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過去には日本も巻き込んだ水争いが、再び世界戦略の表舞台に

Ethiopia, one of the world’s fastest-growing economies, has poured its resources into a slew of megaprojects in recent years, including dams, factories, roads and railways across the country.

(世界で最も経済成長を加速させているエチオピアは、今ダムや工場、そして道路や鉄道の敷設という巨大事業への投資を加速させている。)
― New York Times より

かつて東アジアの反共産「防波堤」だった日本

 今、アメリカの議会では、国内で開発しているコロナウイルスのワクチンの情報を、中国が組織的に盗み取ろうとしているという疑惑に揺れています。
 先週の公聴会でも、共和党系の議員がそのことを指摘し、コロナウイルスの蔓延の責任も含めて中国を糾弾していました。
 
 そんな中国は、世界がコロナウイルスのために経済的にも政治的にも、そして何よりも精神的に疲弊している中で、香港への圧力を強め南シナ海への進出にも積極的です。
 
 もうすぐ第二次世界大戦が終わって75年になろうとしています。
 75年前、東アジアは戦火によって疲弊していました。
 敗戦国となった日本はもとより、その植民地であった朝鮮半島も、さらに中国も経済的・政治的にどん底の状態だったといえましょう。
 そんな疲弊しきった東アジアにいち早く共産主義に対する防波堤をつくろうとしたのは、他でもないアメリカでした。
 その防波堤こそが、戦後の日本に他なりません。アメリカは世界が混乱している中で日本へ徹底的な投資を行い、軍事的にも経済的にも日本を自らの傘の中に取り込みました。
 
 そうして防波堤となった日本から、米軍は韓国を支援し、朝鮮戦争によって引き裂かれた朝鮮半島に北緯38度線という新たな防波堤をつくりました。もちろん、この防波堤は北朝鮮と中国とがアメリカと対峙した結果できたものに他なりません。とはいえ、その防波堤の南側で復興する韓国をアメリカは支援します。
 韓国に朴正煕(パク・チョンヒ)による独裁政権ができたとき、アメリカは日本という防波堤と共に、この政権も支援しました。
 しかし、その後韓国に民主化運動がおこり、現代の韓国になったとき、こうしたアメリカの動き、そして防波堤としての日本のあり方に対して韓国の世論も沸騰します。日本も韓国も、戦後、さらには冷戦時代にアメリカが築いた堤防に入った亀裂の中で対立し、日本は政治的にも自らの軸足をどこに置いたらよいかというアイデンティティ・クライシス(自己喪失)の中で揺れています。
 

遠くアフリカに新たな「防波堤」を築こうとする中国

 さて、話は飛びますが、今コロナウイルスに加えて、世界中が異常気象に見舞われています。
 大雨の洪水によって日本も大きな被害を受けていますが、韓国も中国も例外ではありません。中国では、国が肝いりで歴史的な美観の毀損をも覚悟で建設した、三峡ダムが崩壊するのではないかといわれています。
 しかし、このダムによる自然破壊の問題は、中国だけではないのです。
 
 遠くアフリカでは、やっと軍事政権を革命によって倒し、民主化の道を歩み始めたスーダン、それにエジプトが、その隣国のエチオピアに建設されようとしているグランド・エチオピアン・ルネッサンスダムの建設に揺れています。
 豊富なナイルの水資源を活用して国を再建しようとしているスーダンにとっては、安価な電力供給を約束し、一応建設を黙認させたものの、農業をはじめとするナイル川の環境資源にどれだけの影響を与えるかは未知数です。
 エジプトは、豊かなナイルの水の蛇口を閉められることに反発しています。アラブでの民主化運動によってムバラク政権が崩壊し、政治的に混乱していたエジプトを出し抜く形でのダム建設の進捗に、エジプトが硬化することも頷けます。
 
 ただ、ここで指摘したいのは、このエチオピアの電力開発の背景にある中国の多大な経済援助です。三峡ダムの危機への報道は、中国ではあまりされていません。
 しかし、ダムが環境に及ぼす影響をすでに何度か経験している中国が、ナイル川の水をせき止め、その支援をテコにして、アフリカへの影響力を拡大していることは事実です。中国はすでに鉄道の敷設や電力開発など、様々な分野でエチオピアに深く食い込んでいるのです。
 
 ひと昔前、こうした援助に最も積極的だったのは日本でした。
 日本も冷戦時の防波堤として復興し、経済的に成長したとき、アフリカに対して様々な援助を行いました。
 それはアメリカから見れば、防波堤となった日本が積極的に西側へと第三世界を勧誘する行為でした。アメリカは自らが投資した日本が、日本の資金で第三世界に援助を行うことによって、投資の回収を目論んだわけです。
 今、皮肉にもその役割をコピーするかのように、エチオピアでのダム建設など、中国は経済力でアメリカを中心とした西側陣営の防波堤を破壊しようとしているのです。
 
 このようにして、現在のナイル川での水争いは、そのまま戦後のアメリカによる極東での政策とつながります。
 それはどちらも、大国の影響力の防波堤をどこに築くかという戦略が絡んでいるからです。
 コロナという世界的な脅威は、そんな国際政治での水争いの図式にも見えない影を落としているわけです。
 

世界の覇権争いとコロナ禍の中で日本は

 アメリカは、できるだけ派手な外交的パフォーマンスで再選を果たしたいトランプ大統領に、コロナの災禍が重々しくのしかかっています。
 それだけに、中国との舌戦によって、外交上のパフォーマンスを繰り広げたいトランプ政権の思惑もよくわかります。
 日本政府は、そうした複雑な国際情勢にも、コロナ対策にも翻弄されながら、自らの立ち位置を見つけ出せずに硬直しているのが実情なのです。
 

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*スーダン在住の心理学者にコロナでひっ迫した医療現場の今をインタビューしました。
動画はこちら⇒https://youtu.be/-PA9u0uhsRE
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『A History of Western Tragedies and Accidents(世界の重大事件)』ニーナ・ウェグナー(著)A History of Western Tragedies and Accidents(世界の重大事件)』ニーナ・ウェグナー(著)
迷宮入りの切り裂きジャック事件、犯罪世界のロミオとジュリエット、イギリス王冠をかけた恋、アポロ13号の奇跡の生還、未曾有の原子力事故、9.11のアメリカ同時多発テロなどなど、Truth is stranger than fiction—事実は小説よりも奇なり—と思わずにはいられない、欧米で起きた悲劇や事故の数々を、読みやすい英語で書き下ろしました。

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