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ロシアに操られ、誤爆に悩み、国内では乱射、アメリカの悪夢の1週間

【海外ニュース】

What Russians think about airstrike in Syria?
(CNNより)

シリア空爆の本音は?

【ニュース解説】

この一週間は、アメリカにとって、特に連邦政府にとって悪夢の一週間でした。
まず国連総会でロシアが積極的な外交に転じ、中東問題でアメリカを牽制します。その折にアメリカを訪問していた中国の習近平とは外交成果は乏しく様々な対立を残したまま終了。そして、同じ時期に訪米した法王フランシスは、プレゼンスある活動で、アメリカの刑務所まで訪問し、死刑制度などを批判しアメリカの内政に苦言を呈しました。
そして、週の後半には同時多発テロ以来泥沼状態になっているアフガニスタンの反タリバン戦線で、国境なき医師団の施設がアメリカに誤爆され多数の犠牲者がでてしまいました。
それだけではありません。国内では、オバマ政権が銃の犯罪を撲滅することを内政の課題としていたものの、今週またオレゴン州の大学で26歳の男性による銃の乱射事件がおき、8名以上の死傷者がでて全米を震撼させました。
大統領選挙へむけた政治家の論戦にも水をさすほどのあっけにとられた一週間だったといえましょう。
そして、これら全ての背景を見詰めるとき、オバマ政権の手腕のなさが印象づけられます。また対立する共和党の中にも、解決への強い指導力を見いだせないことが露呈されました。

この一週間での世界外交での勝者はロシアでした。
先週の前半、ロシアの外務大臣セルゲイ・ラズロフは世界の注目 を集め、CNN でも彼に対して特別なインタビューを行いました。
ロシアはシリアのアサド政権を支持し、独裁体制を続けるアサド政権を軸にシリア問題を解決することで、ロシアの利権を守ろうとしています。
しかし、そのシリアは反政府勢力との内戦で疲弊し、さらにその混乱の中でイスラム国が台頭、大量の難民を産み出しヨーロッパが揺さぶられています。
とはいえ、西欧諸国は長い間の宿敵であるアサド政権への肩入れには逡巡していました。第一、中東の混乱には単に圧政と民衆、貧富の差や人権問題などでは片付けられない複雑な背景があるからです。アサド政権はアラウィー派というシーア派から別れたイスラム教の一派がその支持母体です。イスラム教の中では少数派ですが、他の宗派との対立と、それぞれの宗派に支援される武装グループの活動、さらにシーア派との対立の中で勢力を拡大したイスラム国の拡張も、こうした混乱をさらに複雑にしているのです。

イスラム国の脅威を世界への挑戦と捉える欧米諸国からみれば、今までの敵であったアサド政権は、「敵の敵」ということになり、丁度第二次世界大戦でソ連とアメリカが協調し、対日戦線で中国国民党と共産党とが合作を行ったことと同様に、アサド政権と復縁してイスラム国に対応することが合理的なのではという憶測もありました。
しかし、西欧諸国、特にアメリカの現政権は、ここで記した中東の複雑な背景への脅威もあり、有効な外交手段を行使できず、ただイスラム国への空爆を続けていたというのが実情でした。

これに対してロシアは、ウクライナでの親ロシア派とウクライナとの対立から指摘される領土拡大を狙うロシアへの批判をかわし、海外でのロシアの軍事拠点を維持したいと、近年クリミア半島までも強引に併合しました。
そうした外交戦略のパズルをとく上で、今秋こそは、とかく欧米が主導権を握りがちな中東問題に積極的にかかわる絶好の機会とロシアは考えたのです。

ロシアの外務大臣は、1時間以上に及んだ諸外国のマスコミのインタビューで、ロシアはテロに対して断固とした対応をとることが目的であるという論旨に徹し、世界のメディア(ちなみに日本のメディアはずっと沈黙)の鋭い質問を見事にかわします。テロ撲滅の名目とはいいながら、イスラム国ではなく、実際は反アサド政権の組織への空爆が中心だと非難する欧米の指摘もシニカルに一掃する厚顔ぶりです。

複雑な中東問題や国内問題に翻弄されながら、大統領選挙への道筋をつけなければならないアメリカ。経済問題と移民問題、さらには右傾化への対応やスペインやイギリスでみられる国内での独立運動への対応などに翻弄されるヨーロッパ。そして経済力の鈍化の問題や国内の民族問題を抱えながらも我が道をゆく中国と、外交感覚に乏しく無策な日本。
そうした中でウクライナ問題への注目も去年ほどではなくなってきたことから、ロシアはこの秋こそ、国際社会でイニシアチブをとる絶好の機会と捉えたのでしょう。

国連改革で、常任理事国のあり方が論議され、拒否権の行使が国連を硬直させているという議論の中で、日本をはじめとした数カ国が常任理事国入りを目指しています。
しかし、その国連自体もアメリカ同様、国際問題に有効な手が打てず、その無力さが指摘されています。
ロシアはもちろん、こうした国連改革への議論も微妙にかわしながら拒否権も含め、自ら得た利権の維持を主張します。
このように複雑な外交関係を巧みに操るロシアの動きに、我々はもっと注目してみたいものです。

【山久瀬洋二・画】

山久瀬洋二「ロシアの秋(その1)」

「ロシアの秋(その1)」

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