ブログ

アメリカ中間選挙と日本の未来

American-made goods also got more expensive under Trump tariffs, new research finds.

トランプ関税のもとで、アメリカ製品の価格もまた上昇していたことが、新たな調査で明らかになった。

Fox News(2026年10月14日)より


なぜ世界は中間選挙を見つめるのか

アメリカの中間選挙を控えて、日本人が考えなければならない重大な課題があります。それは、どうしてここまでアメリカの中間選挙に人々の注目が集まるのか。そして、どうしてその結果や最近のアメリカ情勢の変化に応じて株価が極端に上下するのかという、実に単純な問題です。

なぜなら、そこに、日本、さらに日本を含む国際社会の将来を見つめる最も根本的な原因が潜んでいるからです。これは聞けば当たり前、そして誰もが感じて、実感している単純なことです。しかし、このことを本気で報道するマスコミも、主張する政治家も見当たりません。

ここで、2025年1月のトランプ大統領就任式の模様を思い出してください。印象的だったのは、大統領就任式にジェフ・ベゾスをはじめ、アメリカの経済界、財界の大物がこぞって出席していたことです。当時、彼らにはアメリカが「強いアメリカ」を維持しなければならない理由があり、それゆえにトランプ大統領の就任式を祝ったのです。これがこの「単純なこと」の背景を象徴しているのです。

日本の富がアメリカへ流れる仕組み

まず、今、日本の年間の国際特許出願(PCT)は、世界第3位の47,930件です(WIPO、2025年)。それはアメリカの52,269件と比べても引けをとる数字ではありません。首位は中国の73,683件で、この3か国が突出しています。

しかし、ここで問いかけたいのは、こうして取得した知的財産の内容と、ここ30年のアメリカでのそうした財産の活用方法です。

誰もが知っているように、今アメリカはIT業界とAI業界を席巻しています。我々がチャットボットを利用するだけではなく、自家用車を運転するなどといった日常生活を送る中で、無意識にどれだけのITやAIのサービスを活用しているかを考えてみてください。自動車のエンジンや機動力といった部分では日本の技術は世界のトップクラスで、そうしたことに関連する特許数も多いでしょう。しかし、そうした特許で造られた製品に組み込まれ、使い勝手や情報収集を担うソフトウェアの部分にはほとんどアメリカのIT、AIの技術が絡んでいます。物流システムも然りです。

従って、日本が「ものづくりの国」を自負すればするほど、そうして造られた商品を使用する人々はITやAIの技術に頼る場面が増えるわけで、それに比例して、アメリカに資金が流れているのです。

次に重要なのは金融業界です。三菱UFJフィナンシャル・グループなど、多くの日本の金融機関が莫大な資金を運用していると言われています。身近なところでは老後の年金、農家への融資や積立といった、一見海外と関係のないような生活資金は、こうした金融業界で運用されて個人や私企業の活動を支える原資となります。この運用先は、拡大膨張するアメリカのIT―AI企業への株式投資などに回されます。つまり、我々の給与明細から自動的に将来のために差し引かれている資金ですら、アメリカへの資金の流れを支えているのです。

日本の政府は日本とアメリカとの金利差が円安の原因と言っていますが、それは極めて短絡的な短期的視野に立った言い訳にすぎません。日本も、韓国やヨーロッパの主要国も、こうした状況があればこそ、アメリカ政府が政治的に暴走した場合でも強硬な姿勢を取れず、懐柔策に終始せざるを得ないと判断しているわけです。

トランプ大統領が、アメリカ一強を推し進めるポピュリズムキャンペーンの裏側には、このアメリカへの資金流入の見えないインフラをしっかりと確保する強固なパイプラインをさらに拡大しようという目論見が見えてきます。その政策に大統領就任式に参加したアメリカ経済の重鎮がタッグを組もうとしたことが、あの大統領就任式の光景に象徴されたわけです。

