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文化に寄り添った言語がもたらす誤解とは

“We don’t see things as they are, we see things as we are.”

「物事を自分がみているように、彼らもみているとは限らない」
― Talmudic(ユダヤ教の聖典)より

 今年の3月のこと、私はある国際会議でファシリテーションをしました。
 その仕事の後、文化の違う人同士のコミュニケーションで起こりうる誤解のリスクについて、90分間の講演をしました。
 そこで、カナダの企業の幹部が私に質問をしたのです。

「我々は、同じ業界で、同じミッションを共有しています。しかも、同じ技術をもって活動している同志のようなものです。そんな間柄と信頼関係の中で、誤解が生まれるとは思えないのですが」

 そこで、私が一つの事例を示しました。

「なるほど。よいご指摘ですね。では、これから私が一つの短いスピーチをしてみます。もちろん言語は英語です。このスピーチを聞いた後で、皆さんに私が何を言いたかったかを尋ねてみたいのです」

 私はそう言って、さっそく英語でスピーチを始めました。

「今年の冬は、アメリカなどは強烈な寒波に見舞われ、被害も出たようです。冬の寒さは、アメリカだけではなく、モスクワでも記録的な寒さでした。しかし、逆に日本では今年の冬は雪も少なく、暖かい日々が続いています。世界中で様々な気候変動が起こっているようです。従って、これからは今まで以上に、異常気象にも耐えられる商品づくりについて考えなければなりません」

 こうスピーチをした後で、フランスとニュージーランド、そして先ほど質問をしたカナダの幹部に質問をします。

「さて、ここで私が言いたかったポイントは何でしょうか」

 すると、彼らは口を揃えて、

「よくわからなかったよ、ポイントが。でも、アメリカなどでの気候について話したかったんだよね」

「なるほど。では、韓国と中国の代表の方に聞きましょう。私のスピーチはいかがでしたか」

 すると彼らは答えます。

「非常に論旨が明快で、素晴らしいスピーチでした。異常気象に備えた商品づくりをしなければならないことには、我々は賛成ですよ」

「ありがとうございます。東アジアの人には、私の言いたかったことが通じました。しかし、欧米やオセアニアの人、つまり元々ヨーロッパ系の言語圏の人は皆、私のスピーチのポイントをつかめませんでしたね。同じ英語で話したのに、どうしてこのようなことが起きたのでしょうか」

 会場がざわめきます。
 しばらく間をおいて、私は問いかけました。

英語はあくまでも言葉にすぎません。その言葉をどう操るかのノウハウは、実は文化によって異なるのです。今回の私のスピーチは、ある文化圏の人には全く意味不明で、東アジアの皆さんにはよく理解されました。実は、私は日本を含む東アジアの人々のレトリックに従って英語を喋ったのです。だから、そうした論理展開が存在しない欧米の方々、あるいは英語圏の方々には、私の話のポイントが伝わらなかったというわけです」

 いうまでもなく、私は日本流の「起承転結」法を使って、英語でスピーチを行いました。そして、実際は私の予想以上にそのスピーチを理解できる人と、理解できない人とがくっきりと分かれたのです。これは驚くほどはっきりとした結果でした。

「なるほど、英語が喋れるだけでは、そして英語だけに頼っていては誤解が生じるということですね」

 カナダの代表は納得したように、私に話しかけます。

「そうなんです。実のところ、国際交渉の決裂の多くは、こうした誤解が原因なのです。悲しいことに、この結果が戦争につながることもあり、ひどい場合は人の命を奪うことも起こってしまいます。というのも、誤解が起きるとき、お互いが相手に不信感を抱き、そこから怒りや緊張が生まれるからです。ビジネスでも同様です。皆さんは大きな組織の幹部です。であれば、海外とのやり取りでこうしたリスクからプロジェクトを守ることも大切な使命なのです」

