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イスラエルが抱くアメリカ、そして日本への複雑な意識とは

Just to think about that to understand a normal Israeli family who have 8 doctors for different reason, and 6 of them are Arabs, that is not something that reaches into a headline.

(考えてもみてください。イスラエルの普通の家族が様々な理由でかかりつけの8人の医者がいて、そのうちの6人がアラブ人だということを。こんな事実はメディアのヘッドラインには出てきませんよね)
― David Bedein 氏へのインタビュー より

「ユダヤ人とは何か」インタビューから見えたこと

 我々は、地理や歴史の授業で、あるいは海外のニュースを見るとき、国家を一つの単位として捉え、そこで起きていることへの定まった、時にはステレオタイプなイメージを抱きがちです。
 例えば、イスラエルといえば、それは戦後パレスチナにユダヤ人が建国した国家で、そこはユダヤ人の国だと思っている人が多くいるはずです。
 
 それはある意味では真実です。
 しかし、ではユダヤ人とは何なのかといえば、そうしたことを的確に説明するメディアもなければ、教育者もそれほど多くはありません。
 また、ユダヤ人がパレスチナに国家を建設したことで、長年そこに住み続けていたアラブ系の人々が追い出され、そのことから生まれた中東社会との長年の緊張が生み出している様々な軋轢や戦争の歴史についても、教科書的なことしか理解していません。
 
 今回、ある人の紹介で、エルサレムでジャーナリストとして活躍する、デイヴィッド・ベデイン氏(David Bedein)とZoomで打ち合わせを行いました。彼はどちらかといえば、アラブ側のイスラエルに対する過去の強硬な対応にイスラエルが報復を行うことは当然の権利だと考え、トランプ政権の親イスラエル政策にも肯定的な立場をとっています。
 

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Davidさんへのインタビューの模様は、こちらからチェックしてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=St3bOJKyzUU&t=549s
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 その考え方への是非はともかく、彼のコメントの中で特に興味をひかれたのが、イスラエルにはユダヤ人がいるといっても、そのユダヤ人が70の言語を話す様々な地域からやってきた人々の集合体であるという事実でした。
 
 イスラエルは建国以来、世界各地からユダヤ人が集まってきました。ナチス・ドイツ帝政ロシアなどでの組織的な迫害や虐殺を受けた人々が、戦後イスラエルに流れてきたことはよく知られています。
 しかし、その後現在に至るまで、ルーツであり安住の地として、ヨーロッパ各地やアメリカはもとより、インドやエチオピアなど世界のあらゆるところからユダヤ人が入植し、今もその人口は増え続けているのです。ですから、彼らは言葉も異なれば、文化や風習も異なる多様な人々ということになります。
 
 そうした複雑な状況の中に、さらにアラブ系の難民や、中東での緊張問題を抱えているのがイスラエルの現状です。したがって、最近、湾岸諸国との雪解けが始まっている現実は、イスラエルにとっては極めてありがたい兆候だったわけです。ベデイン氏はトランプ政権が終わることで、そうした情勢が変化するのではと危惧しています。
 

我々が知っておくべきイスラエルの歩みと現状

 では、イスラエルはアラブと協調して生きていけるのでしょうか。
 現実問題として、イスラエル国内には多数のアラブ系の人々が生活しています。
 例えば、イスラエルの首都エルサレムの旧市街に行けば、そこには多くのアラブ人が伝統的な暮らしを維持していることがわかります。彼らの多くは戦争という政治上の断絶に際して、イスラエル政府への不満を爆発させながらも、毎日の生活の中ではユダヤ人と仕事をし、協調して生きています。
 
 例えば、今回のヘッドラインで紹介したように、ベデイン氏は眼科や歯科などを含め、8人の医者にかかっています。実のところ、そのうち6人はアラブ系の医者なのです。つまり、ユダヤとアラブは常に憎しみによって分断されているわけではなく、実社会の中では共存しながら生活をしていることになります。
 
 とはいえ、イスラエルの中にアラブへの差別や分断が根深くあることも事実です。戦争が憎しみを生み、そこからさらにテロなどの悲劇が起こり、人々の不信感が募るという悪循環が生まれているのです。
 ベデイン氏は、パレスチナの難民キャンプではユダヤ人への殺意を助長する教育が組織的に行われていて、日本政府が難民キャンプへ多額の援助を行っている事実を批判します。その資金がユダヤ人へのテロ行為の温床を作っていることを、日本政府は知らないのかと抗議しているのです。
 
 海外でのこうした複雑な背景を見極め、政府が援助の方法や国際関係のあり方を正しく判断することは困難です。ただ一つ言えることは、複数の異なるネットワークをもって世界情勢を多面的に捉える技術に、日本政府は今ひとつ遅れをとっているように思えるのです。
 
 まず、我々は「ユダヤ人とは何か」を定義しなければなりません。
 ユダヤ人とは、人種ではなく、ユダヤ教を信じている人々の集団、そしてその子孫であるという考え方があることを知っておくべきです。
 紀元前というはるか昔にユダヤ教を信仰していた人々の国家が失われ、その後ローマ帝国やキリスト教社会の中で、時の権力によって翻弄されてきた人々が世界に拡散しました。彼らのことを、人々は「ユダヤ人」として定義したのです。
 そして、そんな人々が、今イスラエルという安住の地に集まり、その人口が増え続けているわけです。
 さらに、イスラエルの建国にあたって、アラブ系の人々との居住権をめぐる確執が起こり、再三にわたってそれが戦争へと発展したわけです。
 

中東の動向に関心をもって見守ること

 今、イランの核開発の要人がイスラエルの特殊部隊に暗殺されたとして、イラン政府が報復を表明し、中東へ再び緊張が走りました。
 また、アメリカに発足するバイデン政権が、アラブ寄りの政策をとるのではないかという警戒感もイスラエルの中では蔓延しています。
 
 中東のもつれた紐を解きほぐすことは至難のわざです。
 そして、この地域の動向はそのまま世界情勢にハレーションを引き起こし、日本にも様々な影響を与えます。そんな複雑な歴史に揺れるイスラエルとその周辺地域を、我々はもっと関心をもって見守るべきなのでしょう。
 

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『日英対訳で読む聖書物語』ニーナ・ウェグナー (英文)、牛原眞弓 (訳)日英対訳で読む聖書物語』ニーナ・ウェグナー (英文)、牛原眞弓 (訳)
キリスト教、ユダヤ教の聖典である聖書は、宗教書としてだけではなく、文学作品としても長く研究されてきました。読み物として非常に面白く、数多くの文学作品に引用され影響を与え続けてきた聖書は、まさに物語のバイブルなのです。本書では 「アダムとイヴ」「カインとアベル」「ノアの方舟」、そしてイエス・キリストの誕生と死・復活の物語など、キリスト教徒ではなくとも、誰もが一度は耳にしたことのある物語を、やさしい英語と日本語の対訳で楽しめます。

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