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世界の安全と日本の安全神話の矛盾とは

【海外ニュース】

They had a ‘pretty good go at him’: Quick-thinking heroes tackle train gunman
(CNNより)

彼らはとてもうまく相手に向かっていった。勇敢にも彼らは即断し、列車内で銃撃をしようとした男にタックルした

【ニュース解説】

8月22日、アムステルダムからパリに向かった高速鉄道で、あわや大惨事になるテロ事件が即座に制圧されました。
たまたま乗り合わせたイギリス人とアメリカの軍人が自動小銃を持って列車の乗客を襲おうとした人物にタックルし、押さえ込んだのです。発砲はされたものの、この勇敢な行為で、惨事を防ぐことができたのです。

しかし、この事件は勇猛果敢にテロリストに立ち向かった人物への賞賛と共に、今世界がどれだけ深刻なテロの脅威に晒されているかを改めて見せつけられたことになります。
フランスといえば、今年のはじめに風刺漫画を掲載する週刊誌を発行するシャルリーエブド社が襲撃されたことは記憶に新しいはずです。このテロ行為の場合、テロリスト側もイスラム教を風刺したことへの報復という明解なメッセージを発信していました。
しかし、テロで一番怖いのは、今回のように列車や駅など、人の集まる所での暴挙です。ほんの一週間前におきたタイのバンコクでの爆発事件なども、そうした行為の典型といえましょう。

私は、こうした事件に接するたびに日本の「安全神話」について、いつも疑問を持つのです。日本人の心の中に、「海外のことは海外のことで、日本ではまさか」という気持ちが常にあるような気がしてならないからです。

つい先週まで私はインドに滞在していました。
インドは常にパキスタンと緊張関係にあり、インド政府がいうには、パキスタン政府がインドに向けたテロへの取り締まりに消極的と常に非難をしています。そんな隣国同士の不和があるにせよ、インドでの警備の厳重さにはいつもびっくりします。
インドでは 2008年に、ムンバイを中心に約400人の死傷者を出した同時多発テロが発生しました。特にそれ以降、軍隊と警察とが連携した警備があちこちで行われています。殆どの公共施設には金属探知期が設置され、ホテルの出入りは車のボンネットなどを開けて警備員が不審物をチェックします。空港を利用するときは、チケットや航空会社の発行した予定表などがなければ立ち入れません。アメリカなどでも、ホテルでの警備は最近厳重になっているところが多く、さらに主要なオフィスビルでも必ず訪問の理由のみならず身分証明書の提示が求められます。

日本の場合、スローガンは多く掲げられます。例えば、新幹線などでは special alert (特別警戒) などと表示して「不審物があれば係員に」というようなアナウンスはよく聞きますが、では実際に不審物を持ち込めないかというと、正に無防備そのものです。
殆どの行政関係の公共施設をはじめ、海外でみるような警備を実感したことは殆どありません。建前だけのスローガンをアナウンスしていれば責任を果たしているかのような安易さを感じるのは私だけでしょうか。
我々は、日本だけが安全という神話が前時代の遺物であることを、1995年にオウム真理教の地下鉄サリン事件がおきたときに、身をもって体験したはずです。

平和であることは有り難いことです。
ただ、安全にしろ、我々の生活や経済活動にしろ、日本だけが例外という時代は既に過去のものです。Japan is different. とか Japan is unique. という日本人がともすれば頻繁に使うこうした表現は、むしろ海外を日本から差別する表現として、慎むべきです。世界中それぞれが異なり、ユニークだからです。そしてこと安全に関しては、むしろ世界共通の課題を日本も背負っているという認識を持つべきです。
アメリカにはじまり、インドや、フランス、そしてタイなどの事件を他人事として捉えない姿勢がまず求められているのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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