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ハロウィーンとテスラをつなぐものとは

After $4 billion deal with Tesla, Hertz says it will rent out half of those cars to Uber drivers.

(40億ドルの商談をテスラとまとめたハーツは、その半数の車をウーバーのドライバーに貸し出すと発表)
― NBC より

コロナ禍でも迅速で柔軟なアメリカの戦略導入

 10月31日の夜、ニューヨークは48回目のハロウィーンパレードで盛り上がっています。コロナはどこにいったのかと思わせるお祭り気分です。背景にはニューヨークでのワクチンの普及があるものの、その「密」な熱気には圧倒されます。
 
 そして、そんなアメリカを先週驚かせたのが、レンタカー大手のハーツテスラとの提携の話でした。ハーツが4千億円以上をかけて10万台のテスラを購入するのです。そして、そのうちの5万台をウーバーのドライバーにレンタル契約で提供すると発表しました。奇抜な発想です。
 西海岸に着いたとき、確かに高速道路を走るテスラの数が増えていたことが印象に残りました。特に、若年富裕層の間にさらなるテスラブームが起ころうとしています。ハーツやウーバーがさらにテスラを街に送り込めば、当然大きなプロモーション効果を生み出すはずです。
 
 アメリカの出版界にブック・クラブという制度があります。ブック・クラブは出版社から数万部の新刊を、通常の卸値の半分以下の価格で買い取ります。そして、その書籍をクラブの会員に、書店で購入するより安値な価格で提供するのです。版元からしてみれば、それで印刷部数が大幅に増えるので、一冊あたりの製造単価が下がります。しかも、その新刊がブック・クラブを通してアメリカ中の読者に届くことで、大きな広告効果も期待できるのです。
 今回のテスラとハーツとの取引はこのブック・クラブに似た戦略に思えます。
 
 一方で、コロナに沈んでいたニューヨーク市は、その経済力を回復させるために、レストランのオーナーに道路を開放しています。三車線ある道路の両端の二車線にレストランが建て付けの屋台を開き、そこで営業できるようにアレンジしたのです。それによる交通渋滞と路上駐車のスペースの減少はあるものの、換気の悪い室内での営業をやめ、屋外で食事を楽しめることで、飲食業の収入を支え、コロナの拡大も防ごうというわけです。合理的な発想と言えましょう。
 
 アメリカの強みは、こうした様々な政策や戦略を誰もが柔軟かつ迅速に導入できるところにあるのでしょう。日本でこのニューヨーク市の政策を実施するには、どれだけの規制や議論を経なければならないかと考えると、思わずため息が出てしまいます。
 

自動車業界が次世代の競争を勝ち抜くためには

 とはいえ、テスラを買える富裕層にとっても、コロナの影響は普通ではなかったようです。高級ブティックの並ぶマディソン街に行けば、多くの店が撤退し、空き店舗が目立ちます。これは今までには見られなかった光景です。
 ある投資銀行に勤める友人は、このマディソン街と似た現象が自動車業界にも起こるだろうと予測します。彼いわく、今回のコロナでの消費行動の変化の影響を最も受けるのは、実は富裕層に人気のあったBMWに代表されるヨーロッパ車ではないかというのです。
 
 コロナの中で、多くの消費者は今まで以上に環境に対して敏感になり、同時にブランドへの執着が減りつつあるのです。となれば、同じ高価な買い物をするならば、BMWより未来志向で二酸化炭素の排出抑制にも貢献できるテスラを求める人が増えるというわけです。
 彼に言わせれば、トヨタの場合気を付けたいのはレクサスあたりの価格帯の車だろうと予測します。
 
 そんな話をした翌日のこと、今度はトヨタ電気自動車を来年から発売するというニュースがアメリカにも届きました。しかも、太陽光パネルとトヨタと資本提携するスバルのアイサイトなどの技術とを融合させた、安全で環境に配慮した車を発売するということです。
 確かにこの戦略は、日本の自動車産業の6割以上が依存するアメリカの消費者の支持を得るはずです。これからはテスラのようなアメリカで作られる次世代型の自家用車と、日本などで生産されている従来型の車の技術革新による激しい競争が予測されます。
 
