ブログ

経験を伝えると殺気がみなぎる!? 海外体験者の孤独な戦い

日本に来て、その風俗習慣の違いに悩む人は多いはずです。しかしそれは外国人に限ったことではないようです。

「よくあるよくある。あの人たち自分の意見だけ大きな声と身振りで話をして、あとはあまりこちらが何を思っているかなんて気にかけていないみたい」

「そうそう、あの人たち、結局最後には自分の意見を押し通してしまうのよね」

「彼らって一見明るくて、フランクで、年齢差や立場の違いなどを気にしなくていいなって思ってしまうけど、結局のところ自分の意見が一番だって常に思っているのよね。心の底では日本人のこと見下しているんじゃない?」

こんな会話があったとき、私の知人は一人違う意見を持っていたので、それは誤解だよと言ってもなかなかわかってもらえません。あげくのはてに、

「あなたは海外に長かったから、彼らに対して同情的なのよね」

という、思わぬ平手打ちを喰らってしまい、疎外感の塊になって私に相談したのです。

そうそう、日本に来てその風俗習慣の違いに悩む人もさることながら、海外で長い間暮らしたり、海外で育ったりした日本人が日本に来て、こうした「心の交差点の狭間」に陥ってしまうこともよくあります。

「私は滞在していた国の文化を説明しているだけなのに、その国の肩をもっていると受け取られるのはどうしてでしょうか」

その人は、そう私に話してくれました。

「私は16年間ニューヨークに住んでいましたが、帰国したあとに同じような経験は何度もありましたよ。誰でも、自分が経験していないことは、実感できないんです。その実感できないことがその人の弱点だと誤解されたとき、人は意外とエキセントリックな反応をするのです」

「エキセントリックな。そうですよ。これって私にとっては思いよらない感情的な反応でした」

「そう。つまり、自分が相手とうまくいっていないときには、苛立が心に積もります。そこでいきなり相手の立場を第三者に説明されると、その理屈が通っていても、何か自分だけが間違っているといわれているように誤解するのでしょうね。私もそうですが、海外での経験は異文化との出会いの連続で新鮮で強烈なもの。ですから、それをポジティブに捉えて相手に伝えたいのですが、そうすればそうするほど、歯車が噛み合なくこともあるのですよ」

「確かに」

実は、私はよく海外の人とビジネスをする人たちに、異文化環境で一方が相手に対してネガティブな感想を持っているときは、相手も同じような感想を持っていることがよくあるものだと解説しています。 
例えば、冒頭の会話にように、
「そもそも欧米の人って、基本的に日本人や他のアジアの人のことを下にみているよね」
と日本人が思っているときは、欧米の人も「日本人って我々を小馬鹿にしているのかな。プライドが高いよね」
と考えていることがあるのです。
日本人は日本人より自分の意見をフランクに気兼ねなく主張するビジネス文化に接したとき、相手に優越感があるのではと思います。そして相手は、こうした摩擦に直面して困惑し、曖昧な笑みを浮かべ、日本人同士で目配せしたり、はっきりとものをいわなかったりする日本人の態度をみて、同様に日本人がプライドが高く、フランクに話しかけないのだと思うわけです。
こうした摩擦のメカジズムは、経験を共有できない日本人の間でもおきてしまいます。

「ところで、こうしたリアクションをもらったとき、あなたはあなたで、きっとこの人たちは日本という殻の中からしか物事をみることができないのよと思ってしまったのではないですか?つまり、彼ら彼女らが日本人を擁護するだけで、そこから相手のことを積極的に理解しようとは思っていないんだと」

「確かにそれはそうかもしれません」

「異文化での摩擦はこのようにときには悲しい痛みを伴います。特にあなたが日本人で他の日本人とは別の経験をしてきた場合、相手はあなたが日本人なので、彼らと同じように考えているという前提で接してくるだけに、誤解はさらに深刻になるんです」

「ため息ですね」

「お互いに自らが発する殺気を相手に感知されて、緊張の糸が張ってしまうんですね」

「面白い表現ですね」

「そう。でもこれって自分が放つ殺気なのですよ。殺気を殺すのはなかなか大変。特に今回のような場合には。でも一ついえるとするならば、すぐに自らの経験や意見を話さずに、じっくりと相手の話をきいてゆくのもいいかもしれない」

「つまり、聞き手になれってことですか」

「聞き上手になるんです。相手のイライラを解き放すためにも。聞き方ですが、そのお友達がどのようなときに欧米人にそういった気持ちをもったのか、その時のことを、できるだけ具体的に聞いてみるんですよ。同情するようにね。そこで、欧米側の説明をするのではなく、そうしたときはどう対応したらうまくいったか、海外で苦労の末得た対応策を話す方が、相手も心を開いてくれるかもしれませんよ」

異文化の摩擦は多くの場合感情の対立を含みます。だからこそ、ガス抜きをしながら、リラックスしてじっくりと対応し、解説や擁護する形での返答を性急にしないことも大切なのです。

山久瀬洋二の「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP