Acquis I Tion officially closes; Red Hat is still Red Hat
IBMのレッドハット社買収とM&A文化
まずはIBMの最近の動向です。
先日、ネットワークサービスを提供するアメリカの国際企業レッドハット社の関係者と、久しぶりにじっくりと情報交換をすることができました。
ヘッドラインで紹介したように、レッドハット社は昨年IBMに買収され、逆に同社の経営を担っていたホワイトハースト氏がIBMの社長に就任していましたが、その彼が先月になってIBMを退任することになったのです。
この話の向こう側に見えるIT関連の国際企業の動向について知ることが、今回の打ち合わせの目的でした。同時に、日本のM&Aと海外企業のM&Aとの文化の違いについても、考えてみたかったのです。
しかし、今回ホワイトハースト氏が退任した事情は、IBMとレッドハットをつなげ、双方の強みによる相乗効果を作り出す土台づくりという任務を終えたためなのか、それとも企業文化の対立による政治的理由によるものかは不明です。
とはいえ、この背景を踏まえて、IBMの足跡と、最近話題になっているソニーの再生の足跡とをここで比べてみると、面白いことがわかってきます。
IBMの足跡とソニーの足跡とを比べてみると
IBMは再生のために、自らの多彩なリソースを見直し、さらにM&Aを通して会社の大変革を実行しました。IBMはタイプライターなどの事務機器や通信機器で成長した企業です。PCが普及し始めたときは、その技術の延長としてThinkPadを発売し、シェア拡大に努めましたが、苦戦が続きます。
一方のソニーは、M&Aなどで事業を拡大し、基幹技術ではあのウォークマンで世界を驚かせました。しかし、その業績をiPodなどに奪われたとき、PlayStationへの投資と共に、PCのVAIOを発売し企業再生をはかりましたが、それもうまくいきませんでした。
しかし、その後IBMはThinkPadをレノボに売却し、ソニーはリストラという大胆な軌道修正をしてVAIOの生産を企業再生のシンボルとしました。
その頃に注目されたのが、Linuxのソリューションで知られるレッドハットへのIBMによる3兆7,000億円での買収です。つまり、このことによって、IBMがもっているコアな研究所のテクノロジーと、レッドハットのリソースとサービスを有効活用し、より強いシナジーを狙っているのではと業界は捉えたのです。
しかも共通しているのは、どちらにも多彩なリソースと商品群があり、多様性と研究技術の蓄積が再生への足掛かりとなったことです。その上で、IBMはM&Aと基幹技術の現在のニーズへの転用を、ソニーはリストラと基幹技術の個々の多様性の尊重を通して対照的な改革を進めました。
IBMはソニーの業績回復とは異なり、M&Aと基幹研究への依存にコストがかかり、資産は増えていても減収減益がいまだに続いているのです。また、クラウド技術などを売り物にするレッドハットなどの買収された企業との現場における相乗効果がまだ見えていないことです。そこには、IBMの過去の栄光にいまだ依存する現場の人材への課題も指摘されています。まだ再生への課題は多いのです。それが今回のトップ人事の再編成の原因かもしれません。
世界から遅れる日本のM&Aのあり方を見直す
ソニーとIBMは、それぞれ再生への道筋に違いはあるものの、幅広い人材活用と傘下の基幹技術の掘り起こしとシナジーの構築にともに注力したという共通項があります。
この視点を、古典的な経営から脱却できない日本企業は学ぶべきなのです。
M&Aは、買う側が買われた側を自らのサイロに閉じ込めることではありません。
これは、私が海外に進出した日本企業を長年見てきた経験です。そして今、日本国内でも行われている大小さまざまなM&Aにおける悪弊なのです。
そうした意味では、ソニーにせよIBMにせよ、彼らが過去の栄光に頼れなくなった中で企業体質を改善しようとする姿や、そこでとられたフラットな人事政策は、その成功の可否にかかわらず参考にするべきかもしれません。
日本企業の管理哲学そのものが錆びついていると、これからの市場の変化にただ取り残されるだけになってしまうからです。
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