Tesla posts record net income of $438 million, revenue surges by 74%.
自動運転の技術は自動車業界だけのものではない
「自動運転と電動化の技術革新は、今後の自動車業界にとって不可避の課題」だと言えば、誰もがそんなことはわかっていると思いつつ、改めて合意するでしょう。
しかし、この命題自体が実はすでに陳腐化していることに、多くの人が気づいているでしょうか。これが、日本の産業界のアキレス腱(弱点、急所)とも言える視野の狭さだと指摘する人はあまり多くありません。
これはコンピュータの中に実際に物を見る能力を育て上げ、その経験を蓄積させることで、コンピュータが自らの視覚によって様々な判断ができるようになることを示した言葉です。
車の自動運転と電動化という課題のうち、前者にとってこの技術革新に最も注力してきたのがテスラだったのです。
通常、自動運転を行えるようにするには、スーパーコンピュータに実際の道路や建物、そして標識などを立体的に記憶させ、車の機能にそうした膨大なデータを組み込んでゆくべきだと多くの人は考えていました。そして、その補助機能として、物を見てハンドルやブレーキ操作を行うニューラルネットワークの技術があればと、業界の多くの人は考えていました。それほどまでに、コンピュータが人間と同じ視覚を獲得することは困難だったのです。
しかし、テスラは Dojo というスーパーコンピュータによって、ニューラルネットワークを主体とした自動運転に挑んできたのです。
アメリカの多くの投資家は、今ウォールストリートの伝統的な投資家が、あくまでもテスラを自動車会社としてしか評価してこなかったことを痛烈に批判しています。理解しなければならないことは、テスラは自動車会社ではなく、AIでの新分野を切り開こうとするパイオニア企業だということです。問題は、日本の産業界の課題もこの古典的なウォールストリートの考え方と酷似していることにあります。
自動運転を自動車業界だけで完結させようという発想自体を変えてゆかない限り、日本の産業界全体が陥没してゆくかもしれないのです。
AIソリューションが住宅や自動車業界をリードする時代
同様に自動車や航空機は、すそ野の広い産業の頂点にあって、ちょうど住宅のようにこれらの産業が伸びれば、その国の経済自体が堅調に成長すると言われてきました。日本はその常識に従って、現在の経済的な地位を獲得してきたわけです。
ところが、そんな経済を支える住宅や自動車といった基幹産業への評価が、今少しずつ変わろうとしているのです。テスラはその象徴と言えます。
つまり、テスラが Dojo などに代表される AI ソリューションがあってこそ成長できたという事実を、見据える必要があるのです。
別の言い方をするならば、シリコンバレーなどにある多様な技術や知能が、車という単一の商品を製造するための下請けではなく、その上に位置するようになりつつあるのです。こうした技術や知能を持つ企業は、もはや部品メーカーではありません。それらは、ニューラルネットワークの技術に代表されるようなソリューションを与える企業として、住宅や自動車の上に君臨しようとしているわけです。
これら AI に支えられた技術やソリューションがあってこそ、多彩な商品が生み出され、自動車もそんな商品群の一つに過ぎない存在になろうとしているのです。
19世紀は鉄道、20世紀は自動車、そして21世紀は、目には見えないAIソリューションが産業界をリードしてゆくわけです。
AI技術の覇権争いから取り残されていく日本
今テスラはアメリカだけではなく、ヨーロッパや中国での生産拠点の構築を目指し、さらにユーラシア大陸での電動化のためのインフラネットワーク整備に挑戦しようとしています。言うまでもなく、電気自動車の充電設備のネットワークで日本は後進国となっています。
これは、ちょうど電信技術が生まれたときに建設が促進された電信柱にたとえてみれば、よく理解できます。AI技術でのソリューションは、そうした地球規模でのインフラ自体を変化させようとしているのです。
そしてふと気がつけば、覇権を争っていたアメリカと中国とが企業という第3の国家によって融合し、日本だけが取り残されてしまうかもしれません。
自動車メーカーがAIソリューションの下請けになったとき、それが日本から世界を支える基幹産業が消滅してしまうときなのです。
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『日本語ナビで読む洋書 What is Global Leadership?』
山久瀬 洋二(ナビゲーター)/アーネスト・ガンドリング、テリー・ホーガン、カレン・チヴィトヴィッチ(原著者)
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