 そう私は説明しました。

 
 実際に、ビジネスなどの国際交渉は、お互いにより良い結果を共有するために行われます。誰も最初から決裂は望んでいません。それなのに、交渉やプレゼンテーションがうまくいかないのは、こうした異文化でのコミュニケーションスタイルの違いに起因することが多いのです。
 日本人も含めて、英語を喋るとき、それを自分の所属する文化で醸成されたコミュニケーションスタイルに則して使っていることに気づいている人は、そう多くはありません。そのことが、伝えたつもりが伝わっていないとか、合意したはずなのにうまく動いてくれないといった苦情の原因となっているわけです。
 

こうした誤解があるときに、まず柔軟に対応することが大切ですね。私の会社では、相手に緊張感を与えないように、相手の意図や言いたいポイントを確認するノウハウの研修をしています。現代のグローバルな環境でリーダーシップを取ってゆくには、こうした多様なコミュニケーションスタイルを受け入れ、それに応じた対応をお互いに心がける組織づくりが必要なのです」

 私のスピーチを受けて、異文化対応に詳しいオーストリアの専門家がこのようにコメントをしました。彼のコメントこそが、そのまま今の語学教育の現場や国際関係についての様々な教育関係者にも伝えたいメッセージであるといえましょう。

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ビジネスシーンの英語コミュミケーションに悩む、すべての人に!

『エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二 (著者)
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*TOEIC では高スコアを取っていても、実際のビジネスの場では役に立たないという人が多いといわれます。それは TOIEC で高得点を取る技能に走って、最も大切な異文化コミュニケーション力を培っていないからです。異文化コミュニケーションの本質を習得できれば、中学英語と、そこに自らの仕事に関する専門用語を加えるだけで自分の意思を理解してもらえます。本書では、日本人の思考やビジネス文化に基づいて英訳することで生じる誤解などを解説し、文化の異なる相手と交流するスキルを伝授します。

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異文化対立への模索にゆれるアメリカ社会

“Inclusive leadership is a process of bridge-building. It involves careful listening, outreach to people with different perspectives, and persistent, stubborn efforts to find common ground.”

(インクルーシブ・リーダーシップとは、人々に橋をかけるプロセスのことだ。それは、異なるものの見方に対して粘り強く、かつ諦めずに耳を傾け、その人たちの言葉をしっかりと聴きながら語りかけ、共通項を見出すための努力を意味している。)
― Ernest Gundling・Aperian Global から

人々の語りから聞こえる閉鎖的なアメリカの軋み

 アメリカに到着した二日後、アメリカの真ん中にあるオクラホマのイラン系のレストランで、仕事相手の一家と夕食を共にしました。
 彼はアメリカ中西部で、留学生に向けた英語学校を9校運営する事業家です。出身はイラン。若い頃に祖国の混乱に追われてアメリカに移住してきた彼は、自らの経験から子供の頃に多言語に接することがいかに人の頭脳に良い影響を与えるか話してくれます。

「今、トランプのために留学生にビザがおりにくくなっているね。だから国内での多言語教育に力を入れなければならないんだよ」

 彼はそう語ります。確かに、留学生に関係する教育機関は、どこもトランプ政権の閉鎖的な政策の影響が自らに及ぶことを懸念しています。

 
 次の日の夕方、3時間のフライトの後、ロサンゼルスに着きました。ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカにあるビーチクラブには富裕層が集まり、夕食を楽しんでいます。

「おい。俺たちの中ですら、トランプを支持している奴がいるそうだ。大きい声では言えないけど。あいつもしかすると再選されるかも」

「そんなことがあったら、俺はカナダ人になるよ。この国に未練はないさ」

「それよりお前の持っているメキシコの別荘、どうするんだよ。メキシコとの国境がいよいよ閉鎖されるかもしれないって言っているよ。週末向こうで遊んでると、帰れなくなるぞ。気をつけろよ」

「かまわんさ。やれるものならやってみろ」

目指すべきは異なる宗教や人種、価値観の融和

 さらに次の夜、サンタモニカの別のレストランで、シアトルから出張してきている会社の社長と夕食を共にしました。最後にコーヒーを飲みながら、彼は自分の身の上についてぼそぼそと語り始めました。

