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アメリカでの健康保険の問題と大統領選挙

【海外ニュース】

Romney campaign, at odds with GOP, says mandate is not a tax(Washington Post より)

ロムニー陣営が「義務化は税金ではない」と、共和党とは少し異なる発言を

【ニュース解説】

アメリカ東部は異常な熱波の中でおきた暴風雨のため、ワシントンDCなどで停電が発生するという異常事態が続いています。

そんな悪天候の中、アメリカの政界も健康保険の問題で大揺れです。
日本では、ほとんどの国民がなんらかの健康保険に入っています。しかし、アメリカでは個人や法人がそれぞれ保険会社と契約して自らの健康のリスクに対処していかなければなりません。
それを丁度日本の国民健康保険のように、制度として保険加入を義務づけようという法律が、オバマ大統領のリーダーシップのもと、ようやくアメリカの議会で承認されました。それは長年の議論の末の難産でした。
というのも、国や公的機関が個人のライフスタイルに影響を与えることを、個人の自由 freedom への侵害として極度に嫌う国民性があるアメリカ人の多くは、こうした国の制度の創設に懐疑的だったからなのです。

特に、共和党は、国民に健康保険を義務づけることは国の規制に他ならないと強く反論し、この法律は個人の自由を疎外する違憲なものであると申し立てました。ちなみに、この見出しにある GOP とは Grand Old Party、すなわち保守的な価値を重んじる共和党のことです。
裁判所の ruling 裁定は合憲。それは健康保険に加入しないことへの罰金は税金と同様のものであるというものでした。

さて、共和党は自分たちの主張は認められなかったものの、今度はこの判決を楯に「オバマ大統領は増税をしたことになる」という民主党への攻撃のキャンペーンを仕掛けました。
そんなとき、共和党の大統領候補である Romney campaign ロムニー陣営が、これは税金ではなく単なる罰金ではないかという見解を発表したのです。
実は、民主党は自分たちが制定した健康保険の義務化についての合憲判決には複雑な気持ちがありました。その理由は、自らの主張が認められたことはよかったものの、健康保険への加入の mandate 義務化 (指令) による罰金は、税金と同じ種類のものだという判断が裁判所でなされたからなのです。
増税にぴりぴりしているのは、日本だけではなく、世界共通の風潮。特に、taxpayers’money「納税者の金」という言葉で、政府が使うお金に対して厳しい視線を持つことが当然とされるアメリカでは、増税というイメージはいただけません。
従って、民主党は合憲判決のあと、これは増税ではないと主張していたのですが、対抗馬のロムニー候補陣営の今回のコメントは、皮肉なことにその主張をバックアップしたことになったのです。

今、ロムニーは、オバマ大統領の裁定は Constitutional tax 合憲による課税か、Unconstitutional penalty 非合憲による罰金かという問題で、我々はこれを非合憲による罰金であると考えると、自らの見解が誤解されないよう必死で釈明。
これはアメリカの大統領選挙への論戦の大きなポイントとなるかもしれません。

よく Freedom 自由はアメリカ人の基本的な価値観であるといわれます。アメリカ人のいう Freedom の意味するところは、Individual 個人の価値や判断を尊重するということ。従って、個人の権利を疎外しかねない国家の規制は最小限にするべきだという考え方がアメリカ人の中に根強くあります。Gun Control 銃の規制や今回の健康保険の義務化など、一見日本人には抵抗のない国の制度や法律の制定に、アメリカ人が過敏に反応する背景は、そこにあるのです。

そして、伝統的に民主党は、いくつかの例外を除けば、必要なことであれば国が制度を造るべきというスタンスをもち、共和党はあくまでも個人の自由を主張し、小さな政府の必要性を主張します。

大統領選挙の行方を占い、そこでの議論の背景にあるものを理解するためにも、この健康保険をめぐる議論は重要なテーマを我々に投げかけているのです。

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