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高等教育業界に起きている世界的な変革とは

Pathway programs are preparatory courses that are designed to help international students build the skills, knowledge, and qualifications that they will need to enter a bachelor’s or master’s degree program.

(パスウェイプログラムは留学生が4年制、あるいは大学院で技術や知識、資格を取るためにデザインされた特別な準備コースである。)
― International Student より

経済難から生まれたアメリカ大学の留学誘致戦略

 新型コロナウイルスのパンデミックによって、教育のオンライン化が加速していると言われています。しかし、実際に起きていることは表面上のオンライン化だけではありません。日本の教育業界が知っておかなければならない、今後の大学教育のあり方について、ここで考えてみます。
 
 まず、現在のアメリカの状況を紹介します。
 そこに見えてくるのは、大学などを見舞う厳しい経済難です。
 すでにコロナウイルスが蔓延する以前から、大学の人件費の高騰が問題になっていました。このことは学費などにも影響を与えます。また、こうしたコストを学生の授業料でまかなうためには、学生自体の数も増やしてゆく必要がありました。
 
 そこで大学側としては、海外からの留学生の誘致を重要な戦略として拡大してきたのです。
 アメリカにある英語学校は、大学のニーズに対応して留学生が大学の認定する英語のレベルに達するように講座を拡大し、収益を上げてきました。こうしたコースを IEP(Intensive English Program)と言います。
 
 さらに、大学は Pathway Program という特別なプログラムを留学生に用意します。
 通常は大学の授業についてゆくために、学生は IEP を通して TOEFL などの認定試験へ向けて準備しなければなりません。そして、テストで合格点を得た学生が入学を許可されていました。大学はそれだけでは充分な学生を獲得できないために、サマースクールのような期間限定の特別体験授業のコースなどを開設し、卒業資格は与えないものの、大学生活を短期間経験できる特別なサービスなども行って、収益を上げてきました。
 
 しかし、Pathway Program は、一定の英語力を持つ学生ならば TOEFL などでの基準点を設けずに学生を入学させ、学内で一定期間、英語学習と一般の講義とを併設させてゆこうとする試みで、より広範な留学生の誘致を目指したものでした。
 Pathway Program はある意味で英語によって学生を差別せず、学生の専門能力そのものの開発を目指したリベラルなプログラムとして、4年制の大学のみならず、大学院などにも適応されたのです。
 もちろん、この制度はアメリカに限らず、他の国にも伝搬してゆきます。
 

多様化する大学留学と教育の「パラダイムシフト」

 いずれにせよ、こうしてアメリカ留学のハードルが低くなったときに、コロナウイルスの問題が、留学という渡航を伴う学習そのものにストップをかけてしまったのです。
 
 そこで、アメリカの大学ではオンラインでの授業にメスを入れます。
 まず、今までとは異なり、オンラインで取得した単位を実際に大学で授業を受けて卒業する資格と同等にしてゆきます。そのため、オンライン授業のコンテンツに実際の授業との差が生じないよう、様々な取り組みが行われているのです。
 さらに、Pathway Program のオンライン授業への導入にも積極的です。かつ、大学同士でオンラインによる単位を交換し、他の大学にトランスファー(編入)するシステムなど、オンラインとPathwayとを連動させたプログラムの作成に向けて議論が始まっています。
 
 ということは、例えば日本の学生が Pathway Program を利用して、一定期間(多くの場合、最初の1年間)英語の授業を受けながら、日本の自宅から大学の講座もオンラインで受講し、しっかりとレポートや論文を提出すれば、卒業ができるということになります。また、それでは実際の海外体験ができないということであれば、最初の2年間はオンラインで受講し、次の2年間は留学するといった多様な選択もできるようになるわけです。
 