「俺はなあ。11歳のとき、エリトリアからスーダンまで11日間歩いて亡命したんだよ。エリトリアって知っているかい?」

「ああ、エチオピアの北にある小さな国だね。その頃何があったんだい」

「エリトリアは当時エチオピア領だった。そして独立運動が起きたとき、運動を起こした青少年に対して凄惨な虐殺があったんだ。子供にも容赦なかった。だから父親は俺を守るために、エリトリアからスーダンに密かに亡命させたのさ」

「なるほど。それからサウジアラビア経由でアメリカに移住してきたわけだね」

「そうだよ。ところで、日本ではニュージーランドでおきた惨劇はどう報道されている?」

「一応、ショッキングな事件なので報道はされているけど、日本は平和だよ。大きなリアクションがあるわけではない。君の住むシアトルではどうなんだい」

「シアトルでは皆がモスクに集まった。それもムスリムだけじゃない。キリスト教徒もユダヤ教徒も、様々な心ある人がね。そして、人種や宗教による対立をなくそうと話し合ったよ。この動き、アメリカの各地で起きてね。一つのムーブメントになっている。俺もムスリムだから、ニュージーランドのことは人ごとじゃない。この動きをしっかり支援しているよ」

「そうか。今度シアトルに行ったら、一緒に連れて行ってくれよ」

 翌日のこと、同じ会社のオーナー夫婦に誘われました。彼らは悠々自適な生活を楽しむ70代後半の夫婦です。

「ヨウジ。お前マリファナショップに行ったことがあるかい」

「ないよ。いきなりなんだい。確かカリフォルニアでは合法になったとは聞いているけど」

「面白いよ。身分証明書を提示して、20歳以上であることを証明すれば誰でも入れる」

「なるほど。でも連邦政府は違法だって言っているだろ」

「そうだ。でも州は認めている。皆で合法にするか否かの投票をしたからね」

カリフォルニア州で合法で、連邦政府で違法だとは奇妙だね」

「まあ、その奇妙なところがアメリカさ。だからトランプがいても、ここではしっかり移民が働いている」

 彼に連れられてマリファナを購入する店を見学してみると、店内は思いの外モダンで、アップルストアか何かのようでした。様々な商品があり、店員が説明をします。

「あそこにATMがあるね」

 私はオーナー夫婦に質問します。

「デビットカードかキャッシュでしか購入できないからね。連邦政府と対立しているから、銀行が支援しないんだよ。だから常にキャッシュ商売というわけだ。でも、このビジネスに将来性があるからと投資する金持ちは多いんだよ」

 もちろん、私は日本で違法なマリファナを買えません。その後、夫婦に連れられて映画を見た後、夜遅くまで世界情勢など様々な話題について語り合いました。

多様性が広がる世界、そして日本に求められるものは

 それから二日経った夜。私はサンフランシスコ郊外の海辺のレストランにいました。古い友人との夕食です。彼は、国際企業でのリーダーシップやコミュニケーションに関するコンサルティング会社を経営しています。

「最近どうだい」

「会社の人事部門から、いかに社員間の対立をコントロールすればいいか相談がひっきりなしだよ」

「いざこざって?」

「考えてもみな。アメリカの会社では多様な背景を持った人が働いている。考え方も様々なんだよ。そこにトランプ政権ができて、移民政策をコントロールし始めた。職場でいきなりトランプを支持する野球帽をかぶったクレイジーな奴が立ち上がって、他の人たちを非難しかねないだろ。そうしたことを防ぐにはどんな研修が必要かっていうことさ」

「そうか。オクラホマで打ち合わせをした奴も、サンタモニカで出会った社長も皆中東からの移民だった。彼らも苦労しているようだよ。でも、カリフォルニアはマリファナを合法化するぐらいだから、まだリベラルな人々の聖域じゃないのかな」

「そんなことはないよ。ここだってどうなるかわからない。大切なのは inclusive leadership(インクルーシブ・リーダーシップ)を誰がとれるか、ということだね。つまり、人々の違いを受け入れながら、それをまとめてゆく力をリーダーが持たなければ、これからの組織での前向きなチームワークは難しくなる」

「なるほど。異文化でのコミュニケーションをさらに掘り下げているわけだ」

「ああそうさ。すでに多様性にさらされている世界企業で働く人々が、政治や一部のポピュリズムによって分断されてはまずいからね」

 
 多くの人が、今の世界の状況を憂いています。しかも、アメリカではそれが自分自身の仕事や生活と深く関わっていることが、こうした会話から理解できます。さて、日本人はこうした会話に接して何を感じ、どう思いを馳せるのでしょうか。
 

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『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。
本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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ビジネスの未来のためにも求められるco-existenceという概念

“Nobody in Europe will be abandoned. Nobody in Europe will be excluded. Europe only succeeds if we work together… Germany wants peaceful co-existence of Muslims and members of other religions.”