 そこで考えたいのが、「車からコンピュータは作れないが、コンピュータから車をつくることは可能だ」というコンセプトです。
 トヨタなど今までの自動車メーカーは車を軸に、そこにAI技術を導入しようとしています。それに対して、アメリカの新規企業はAIをベースに、そこに車の技術を取り入れ融合させて、次世代型の自動車をつくろうとしているのです。
 この概念の違いが、今後お互いの競争にどのような影響を与えてゆくかは未知数です。ただ、コンピュータから車をつくる会社は、AIのありとあらゆる変化を取り入れ、車だけではなく様々な乗り物や商品を変化させてゆくはずです。そして、それらが融合することで、さらに大きなシナジーが生まれるはずです。
 
 ある日本の大手メーカーの役員が、我々はまだエンジンで走る自動車の概念から抜け出せないと嘆いていました。AIがリンクすることで走る車と、その先にあるインフラや航空機などを含む様々な乗り物への進化を見ながら戦略を練らない限り、この競争には苦戦を強いられると、その人はつぶやいていました。
 

「既存」から「未知」へと発想を転換すること

 その役員との会話から見えることがありました。それは、どのような会社でも、日本で財務を担当する人材が旧来の銀行的な発想を脱していないということです。
 つまり、目の前に見える「出来上がった物」の価値ではなく、その向こうに見える「未知数の価値」を考え、財務戦略を稼働できる企業が少ないのです。そして、そのことが企業の意思決定に決定的な遅れと予測のズレを生み出してしまうのです。もっと言えば、投資の発想をもって世界とネットワークできる、商社的発想をもった金融政策の導入が望まれるのです。
 
 なぜいきなりこんな話を、と思われるかもしれまん。その理由は簡単です。2年ぶりにアメリカに長期出張をしてこちらの様子を見たときに、変化への発想の転換の速さをあらゆる側面から観察できたからです。
 テスラからニューヨークの街角に現れた屋台まで、あらゆる戦略の中に、「今すでにある物」ではなく、未来に向けた「まだ見えない機会」への試行錯誤に躊躇しないビジネス文化が息づいているのです。
 
 失敗もあるかもしれません。
 例えば、レストランの屋台を見れば、結局その中はハロウィーンの熱気の中、食事を楽しむ人で溢れています。多くの場合、テーブルの間にビニールの仕切りもありません。
 日本人の感覚で見れば、その対策は不完全極まりないように見えてきます。しかし、その負の部分だけを批判して自らを上に置きたがるのが日本の悪い癖のようにも見えてきます。それが、テスラなどの戦略を見たときに、日本人が見落としてしまうアメリカの強みなのです。
 
「最初にテスラをつくったとき、高速道路を走りながら笑い出した。故障はするし、ぶつかりそうになるし、なんといってもスピードがノロノロで、他の車の運転手が怪訝な顔をしてどんどん追い越していったよ」
 これはテスラの創業者イーロン・マスクがメディアのインタビューに応じたときに語った言葉です。今、彼は火星に人を送る事業に取り掛かろうとしています。AIをベースに、そこに車の技術を取り入れてテスラを開発した延長に火星への旅を置いたわけです。しかも、金融財務界ではそんなテスラへの投資を続け、その株価は上昇しています。
 
 ニューヨークのみならずアメリカは、ハロウィーン以降いよいよクリスマス商戦に入ります。お祭り騒ぎ、そして屋台の登場が景気に直結するか、今のところ誰もが心配しながら見つめています。コロナ後の世界に向けて、試行錯誤による様々な競争が今、世界中で起きようとしているのです。
 

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『言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)
その態度が誤解を招く!異文化の壁を乗り越え、ビジネスを成功させるコミュニケーション術を伝授!
欧米をはじめ、日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100 社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人への取材で分かった、“グローバルな現場で頻繁に起こるビジネス摩擦”の事例を挙げ、それぞれ の本音から解決策を導き出します!外国人とのコミュニケーションで、単なる言葉のギャップでは片付けられない誤解や摩擦、そして行き違いに悩むビジネスパーソンに向けた「英語で理解し合う」ための究極の指南書です!

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