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変わり身の早いアメリカを理解できない日本

President Joe Biden is planning a new wave of executive orders and actions this week, as he looks to further dismantle many of former President Donald Trump’s policies.

(バイデン大統領は、トランプ前大統領の多くの政策を撤回するために、大統領令と行動の波を起こそうとしている)
― CNN より

過去を忘れて未来に目を向けるアメリカの政権交代

 よくアメリカ人は過去のことを反省せず、常に未来のみに目を向けていると批判する人がいます。
 1月20日にアメリカで政権が交代しました。
 バイデン氏が大統領に就任し、それまでのトランプ政権とは全く逆の外交政策を展開し始めました。
 パリ協定離脱を撤回し、キューバイランといったトランプ政権が敵視していた国々との関係改善にも乗り出そうとしています。
 
 ふと思います。アメリカで政権が変わるごとに、世界中がその振り子に振り回されるのだろうかと。
 実際、一旦政権が変わると、それまでのことは何もなかったかのように、アメリカの雰囲気はがらりと変化します。
 あのトランプ政権末期にあった連邦議会議事堂乱入事件や、「アメリカ・ファースト」というスローガンのもとで自国の利益を中心に全てを処断してきたことへの反発など、全てが一瞬にして過去のものであったかのように見えてくるのです。
 
 終わったことを気にかけず、過去を忘れて未来をというアメリカ人の発想は、ある意味で日本人のものの考え方と逆であるといえましょう。
 Move forward という言葉があります。「前に進もう」という意味ですが、これはアメリカ人が事あるごとに使いたがる言葉です。
 これを日本人が見ると、無責任で身勝手な行動だと思ってしまうことがよくあります。
 

謝罪と責任ある対応を求める日本、克服と前進に重きを置くアメリカ

 例えば、どこかの会社で何か事件が起こったとしましょう。
 日本ではよく記者会見が行われ、会社の幹部が三人揃って頭を下げます。これは海外から見れば、極めて不思議な儀式です。そして、日本では事故や事件の原因究明のために、様々なエネルギーが注がれます。納入業者で起こった事故であれば、その会社に対して顛末書から再発防止のための書類まで、ありとあらゆる書類を要求し、謝罪の連鎖が始まります。
 その負のエネルギーに費やされる時間と労力が足りなければ、それを無責任だとして断罪されます。
 最終的には、誰が責任をとるのかという責任の所在が云々されるのです。
 悪く言えば、こうした重圧に見舞われないために、日本の組織では誰かが進んでリスクをとることを嫌い、イノベーションそのものが起きにくくなります。
 
 これに対してアメリカは、問題が起きれば、それなりに調査はします。しかし、もっと大切なことは、その問題を乗り越えてどのように前に進むべきかを考えることなのです。
 責任の所在を求めるよりも、これからどのようにするかという方向に重きが置かれます。過去の検証は合理的です。調査委員会が徹底的な調査を実施しますが、組織として日本のような儀式ばった謝罪会見は存在しません。書類も報告書の形でまとめられ、始末書のようなものは求めません。
 むしろ、メディア担当者などが、今どのような調査をしているか、これからどのように改善してゆくかを質問に沿ってテキパキと答えてゆきます。さらにその時点でわからないことは、わからないと率直に語っても、それを糾弾されることもありません。
 
 ですから、日本とアメリカの企業が一緒に仕事をした場合、そこの対応の違いで常に摩擦が生じるのです。日本側はもっと責任のある真摯な対応をと不満に思い、アメリカ側は過去のことだけにこだわって前に進もうとしない日本側にいら立ちます。
 まさに、ビジネス文化の違いによって衝突が起こるのです。
 

自分たちの利点・利益を意識させ、組織改編にも負けない交渉を

 Revolving Door(回転ドア)という言葉がありますが、大統領が交代するときは、こうした変化のために、政府を支える人々の顔ぶれががらりと変わります。
 前任者が回転ドアから去ってゆき、後任者がそこから入ってくるため、この言葉が政治用語となっているほどです。「変化」をよしとする発想と、リスクをとって失敗することは当然あり得ることという発想が交錯するため、過去の政権の負の遺産に対しても、次の政権は海外に対してそれほど強い責任感を抱いていません。
 
 これは、会社組織でも同様です。
 例えば、組織の中で新任と前任とが交代するとき、日本のような引継ぎはあまりありません。新任のより自由で積極的な取り組みを、去ってゆく人は黙って見ながら姿を消します。
 新入社員の研修もしかりです。もちろん企業としての教育活動はありますが、日本のような長期にわたる組織的な研修は存在しません。時には、「これがあなたの机。トイレはあそこ。あとわからないことがあったら、いつでも聞いてね」というぐらいで、いきなり業務に入ることが一般的です。
 
 ですから、こうした組織の変化に対する日米の考え方の違いについては、常にそれを意識しておくことが大切です。
 どんなに前任者と蜜月な提携関係にあったとしても、新たにやってきた責任者はそんな過去をあまり重視しません。むしろ、自分の力でどれだけ新しいことがやれるかということに重きを置きます。このメカニズムを知らないと、いきなり契約の内容を見直されたり、プロジェクトが中断されたりという、とんでもない変化に翻弄されることになるのです。
 
 では、どうすればよいのでしょうか。
 アメリカの組織と仕事をするときは、こちらと業務を遂行することのベネフィットを常に強調し、意識してもらうことが大切です。
 過去の問題や経緯だけに固執した場合、アメリカで組織が変われば、そのベネフィットが引き継がれず、業務のリストラの対象になってしまうのです。数字と未来予測とを組み合わせて、しっかりと日本側と一緒に仕事をすればどのようなプロフィットがあり、「甘い蜜」があるのかを常に認識してもらうよう努める必要があるのです。
 その上で、言うべきことははっきりと明快に要求するタフな交渉力があれば、変わり身の早いアメリカを理解できず、振り回されることはないはずです。
 日本人は曖昧であるだけでなく、過去を強調しすぎるというわけです。
 
 日米関係は不動と自惚れて、ワクチン供給に関する約束や、防衛問題での協調、さらには様々な外交関係での変化を見落とさないよう、常にこちらから積極的にコミュニケーションをとってゆくことが必要なのです。
 

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