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アルジェリアの事件と欧米の払う複雑な代償

【海外ニュース】

UK Prime Minister David Cameron has said that Islamist extremists in North Africa pose a “large and existential threat” – a comment he made following the siege of a gas facility in Algeria, where dozens of people, nearly all of them foreigners, were killed.(BBC News より)

アルジェリアの天然ガス施設の制圧で、ほぼ外国人のみが多数殺害されたことを受け、イギリスのキャメロン首相は、北アフリアのイスラム過激派は、「大きな、そして顕在化した脅威」だと表明

【ニュース解説】

今回のアルジェリアの悲劇の第一報がはいったとき、アメリカの CIA は即座にナイジェリアの状況を詳細にトレースしました。
ナイジェリア北部で活動するボコ・ハラム Boko Haram というイスラム原理主義武装グループと、リビアのカダフィ政権崩壊による大量の武器流出との接点に、ベスモフタールが関与していたのではないかと疑いを抱いたのです。

今回テロ行為を指揮したベスモフタール Belmokhtar は、アルジェリア生まれ。アルカイダのもとで、アフガニスタンで活動中に爆発物により片目を失っているという、正に戦闘のプロといえる人物です。
ここで注意したいのは、彼の活動母体は al-Qaeda in the Islamic Maghreb (AQIM) であること。この Maghreb という単語は、アラブ社会を知る上で重要です。Maghreb とは西のことで、アラブの中心であるメッカより西、すなわち北アフリカ諸国を指しています。
AQIM は、闘争の資金源を獲得するために、武器の密売などにも積極的にからんでいたのです。そこで CIA が疑ったのが、リビアとナイジェリアとを結ぶ線なのです。

北アフリカの地図をみればおわかりのように、ほとんどの国境が一直線になっています。これが多くの誤解を我々に与えます。
これらの国境は、昔ヨーロッパ列強がアフリカを植民地として統治するために、人為的に作成したラインで、元々アフリカの部族にとっては無縁のものです。
従って、アフリカの部族は国境とは関係のないネットワークをもち、活動しています。今回問題になったアルジェリアも、隣国マリもその点では同じです。
マリの場合、戦後にフランスから独立するにあたり、そうした部族を統合するために敢えて連邦制をとったのですが、その目論みが崩壊し、現在の混乱をうみだしています。これは昔列強によって造られた国家という人工的な枠組みと、部族の対立という矛盾を抱えるアフリカ諸国に共通する悩みなのです。
マリでは、この問題が北部の複雑な独立運動、南部の軍事クーデターという最悪の混沌を産み出しました。そして、混乱する北部にアルカイダ系イスラム組織が浸透していったのです。
ですから、フランスの支援する南部の政府を正義とみて、北部を悪とみるというような単純な考えは、新たな誤解を産み出すことを知っておくべきです。

さて、そんな北アフリカに共通する宗教がイスラム教です。
我々はアルカイダというと一つの組織のように思いますが、実はそれぞれの地域に過激な武装グループが存在し、時には協力し時には分離し、それぞれの利益のために独自に活動しているのがその実態です。
つまり、アルカイダという広範な統一組織は存在しません。
しかも、そうした地域からは、旧宗主国のヨーロッパ各地、ひいてはアメリカやカナダにまで移民が流れています。その移民の中で、イスラム原理主義親派のネットワークが、各地でそれぞれに活動しているアルカイダ系組織とリンクしていることが、状況をさらにもつれさせ、複雑にしているのです。
今回も、武装グループの中心メンバーにカナダ国籍の者がいるという情報が流れています。また、東アフリカのソマリアでのイスラム武装グループ、アル・シャバーブには、アメリカ国籍のオマール・ハマーミ Omar Hammami が幹部として活動していることはよく知られた事実です。

さらにことを複雑にしているのが列強の思惑です。
冷戦時代に、アメリカを中心とする西側諸国は、アフリカのこうした混乱にソ連の影響が浸透することを恐れました。
そこで、現地の政府や反政府組織を必要に応じて支援し、自らの影響力の維持に努めました。表立って支援できないところに、間接的に援助の手を差し伸べるため、アラブ系の武器商人などとも暗躍しました。
有名な事例は、ダイアナ妃と共に死んだボーイフレンドのドディ・アルファイドの叔父にあたるアドナン・カショギのように、当時のニクソン政権と密にコンタクトしながら武器の売買に関わった人物もいたのです。
冷戦時代には、アメリカはアフガニスタンからソ連を駆逐するために、アルカイダを支援していた過去も忘れてはいけません。
従って、アフリカや中東問題を余り掘り下げすぎると、列強の陰の部分、権力の恥部をさらけ出すことにもなるため、マスコミも政府も「テロとの戦い」という大義名分だけで、全ての図式を造っているのが現状なのです。

現在の中東や北アフリカの混沌は、この複雑な社会背景の上に、ジハード (聖戦) というイスラム主義による反欧米闘争が絡まっているのです。
アラブの人々は、長い間欧米の眼鏡を通して自分たちが判断され、解釈されてきていることに苛立っていると、サウジアラビアに住む友人が語っています。

アラブに根強い反欧米主義。それがテロ新派のネットワークを産み出す源泉であることは否めません。
テロとの戦いは必要として、欧米諸国がアラブ社会そのものをちゃんと理解する姿勢を示してゆくことも、同時に必要なことなのではないでしょうか。

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