ブログ

IBMとソニーから見る日本型M&Aの課題とは

Acquis I Tion officially closes; Red Hat is still Red Hat

(買収は完成。しかしレッドハットは不変だ)
― Redhat社CEO Jim Wh I Tehurst氏の1年前のアナウンス より

IBMのレッドハット社買収とM&A文化

 今回はIBMソニーについて語ってみます。
 まずはIBMの最近の動向です。
 先日、ネットワークサービスを提供するアメリカの国際企業レッドハット社の関係者と、久しぶりにじっくりと情報交換をすることができました。
 ヘッドラインで紹介したように、レッドハット社は昨年IBMに買収され、逆に同社の経営を担っていたホワイトハースト氏がIBMの社長に就任していましたが、その彼が先月になってIBMを退任することになったのです。
 この話の向こう側に見えるIT関連の国際企業の動向について知ることが、今回の打ち合わせの目的でした。同時に、日本のM&Aと海外企業のM&Aとの文化の違いについても、考えてみたかったのです。
 
 これは今私も経験していることですが、日本の伝統的な企業の場合、M&Aをしながらも、買収した企業が買収された企業の資産をどう活用するかというビジョンの欠如が顕著です。特に、買収した企業が自らの企業のサイロの中のピラミッドに買収した企業をはめ込み、人材交流も阻害して、親会社のルールや常識を押しつけるために、M&Aの基本的な目的である、企業グループのサステナビリティと多様性の構築が著しく阻害されるケースがよくあるのです。
 
 買収されたレッドハット社の社長がIBMの経営者として買収を行った企業のトップに立ったような事例は、海外ではそれほど珍しいことではありません。
 しかし、今回ホワイトハースト氏が退任した事情は、IBMとレッドハットをつなげ、双方の強みによる相乗効果を作り出す土台づくりという任務を終えたためなのか、それとも企業文化の対立による政治的理由によるものかは不明です。
 とはいえ、この背景を踏まえて、IBMの足跡と、最近話題になっているソニーの再生の足跡とをここで比べてみると、面白いことがわかってきます。
 

IBMの足跡とソニーの足跡とを比べてみると

 IBMもソニーも、1980年代には事務用品あるいは家電などのハードウェアを売る会社として世界を席巻していました。しかし、90年代後半になると、アップルマイクロソフトという新しいプレイヤーの斬新な企業戦略に押され、ともに停滞期に入ります。
 IBMは再生のために、自らの多彩なリソースを見直し、さらにM&Aを通して会社の大変革を実行しました。IBMはタイプライターなどの事務機器や通信機器で成長した企業です。PCが普及し始めたときは、その技術の延長としてThinkPadを発売し、シェア拡大に努めましたが、苦戦が続きます。
 一方のソニーは、M&Aなどで事業を拡大し、基幹技術ではあのウォークマンで世界を驚かせました。しかし、その業績をiPodなどに奪われたとき、PlayStationへの投資と共に、PCのVAIOを発売し企業再生をはかりましたが、それもうまくいきませんでした。
 しかし、その後IBMはThinkPadをレノボに売却し、ソニーはリストラという大胆な軌道修正をしてVAIOの生産を企業再生のシンボルとしました。
 
 両社ともに、企業の根幹には重厚な研究所があります。特に、IBMの研究所はその特許数も含めて世界最強です。ここ10年で、その出願特許数におけるAI関連の出願数の割合を大幅に増やしてきたことも注目に値します。タイプライターの会社からの変革を象徴的に示したできごとです。ソニーも大幅なリストラや構造改革を通して、グループ内の多様なリソースの強みを成長させる大胆な改革を進め、営業利益の改善に努め成功しました。
 その頃に注目されたのが、Linuxのソリューションで知られるレッドハットへのIBMによる3兆7,000億円での買収です。つまり、このことによって、IBMがもっているコアな研究所のテクノロジーと、レッドハットのリソースとサービスを有効活用し、より強いシナジーを狙っているのではと業界は捉えたのです。
 
 90年代以降、マイクロソフトはOSやそれに関連するソフトの基幹部分をいち早く席巻し、業界で不動の地位を確立しました。一方のアップルは、自らのOSを起点にIBMが君臨していたPC業界のパソコンそのものの市場に挑戦を続けましたが、一時苦戦します。しかし、その後音楽などのコンテンツと彼らの商品との統合を行い、再生を果たします。IBMもソニーも、これらの新しい動きに自らをどう位置づけるかという点で、実に似た課題を乗り越えようとしてきたのです。
 しかも共通しているのは、どちらにも多彩なリソースと商品群があり、多様性と研究技術の蓄積が再生への足掛かりとなったことです。その上で、IBMはM&Aと基幹技術の現在のニーズへの転用を、ソニーはリストラと基幹技術の個々の多様性の尊重を通して対照的な改革を進めました。
 