 この変革は、教育業界の「パラダイムシフト」とも言えるものでしょう。
 将来、この制度が世界各地で採用された場合、日本にいながら世界の教育機関のコンテンツを受講できる仕組みができてくるからです。日本の教育機関自体も、こうした競争にさらされる日が、遠くない将来やってくるかもしれません。
 また、受験のための英語力の検定試験自体も、こうした変化によって大きな影響を受け始めていることも注目されます。Pathway Program とオンライン授業の併設を受け、それに対応する簡便なテストを大学側が積極的に導入し始めたのです。以前は TOEFL や IELTS が主体であったテストも多様化が進み、より簡便なオンライン受験のためのテストの参入が続いているのです。
 
 では、この教育市場の変化が、日本の教育業界にどのような影響を与えるかを考えましょう。
 まず単純に言えることは、教室を持つ英会話学校の凋落と、オンライン英会話学校の躍進が見越せます。この傾向はすでにアメリカでは顕著で、今後 IEP を担う語学学校や大学内の英語学習施設の30%から50%は淘汰されると言われています。日本でもますますオンライン英会話への需要のシフトが加速されるでしょう。
 
 次に、大学入学の選択肢が多様化することも予想されます。
 従来は、外国に子供を送り出す親は限られていました。海外という慣れない土地へ行くリスク、経済的負担、その後の就職への不安が、留学という人生設計へのブレーキとなっていました。
 しかし、これからは、まず知らない土地に行くリスクは回避され、経済的負担も大幅に軽減されます。では、就職はどうかといえば、海外の大学がオンラインでも通常の留学と同様の卒業証書を発行してくれる場合、国内の企業はもとより、外資系企業、海外の企業など、グローバルなレベルでの就職が可能になります。もちろん、オンラインで受講している間、学生の英語力は相当上達するはずです。また、富裕層は国内の大学と海外の大学の同時受講によって、より広いキャリアを目指すようになるはずです。
 となれば、受験環境そのものが、向こう10年で大きく変化することになるわけです。これが将来起こりうる教育業界でのパラダイムシフトなのです。
 

変革が求められる日本の英語教育のあり方

 このとき、日本人にとって最後の課題となるのが、英語教育の問題です。
 オンラインとはいえ、Zoomなどのインターネットのツールが進化すれば、授業の形態も実際の教室での受講とそう変わらなくなります。となれば、今までの日本型のただ教室で講義を聴く受講形態から、欧米型の講師とのインタラクティブなコミュニケーションとブレインストームによる授業の進め方に日本人も慣れてゆく必要が出てきます。
 
 それには、英語教育そのものの変革が必須です。基本的に英語でインタラクティブにコミュニケーションをする能力を育成した場合、国内大学に入学するための受験英語にその能力を転用することは簡単です。しかし、逆は不可能です。このことから、中学から高校2年生程度までの英語教育のあり方が、大きく問い直されてくることが予測されるのです。
 また、留学業界自体、従来の大学留学から、より簡便に世界の大学とリンクしたオンライン留学、あるいはオンラインと実際の留学とを組み合わせたプログラムなどに対して適応する柔軟性が求められてくるのです。
 
 実は、こうした静かでありながら急速な変化の波を、日本の文科省を含め多くの専門家がまだキャッチできていないのが現状です。しかし、これは明らかに数年後の「黒船」になる可能性があるのです。
 
 今回のパンデミックは、日本を含む世界の教育業界に思わぬ変化の嵐をもたらそうとしているようです。
 

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『あたらしい高校生 海外のトップ大学に合格した、日本の普通の女子高生の話』山本 つぼみ (著)あたらしい高校生 海外のトップ大学に合格した、日本の普通の女子高生の話』山本 つぼみ (著)
著者は、英語がまったく話せない普通の高校生でした。そんな彼女が地方の公立高校に通いながら、米国最難関大学と呼ばれるミネルバ大学を含めた日米豪のトップ大学の合格を勝ち取りました。 本書は、日本人が海外名門校を受験する苦労や、入学してからの体験談も豊富に紹介され、海外留学を目指す高校生にとって【必要な心構え】や【やるべき準備】を知ることができる、貴重な情報が満載です。
帰国子女でも有名進学校の生徒でもない彼女の挫折と成功体験の記録が、これからの時代に生きる高校生に、あたらしい選択肢を示す一冊です。

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