海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

コンテンツの集積事業に競うアメリカの電子業界


【海外ニュース】

Google’s deal to settle a seven-year conflict with five major publishers over the search giant’s book-scanning initiative is a milestone in the publishing industry’s grinding transition from print books to e-books.(Timeより)

主要出版社との膨大な書籍のスキャンプロジェクトに関する係争が和解に向かうことは、今まで軋んできた出版社の通常の書籍から電子ブックへの転換にとって、大きな通過点になるはずだ。

【ニュース解説】
今年の5月に、私は一度、アメリカでの電子ブックと通常書籍の販売状況についてこの紙面で解説しました。今回そんなアメリカでの電子ブック産業に、画期的な一歩が踏み出されたというのが、この記事の内容です。

大手版元や、多くの著者が加盟するオーサーズ連盟 Authors Guild は、7年間にわたり、グーグルが勝手に書籍をスキャンし、学術上のデータセンター archive としての機能強化を試みることを、著作権の侵害であるとして争ってきました。
そんな係争に大手版元5社が終止符を打ち、協力関係を模索しはじめたのです。これで、グーグルは図書館や研究所に向け、無数の書籍情報を積極的に提供することが可能になり、デジタル上のコンテンツビジネスにも大きな影響を与えるのではと、期待がよせられているのです。

世界の知的遺産の集積所 repository としての機能を目指しているグーグル。同社は既に 200万冊の専門書などのデータのスキャンを終えており、アメリカの主要図書館のいくつかは、既にグーグルと提携し、電子コンテンツによる図書館サービスの強化に乗り出しているのです。

一方、マイクロソフトは、アメリカ最大の書籍チェーン、バーンズ&ノーブル Barnes & Noble の電子ブック部門であるヌークメディア社 Nook Media に、300ミリオンドル、約240億円の資本注入をすると発表。彼らも、アマゾンのキンドル Kindle、アップルの iBooks などと対抗して、電子コンテンツサービスの一大拠点を構築しようとしているのです。
ご存知の通り、今はなきスティーブ・ジョブズのイニシアチブで、アップルは iPhone や iPad などを通して、文字、音楽等あらゆるコンテンツを電子の世界で融合しようとしてきました。こうしたコンテンツの集積サービスに、ヌークメディアやグーグルが、新たな一石を投じることになるわけです。

一つ言えることは、スティーブ・ジョブズが他界して既に一年経ちながら、アップルには自社商品とそのサービスに画期的な進歩がみられません。それに対して、例えばビル・ゲイツは当然健在で、ヌークメディアとの提携など、着実に布石をうってきています。もちろんアマゾンも、キンドルの性能アップに懸命です。ヌークメディアもアマゾンも、リアルな書籍を扱って成長をしてきた企業で、その強みを最大限活かした電子ブックサービスを展開しようと、版元などとも様々な提携を試みているのです。
そんな動きの中に、グーグルがさらに割り込んできたわけです。電子ブックなど、電子コンテンツの発展の上で常に課題となってきた、著作権をどのように守るかというテーマに対して、保守の立場をとる版元が、変革に積極的なグーグルと同じゴールを模索し始めたことは、確かに大きな一歩です。

これから、アメリカの出版界と電子業界は、さらに合従連衡をくり返し、同時に、お互いに刺激し合いながら成長を遂げてゆくでしょう。変化する世界経済の中で、アメリカが最もイニシアチブを取りうる二つの分野、それはエンターテインメントを含むコンテンツビジネス、そしてもう一つはデジタル、オンライン産業といえましょう。この二つが強い協力関係を維持することは、世界へ向けたアメリカの競争力の維持にも大いに貢献するはずです。

日本の場合、長い間日本語の特殊性という言い訳で、XMDF と呼ばれる日本独自のフォーマットによる電子ブックの展開が模索されてきました。
世界中に互換性を持つイーパブ EPUB と呼ばれるフォーマットの導入に対して、言を左右に消極的であったことが、こうした世界の動きに出版業界が乗り遅れる原因の一つであったことは否めません。
さらに、電子業界と版元との協力関係をみても、版元側が大手による護送船団を結成して電子ブックを強化しようとしてみても、いわゆる未来を見据えた革新的なアプローチを展開しているわけではありません。

これはバブルがはじけた後、オンラインショップが脚光を浴び、アメリカからアマゾンが進出してきたときの、日本側の対応とも酷似しています。外からの新しいものには、できるだけ消極的に対応し、既存の利益を既存の集団が守ろうとすることに終始しましたが、結局現在ではアマゾンを無視した出版界は存在し得なくなりました。
今、電子業界でも同様なことが起こっています。グーグルの今回の動きなど無縁のように、日本独自の仕組みの中でうまく冬眠することだけに必死な出版業界が、後に支払わなければならないつけは巨額なのではないでしょうか。

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