 その結果、IBMとソニーには大きな違いが出ています。
 IBMはソニーの業績回復とは異なり、M&Aと基幹研究への依存にコストがかかり、資産は増えていても減収減益がいまだに続いているのです。また、クラウド技術などを売り物にするレッドハットなどの買収された企業との現場における相乗効果がまだ見えていないことです。そこには、IBMの過去の栄光にいまだ依存する現場の人材への課題も指摘されています。まだ再生への課題は多いのです。それが今回のトップ人事の再編成の原因かもしれません。
 

世界から遅れる日本のM&Aのあり方を見直す

 さて、以上の話をもとに、日本でのM&Aのあり方について考えてみましょう。
 ソニーとIBMは、それぞれ再生への道筋に違いはあるものの、幅広い人材活用と傘下の基幹技術の掘り起こしとシナジーの構築にともに注力したという共通項があります。
 この視点を、古典的な経営から脱却できない日本企業は学ぶべきなのです。
 
 日本ではM&Aを「買収」と訳すために、多くの人は「会社を買うこと」と勘違いしています。M&AのAは「獲得する」という意味のAcquisitionです。しかし、MはMergerでマージすること、つまり混ぜてゆくことを意味します。「支配」ではなく「混ぜる」のです。企業が提携することによる化学反応、つまりプラスのシナジーを目指す行為を意味します。株式は移動しても、そのことで双方のモチベーションと独自性を維持しながら、より多様な化学反応によって企業価値を高め、貢献できる商品やサービスを提供することを意味するのがマージすることなのです。
 M&Aは、買う側が買われた側を自らのサイロに閉じ込めることではありません。
 
 また、人事の面でも日本企業は常に買われた側への人事権を上下関係で捉え、よりフラットで大胆な人事政策を怠ります。海外ではそうした日本の伝統的な政策をライスペーパーシーリング(rice-paper ceiling:和紙の天井)と呼び、和紙がグラスシーリング(glass ceiling:ガラスの天井)以上に強い鋼鉄となって買収された側を下位に置き、そのモチベーションを阻害するケースが多いと批判されます。それがフラットさと柔軟性に欠けた、思いつきでの日本型M&Aというレッテルを貼られてしまう原因ともなっています。
 これは、私が海外に進出した日本企業を長年見てきた経験です。そして今、日本国内でも行われている大小さまざまなM&Aにおける悪弊なのです。
 
 この悪弊が、常に変化する世界市場への対応の遅れを助長します。
 そうした意味では、ソニーにせよIBMにせよ、彼らが過去の栄光に頼れなくなった中で企業体質を改善しようとする姿や、そこでとられたフラットな人事政策は、その成功の可否にかかわらず参考にするべきかもしれません。
 日本企業の管理哲学そのものが錆びついていると、これからの市場の変化にただ取り残されるだけになってしまうからです。
 

———-
★アメリカへの留学(大学、コミュニティカレッジ、高校)を目指し、iTEP受験をお考えの方へ
iTEP International著の公式プラクティスガイドが発売になりました。留学目的でiTEPの受験をお考えの方だけでなく、ご自分の今の英語力を査定したい方、学習の成果を測りたい方、他の検定テストを受験する予定の方にも役立つ内容になっています。
ぜひウェブサイトをチェックしてみてください!⇒https://itepexamjapan.com//practiceguide/
———-

 

* * *

『言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)言い返さない日本人[新装版]海外との究極のコミュニケーション術』山久瀬 洋二 (著)
その態度が誤解を招く!異文化の壁を乗り越え、ビジネスを成功させるコミュニケーション術を伝授!
欧米をはじめ、日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100 社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人への取材で分かった、“グローバルな現場で頻繁に起こるビジネス摩擦“”の事例を挙げ、それぞれ の本音から解決策を導き出します!外国人とのコミュニケーションで、単なる言葉のギャップでは片付けられない誤解や摩擦、そして行き違いに悩むビジネスパーソンに向けた「英語で理解し合う」ための究極の指南書です!

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP