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東南アジアに向けられる無国籍化する世界企業の熱い視線

We are registered in Bermuda, we have our operational headquarters in Amman, Jordan, with offices in London, Malta, Dubai, Casablanca, and Kuala Lumpur.

(我々はバーミューダに登記し、ヨルダンのアンマンに本部を置いて、ロンドン、マルタ、ドバイ、カサブランカ、そしてクアラルンプールに拠点を置く)
― IGIのホームページ(https://www.iginsure.com/)より

グローバル企業の幹部に聞く、東南アジアでのビジネス

 マレーシアの首都クアラルンプールには、アジアに拠点を置く多くの国際企業が集まっています。その一つ、IGIというバーミューダで登記し、ヨルダンに本店を置いている保険金融会社を取り仕切る人物、Nick Garrityと、オンラインで打ち合わせを行いました。この会社は、ナスダック(NASDAQ)にリストされたグローバル企業で、今東南アジア一帯での金融ビジネスに、強い関心を持っています。
 イギリスの中部にヨークという古都がありますが、彼はそこの出身で、シンガポールに10年、そしてクアラルンプールに4年滞在し、今後もこの地域で仕事を続けたいと考えています。そんな彼に、なぜ、金融業界をはじめとした多くの企業が今、東南アジアに熱い視線を注いでいるのか聞いてみました。
 
「東南アジアはコロナやウクライナの問題で世界が揺れるなか、それでも着実に成長していますね。その理由はなぜでしょうか」
 
「なんと言っても、この地域は多様です。EUのように、一つの統率した権威の下に国家があるのではなく、ASEANはそれぞれの国が自らの独立性と独自性を保ち、競争しながら連携しています。ですから、投資をする側から見れば、その多様性こそがこの地域の成長の理由のように思えるのです。特にタイは注目すべき国ですね。グローバルな製造拠点が中国から東南アジアに移ってきていますが、タイは象徴的な国で、今では“世界の工場”の地位を担おうとしています。そしてそこに集まった資金で、地場の企業も成長して国際企業としてアームを広げています。それでいて、まだ賃金は欧米や日本に比べて安価です。であれば、当然投資の目がこうした地域に向いてくるはずです」
 
「それだけに、雇用状況を見た場合も、ダイナミックで優秀な人材への投資が盛んだと聞いていますが」
 
「おっしゃる通りです。なんといっても困るのは、どんどん人材の引き抜きがあることです。優秀な人への給与水準が高騰していて、時には30%から40%という高額なベースアップを提示されて他の企業に移籍する事例もあるのです。特に、シンガポールやマレーシアといった、ASEANの中でも経済力のついた地域ではそうした傾向が強いので、我々は常に人材の確保と獲得に目を凝らしていなければならないことになります。ある意味で、この地域では自分に投資をすればイギリスや日本よりも良い生活が送れるはずです。日本は高齢化と移民の制限が原因で、優秀な人材の確保が難しく、国も凋落気味ですね。イギリスは移民こそ多く活動していますが、同じような円熟した社会特有のさまざまな課題に苦しんでいます。しかし、ASEANはある意味で無法地帯。つまり、いろいろな制限が国によって異なることから、逆にそれを利用して柔軟な活動ができるのです。移民の受け入れは国によってさまざまな制限があります。でも、優秀な人材はこの地域のどこに住んでいようとバーチャルで勤務することができ、ほんの一飛びで隣国に出張もできます。実際、ベトナムとマレーシア、そしてタイとインドネシアはある意味で一体化したマーケットといっても過言ではありません。人もわざわざ国籍を変えて移住することなく、出張ベースで行き来できるわけです」
 

ダイナミックかつ保守的な東南アジアのビジネス文化

「そんな東南アジアで仕事をする上で注意すべきことはなんでしょう」
 
「イギリス出身の私から見て、最も意識したのはビジネス文化の違いです。イギリスは今ではアメリカと同様で、人と人との関係は平等で、地位の違いはあっても、人々は上司にでもどんどん意見しますし、時には抗議もします。でもシンガポールにやってきたとき、そこには厳然たるヒエラルキーがあることに気づいたのです。上司や影響力のある人の前では、社員は自分の主張を控えます。ですから、情報を共有するためには別の場を設けたり、語ってもらえるタイミングを計ったりする必要があります。私は、シンガポールはすでに欧米と同じかと思っていましたが、そうではありませんでした。これは良し悪しの問題ではなく、ビジネスカルチャーの違いですね」
 
「では、こうしたダイナミックではありながら、伝統的な価値観の残る有望な地域で仕事をする上で、あなたが心がけていることは?」
 
「ネットワークです。私のようなイギリス人は彼らから見ればやはり外国人。つまり外の人間なのです。ですから、より深く緊密な人間関係を構築するように、努力しなければ、この地域ではうまく仕事を進めることはできません。夕食を一緒にしたり、仕事以外の時間をも活用して交流したりといった努力が必要です。しかも、シンガポールとタイとではそうしたビジネス文化の強弱にも差があります。タイの場合、信頼できる現地の人物をしっかりとつかまえておくことは、とても大切です。その人の影響力で、そこの組織がどのようにでも変化するからです。ビジネスライクに物事を進めようと思っても、決して欧米のようにはいかないのです。ネットワークの構築にどれだけ自身を投資できるか。これはとても大切なことと言えましょう」
 
「元々、日本人はこうしたアジア型社会の中にあったにもかかわらず、ともすると、欧米流でビジネスライクな割り切りかたをする傾向が今では見られます。それはむしろ危険ということですね」
 
「今でも、東南アジアの人々は日本の企業の力に尊敬の念を持っています。それだけに、より現地のビジネス文化への繊細な配慮が必要なのです。でなければ、優秀な人材はどんどん引き抜かれますし、時には組織ごと人が移動してしまうことだって起こりかねません。この地域はまさに発熱しているのです」
 

無国籍化するグローバル企業の中で活躍するためには

 東南アジアにはNickのように、欧米から移ってきて10年以上にわたって現地で生活し、ネットワークを構築している人がたくさんいます。彼は65歳までマレーシアで勤務し、その後は家族とタイに移住し、リタイアライフを、タイとイギリスとを行き来しながら楽しみたいと語ってくれました。
 
 もちろん、ASEANには、和僑と呼ばれる多くの日本人も活動しています。
 ただ、課題として、彼ら欧米人が世界に拡大するグローバル企業の中核として機能してゆくなかで、日本人の多くがやはり日本企業に足を置いて、東京と現地とを見比べながら仕事をしていることが懸念されます。欧米から進出してきた企業の多くは、このIGIに代表されるように、だんだんと無国籍化し、アジアを一つの拠点として世界に差別なくネットワークを広げています。日本と現地とを振り子のように行き来することで組織を運営する多くの日本人とは、軸足の置き方が本質的に異なるのです。
 

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