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アメリカの強さがロシアや中国を利する矛盾

In terms of immigrants to the United States, the melting pot process has been equated with Americanization. The melting pot metaphor implies both a melting of cultures and intermarriage of ethnics.

(アメリカの場合『人種のるつぼ』とはアメリカ化そのものを意味している。それは、文化と多様な人々が婚姻によって混ざり合ってゆくことを象徴している)
― Wikipedia より

民主主義を追求し牽引してきた「移民の国」アメリカ

 ウクライナにロシアが侵攻して以来、先の見えないコロナウイルスの影響も加わって、世界全体が不安定になってきているように思えます。
 世界が混沌としてくる不安に駆られている人も多いでしょう。
 ここで、今世界に大きな影響を与えているプレイヤーについて分析してみたいと思います。世界が民主主義と権威主義とに分断されていると言うとき、日本が肯定している民主主義国の牽引者とも言えるアメリカについて、まず目を向けてみたいのです。
 
 私は、このシリーズで何度もアメリカを取り上げてきました。というより、アメリカはもっとも頻繁に取り上げてきた国であるといっても差し支えないでしょう。というのも、私は16年間ニューヨークに暮らし、その後も年に何度も同地を訪れ、この国の歴史や文化、そしてビジネスに深く関わってきました。その中で、アメリカ人の気質も、コミュニケーション文化の特徴についても長年にわたって研究し、分析もしてきました。
 今回、その経験から、今世界を不安に陥れている民主主義と権威主義との対立における、一方の核であるアメリカの強さと弱さについて率直に感想を語りたいのです。
 
 まず、私は何度もアメリカは移民の国であると書いてきました。建国以来、現在まで、常に移民がアメリカにやってきては社会を変えてきました。そして、アメリカで起こる差別の主因は、先にアメリカにきて社会を作ってきた人々と、後発組となった移民との社会的な対立、利害関係の摩擦にあるとも解説しました。
 しかし、アメリカに住んでいると確かに偏見や差別はあるものの、多様な文化背景をもった人々が混ざり合い、生活を共にするアメリカという国が世界の実験場として機能している事実も理解できました。そうした視点に立ったとき、アメリカで生活したときの、その社会の柔軟で飾り気がなく、フランクな住み心地の良さも実感できました。確かにアメリカは250年近くの年月をかけて、民主主義とは何か、自由とは何かを追求してきた国家だと言えるでしょう。
 

移民が信奉する「アメリカ流」民主主義の押しつけ

 しかし、そうしたアメリカが、世界の多くで受け入れられずにいるのも事実です。中国にしろ、ロシアにしろ、さらに中東諸国にしろ、アメリカが咆哮すれば、イソップ物語の「北風」同様に、彼らはますます頑なになってしまいます。
 それは、アメリカ社会が自ら経験し、作り上げてきたアメリカ社会のシステムへの自信が起こすハレーションと言っても過言ではありません。
 
 まず、アメリカにやってきた移民のほとんどは、不安定な世界情勢の中で弾き出されてきた人々です。例えば、中国系アメリカ人の多くは、現在の中国の政治や経済システムに異論を持つ人々で、それはロシア系移民でも中東からの移民でも同様です。彼らの多くは、祖国でのさまざまな社会の矛盾を嫌い、祖国への愛着は持ちながらもその変革を願うプロ・アメリカン(親米主義者)とも呼ばれる人々か、その子孫です。
 一方で、アメリカは太平洋と大西洋に挟まれた巨大な島国です。移民の中でも何世代もアメリカに暮らし、その社会を作ってきた人の多くは、他の地域の持つ複雑な過去やしがらみを理解できません。従って、こうした人々もアメリカが苦労して作り上げたシステムを海外に導入すれば、世界はより豊かで自由になると単純に信じています。
 つまり、アメリカに住む多くの人は、居住年数の長短にかかわらず、アメリカ社会に溶け込む中で、より強くアメリカ流の民主主義を信奉する傾向にあるわけです。そして、その視点に立って、時には他の国々を批判し、注文をつけてしまいます。
 
 こう考えてみてください。誰でも自分の家族について、例えば父母や子供、兄弟のそれぞれの長所や短所は知っているはずです。そして、時にはその性格や考え方の違いから親子喧嘩や兄弟喧嘩もあるはずです。しかし、そんな家族に対して、外の人間があなたの家族はどうしようもないよとレッテルを貼れば、たとえその指摘の一部に理があったとしても、あなたは怒りを覚えるはずです。
 
 つまり、アメリカは他の国それぞれの内部の事情への斟酌を横に置いて、自らの民主主義のシステムを売り込んでくるのです。これが、家族を批判され腹を立てることと同じ現象を海外で起こしてしまうのです。
 

アメリカへの信頼低下と世論の分断が世界を不安定にさせる

 アメリカの民主主義は、アメリカという社会と歴史の中で培われてきたわけで、それぞれの国が抱えるさまざまな矛盾や実情を一方的に否定して、それを押しつけようとしても機能しないのです。アフガニスタンでの失敗は、このアメリカ流のアプローチのまずさを象徴的に我々に見せつけました。ロシアがいかに非道な振る舞いをしようが、中国でどれだけ人権が蹂躙されていようが、アメリカが、自らが作り上げた民主主義の尺度で相手を批判すれば、相手の民意を得られないわけです。民意が得られなければ、それを逆手に取って反米をスローガンにした指導者への支持がより集まることになります。それをさらにアメリカが力で牽制することが、世界の不安定の要因の一つになっていることは否めないはずです。
 
 いわば、アメリカが強く自国の価値観を相手に押しつければ押しつけるほど、その国のナショナリズムが反米に傾くわけで、それが却って、例えばプーチン大統領や習近平国家主席の立場を強くするという矛盾に陥っているのです。
 
 しかも、アメリカは今でも国内で、自らの社会のあり方をめぐり、世論の振り子が左右に大きく揺れています。その振り子が揺れるたびに世界が翻弄されることに、例えばヨーロッパや、時には日本も対応できずにいます。このことで、世界のアメリカへの信頼感も揺らいできているのです。この信頼感の低下が世界の不安定要因の一つになっているわけです。
 
 権威主義や人権問題に対抗しつつ、世界をより安全で不安のない場所にしてゆくためには、EUや日本や韓国など、世界のどこかにアメリカ以外のもう一つの強い引力の核を作ってゆく必要があるわけです。
 

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ジェームス・M・バーダマン、マヤ・バーダマン (著)
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