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「恨」という意識がもたらす日韓関係の根本的なねじれとは

Suga expressed hope for the two nations to set up future-oriented relations by tackling current difficulties resulting from sensitive history-related issues.

(菅総理大臣は、両国が未来志向で歴史問題などのデリケートな課題の解決に向け努力してゆければと〔文在寅(ムン・ジェイン)大統領に〕返答した。)
― Korea Times より

「韓国」という国家のルーツはどこから辿れるのか

 先週、日本に滞在している韓国人の友人と、夕食を一緒にしました。
 彼は、元は韓国の学術系出版社の編集者でした。私とは仕事上、さらには個人的な友人でもあり、いろいろな縁があって、今東京を拠点にフリーの編集者として活動しているのです。
 1ヵ月に一度か二度食事をし、よく日韓関係、さらには今の韓国情勢などいろいろな話をしながら、本の企画を練ったりもします。
 
 今回は神楽坂のお寿司屋さんで、韓国語の学習者のために、韓国の歴史について韓国語と日本語とのバイリンガルで書籍にまとめる作業について話し合ったのです。
 そこで、そもそも朝鮮半島が大陸の一部であることから、古代史をどのように解説するべきか悩んでいる、と私が切り出します。
 
「確かに、古代の歴史を客観的に表現することは大変ですよね。韓国にも日本にも政治的な思惑もあって、古代史への解釈が大きく異なっていますよね」
 

すると、彼はこう答えます。

「そうなんです。実はソウルの有名な歴史学者ですら、韓国がどういったルーツで国家としてまとまっていったか意見が異なるのです。そこに、古代の日本との関係を加味すると、どう客観的に表記しようとしても、いろいろな指摘が入りそうですね」
 
 実は、日韓関係が政治的にもつれるようになったはるか以前から、古代史をめぐって日本と韓国との間で様々な解釈の違いがあるのです。
 
 まず、韓国は大陸国家です。元々中国やユーラシア大陸の北部から、さらに日本と同様に太平洋側から、様々な人が朝鮮半島にやってきては古代国家を建設した経緯があります。今の国境だけでもって一つの国の歴史を語れないわけで、島国という自然の国境の中で通史を語れる日本とは事情が大きく異なるのです。
 

半島に存在する「朝鮮」と「韓」に込められた意味

 では、朝鮮半島だけに区切ってみてはどうでしょうか。
 そもそも、どうして一つの半島の中に、朝鮮と韓国という二つの呼称が存在しているのでしょうか。この事情について知っている日本人はあまりいないようです。

「いえ、今朝鮮半島は、北朝鮮と韓国とに分かれているでしょう。でも、韓国では、向こう側の国のことを北朝鮮とは呼ばないんですね」
 

と、彼はコメントします。

「そうですよね。確か北韓というふうに呼びますよね」
 
「そう。そしてね、朝鮮半島とも韓国では呼ばずに、韓半島というんです。日本ではあまり知られてないですよね」
 
 彼とは日本と韓国とのデリケートな政治情勢についても、率直な意見交換ができる親しい間柄です。そこで、

「それって、もし日本人が普通に朝鮮半島というと、韓国の人は不快感を覚えるのでしょうか」
 

と聞いてみました。
 私も常に、「朝鮮」という言葉が日本で戦前戦後を通して差別用語としても使用されてきた経緯を知っていたので、以前から気になっていたのです。

「それは確かにあるかもしれません。そもそも朝鮮という言葉は古代から存在してはいたものの、正式に使用されたのは、李氏朝鮮王朝になってからのことなのです。その王朝が日本によって滅ぼされ、その後独立運動が起こったときに、大韓民国という呼称が中国で樹立した亡命政権の中で使われるようになったのです」
 
 韓国の「韓」という表記自体は、朝鮮と同様に古代から存在していました。
 そして、日清戦争のあと日本が李氏朝鮮への影響を強める中、李氏朝鮮は当時の清との関係を解消し、国号を大韓帝国と改めたこともありました。
 それ以前の李氏朝鮮はあくまでも王国であって、宗主国は中国の歴代帝国であったため、大韓帝国と名乗ることは、自らが完全に中国から独立したことを意味したものだったのです。
 

周辺国に翻弄された歴史が育てた、韓国人の「恨」の意識

 
「確かに、私もね、韓国の人に朝鮮という言葉を使うことは気が引けていましたよ。でも、韓国の人が北韓と呼んでいる北朝鮮は、自らのことを朝鮮と言っていますよね。このあたりがとても複雑ですよ」
 
「そう。元々朝鮮といわれていた地域は、半島の北の方だったこともあるんです。でも、韓国では李氏朝鮮という名前があり、その過去の悲しい歴史と決別しようということから、韓国という表記になったというのが常識なんです」
 
「日本が韓国を植民地にしたことが、朝鮮から韓国へと国号が本格的に変わった動機だったわけですね。でも、そうした韓国人の意識を知らない日本人も多いでしょう。しかも、海外でもあまり知られていない事実ですよね。そこに韓国の人のもっと自分たちのことを理解してほしいという切な思いがあるのでしょうね」
 
「そう。(はん)という意識が、こうして韓国人の中に受け継がれたのです」
 
「これは強烈ですね。この言葉を聞くと、日韓関係が時々理屈ではなく感情のもつれになる理由がわかってきます」
 
「ええ、この恨という意識は、韓国人の価値観というか、感情の根元にある強い意識なんですよ」
 
 「恨」という言葉は、日本ではあまり聞かない言葉です。これは、心の中のやり場のない怒りや恨みを表現する言葉です。
 それは、大陸にあって、日本や中国、そしてロシアという大きな国に挟まれ、翻弄された歴史を持つ人々に受け継がれた感情です。
 そして、この意識が大きく変化しようとしているきっかけが、最近の K-POP などに代表される、韓国文化に対する海外での人気の高まりなのかもしれません。
 恨という感情と、その感情への無理解からくる負のベクトルをいかに解消するかが、日韓関係を考える上で最も大切な課題なのかもしれません。
 

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『オールカラー対訳 韓国語で読む日本小史』西海 コエン(著)、ジョン・ギレスピー(監修)、キム・ヒョンデ(韓国語訳)オールカラー対訳 韓国語で読む日本小史』西海 コエン(著)、ジョン・ギレスピー(監修)、キム・ヒョンデ(韓国語訳)
古代から現代まで、日本の歴史の大きな流れを、韓国語と日本語のページ対訳で楽しめる一冊。理解を深めるためのカラー写真や図版を豊富に使って、日本史の全体像を把握することに主眼を置いた作りとなっています。 また歴史事項の韓国語表現も同時に学べ、表現力を高めたい学習者にオススメです!

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