(ヨーロッパの誰も見捨てられず、排除されない。ヨーロッパの試みは多くの人が一つになるときに、成功するのだ。そしてドイツはイスラム教徒と他の宗教のメンバーとの共存を望んでいる)
Angela Merkelのスピーチより

“interactive”な市場から取り残される日本

今、ビジネスはグローバル化されていると誰もがいいます。
実は、ビジネスもグローバルとローカルとに二分され、そこに明らかにギャップや格差が生まれています。
ただ、これからのビジネスでは、何を行うにしろ、AIやInternet、MaaS (Mobility as a Service)といった未来型のネットワークがなければ、市場から取り残されてゆくことだけは確実でしょう。例えば細かいことですが、いまだに日本の鉄道の中ではクレジットカードが使えない駅が多く、実は新幹線でも車内で切符を変更してもらうときなどは、キャッシュだけの応対です。オンラインどころではありません。これを海外の状況と比較すると、将来の日本に強烈な不安を覚えます。
 
海外でのサービスはますますinteractive、すなわち双方向になろうとしています。ユーザーとサプライヤーが双方のニーズを交換し、サービスのネットワークを広げるのです。例えば、ネットで航空機を予約すれば、それに連結した鉄道やホテル、さらには現地のレストランでの夕食の予約や機内食の好みまで、様々なサービスが受けられるように、国際間でネットワークすることがMaaSの目指すところです。そこには、Uberやそれに類するタクシーやバスなどのサービスも含まれます。もしかすると、長距離を移動してきたビジネストラベラーが、空港に到着すれば、そこに自動運転のタクシーやカーシェアリングサービスが待機していて、それを利用すれば、そこに注文していたサンドイッチとコーヒーがあり、それを楽しみながらホテルへ、ということも近未来にはあり得るのです。
 
日本の弱点は、実は中国と似ています。それは、日本は島国で物理的に他国と閉ざされ、さらに隣国とも良好な関係が築けないのです。ですから、ヨーロッパなどのインタラクティブなサービスへの発想に限界が生まれ、しかもその限界をよしとする行政の規制が根強いのです。中国は、大陸国家ですが、民主化を恐れ、国が海外からの情報とそのインタラクティブな流通を極度に規制しているという課題があります。ですから、現在中国国内がいかに電子化され便利になっていても、海外からの知恵を自由な発言と共に取り入れない限り、いずれ技術力にも中国ならではのガラパゴス現象がおきるはずです。
日本も中国も、双方にこうしたジレンマを抱えながら未来を見据えているのです。

“co-existence”を揺るがす”identity crisis”

現在の市場社会で、世界の動きに対応するためには、人々の知恵の共有とネットワーク、そして知識そのものの流通に注目しなければなりません。サービスの必要なところに、世界中から知恵や人材が集まり、ニーズのあるところに、世界中からビジネスのオファーがあるような社会造りが必要なのです。それには、日本でもある程度の移民の受け入れと、出入国、さらには就労に関する自由化が不可欠です。
 
この課題に古くから取り組んできたのがヨーロッパです。ここに紹介したドイツの指導者メルケルの言葉はその背景を象徴しています。
ヨーロッパやアメリカでよく話題になる概念に、ここで彼女が語ったco-existenceという言葉があります。それを直訳すれば「共存」となります。
今、世界ではこのco-existenceが大きなテーマになっています。つまり、移民や異なるジェネレーション、さらには同じ民族であっても異なる価値観を持った人と、いかに共同して社会を形成してゆくか、ということがそのテーマになります。
 
