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カナダの対応に見習いたい日本の曖昧な対米方針

Ford CEO Jim Farley has strongly criticized President Donald Trump’s proposed tariffs on imported auto parts and North American trade partners.

フォードのCEO ジム・ファーレイ氏がトランプ大統領の北米のパートナー(カナダ)への自動車部品への関税引き上げに対して強く批判

―NBCより


大統領令が生む混乱

カナダに50%の関税をかけ、それを1週間も経たないうちに曖昧にしながらも、「カナダはアメリカを最も困らせてきた国だ」と非難し、腹いせのように五大湖の一つオンタリオ湖を「アメリカ湖」と改名する大統領令を出す。

国際刑事裁判所(ICC)が、イスラエルのネタニヤフ首相のガザでの行為をめぐって戦争犯罪などの容疑で逮捕状を出すと、それに反発し、ICCのみならず、その所長である赤根氏(日本出身)の資産まで凍結する。

イランに戦争を仕掛け、本来なら、イランで起きていた民主化運動を後押しすべきところ、この戦争はかえって国内の反米感情と政府への結束を強め、民主化の動きを飲み込んでしまった。石油をめぐる問題などで世界を混乱させただけで、戦争の出口すら見えにくくしている。

しかも、当初は「イランの核開発が問題だ」と戦争の口実にしていたことすら、曖昧にしたまま、ずるずると時間だけを浪費している。

真剣にアメリカで学ぼう、キャリアを積もうとする人々に対しては、ビザ発給のための移民局の面接を停止し、技術を持つ人材がアメリカで働くためのHビザについては、申請料を10万ドルという法外な額に釣り上げ、有能な人材の流入を止めて、人の交流に混乱をもたらす。

ICE(米国移民・関税執行局)による移民への横暴な取り締まりが問題となるなか、右翼活動家でトランプ支持者だったミロ・ヤノプロス氏までもが拘束され、イギリスへ強制送還された。それを皮切りに、トランプ支持者やその家族が同様の仕打ちを受ける事例が次々と指摘され、共和党内でも波紋を呼んでいる。

これらは、この半年ほどの間に、トランプ政権下のアメリカで起きた代表的な出来事の、ほんの一部です。その多くは、議会や裁判所の権限が及びにくい、「エグゼクティブ・オーダー(大統領令)」に署名することで打ち出された政策です。一人の人間にここまで権限が集中することに、アメリカの政治制度の問題がみえてきます。これ以外にも、最近アメリカで起きている政治的な話題は文字通り無数にあり、そのどれもが、過去にはありえない混乱を呼んでいます。

一貫性がないどころか支離滅裂にも見え、数日単位で世間に波紋を投げかけるトランプ政権の様子は、テレビなどでも報じられています。そのため、このところあえて解説を控えていました。

皇帝を囲む側近たち

よく知られた話として、大統領特別補佐官のナタリー・ハープ氏が、側近として大統領に寄り添い、ほかの側近とともに、大統領が喜びそうな報告ばかりを上げる——そのために大統領が「裸の王様」になっているのではないか、という噂も聞こえてきます。

ナタリー・ハープ氏は、自らが癌に侵されたとき、トランプ氏が認めた未承認の抗癌剤で命を救われたとして、大統領の熱狂的な支持者になり、そこから頭角を現した人物です。政治的なキャリアは一切なく、ただトランプ氏への忠誠だけで見初められ、現在の地位まで上りつめました。ゴシップになりそうなほど大統領のそばにぴたりと寄り添い、広報活動に勤しんでいます。実際、大統領の品格まで疑われかねない過激なメッセージを、SNSで絶えず送り出しているのが彼女なのです。

