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世界を疑心暗鬼の渦に陥れるトランプの気まぐれ旋風

I’m losing my mind because I keep hearing smart baseball people predict Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers is going to win the National League Most Valuable Player award.

(ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平がナショナル・リーグの最優秀選手賞を受賞するという予測を見識ある野球関係者がヒアリングしていることを聞いて、私は驚いている)
― Jason Gay(Wall Street Journal のコラムニスト)の記事 より

アメリカ政府への抗議活動が生まれる震源地

 世界情勢がますます混沌として、先が見えにくくなっている不安に多くの人がさらされています。そして、この原因の多くはアメリカが生み出したたった一人の人物、つまりドナルド・トランプ大統領にあるように思えます。
 
 サンフランシスコの郊外、学園都市バークレーの高速道路を走ると、歩道橋の上にパレスチナをサポートする人々がパレスチナの旗を振って抗議活動をしている様子がみえてきます。

「バークレーはバブルの中だよ」
 
 友人の小さな出版社の社長は語ります。彼のいうバブルとは、大きな泡の中に包まれている特殊な地域ということで、そこはトランプ大統領に反対する民主党系の人々が極めて多く住む学園都市だという意味なのです。
 
「ボストン郊外のハーバード大学があるケンブリッジも同様だね」
 
 私がそう話すと、まさに

「アメリカの双璧だよ」
 
と彼は答えます。
 
「では、この二つの地域に災害がおきても大統領は知らないふりということか」
 
とシニカルに語ると、彼は

「まさにその通り。このあたりこそ彼が最も憎んでいるところだからね」
 
と答えました。カリフォルニアでおきた山火事のときも、大統領が民主党のカリフォルニア州知事をなじったことは記憶に新しいのです。
 
 そして今回、アメリカ全土に拡大する抗議活動の震源地も、カリフォルニアでした。この騒動を受けて、カリフォルニア州知事は「大統領が戦争など国土防衛の必要があるとき以外に、郷土防衛隊として組織されているナショナルガード(州兵)を勝手に動かすことは違法である」と大統領に強く抗議しましたが、彼らは平行線のまま妥協もありません。政府に抗議するデモを、大統領が州兵を動かして鎮圧しようと試みることは前代未聞のことなのです。そしてついに、海外在住のアメリカ市民を救出することなどを任務とする、特殊部隊でもある海兵隊まで動かしています。
 

カリフォルニアのホテルにみる二つのレイヤー(層)

 確かに抗議活動は全米に広がっています。しかし、都市の中心地の一部の地域を除けば、私が滞在するホテル周辺も含め、多くの地域は概ね平穏です。
 ではなぜ、カリフォルニアでの騒動に大統領は過敏になるのでしょうか。
 カリフォルニアのホテルなどに宿泊すると、そこには二つのレイヤー(層)があることに気付きます。
 
 実は、今回ロサンゼルス郊外のホテルで、うっかりアメリカの免許証がポケットからすべり落ちて、慌てたことがありました。歩いてきた廊下に眼を凝らして探していると、一人の清掃担当の女性が私の顔をみています。そして「これはあなたのもの?」と極めてカタコトの英語で話しかけてくれました。
 パトリシアというその女性が免許証を拾ってくれていたのです。全身で感謝の気持ちを表して、チップを渡します。そんなパトリシアに、彼女の上司が笑って何か話しかけます。それはスペイン語です。
 彼女は中米エルサルバドルの出身でした。「家族は大丈夫ですか?」と私はききます。最近、多くの中米からの移民が大統領によって送還されたことが、今回の抗議運動の原因だったからです。彼女は幸い国籍を持っていました。もちろん中南米の移民が犯罪の温床だというのは大きな誇張であることが、このエピソードからもわかってきます。
 
 同じホテルで食事をすると、管理者は従業員にすべてスペイン語で指示を出します。ウェイターの女性は、私に「今、人が少なくてサービスが遅れがち。ごめんなさい」と語ります。「移民の問題が影響しているの?」と尋ねると、彼女はちょっと警戒して「ここで働く人は皆、合法的に居住しているのよ」と語ります。彼女も中米からの移民です。緊張が彼らの間にみなぎっていることが伝わってきます。そして、ホテルのフロントの人も我々には英語で、従業員にはスペイン語で指示を出していることに気付きます。これがこのホテルでみた二つのレイヤーです。そして彼ら移民がいなければ、ホテルはまわらないのです。
 
 移民は、ここまで社会に深くその根をおろしていて、その典型的な州の一つがカリフォルニア州です。これが州知事と大統領が対立する理由の一つです。

「我々の税金で、彼の誕生日にモスクワか平壌のような軍事パレードをしようとしている。反対した軍の幹部は更迭して、イエスマンだけが軍をコントロールしている。だから、カリフォルニアでの純粋なデモに軍隊を投入できるのさ。すでに民主主義国家じゃないよね」
 
前述の出版社の社長は、私に悲しそうに語ります。
 
 そんなとき、日本から連絡があって、ドジャースの大谷がMVPになりそうなことを面白くなく思っている野球ファンがいて、圧力がかかっているって本当なのという問い合わせがありました。まさかと思いました。先ほどのホテルなどと同様に、外国人選手がいなければアメリカの大リーグは成り立たないからです。
 検索してみると、今回のヘッドラインのような、ウォール・ストリート・ジャーナルの投稿に、守備と攻撃でオールマイティに活躍しているフランシスコ・リンドーア選手を例として、攻撃のみにピックアップされている大谷を評価しすぎていないかという懸念を伝える寄稿文がでているのを発見しました。一般大衆のSNSは別として、大きな記事はそれだけで、そこには人種問題は解説されていませんでした。
 
 しかし問題は、日本の中で大谷がアメリカ人ではないという人種の問題でMVPを敬遠されるのでは、というコメントがでてきていることでしょう。もちろんSNSや極端なネット記事などではそんな論説もあるかもしれず、完全な検索はできていないものの、私はとっさに日本での反応が気になったのです。
 
 それだけ、今アメリカで起きている事件の数々は、世界にさまざまな憶測や懐疑を呼び起こす原因となっているわけで、大谷への懸念はその一例かもしれません。パトリシアが働き、スペイン語が公用語としてホテルで通用するカリフォルニアの状況があればこそ、こうした噂が本当のことにならないことを祈りたいものです。
 

日本はさまざまな火種を抱える世界の一部

 世界情勢は、そこにガソリンが充満したときに、一点での爆発がグローバルな規模での暗転へと飛躍します。
 
 ヒトラーのポーランド侵攻が第二次世界大戦の原因であったことを思い出せば、トランプ大統領の一連の行動に安心したイスラエルのネタニヤフ首相がガザでの攻撃を再開し、イランにまで弾道弾で攻撃をはじめたことも気にかかります。パキスタンとインドの確執も、もちろんウクライナの行方も気になります。
 世界がこうした動きと真剣に向き合わなければならないことが、カリフォルニアの小さな社会現象の数々からみえてくるのも、現代ならではのことかもしれません。
 
 最後に、日本人は「カリフォルニアは危ないから行かない方がいいよ」というだけで、日本は安全だけど海外はひどいよねと思うことだけはやめて欲しいのです。
 今や世界と日本は同じ器の中の共同体だということが、今回のアメリカが発動した関税問題でも身に染みたはずです。私が今滞在しているカリフォルニアは平穏そのものです。その現象の裏にある課題は改めて解説するとして、無関心こそが、日本が世界から取り残される原因となるような気がしてなりません。日本は特別でも、特に安全でもありません。日本は世界と同じリスクを共有する一つの国家に過ぎないのです。
 

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