余裕がなくなっていることを実感します。
おそらく、これはフィリピンだけのことではないでしょう。よく考えれば、日本でも物価が上がり収入がついてゆかない現象が続いています。経済的に困難のある国では尚更だということが、今回の出張で実感できました。
オフィスで一つ解決しなければならない問題がありました。
それは、社員の家族の一人が乳がんにかかってしまったのです。保険はあるものの、その家族の収入は入院のために激減します。実際、フィリピン人の多くは健康保険が高額で入れません。ですから、余程のことがない限り病院には行けないのです。ですから多くが、一つ歯車が狂えば、普通の生活が崩壊するリスクを抱えています。
「だからフィリピン人は現在のことしか考えない。未来のために設計をしたり、キャリアアップのプランを立てて教育を受けたりする習慣がないんだよ」
マニラで日本企業に勤務する現地人がそう語っていたことを思い出します。

募る市民の不満と米国の政策による混迷の行方は
「で、政府への不満はないの?」
私はドライバーに聞きました。
「もちろん不満は募っているさ。多くの人が生活のために四苦八苦しているからね。しかも今の政府は何もしてくれない」
こうした不満が社会を不安定にする事例は世界のあちこちにあり、それがポピュリズムにつながることも多々あります。移民の排除などといった排外的な政策につながる事例も増えているのです。
アメリカの移民政策の変化が、フィリピン人移民にどのような影響を与えるかも心配です。フィリピン人はアメリカでも最も人口の多い移民グループの一つです。彼らからの送金は、フィリピン市民にとっての大切な収入源なのです。さらに、政府が海外への輸出をと工業誘致をしたところに、
アメリカの関税政策が襲ってきます。
政府も民間も方策がなく混迷しているなかで、社会に何がおきるのか。これが高度成長の最中にトランプ政権に楔をうたれたアジア、さらには世界の多くの国々の抱える現状なのです。3週間後に迫ったフィリピンの総選挙の行方が気になるところです。
* * *
『日英対訳 宇宙のすべて』エド・ジェイコブ (著)、深山真 (訳)
人類にとってさまざまな可能性を秘めた「宇宙」について日英対訳で学ぶ! 昔の探検家たちが世界についての知見を広げようとしたように、人類は今、宇宙に関する知識への渇望に駆られています。宇宙への旅は単なる冒険ではありません。宇宙の秘密を解き明かすことは、科学の発展に革命をもたらし、テクノロジーを再構築するなど、社会全体に大きな影響を及ぼす可能性を秘めています。本書では、宇宙に関する基礎的な知識から宇宙探索のこれまでの歴史と未来について日英対訳で解説します。知的好奇心を刺激するトピックでたくさんの英語に触れることができます。
山久瀬洋二からのお願い
いつも「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」をご購読いただき、誠にありがとうございます。
これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。
21世紀に入って、間もなく25年を迎えようとしています。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。
そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。
「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」にて解説してほしい時事問題の「テーマ」や「知りたいこと」などがございましたら、ぜひご要望いただきたく、それに応える形で執筆してまいりたいと存じます。
皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
※ご要望はアンケートフォームまたはメール(yamakuseyoji@gmail.com)にてお寄せください。
