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無国籍化した世界企業とつき合えない日本の企業人

We need to deal with the flat network with dynamic human resources from all over the world. There is no hierarchy in the real global enterprise.

(我々には世界中から寄り合うダイナミックな人材が織りなすフラットなネットワークを使いこなすノウハウが求められる。真の世界企業にはもはや上下関係は存在しないのだ)
― マサチューセッツ工科大学(MIT)での講義 より

日本の自動車メーカーと米国の部品メーカーに生じたすれ違い

 今、久しぶりにロサンゼルスに出張しています。
 ここで、ある交渉ごとに加わりました。というのも、日本の自動車メーカーアメリカの企業に部品を注文したところ、納品されたものに不具合があったのです。この問題を調整しない限り、車の生産そのものが遅れてしまうというので、事態は深刻です。
 しかし、アメリカの企業はその部品の調整には時間がかかると言います。というのも、部品のデザインはヨーロッパのハイテクメーカーが手がけ、部品そのものはメキシコで生産しているため、全体を統括して予定通りに納品するにはさらに手間がかかるというわけです。
 日本の本部はその報告を受けたときに、「それは先方の問題だろ。約束は守ってもらわないと」と現地の支社に強い要望を出しました。しかし、支社先方と交渉しても思うようにいきません。たまりかねた本社は、部品メーカーの日本事務所に勤務する営業員を呼んで、支社と共同して状況を改善するように依頼します。しかし、日本事務所の社員はただ謝るだけで、具体的な進展はないのです。
 
 結局、その自動車メーカーは、アメリカの企業に調整を急いでもらうために、相手の言うままにさらに追加の支払いをするはめになってしまいました。アメリカ側が、そもそも最初から納期や生産の詳細に関する指示が曖昧だったと主張を始めたのです。そこで時間との戦いに追われていた日本のメーカーは自らの利益を削って、この問題をなんとか解決したというわけです。
 
 最後に、こうしたことが二度と起こらないように先方と話をするために、本社と支社の社員がアメリカの企業に出向き、今後の課題として予防策を話し合うことになりました。そこにはその企業の日本事務所の社員も同席するとのことでした。
 ここで、さらにオチがあります。結局、その日本事務所の社員は出張直前に退職し、転職してしまったのです。引き継ぎも十分ではなかったようで、その事務所からは誰も来ず、メーカー側先方の副社長とが面談をすることになったわけです。
 
 この席上、部品メーカーの副社長は一言もお詫びをしませんでした。日本側が、「ここがこうだったではないですか」といくつも事例を出して状況を説明しても、それはありうることかもしれないが、ともかく済んだことをとやかく言うよりも、前に進もうじゃないかというわけです。当然、日本のメーカーの社員は憤慨します。そもそも、退職した東京事務所の社員は、日本の有名な部品メーカーから転職してきた人物で、その人が今回のようにいきなり退職するようでは、今後この企業とどうつき合ってゆけばよいかわからない、というのが私への相談でした。
 

メーカーの立ち位置と製造業の構造変化に対応できない日本企業

 実は、こうしたケースが今、日本のあちこちで起こっています。納期が遅れたとか、せっかく調達したのに品質に問題がありすぎるとか、さらには部品の生産をお願いしたあとで、その企業が該当する部品の製造を中止したといったような事例が発生しているのです。そして大抵の場合、日本側が泣き寝入りをしてしまうのです。
 今回も、日本から出張してきた社員も現地支社の社員も共に英語が得意ではないために、通訳を立てて交渉をしていました。通訳の伝えたことは正確だったはずです。それでもこのような行き違いが生じてしまうのはなぜでしょうか。
 
 背景には、メーカーといわれてきた日本の企業の世界環境における立場の変化があるようです。
 今までメーカーは調達のピラミッドの頂点に君臨していました。しかし、今世界の製造業の頂点はメーカーではなく、多様な部品を様々な業態の企業に納品しているITやAI関連の企業なのです。彼らは自らを下請けとは意識していません。採算が合わなければ生産も中止します。これらの企業の多くはM&Aをくり返し、自らが利益を上げるために必要な企業と合併し、世界規模で膨張しています。
 
 その日本事務所は組織の膨張に合わせて人を採用しますが、採用された人々の多くは元々メーカーをピラミッドの頂点と仰いできた日本企業の社員でした。彼らは、より条件の良いそうした企業にヘッドハントされてくるのですが、日本企業の意識が捨てられず、世界規模に成長したこれらの企業にどのように対処してよいのかわからないのです。M&Aで膨張した企業は部品ごとにレポートラインも異なります。人事や予算となると日本ではなく、例えば他国にあるアジアの本部が担当しています。
 従って、この複雑な組織を運営していくには自らがプロアクティブに動かなければ何事も起こらないのですが、ピラミッド型の日本企業で経験を積んできた人の多くは、上司とのレポートラインを身近に意識してその指示を仰がない限り、どうしてよいかわからなくなるわけです。
 
 今回、日本側と接見した副社長は、最後にこの問題はおそらくアジアパシフィック部門の予算を管理するクアラルンプールが担当したほうがよいだろうと、連絡先を教えてもらい、それで会議が終了ということになってしまったようです。そもそも、その副社長もいつ別の会社からヘッドハントされるかわかったものではないのです。これでは通訳が言葉を正確に伝えても物事はうまく進みません。
 

日本企業の「常識」は無国籍化した世界企業には通用しない

 この相談を受けて私は、大切な助言を二つしました。
 まず、自らがメーカーで頂点に立っているという意識では物事が進まず、過去の問題を各論でほじくっても、相手にその意図は通じないということ。二つ目は、こうした交渉や仕事の進め方を改めて、世界企業とのネットワーク構築のノウハウを社内で共有することです。
 具体的なことを説明すると長くなります。しかし、日本人は得てして過去の問題、それも特定の事案で起こった問題を強くクレームしがちです。阿吽の呼吸が通じる日本の下請けなら、社長すら飛んできて平身低頭してお詫びをするでしょう。しかし、海外ではそうした常識は通用せず、さらにその企業に勤めている日本人ですら、振り回されている現状があることを知っておくべきです。外資系に勤めていても心は日本人で、日本側だけを向いて仕事をしているので、こうした案件を自分の企業と面と向かって交渉するノウハウを持っていないことが多いのです。
 国と国とが交渉をするような、大きな図面の上から業務を共有することの利点を相手に理解させ、その図面で起こりがちなリスクや必要なサポートを可視化できない限り、常にこうした問題がくり返されます。そのためには日本の企業のレポートラインや組織のあり方の再検討も必要です。
 
 バブル期の日本企業の意識を引きずっている年配者が経営の中枢にいて、こうした事案を理解できずにいることも、問題でしょう。また、日本企業という特殊な環境の中だけで、今まで成り立っていたその常識しか知らない人を重用する習慣にも、メスを入れる必要があるはずです。
 世界企業は多角化のみならず、無国籍化も進んでいます。ピラミッド型の組織しか思い浮かばない日本人には、無国籍化した企業のネットワークを使いこなすことは不可能なのです。
 

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