二つのポピュリズムと日本の選択

ただ、その後トランプ大統領は、過激な反移民政策、力による海外への武力行使、関税引き上げによる経済的混乱などによって、急速な支持率の低下に見舞われました。しかもAI等の普及が、一般市民の雇用に直結しないどころか、人を必要としない職場が増えつつあることから、企業が利益を得てもそれが人々の生活の安定につながらないのです。これにより経済的な余力のない若者を中心に新たな貧困層が形成されようとしています。

とくに、イラン戦争や関税引き上げは、アメリカの物価の高騰に拍車をかけ、生活に苦しむ人々を直撃します。冒頭で紹介したFox Newsの記事は、保守を代表する同メディアまでが、現在のトランプ政権の経済政策への批判を行ったことで話題となったのです。

これに対して、トランプ大統領は共和党が勝利した場合、個人への財政援助を行うと表明していますが、バブルの陰でアメリカ政府の財政赤字は深刻です。したがって、この政策を実行するには巨大企業の金融資産に頼らざるを得なくなるはずです。

ここが、中間選挙でアメリカの有権者の判断が注目されているポイントです。

トランプ政権と大企業との二人三脚をよしとするか、大企業の金融資産を増税によって分配するか、これがアメリカ社会に二つのポピュリズムの核を生み出しているのです。つまり、強いアメリカが今まで通りに世界からも資金を調達してそれを維持し、企業活動が世界経済の動脈となり続けるべきだというトランプ式のMake America Great Again型のポピュリズムと、大企業の資金を公平に分配するべきだという民主社会主義型ポピュリズムとの対立です。共和党も、民主党もこの対立への対処に苦慮しているのです。

今のところ、この矛盾が、政府と一部の巨大企業との絆にどのような影響を与えるのかは不透明です。

また、ここで解説した日本など海外からの資金流入がありながら、もしこの矛盾によって海外主要国の経済に重大な障害が生まれれば、それはそのままアメリカ経済のバブルの崩壊に直結します。これは世界経済に重大な津波となるはずです。その兆候がフランスでの大規模なデモや日本の株価の乱高下といった現象であるといっても過言ではありません。

アメリカの政治的な動向は、このように日本の円安や物価高、そして世界の安全保障と経済的な持続性に我々が思っている以上の直接的な影響をもたらします。問題は、今回の中間選挙で共和党が敗北しようと、トランプ政権は自らの政権維持のためにさらに残りの2年で極端な内外政策を推し進め、成果を出そうとしてゆく可能性が残っていることです。

であればこそ、アメリカ一強に頼らずに日本とEU、さらには日本と韓国やアセアン、そしてインドやトルコといったユーラシア大陸の強いベルトの構築が求められます。これが困難であるとはいえ、この20年、目に見える形でそれを進めるイニシアチブを日本が取ってこなかった、あるいは取ろうとしても取れなかったという能力不足は重大です。

中国との宥和政策をとりながら、こうした地域と共同で、したたかにアメリカリスクへ対応していくには、日本の人的資源はあまりに脆弱なのです。

中間選挙の結果を機会に、日本も今後の世界規模のリスクを、単なる直近の日銀の金利政策の発表などに注目するだけではなく、中長期的な経済と国のあり方を意識してゆくようになることを期待したいのです。

関連書籍

日英対訳 英語で読む地政学(山久瀬洋二 著)

国境の向こうを理解する教養が、英語とともに身につく一冊!

国の位置や地形、海路といった地理的条件は、国家の戦略や国際関係を大きく左右します。本書は従来の地政学にとどまらず、気候変動や環境問題、そして社会の分断までを視野に入れ、これからの国家戦略のあり方を日英対訳で解説します。アメリカ一強の構造のなかで日本がどう生き残るかという本記事のテーマを、より大きな視点から考えるのに役立つ一冊です。

書籍詳細ページはこちら

山久瀬洋二からのお願い

いつも「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」をご購読いただき、誠にありがとうございます。

これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。

21世紀に入って、25年が経過しました。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。

そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。

「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」にて解説してほしい時事問題の「テーマ」や「知りたいこと」などがございましたら、ぜひご要望いただきたく、それに応える形で執筆してまいりたいと存じます。

皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

※ご要望はアンケートフォームまたはメール(yamakuseyoji@gmail.com)にてお寄せください。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP