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左右の振り子に揺れるアメリカに翻弄される世界情勢

Kevin McCarthy won over just enough of the far-right rebels he needed to become speaker. He swore in the chamber’s members, ending days of paralysis at the start of Republican rule.

(ケビン・マッカーシー氏は、議長選出に必要な極右勢力の造反組を味方につけた。彼は下院議員を前に宣誓し、共和党支配が始まった下院において何日も続いた混乱に終止符を打った)
― New York Times より

台湾の元軍人が語るアメリカと台湾と日本

 台湾での出張を終え、フィリピンへ飛んできました。
 飛行ルートとなった南シナ海周辺は、今中国の海洋進出という緊張にさらされている地域です。
 台湾を発つ前夜、元海軍中佐で、今では台湾華語(台湾の中国語)の普及活動に勤しんでいる台湾人の友人と食事をする機会がありました。
 
 彼は、台湾はその国の位置や、大きさ、国力から、自分で自分の運命を決められないという難しい課題があると述懐します。その中で、アメリカが台湾をサポートしすぎると、中国を刺激するという皮肉な矛盾もあれば、その軍事的な傘の下で安全を担保してもらわなければならないという課題もあると彼は呟きます。
 この言葉は、日本にとっても大いに参考になるはずです。
 
 今、アメリカは中間選挙を終え、2年後の大統領選挙に向けて政治への関心が集まっています。トランプ前大統領への人気に翳りが見られる一方、その意志を引き継いだ、アメリカの利益を第一にと主張する政治家の議会への進出も懸念されています。
 台湾は、こうしたアメリカの一挙一動に左右されると、軍事に携わった経験から彼は語ります。民主党の議員が台北を訪問したときは、むしろありがた迷惑だと思ったものの、だからといってアメリカが南シナ海へのプレゼンスを完全に放棄しても、それはそれで困るのです。
 
「いえね。今までの歴史が示しているように、世界がどんな戦乱に巻き込まれても、アメリカ本土は常に安全なのですよ。そして、海外の戦争で人的な犠牲を出しはするものの、結局、経済的な繁栄を享受したのもアメリカですよね。このあたりがなんとも言えない矛盾に見えてくるのですね」

彼はそう答えます。

「そして台湾は、日本が憲法を変更してまで中国の侵攻を阻止してくれるとは思いません。ただ、例えば潜水艦のエンジンの性能やイージス艦に搭載されている技術などでもそうなのですが、日本の自衛隊の装備は世界第一級なのですよ。アメリカではなく、日本でなければ供給できない技術もあるのです。台湾はそんな日本とアメリカがどう連携して台湾を中国から守るのか、何度もシミュレーションを繰り返しているのです」
 

強国の影響を避けられない周辺国の外交方針

 彼は元軍人らしく、かなり専門的な視点で状況を把握しています。
 確かに、世界にある国のうち、自分の運命を自分でコントロールできない国家がほとんどです。どんなに独立を維持していても、周辺にある強国や経済的に強い国の影響を常に気にしながら、外交の舵取りを強いられる国家がむしろ多数派なのではないでしょうか。もちろん、日本も今ではそうした国家の一つであることを忘れてはなりません。
 
 ウクライナはNATOへの加盟を意図したことで、ロシアを刺激し侵攻を招いたと評論する人がいます。しかし、仮にウクライナがNATOへの加盟を考えなかったとしても、ロシアという強国が隣国である以上、ロシアと異なる形で民主化を進めた段階で、侵攻の危機にさらされていたのかもしれません。台湾も同じように、中国の意思次第で、どのような口実で侵攻されないとも限らないと、現地の専門家は懸念しているのです。
 
 去年、当時のアメリカの下院議長ナンシー・ペロシ氏が台湾を電撃訪問したとき、台湾が中国の一部であるというスタンスを強調する習近平政権は、演習という名目で台湾周辺にミサイルを発射して威嚇しました。ちょうど私が今回搭乗した飛行機も、ミサイルの脅威にさらされた海域を飛行しているわけです。つまり、軍事侵攻を実際に行わないまでも、こうした威嚇によって、台湾経済を封鎖することは可能なわけです。
 ですから、台湾の多くの人は、静かに平和を望んでいると友人は語ります。お互いを刺激し合うことなく、台湾が経済的に豊かな国として隣国と付き合ってゆければ、それでよいではないかというのです。台湾は今、日本に対する半導体などでの経済進出、人的交流に真剣です。台北の南にある新竹という都市は東洋のシリコンバレーへと変貌を遂げようとしています。
 
「現在、民進党の人気に翳りが出てきていますが、今となっては国民党であろうが、民進党であろうが、台湾の置かれている立場に変化はありません。ですから、どちらが政権をとっても、外交政策に大きな違いが生まれるわけはないのです」

と彼は言います。

 

アメリカ情勢に左右されるのは日本も同じ

 フィリピンに到着し、ホテルでテレビをつけてニュースを見ると、アメリカで下院議長にケビン・マッカーシー氏が選出されたことが大きく報道されていました。ケビン・マッカーシー氏は、共和党の中で元々トランプ前大統領と蜜月だったといわれるほどに、右派勢力を代表する人物でした。
 しかし、トランプ大統領が選挙に敗れたあと、1月6日に彼を支持する群衆がホワイトハウスに乱入しようとして以来、彼がトランプ大統領と一線を画したことでも知られています。つまり、アメリカ下院は伝統的なアメリカ中心の孤立主義をよしとする共和党が多数派になったわけです。ただ、こうした変化はあったとしても、下院は上院ほどに大統領の外交戦略に直接強い影響力を行使できないことから、アメリカのウクライナや台湾への戦略が今すぐ大きく変化することはないだろうというのが大方の見方です。
 
 しかし、アメリカの政治情勢の変化に一喜一憂する台湾の実情は決して他人事ではないという事実を、我々も知っておくべきです。
 日本の経済と外交戦略があまりにもアメリカと同期しすぎていることが果たして正しい選択なのかどうか。ヨーロッパの国々のようにもっとしたたかな戦略をもって世界にのぞむことはできないのか。特にこれから数年間が、そうした選択を迫られる日本の試練の時期となりそうです。
 

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