海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

「イギリス」でなくなったロンドンとは


【海外ニュース】

‘British whites’ are the minority in London for the first time as census shows number of UK immigrants has jumped by 3 million in 10 years
(Mail Online Newsより)

ロンドンでは、白人系の人がついにマイノリティに、国勢調査ではこの10年間で移民の数は300万人増加

【ニュース解説】

イギリスの空の玄関口、ヒースロー空港に着いた人の多くは、そこからヒースローエクスプレスという電車に乗り換え、ロンドン市内にあるパディントン駅に到着します。
駅から、ハイドパークに向けて南下する大通り。道の両側はイラク、レバノン、イランなど、中東系の商店や飲食店が並び、喫茶店では街の往来を眺めながら水タバコを楽しむ人々をよくみかけます。
また、広大なハイドパークと、隣接するケンジントンパークを歩き、そこに憩う人々をみていると、いかに多くの移民が生活しているかを実感します。

「今、ロンドンの人口の8割は、なんらかの形で海外から来た人達で占められているという人もいます。これはイギリスの他の都市でもいえることですが」
「でもこの街は物価が高いでしょ。よく移民の人達は暮らしていけますね」
「福祉が行き届いているから。イギリス国籍をもたない永住者や居住者は、通常のイギリス人と同じく、医療費も無料だし、様々な福祉を享受できるのです。ですから、貧しくても生活を脅かされることはないのです」

こう語るのは、ロンドンの中心部メイフェア地区で、一つが 100万円以上、時には数億円もする高級腕時計を製造販売する人物。この8割という数字は誇張ではありません。実際に国勢調査では、イギリス生まれの白人はロンドンの全人口の 44.9パーセント。しかし、その両親が移民であるケースを考えれば、生粋のロンドン子は20パーセントそこそこということになるのです。
メイフェアで時計を扱う彼自身も移民です。
ルーツはトルコ西部。20世紀にオスマントルコに迫害されたアルメニア人の子孫です。流浪の民であった彼の先祖。トルコから、エルサレム、そしてエチオピアへと移住し、彼が産まれたのはエチオピアの首都アジスアベバでした。その後ダイヤモンドのビジネスで成功し、ダイヤモンドを特別なデザインの時計に組み込んで、販売を行っているのです。

「元々、ダイヤモンドはヨーロッパではベルギーのアントワープで商われていますよね。アメリカではニューヨークで。ダイヤモンドを商うのはユダヤ系の人々が多いですね」
「今ではインドのグジャーラ州の人なども混ざり、プレイヤーは多様になっています。私もそうした中の一人で、国籍はといえばベルギーです」
彼はロンドンに居を構え、ジュネーブとの間を行き来してビジネスをします。彼のような富裕層も含め、今ヨーロッパが多民族の坩堝となりつつあります。
イギリスはその坩堝の中心の一つとして、社会全体が大きな変化を遂げているのです。アングロサクソンが主役となるイギリスから、多民族国家のイギリスへと、既に変貌したといっても過言ではありません。
「今回のイギリスの選挙は、こうした移民の受け入れ問題も大きな論点になっているんですね」
「その通り。最近は特に中東や東欧の移民が増え、逆に裕福なイギリス人はジブラルタルなどに移住して老後をおくる。社会がこの20年で大きく変わりました。高度な福祉を受けられるイギリスにEU各地はもとより、海外から意図的にやってくる人も増えている。保守層の中には、そうしたことに抵抗感があり、移民の流入を規制しようという人も多いんです」
「キャメロン首相は保守党でしたね」
「そう。労働党の前首相トニー・ブレアも今回の選挙に参戦してきている。移民の受け入れをこのまま維持するのかどうか。これは大きな課題です。お隣のフランス、そしてドイツと、多様性を支持する人と、そうでない人々とで、論戦が展開されています」
確かに、イギリスの物価が高いのは、北欧と同様に、高額な福祉政策もその一因かもしれません。そこに移民の流入が絡み、様々な波紋を呼んでいるのは事実です。しかし、移民の流入でロンドンの街に彩りが添えられ、食文化なども以前と比較できないほどに多彩で質も向上しました。
「私も移民ですが、メイフェア地区の住民としては、この土地の伝統を強く支持しています。個人商店がしっかりと根づいたこの街に、新たな安っぽいチェーン店などにも入ってきてもらいたくはない。移民文化を拒絶するわけではないが、この街の伝統はしっかりと守っていって欲しいのです」
彼は、成功した移民です。こうした昔からロンドンで活動する人々は、中東や東欧から新たに流入する人々とは一線を画し、いわゆる伝統的なロンドンに解け混んでいるのです。

豊かな国に、周辺から人々が流れ込んでくるのは、別に今にはじまったことではありません。世界の超大国アメリカ合衆国もそうした移民によって形成されました。EUを経済的に牽引する国々や、アメリカ、カナダなどのこうした状況をみていると、先進国の中で、日本がいかに例外的な存在かを実感します。
移民の受け入れの是非はともかくとして、この現状によって国の政治が左右され、外交方針も大きく影響を受けることを、我々は知っておく必要があります。

国家は存在しますが、それはホテルのようなもの。世界を流動する人々が、それぞれの国の福祉や政情をみて、自分にあったサービスを受けられる国を選ぶのです。流動化する世界の中で、欧米がそうした人類の新しい試みの壮大な実験場になっているといっても過言ではないでしょう。

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