【海外ニュース】
Secretary of State John Kerry, Arriving in Kiev, Offers $1 Billion in Loan Guarantees to Ukraine
(New York Times より)ジョン・ケリー国務長官がキエフに到着。10億ドルのローンをウクライナに保証
【ニュース解説】
ワシントン DC は文字通り政治の街です。
コネチカットアベニューにあるヒルトンホテル。そこの10階にあるラウンジはヒルトン系のホテルのメンバーなどが専用に利用できる場所。
普通の街でそうした場所に行けば、ビジネストラベラーなどが黙々と新聞を読みながら朝食をとり、夕方には彼らが集りワインをといった光景を目にします。
しかし、ここでは、地方の議員とおぼしきジャケットにネクタイ姿の黒人系の人が集まっているかと思うと、同様の風采のいかにもジャーナリストらしい人々がテーブルを囲み、さらに様々なロビーストなど、この街ならでは人々が朝から情報交換に明け暮れています。
その中に、ニューヨークから来たウクライナ系の人が私のテーブルの隣に集まっていました。他でもない、ウクライナ問題でのデモンストレーションにワシントンにやってきた人々です。
例えばニューヨークのダウンタウン、2番街に面したロワーイーストサイドに、ウクライナ人のコミュニティがあります。彼らの多くは帝政ロシア時代、さらにソ連時代にロシアとの戦火や弾圧を逃れて移民してきた人々の子孫です。周辺にはウクライナや東欧のレストランなどが今なおあり、ウクライナ人が集う教会もあります。今、アメリカには 96万人のウクライナ系の人々が生活しています。
私の横にいた人々は、そんなグループの組織を代表した人々なのでしょう。
アメリカではこうした移民を Ethnic group といって、ウクライナ移民の子孫のことを Ukrainian American といいます。
この考え方でいえば、ウクライナ国内に住むロシア人は、Russian Ukrainian となるわけですが、英語の新聞では Russian ethnics という表現が一般的です。
以上のことを前提において、アメリカからウクライナ問題を考えます。
まず、スノーデンの機密漏洩問題や EC との経済問題、さらには対中関係でアメリカは守勢に立たされていました。また、中東問題でも泥沼化したなか、軍事介入をどう終息させようか、頭を痛めていました。日本との関係でも、日本側の思惑はともかく、アメリカの意図に反してワシントンの利益を代表しているはずの日本が極東のトラブルメイカーとなっている印象は拭えません。
これらは冷戦以降の混沌とした世界を象徴した出来事です。
そして、アメリカにとっては Cold War の図式が一番自らのプレゼンスを強調できるのです。
従って、NATO とロシアとの境界線に位置するウクライナが、そんな冷戦の再現かと思われる緊張に見舞われたとなっては、アメリカは積極的に介入せざるを得ず、ケリー国務長官自らの「おでまし」となったわけです。しかし、ロシアからガスの供給を受けるなど、微妙な利害関係を持つヨーロッパ諸国はアメリカの動きにはいささか慎重です。冷戦時代のように「右へならえ」といかないところにアメリカの苛立があることは否めません。
主権国家の中の Ethnic group、つまりウクライナのロシア系 Ethnic Russian を保護するためのロシアの軍事介入は、実に前時代的な行為といえましょう。
それは、第二次世界大戦まで列強がよく行った侵略の手段でした。旧チェコスロバキアに住むドイツ系の人々の保護を口実に、ズデーデン地方を併合したナチスドイツの行為などは、いまだに第二次世界大戦につながる重要な事件として語られています。ロシアが行ったのは、正にこうした行為なのです。
そして、我々が知っておきたいのは、ウクライナ問題はなんと隣国の問題だということです。ウクライナは西側ヨーロッパとロシアとの間にある国家です。そして、ロシアを挟んだ日本の隣国と言えば、誰もがまさかと思うでしょう。
しかし、それは政治的にみても事実です。
ロシアは伝統的に、ウクライナからトルコへの黒海を中心とした地域と、日本や朝鮮半島に位置する「ロシアの極東」とを、自らのパワーゲームの天秤としてきました。
プーチン大統領が日本との宥和政策のエールを安倍首相に贈り、その直後にウクライナへの強攻策にでてきたことは、結果として伝統的なロシア外交の方程式にのっとった戦略だったといえましょう。
従って、ワシントン DC の識者は、日本に圧力をかけ、自らの陣営の安定した存在にするためにも、敢えて「トラブルメイカー」の日本への牽制を強め、ワシントンでロビー活動を活発化させる中国や韓国の対日批判を取り上げます。
ニューヨークタイムズなどにそうした記事が頻繁に現れ、実際にアメリカ市民への日本への厳しい視点が植え付けられていることは、今回の渡米で、肌で感じました。
領土問題の解決などの飴をちらつかせながら、西側諸国の同盟関係にくさびを打ち、ウクライナでの利権の維持に注力するというロシアのしたたかな外交と、対ロ、対中双方を睨みながら西側全体へのプレゼンス回復に懸命なアメリカ。ワシントンのホテルのラウンジのざわめきも複雑になってきています。
そんな情報とコミュニケーションの絡まりの中で、それでなくとも、アメリカの情報源となりうる自らの移民 (日系移民) とのリンクの希薄な日本の外交政策がぎこちなく、タイミングがずれたものにならないことを祈りたいものです。