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「曖昧な日本人」を捨てて英語力を磨くには

Japanese aren’t explicit enough-they leave everything vague.

日本人は明快なことを言わず、なんでも曖昧にしてしまう
―『言い返さない日本人』より

学校では教えてくれない英語コミュニケーションの秘訣

 今日は少し話題を変えて、英語の習得法について解説したいと思います。
 理由は、今日本の企業で働く多くの人が、本当に英語で悩んでいるからです。通訳があり、AI の発達によって自動翻訳まであるので、そこまで会話ができなくても問題はないと思っている人も多いかもしれません。しかし実際は、ちゃんと伝えていたはずなのに約束を守ってくれないとか、品質管理での常識が違い、文句を言うと、逆にこちらの言い方が曖昧だからだと逆襲されてしまったりする、というケースが多発しているのです。
 
 実は、これらの多くは英語そのものではなく、英語の使い方の問題に起因しているのです。コミュニケーションスタイルは、英語文化圏と日本とでは異なります。英語の学習では、その違いさえ理解すれば、単語力や発音等にハンディキャップがあったとしても、ビジネスの場で相手と誤解なくやりとりができるのです。
 
 日本人が教わらない、英語でのコミュニケーション力を磨く秘訣を、いくつかお話しします。
 
 第一に、相手がいろいろと話しているとき、わからない部分があれば、相手の会話を最後まで聞かず、即座にそれを止めて、その場でわからない表現や言葉を確認することが大切です。日本語では、「人の話は最後まで聞くものだ」という常識があり、相手の話を遮ることに躊躇しがちです。しかし、英語の場合はその場で確認し、本当に必要なときは、相手のスピーチをストップさせて、相手が言った言葉の意味を聞いても構わないのです。というより、その場で確認する方がむしろ大切なのです。
 よく、わからなくてもわかったふりをして、あとでこっそりとその意味を辞書などで確認しがちです。そうではなく、話している相手こそが辞書の役割を担っている、ということを知っておくべきです。
 
 次のヒントです。よく考えてみてください。
 あなたが日本語で友人などと話しているとき、文法に従った完璧な日本語を話しているでしょうか。そんなことをすれば、むしろ会話は不自然になりませんか。それなのに、英語を話すときには、どうして文法を気にしながら必死で完璧な英語を喋ろうとするのでしょうか。
 そうです。まずは、自分の言いたいことを単語の羅列で構わないので、はっきり相手に伝えることが大切なのです。相手から見れば、ただ黙って照れくさくしているより、はるかに積極的でフレンドリーな人だと思ってくれるはずです。
 

自分の思いと、表情と、ジェスチャーと~35年前のある経験から

 もう35年も前のことです。私がアメリカでの生活を始めたころ、ある写真家の展示会に行ったことがありました。
 その写真家はとうに他界していて、写真家の夫人が、彼の若き頃の作品を集めて展示していたのです。写真を見ていたとき、彼女が私のところにやってきて、どう思うかと尋ねたのです。私は、とっさにどのように英語で答えてよいかわからず、戸惑いました。そして、戸惑った瞬間に、いわゆる日本人の曖昧な笑みを浮かべたのです。すると、彼女は「なぜ笑っているの」と怪訝そうに私を見るのです。
 
 この気まずい経験は、今でも忘れられません。なんでもいいから、当時の限られた英語力でも構わず、はっきり自分の意思を伝えるべきでした。
 ここに、一つの隠れた秘訣があります。それは、自分の思いや言いたいことと、自分の表情とをピタリと一致させることが、英語文化ではとても大切だということです。そして、その表情と共にジェスチャーをしっかりと付加すれば、言いたいことがわからずに曖昧な笑みを浮かべなくてすむはずです。
 単なる躊躇や戸惑いから笑みを浮かべる習慣のないアメリカ人から見れば、日本人のこうした曖昧な表情は失礼で、最悪の場合には侮辱とも受け取られかねません。
 
 では、どのようにして、相手に意思を伝えればよいのでしょうか。
 大切なことは、表情とジェスチャーを駆使しながら、言いたいポイントをまず明快に話し、次にそのように話した理由をしっかりと伝えるのです。そして、最も大切なことは、その理由の次にそれをサポートする実例をいくつか述べて、最後にしっかりと締めくくることが大切です。
 
 35年前に質問を受けたときは、曖昧な笑みではなく、ニコリとして、あるいは本当に感動した表情とジェスチャーで、great とか beautiful など、一言でもよいので自分の思いを伝えるべきでした。そして、その理由として、なぜそう思ったかを、It is nice color. とか Tone is good. などとブロークンでもいいので話した上で、example として、特に気に入った写真をいくつか示してあげればよかったのです。そして Thank you! と締めくくれば完璧。下手な英語だと思わずに思い切って相手に応対すれば、それは失礼なことではなく、むしろ相手をとても喜ばせたはずです。
 このやり方は、自己紹介から交渉や説得の場に至るまで、ありとあらゆる場面で応用できる効果的な方法です。
 
 日本人は、自分の英語が下手だと思い込みがちです。最悪なのは、英語が下手なことを相手の前で謝ること。単語力などに限界があっても、堂々と相手に向かう姿勢が求められます。もし、英語が下手なことを謝れば、相手は英語ではなく、あなたの言いたいことを理解したいのに、と思って失望するはずです。謝ることは相手の気持ちを考えてのことだという常識を持つ日本人とは、そもそも常識自体が異なっているのだということを知るべきです。
 

「阿吽の呼吸」ではなく「明快な言葉」「堂々とした姿勢」で向き合う

 最後に、これは最も大切なことですが、どんなにしつこくても、ものごとを曖昧なままに終わらせないという意識を、常に持っておくことです。そこまですると相手に失礼じゃないかな、と思うのは日本人の常識です。むしろ、そこまでやってもいいのかな、と思うくらいきちんと確認することの方が大切です。As soon as possible などといった曖昧な表現はやめましょう。また、相手に何かをやってもらいたいときに、相手が I will do my best. と言えば、それは「ベストは尽くすが約束はしていない」という意味だと捉え、そうではなく、いつまでにできるのかを具体的に引き出すまで確認をしなければなりません。
 
 つまり、英語では「阿吽の呼吸」は通じないのです。言葉で言われたことは、言葉通りで、それ以上でも以下でもないということ。つまり、日本語の世界のようになんとなく雰囲気で意思を伝えることは不可能だということを、肝に銘じておくことです。
 
 日本の英語教育の現場ではまず教えてくれない、こうしたいくつかの秘訣をしっかりと理解しておきましょう。実際、政府間の交渉も含め、ビジネスでの行き違いのほとんどは、こうしたコミュニケーションスタイルの違いを理解していないことに、その原因があるからなのです。
 必要なのは文法力でも、正しい発音でもありません。中学2年生までの英語をしっかりと理解しておけば、あとはここに記したことを意識して、相手と堂々と向き合う姿勢を持つことが大切なのです。
 

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今回の記事に関連した動画をYouTubeにアップしています。
ネイティブ・スピーカーに早口な英語で話しかけられたら、あなたはどうしますか?
https://youtu.be/9iOuJ7brt0Y
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『言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)
日本人を誤解してきた、外国人のアッ!と驚く言い分。
欧米をはじめ日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人のもっとも頻繁に起こるビジネス摩擦を28例挙げ、それぞれの本音から解決策を導き出す。今、まさに外国人とのコミュニケーションに悩む、多くの日本人に向けた究極の指南書。異文化との出会いが楽しくなるコミュニケーション術。異文化の罠を脱出せよ!

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