ヨーロッパやアメリカの場合、この課題が社会を揺るがしています。
例えば、ロンドンの例をみるならば、そこには多くのイスラム教徒の移民がいます。彼らは伝統的なイギリスの生活習慣とは全く異なった毎日を送っています。日本では「郷にいれば郷に従え」という言葉がありますが、そこに宗教が絡むとそう簡単にはいきません。
例えば、学校での給食を考えても、食べられるものに大きな違いがあります。祈りの時間も考えなければなりません。さらに、断食月といわれるラマダンの期間は、日の出から日没まで食事ができません。女性の地位に関する常識も、時には大きく異なります。
こうしたことは、別にイスラム教徒に限ったことではありません。ベジタリアンとして生きている人は、レストランでの食事のメニューのみならず、そこで使用されている目に見えない材料にも気を配ります。レストラン側でも、こうしたベジタリアンや様々な宗教のニーズにあったサービスが求められます。それは、ちょうどアレルギーのある人が、その素材に対して気をつかうことと同じです。
 
こうした、風俗習慣の異なる人が共存するときに起こりがちなことが、そこに元々住んでいた人々を見舞うidentity crisisアイデンティテイ・クライシスです。
自らの伝統的生活文化が蝕まれてゆくような危機感に苛まれるのです。それは、そこに新たに移住して来た人々にとっても同様です。その典型的な事例がアメリカにあります。
アメリカは、最初に大量に移住してきたプロテスタント系の白人が社会規範を作りました。後発の移民達は、宗教的な儀式や風習は維持できても、ビジネス文化や社会常識においてプロテスタント系のアメリカ人の作り上げた常識に従って生活をしてゆかざるを得なかったのです。
しかし、移民がより多様になった現在、従来の風習や常識そのものが変化を強いられています。こうしたことへの不安や苛立ちが、社会に新旧双方のグループに排他的な意識を育むのです。ヨーロッパやアメリカでおきるテロ事件の多くが、海外から送られてきた犯人によるものではなく、自国に育ち教育を受けた移民グループや伝統的な価値に固執する人々によって起こされていることに注目するべきなのです。

日本に求められる”cultural awareness”

こうしたidentity crisisの軋轢を乗り越えて「共存」を模索するときに使われるのがco-existenceという言葉なのです。co-existenceの基本はdifference、つまり人との相違を肯定すること。そしてcultural awarenessという概念を常に意識することになります。cultural awarenessとは、他の文化への受容性と寛容性を抱くことを意味します。
 
日本の場合、社会においてまずグループでの発想が優先される傾向にあるために、difference という言葉はともすればネガティブな意味で捉えられます。
「彼は変わっている」といえば、それはその人に対する批判と捉えられます。しかし、co-existenceという課題と取り組んできた欧米ではdifference は良いことだという意識が主流です。その土台の上に、cultural awarenessというアプローチが存在するのです。
 
こうした事例をみるにつけ、移民や異文化摩擦へ柔軟に対応する方途の模索が、今後の日本の競争力を担う上でも求められていることがわかります。ここに記したco-existence, difference, cultural awareness, そしてdiversityについて考えることが、世界の知恵を流通させ、日本の中にもそれを導入し、応用し、創造的な技術を芽生えさせる社会的な知恵を育む原点になるのです。
島国国家日本が、精神的な島国から脱出せざるを得ない現在、こうした海外の動きや現実を直視することが強く求められているのです。
 

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山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
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アジアからみる「Cultural Synergy」とは

Cultural differences provide opportunities for both synergy and dissynergy. The more the cultural styles of the companies differ, the grater the potential of cultural synergy, and the grater the potential for cultural conflict.”