では、イラン戦争に深く関わる国防長官のへグセス氏はどうでしょう。彼ももともと、FOXニュースのコメンテーターとして極めて右寄りの発言を繰り返していたことから、トランプ氏に見出された人物です。巨大なアメリカ軍の頂点に立つには、あまりにも経験に乏しい-多くの人がそう危惧しています。
ハープ氏もヘグセス氏も、ともすれば政治家やキャリア組を嫌う大統領にとって、まさに「かわいがりたい」側近なのです。自分の言うことに常に従い、周囲で起きている波紋や問題も、大統領にとって心地よいように翻訳して報告する-その現状は、宮廷を牛耳る宦官や、媚びへつらう官吏だけに囲まれた皇帝のもとで国が傾いていった、中国の歴代王朝の物語を思わせる有様です

カナダに学ぶべき毅然さ

「でもね。株価は上がっているし、景気も悪くない。しかも民主党は、党内が左派と中道に割れている。国民の多くには、海外でのトランプ氏の評判なんて伝わっていないし、そもそもイランがどこにあるかも知らない人が多い。だから、中間選挙の帰趨には、まだ読めないことがたくさんあるんだよ」とボストンで執筆業を営む知人はコメントします。

「こんなアメリカで一番得をするのは中国で、最も当惑するのは同盟国だろうね。でも、どこの国でもそうだろうが、大多数の国民は海外のことには無関心だ。自分の生活が本当に脅かされないかぎり、世論なんてどうにでも誘導できるのさ」

そんな彼は、最初のトランプ政権が発足したころにスイスに家を買い、あたかもスイスに移住しているかのように、アメリカを頻繁に離れています。このところ、資産を持つ多くの人がアメリカから逃げ出しているのは、確かに事実です。

「私の親は、ナチスのホロコーストの直前にアメリカへ逃れてきた。逃げ遅れた親族は、みんな強制収容所で命を落としている。だから我々は、みんな嗅覚が鋭くてね。まずいぞと思うと、すぐ脱出を試みるのさ」

彼はシニカルにそう話してくれます。

確かに、いまアメリカで起きていることは、異常と言えます。その極端な政策によって家庭を壊された勤勉な移民や、移民を配偶者に持つ人も数知れません。

そして日本の高市政権は、きっと、カナダのように標的にされてはかなわない、と思っているのでしょう。赤根氏の資産が凍結されたときも、歯切れの悪い答弁に終始しました。しかし、アメリカの圧力に毅然と対応したカナダやスペイン、そして最近ではイギリスの方が、はるかに国際的な信用を勝ち取っています。

赤根氏の問題が起きたとき、高市氏には、せめて急遽ヨーロッパを訪問するくらいのアピールがほしかったと思うのです。「Trump always chickens out. (トランプはまずいと思うと怯えて対応を変える)」とアメリカのマスコミや財界で噂されていることは、以前にも報告しました。この事実を、日本はしっかりと受け止めるべきです。日本政府が、目に見える行動を起こさないまま、どんなに「水面下で」と言っても、友好国を失望させるだけで、何の価値も生みません。カナダの場合、その毅然とした態度を受けて、アメリカ国内の自動車業界までがトランプ氏批判に回ったことは、今回の冒頭の引用からもお分かりになると思います。

ハープ氏やヘグセス氏といった側近の甘言に乗せられて、やり過ぎてしまったとき、トランプ大統領は、やむなく、世論を失望させないような言い訳をして方針を転換させます。それが「Trump always chickens out.」の真相です。そう仕向けるくらいのしたたかな外交手腕と度量が、今の日本政府には欠けているのかもしれません。


 

 

『日本事情―政治・外交・社会編
Q&A
』
山久瀬 洋ニ(著者)、ダニエル ワーリナ(著者)
日本のことを英語で伝えるシリーズ。政治・外交問題・社会について解説します。日米、日韓関係から、日本女性の社会での地位、ヤクザやオタク文化まで、幅広く取り上げています。30の質問と答えを読み進めることで、多くの重要英語表現を身につけることができるよう構成されています。姉妹編として、「地理・人・言語編」「歴史・宗教・プライド編」があります。

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