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K-POPとアメリカでの人権運動の面白い関係

Pop superfans are getting politically active. What happens next?

(ポップ(K-POP)の熱狂的なファンの政治的存在感が増す中で、これから先何が起こるのか?)
― New York Times より

 6月23日のブログで、トランプ大統領のオクラホマ州でのキャンペーンのボイコット運動について触れました。
 そして、そこには SNS として注目を浴びる TikTok と、アメリカで人気を博している K-POP との間に見えない糸があるのではないか、という憶測が報道されていることを解説しました。
 
 実は、これがしっかりとした見える糸であること、そしてこの糸こそが、秋のアメリカ大統領選挙に向けた大きなうねりの一つであることを、今回は特集したいと思います。
 

韓国発 K-POP と アメリカ発 BLM 運動の共鳴

 K-POP はいうまでもなく、韓国発のポップ・ミュージックのことです。
 昨年末のタイムズスクエアの年越しイベントでも、K-POP を代表する BTS のパフォーマンスが全米に放映され、大きな反響を呼びました。
 そして、今年になって黒人男性が白人警官によって殺害されるというフロイド事件が起こり、アメリカ中に Black Lives Matter 運動(黒人の生命を守ろう)という運動が展開されたとき、BTS がそれに支持を表明し寄付を行ったことが、K-POP とアメリカでの人権問題が一つの糸で繋がったきっかけだったのです。
 
 さらに興味深いことが起きています。
 それは、アメリカでコロナウイルスが蔓延し、今や死者が14万人に至ろうとしていることとの関係です。
 トランプ大統領は、コロナウイルスがアメリカで蔓延し始めた頃から、ウイルスの発生地である中国を非難し、これは中国がもたらした災難だと公言して憚りませんでした。
 このことがアメリカの世論に影響を与え、アジア系移民への差別へとつながり、ヘイトクライムがあちこちで起こり始めたのです。
 7月13日にはロサンゼルスの近郊にあるトーランスで、日本食レストランへの投石があり、男がナイフを持って警察に通報しようとした人を威嚇したという事件が発生しました。男は「お前はアジア人か」と言っていたといいます。
 似たような事件がアメリカ各地で起こると、これに Black Lives Matter 運動が共鳴し、白人優越主義者への抗議活動がさらに拡大しはじめたのです。
 
 実は、この抗議活動の支持者の核の中に Black Lives Matter 運動へ寄付をした K-POP のファンが含まれていたのです。
 BTS が寄付を行うと、それに呼応したファンも寄付を行い、さらに米軍の中での差別を撤廃しようと、米軍内の BTS のファンまでもがその流れに呼応します。
 そして、トランプ大統領の中国へのスタンスが呼び起こしたアジア系へのヘイトクライムに対する抗議は、そのままトランプ大統領自身への抗議につながっていったのです。
 
 オクラホマのタルサでトランプ大統領が選挙キャンペーンをしようとしたとき、一人の女性が TikTok を使ってボイコットを呼びかけたとき、K-POP ファンがそれに呼応し、キャンペーンそのものが失敗に終わったいきさつには、こうした背景があったのです。そして、その後似たようなことが、アメリカ各地で展開されたのです。
 

韓国人も日本人も、みんな同じ「アジア系」

 今、日本と韓国とは政治的に厳しく対立し、それは双方の国民感情へも深刻な影響を与えています。
 しかし、一歩極東を離れると、人々は韓国人も日本人も「アジア系」というカテゴリーで我々のことを見ます。
 実は、私が初めてアメリカで生活をしたとき、近所のクリーニング屋さんは日本語のできる韓国系の人で、実に親切にしてくれたことを覚えています。つまり、一歩海外に出ればアジア系として、我々は差別に見舞われることもあれば、活動しなければならないこともあるのです。
 
 マコ岩松という俳優がいました。アメリカでは映画などでも活躍していた日系人一世で、以前私は彼にインタビューをしたことがありました。
 彼が子供の頃、第二次世界大戦が始まり、彼の一家はニューヨークのアパートで差別や暴力に怯えて、引きこもっていたことがあったといいます。そのとき、アパートのドアの前にいつも食事を置いていってくれた人がいたことを忘れない、と彼は語ってくれました。それは、中国系の居住者だったのです。
 当時、日本と中国とは戦争状態で、日本軍は中国国内に侵攻していました。当然、中国人の日本人に対する感情は複雑だったはずです。
 しかし、マコの一家をそっと助けてくれたのは、中国系の人だったわけです。
 アメリカでは戦前、日本人も中国人も同様に差別の対象になっていたことが、その背景にはあったのです。
 
 今回、K-POP ファンが黒人やアジア系の人々の人権のためにアメリカで広く活動していることは、奇しくも私やマコの体験と共通した現象であるといえましょう。
 もともと K-POP は政治的なものではないはずです。もちろん、韓国政府は K-POP などのポップカルチャーの輸出に熱心ですが、それは一時期の日本にも見られたことです。
 しかし、K-POP がアメリカでの大きな政治的うねりと合流した背景には、アジアなど海外の文化に興味を持つ新しい世代と、そうではない保守層との意識的確執があったわけです。そして、それが海外からの影響を嫌うトランプ大統領と、逆に「アメリカ・ファースト」を支持するトランプ支持者との対立へと発展したことが、今回の K-POP ファンの活動の拡大へとつながったことになります。
 
 日韓の対立という課題も、こうした広い視野から見るならば、もっと別の解決方法があるのではと思わされます。
 そして、アメリカの世論と K-POP が見事に合流したことを、日本人が自国の国際戦略へのヒントとして学ぶことも必要なのかもしれません。
 

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