【海外ニュース】
Twitter Yields to Pressure in Hate Case in France
(International Herald Tribune より)Twitter がフランスで差別発言の問題への圧力に譲歩
【ニュース解説】
今、中国への機中です。
中国では、フランスから来たコンサルタントと合流して、上海に拠点を置くある国際企業で仕事をします。
中国に入国すると、Twitter が使えなくなります。相棒のフランス人も Twitter をよく使っているというので、そんな会話を出発前にスカイプでしたところ、彼からこの新聞記事を読んで感想を聞きたいという依頼を受けました。
その記事は、フランス政府と Twitter との個人情報をめぐる、そして「言論や表現の自由」をテーマにした対立について解説していました。
日本でも社会問題になっているヘイトスピーチ hate speech。これは、日本だけの問題ではなく、世界中が抱えている深刻な課題です。フランスでも、イスラム系やユダヤ系住民に対するヘイトスピーチが飛び交い、それが社会不安への懸念となっていたのです。
実は、フランスではこうした人種差別を意図したスピーチや、ナチズムにつながるような活動は非合法です。従って、フランス当局は、ネットにおいてのつぶやきや、公に向けたメッセージの発信に対しても、そうした差別的発言をした者への訴追へと動きだしたのです。
西側諸国は一応に「言論や表現の自由」freedom of speech を保証する民主国家としてアライアンスを組んでいます。しかし、民主主義のもう一つのテーマである「人権の尊重と差別のない社会」と、ここで課題になっている「言論や表現の自由」の概念は、時には対立し矛盾をうみます。ヘイトスピーチによって攻撃を受ける人の人権が脅かされ、人々が恐怖と屈辱に苦しむのは事実です。しかし、それを規制すれば「言論や表現の自由」への侵害となります。
今回のフランスでの出来事は、正にこの問題が顕在化した象徴的事例といえましょう。
Twitter をはじめとしたソーシャルメディアの多くは、アメリカで生まれ、世界に拡散しました。アメリカでは公民権法 Civil Rights Act があり、職場や公の場所で人を差別することは禁止されていますが、言論の自由は最大限保証され、仮に差別を助長するような発言がネットで配信されても、犯罪に直結しない限り、概ね取り締まられることはありません。日本でも、言論への規制は殆どありません。
そして、Twitter は、人々の自由な発言をサポートするツールとして、多くの人々の支持を得て、そんな法的環境があるアメリカから世界へと広がりました。
しかし、フランスでその自由な活動に待ったがかかったのです。
フランス当局は、Twitter に対し、ユダヤ系住民へのヘイトスピーチを行った者のデータの提供を求め、Twitter と係争。結局 Twitter 側が折れてその求めに応じたのです。これによって、こうしたつぶやきを行った者への訴追が可能になったことになります。
私は個人的には、日本での中国や韓国の人々などへのヘイトスピーチには強い憤りを抱いています。かつ、日本では官民ともに公民権法的な発想が希薄なことにも異議を唱えます。そして、言葉の暴力は時には刃物よりも人を深く傷つけることを我々は改めて認識するべきだと考えます。しかし一方で、今回のフランスでの係争の結末には複雑な思いを禁じ得ません。
The case has important implications for Twitter users worldwide, as governments increasingly try to extract user information from the service.
(このケースは、世界中の Twitter のユーザーにとって重要な問題だ。というのも政府がますます Twitter の活動から得たユーザー情報を取得しようとしてくるからだ)と同紙は解説し、さらに多くのソーシャルメディアの会社がフランスだけでなく、アメリカを含む各国から情報の提供を促されている事実を紹介します。既に解説したアメリカで諜報活動に関わっていたスノーデン氏の国家機密漏洩のケースを改めて思い出すのは、私一人ではないはずです。
Twitter の場合、フランス国内に支社があり、違法行為を認定されれば、自社の活動に大きな影響を与えるのみか、そこに働く社員への訴追という事態も想定されます。Twitter は、そうした状況を考えた上で、現地の法に従ったわけです。
この課題を考えるとき、以前、アメリカの3大テレビ局の一つ CBS の黒人のプロデューサーと話したことを今でも思い出します。
アメリカにくすぶる黒人への差別を助長する人の強く刺激的なコメントを放送するかどうかと局内で議論したとき、「言論の自由は大切。だからその人の言ったことは、そのまま紹介するべき。もし我々がそれをしなければ、その人と正反対のコメントを紹介することもできなくなる。判断は視聴者がするべきで、我々がコントロールしてはいけないの」と彼女は主張したのです。
仮にヘイトスピーチであっても、国や報道機関が言論や表現の自由を抑制すれば、他のスピーチでも、国の都合で規制できるようになるということが、彼女が最もおそれたことだったのです。
さて、これから5日間、私は Twitter へのアクセスが全くできない中国にいます。私はそれにささやかな抵抗。中国からは通常のメールで「つぶやき」を送信し、東京のオフィスを通して Twitter へアップさせます。
言論の自由とヘイトスピーチによる人権侵害をどう捉えるか、読者の皆様のご意見も頂戴できれば幸いです。