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「おもてなし」? 異文化の罠を見詰めよう

今年一つ考えさせられた異文化摩擦がありました。 
それはいかにもありそうで、しかも深刻な摩擦です。日本を理解してもらうにはいかに様々な落とし穴があるかを実感させられる事例でした。

ここに、その時の会話を紹介します。

「ねえ、どうしよう、僕のお客さんだけど、日本の伝統的な旅館に泊まりたいって言っているんだけど」

ある日、日本に長く住んでいるアメリカ人の私の友人が、私に相談したのです。彼は、仕事の関係で、アメリカから大切なお客さんを迎えるのですが、そのお客さんが休日に日本の田舎の鄙びた温泉旅館を体験したいというのです。

「いいじゃない。何が問題なんだい?」

「それがね、東北にある温泉旅館に電話をしたところ、外国人はお断りだっていうんだよ」

「どういうこと?」

「まあね、みかけは丁寧な応対だけど、ともかく外国人は困るんですの一点張りなんだよ。ああ、我々はいつまでたっても日本ではガイジン。外の人間なんだよ。こんな差別があるなんてね」

アメリカに長く住んでいた私は、これを聞いて情けなくなりました。
日本ではまだこのレベルのことがおきているのかと。日本人ならよくて外国人はお断りというのは、確かに差別以外の何ものでもなく、これが海外で起こったら大変な問題になるのに、日本ではまだそんなレベルのことがごく当然のように横行しているのかと思ったんです。

それからしばらくして、日本で営業するある外資系ホテルの支配人と出会ったとき、その時の経験を話したんです。そると支配人も似た体験があると言ったのです。

「実は、このホテルに宿泊する海外からの大切なお客様から似たようなご要望をよく受けますよ。それで、コンシエルジュを通して宿をあたったところ、外国人はお断りといわれたケースが何度かありました」

「そのときはどうされたんですか?」

「いえね。コンシエルジュが困っていたので、私がその旅館に直接電話をいれました。すると、面白いことがわかったんです」

「といいますと?」

「いえね。旅館の主人いわく、この旅館には誰も英語が話せる人がいないし、もし文化の違う人にお口に合わないものをだしてもお客様に失礼だし、対応できないんですとおっしゃるんです」

「それで、どうされたんですか?」

「妥協案をだしました。事前に外国の方のご要望をちゃんと聞いて、日本語で旅館側に渡し、さらに現地で何か問題があれば、私に電話をいただくことで、旅館の了承をとったのです。それで、お客様は無事その旅館に泊まり、楽しまれました」

なるほどと私は思いました。
日本の旅館が外国人お断りというのは、外国人への偏見からではなく、対応ができないことへの配慮からの善意なのだと。
しかし、この善意は欧米の人には間違いなくとんでもないことだと誤解されます。日本人がわざわざ気遣ったことが、彼らからみれば自分たちを差別したと誤解されてしまいます。
ではどうすればいいのでしょう。
自分で全てを解決してお客にあたろうとするのではなく、海外のお客に率直に、できることとできないこととを含めた状況を説明して、あとは彼らに判断して貰えばいいだけなのです。自分で抱え込んで判断せず、英語のできる人にお願いしてでも、相手に率直に語りかける対応が必要なのです。

オリンピックに向け、これから海外の人をもてなす機会はどんどん増えてきます。その時、もてなす側が全てを抱え込んで準備すべきだと思う日本的な文化と、双方が率直に情報交換をして、お客の自発的な判断を重視する欧米流の対応との違いが、こうした深刻な誤解を産まないようにしたいものです。

海外の観光客は、日本に来ればただパンフレットに載っているような観光地を訪れるだけでなく、我々からは思いもよらない場所に興味を持ち、彼らなりの日本を探そうとすることが多々あります。
そんな、個々の要望に対応するためにも、率直に彼らのやりたいことを聞き出し、情報交換をする姿勢を持ちたいものです。

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