異文化環境ではシナジー効果とその逆のリスクとが共存する。組織での文化が異なれば、その分相乗効果を生み出すケースも極めて大きくなるものの、一方で文化の違いによる衝突の危険も大きくなるというわけだ。
(Wendy Hall 著 Managing Culturesより)

20世紀終盤ごろから、IT革命の浸透によって世界はみるみる小さくなりました。それと同時にグローバライゼーション globalization という言葉が日常のように使われはじめたことは、記憶に新しいはずです。
では、そもそもグローバル化とはどのようなものなのでしょうか。
多くの人が勘違いしていることは、この globalization の波がIT革命の震源地だったアメリカからおこり、アメリカ型のビジネスの方法、コミュニケーションのノウハウが世界に浸透していったと思っていることです。
 
確かに、シリコンバレーなどではじまった新しい技術革新は世界を変えてゆきました。それが単に技術だけではなく、人々の常識や行動規範そのものにも影響を与えたことは事実でした。
そして、技術革新をより可能にするために、人材への投資や人材育成のノウハウがそうした企業の中で培われ、世界に輸出されたことも確かです。
 
しかし、アメリカ社会は、その当時アジアからの精神文化の影響を大きく受けていたことを忘れてはなりません。70年代後半以降、急激に増加したアジアからの移民が特に西海岸や東海岸の都市部のライフスタイルを大きく変えていったのです。当時のアメリカはベトナム戦争で躓き、その後の都市の荒廃といった社会問題の出口を見出せずにもがいていました。そのことで人々の中に、既存の欧米流価値観への信頼と自信への喪失感が蔓延していたのです。そこに浸透してきたアジアからの文化は彼らにとっては新鮮な驚きでした。特に仏教をはじめとする東洋哲学が一様に説くマテリアリズムへの鋭い批判に、彼らは大きな影響を受けたのです。
その結果、都市部で New Age と呼ばれる、既存の価値から離れ、瞑想や自然への回帰などを求めるライフスタイルが流行します。
これがアメリカにとってのグローバライゼーションのはじまりだったのです。
その世代の多くが高度成長を遂げた日本や、神秘的な宗教が混沌の中に共存するインドなどにわたり、アジアとの架け橋になってゆきました。
また、その世代がその後IT革命の第一世代へと進化していったことも忘れてはなりません。スティーブ・ジョブズなどはそれを代表する人物でした。
そして迎えたIT革命。それを担った人々の多くがアジアからの移民やその二世でした。彼らは、高度な教育を受けた技術者としてアメリカのIT産業を支えたのです。
このように、アメリカはアジアからの移民によって社会が変化しました。そして、アジアからの移民はアメリカの社会の仕組や価値観を吸収しながら、より高度なライフスタイルに挑戦します。それがIT革命の精神的なバックボーン backbone になったのです。アメリカのみでも、アジアのみでも起こりえないグローバライゼーションの発熱効果がこうして産み出され、世界に影響を与えたのです。
 
Synergy という言葉があります。これは、異なる薬を調合し、より効果のある薬品ができあがることを意味した言葉でした。この Synergy 効果を文化の融合の中に見出そうとしたのが、Cultural Synergy という発想です。
シリコンバレーでおきたように、世界中から人々が集まり、異なる発想法を融合させることでより高度な技術やノウハウを産み出そうという動きがその発想の原点だったのです。グローバライゼーションはこの Cultural Synergy への発想を抜きにしては語れないのです。
 
つまり、グローバル化はアメリカ化でも、欧米化でもないのです。70年代以降、それまで長年にわたって続いていた欧米からアジアへ向けた文化の流れが弱くなり、暗黒の植民地時代を克服したアジアからの新たな文化の輸出がはじまりました。その流れが欧米に影響を与え、Cultural Synergy という化学変化を起こしたことが、現在のグローバライゼーションのエネルギー源となったのです。
 
異文化環境で Synergy を生み出すには工夫が必要です。片方の価値観のみでは、それを押し付けられる側に抵抗を生み出します。それでも強引に変革を強要すれば、受け手の組織はいびつに変質します。
日本企業も含む、多くの世界企業が、それを克服できず、Synergy を生み出せずに苦しんでいます。
我々が今さらに考えたいのは、今後アジアの価値をIT社会、AIの社会の中でさらにどのように活用し、還元することで、次世代に向けた Synergy を創造できるのかということなのです。
 

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ノンバーバル「非言語」と異文化の誤解について理解しよう

“Non-Japanese people want to create meaningful relationships,
but they cannot do so if you do not help them.”

