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北朝鮮との外交問題をビジネス的に考えれば

【海外ニュース】

President Trump undercut his own secretary of state on Sunday, calling his effort to open lines of communication with North Korea a waste of time, and seeming to rule out a diplomatic resolution to the nuclear-edged confrontation with Pyongyang.
(New York Timesより)

トランプ大統領は国務長官の北朝鮮との交渉は時間の無駄だと日曜日に断じ、平壌との核の問題での外交的解決を一蹴する可能性も。

【ニュース解説】

国際関係をひもどくとき、忘れてはならない単語があります。それは benefit です。利益とか恩恵という意味のこの単語。この意味するところがわかれば、国際問題のパズルが面白いようにわかり、かつ未来の予測ができるのです。もちろん予測が 100% 正確かというと、その保証はありません。しかし、かなりの確率で、世界の動向を読み取ることは可能なのです。

例えば北朝鮮問題です。核の力をちらつかせ、かつミサイルを発射して日本やアメリカを威嚇する北朝鮮ですが、誰もがいうのはトランプ大統領の判断が読めないことです。このヘッドラインからも、感情的な発言を繰り返すトランプ大統領への戸惑いが見えてきます。しかし、このときにトランプ大統領が北朝鮮を攻撃する benefit は何かと考えてみるのです。

例えば、第二次世界大戦のとき、日本との戦争の終結を急ぎ原爆まで使用したアメリカですが、日本がアメリカに降伏することには大きな benefit がありました。もちろん、アメリカ軍にこれ以上の人的被害をださないようにということも benefit です。しかし、それ以上に、もともと共産主義に対抗していた日本をアメリカの傘下に組み込み、その経済と軍事力の中に引き込むことは、当時ソ連の伸長を警戒していたアメリカにとって大きな benefit であったはずです。
では北朝鮮を当時の日本のように軍事力で屈服させることが、アメリカにとって大きな benefit につながるのでしょうか。
例えば、イラクに軍事介入したときのことと北朝鮮問題を比較してみます。中東の場合は、少なくとも石油などを含め、アメリカは大きな利権をもっていました。サドム・フセイン政権を屈服させ、イラクをアメリカ側につけるメリットをアメリカは強く感じていたはずです。イランに対しても同様です。
しかし、北朝鮮についていえば、そこまでの benefit をアメリカは感じていないはずです。むしろ、穏便に幕引きができれば、その方がよりアメリカにとってはありがたいはずです。

であれば、アメリカは中国にうまく動いてもらうことで、北朝鮮の問題を解決することを望むはずです。ところが、中国は中国で自国の benefit を考えます。

ここで最近中国を揺るがせている問題について解説します。
中国に関して、今日本ではほとんど報道されていないニュースが注目されているのです。
それは中国の習近平政権に大きな影響力を持ちつつあった王岐山という人物に関するスキャンダル疑惑です。賄賂を撲滅し、クリーンな政治を実現しようという習近平の政策の推進役だった王岐山が、実は自らの権力を利用して富を築いいたのではないかというのです。彼の腹心で北京オリンピックの選手村の建設などにも深く関わった郭文貴という人物がアメリカに逃れ、王岐山のみならず現政権などでの権力闘争や金権政治の内幕を YouTube で暴露しているのです。その内容の真偽はともかくも、中国の政治の中枢に通じていた人物がアメリカに逃れて中国の内情を語りはじめたことは、習近平政権に少なからぬショックを与えているはずです。それも、中国の最高指導者などを決定する全国人民代表大会が開催される前のことであれば尚更です。

最近中国軍部の人事が大きく動いているといわれています。通常全国人民代表大会の前にそうした人事が行われることは異例なことだけに、習近平と、警察や軍に影響力のある王岐山との確執があるのではと推測されるのです。
このことを詳しく解説すれば、それはそれで一つの記事になるわけですが、要は、中国は北朝鮮に対して強い行動にでる余裕が今の所ないのではないかと、思われるのです。

Great Wall、つまり「万里の長城」は、その昔外敵から中国を守るために造られました。しかし、今中国にとっての万里の長城は、海外からのインターネットを通した情報の中国への流入を防ぐためにバーチャルに造られている「壁」を指す言葉として使用されています。郭文貴のYouTubeでの暴露活動もその壁に阻まれて中国国内では共有されていません。中国国内での格差などへの不満と、郭文貴の活動とがリンクすることは、習近平政権がもっとも恐れていることなのです。

であれば、今の中国の benefit は、海外からの情報をしっかりコントロールして内政を固めることに他なりません。そのことに気づいているアメリカは、北朝鮮に対して拳を上げているふりをして、日米同盟へのスタンドプレーを行い、国連での影響力を維持することが最大の benefit のはずです。中東や 70年前の日本に向けられたアメリカの軍事力がもたらしたアメリカへの benefit に比べれば、北朝鮮を叩くことからくるメリットは極めて小さいはずです。

国際関係を単純に利益で判断することの良し悪しはともかくとして、外交をビジネスとして捉える視点をもてば、世界の歴史、現代の状況、さらには未来への見通しも開けてくるのが、悲しいかな、人類の現状なのではないでしょうか。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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