(日本人だけではなく、我々も意義ある人間関係を造ろうとしているんだけど、色々と教えてくれないと無理なのです)
これはある外国人の日本人へのコメントです。

異文化の罠につかまると、善意が誤解の連鎖に変わってしまう

仕事で海外の人と一緒に活動するとき、「なんでこんな反応をするんだろう」と、外国人に対して不信感をいだいたことはありませんか?
実は、その原因の一つは日本人側にあることに気づいていない人が意外と多くいるのです。
もちろん外国の人は意義ある人間関係を構築しようとしています。
しかし、日本人が助力しないかぎりその達成は不可能というわけです。
英語ができるということと、外国人とうまくコミュニケーションができ、ビジネスができるということは、必ずしも一致しないのです。
その言語の、相手に合った使いかた、そして言語の他に必要なコミュニケーションの方法を知らない限り、海外の人とうまくビジネスをすることはできないのです。

相手に合った言語の使い方とは、

1) 聞き方と喋り方、あるいは書き方
2) 相手の頭の中に入るような情報の出し方
3) プレゼンテーションやフィードバックのノウハウ

などを意味します。

そして、ここで言葉以外のもの、つまりNon-Verbal(非言語)とは何かについて考えてみましょう。

非言語とは、

1) ジェスチャーや表情
2) 言いたいことの表明の仕方
3) 相手とのやりとりのテクニック

のことです。

まず、言語以外のコミュニケーションについて触れてみます。1)ジェスチャーや表情とは、正に文字通り、どのような手振り身振りをすれば相手に自分の言いたいことが伝わりやすくなるのかであり、笑みや深刻な顔を使い分けることによって相手との言葉のキャッチボールを少しでもスムーズにすることを意味します。
2)言いたいことの表明の仕方とは、いつどのような形で自らの主張を切り出し、合意を求めるかという、プレゼンテーションのテクニックです。
3)相手とのやりとりのテクニックとは、相手にどういう方法でメッセージを伝えるか、わからないことをどのようなタイミングで質問するかという、相手とのコミュニケーションを促進する上での目に見えないノウハウです。
 
この3つの要素をしっかりと理解した場合、たとえ語彙力などが充分でない人でも、相手との信頼関係を構築でき、ビジネスでの交渉も、英語が上手くてもこれらの要素を満たしていない人よりも上手く進めることができるのです。もし、聞き取り能力が不安な人でも、その不安をかなり解消することができるのです。
 
そして、こうしたノウハウの習得のためには、まず「異文化」とは何かということを理解することからはじめなければなりません。

常識や判断が通じない異文化環境について理解しよう

まず、以下のコメントについて考えましょう。

Japanese people are used to living in a monoculture. This has deprived them of the need to explain individual differences in thought in order to understand each other.

(日本人は、単一文化の中で生活することに慣れてきました。これは、人と人とが意見の違いがあるときに、それをちゃんと説明しお互いに理解する必要性を疎外してきたのです)
 
これは、多くの外国人が日本人に対して指摘していることです。
この言葉は、グローバルな環境では、日本人がついつい言外に意味を含ませて相手に伝えようとする「阿吽(あうん)の呼吸」での意思疎通は通用せず、いかにしっかりと言いたいことの内容を説明することが大切かということを意味しています。そして彼らはこう説明します。

In this multicultural community called earth there is no value in vagueness as individuals from various backgrounds seek business and social opportunities together.

(この地球という多様な文化が共存する社会では、様々な文化背景をもった人々が一緒にビジネスやお互いの社会的な利益を追求するとき、曖昧模糊とした表現は通用しないのです)
 
まず知っておきたいことは、異文化環境では、今まで自分が正しいと思ってきた常識や判断が通用せず、時には裏目に出ることもあるということです。それが、「異文化」という環境の特徴なのです。
しかも、自らの常識に従った行動は、あまりにも日常的なことなので、多くの場合無意識になされ、それが故にまさか相手が全く異なった受け取り方をしているということにも気づくことなく、誤解が深刻になっていく可能性があることを知っておく必要があります。
これが異文化間のコミュニケーションで発生する悪循環なのです。

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