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龍華科技大学の試みからみえてくる台湾の未来像

Lunghwa University of Science and Technology strives to be the “Best Practical University in Asia in Electronics Field.”

(龍華科技大学は、アジアの電子分野において最高の実践の場になるよう努めてゆきたい)
― 同大学のプレスリリース より

台湾の科技大学が進める壮大なプロジェクトとは

 台湾の首都台北から30分南へ車でいけば、そこは台北経済圏の中核となる桃園市です。
 桃園といえば、台湾の国際空港がある都市として有名ですが、最近この地域はその南にあってTSMCの本拠地がある新竹と並び、台湾のハイテク産業の巨大なセンターへと成長を遂げています。
 
 そんな桃園にある丘の斜面に、ぎっしりと研究室の並ぶ龍華科技大学があります。今、この大学は台湾政府の支援のもと、最先端の半導体による生成AI技術の発信センターとして大きく変貌しようとしているのです。
 周知の通り、半導体は台湾にとっての基幹産業であり、台湾が世界の半導体のシェアのほとんどを占有していることは、この国の安全保障にとっても極めて有意義なことでしょう。
 
 すでに台湾でのこうした戦略のあらましについては、この誌面でもさまざまな機会を通して紹介してきました。しかし、今改めて、桃園の龍華科技大学が進めているプロジェクトをみるとき、台湾のもつ遠大なビジョンが浮かび上がってくるのです。
 強調したいのは、台湾で単なる半導体の生産供給基地としての立場を超え、さらに世界に大きな影響を与えるプロジェクトが静かに進行しているという事実です。この2,000万人の人口がありつつも、少子化が進み、海峡を挟んで中国の脅威と対峙している小さな島国が、今後世界の通信や電子機器にとって欠くことのできない拠点へと変貌しようとしているのです。
 

高速伝送の研究が半導体のその先の技術革新へとつながる

 つい最近、龍華科技大学のプレスリリースが同大学の葛学長から届きました。そこには、学内で政府の未来へのビジョンを先取りした壮大な計画が着実に実行されようとしている様子が鮮明に語られていたのです。
 昨年の秋に、葛学長と夕食を共にしました。そのとき、学長は龍華科技大学を台湾の未来型産業戦略へ向けた最先端の研究機関に育てたいと強調していました。

「単に、研究機関というよりも、実際の技術開発を学内で行い、それがビジネスへと成長するように官民一体となって努力してゆきたいんです。そのためには日本からも多くの人材を供給できる体制が必要です」

と学長は語っていました。

「もちろん、そのベースとなる留学生の誘致は喫緊の課題です。今、東南アジアからはどんどん留学生がきているのに、まだ同校には日本からはほとんど学生がきていない。この状況を至急変えたいのです」
 
 それからさほど時間が経っていない、今年の3月18日のことでした。
 同大学で、電磁工学分野での交流フォーラムが開催されました。そこに招聘されたのが、東北大学で電磁波やアンテナ関連の技術の権威として活躍する陳強教授でした。
 当然のことですが、この分野での研究者や学生との交流を促進してゆくことがこのフォーラムの目的です。すでに2023年の暮れには、サテライトにおける高速伝送産業の分野での権威である東京工業大学の戸村崇教授も招聘されています。
 
 ではなぜ、高速伝送システムの分野に、龍華科技大学が産業の一翼を担うかのように参入しようとしているのでしょうか。
 この分野に詳しい東北大学工学部の教授に問い合わせたところ、興味深い答えが返ってきました。

「電波とアンテナ関連の技術は、以前は最先端の分野だったのですが、その後大学の研究室を離れ、産業界のR&D(研究開発部門)に移管されていったのです。しかし、東北大学は世界の中でもこの分野での研究を未来に向けて続けている稀有な大学で、その指導をしているのが、龍華科技大学が招いた陳先生なのですよ」
 
 半導体はナノテクノロジーの中で電気を扱うので、電磁波が常に発生し、それをいかに正確に、かつ迅速に無駄なく電送するかという課題があります。さらに最近ではモバイル通信を考える上で、サテライトを通した通信技術への取り組みも必要です。東北大学でのアンテナの研究にその分野の権威でもある陳先生のみならず、東京工業大学の戸村教授も招聘した理由はそこにあるのです。
 これは生成AIの開発にとっても重要な技術革新へとつながります。また、電動化し、自動化する自動車の分野でも、この技術は最も重要な分野の一つとなります。だからこそ、電波と電磁波をうまくコントロールする技術に取り組むことによって、その分野での人材教育ができる大学へと成長しようと、龍華科技大学は政府と共同して台湾の半導体産業のその先を目指して教育活動を稼働させているわけです。
 

持てる技術を眠らせたままの日本に送られる熱い視線

 明らかに、今台湾の先端技術を担う教育機関は、日本との連携に熱い視線を送っています。それは、日本に眠る技術が、半導体を使ったさまざまな技術革新の上で見直されているからでしょう。東北大学の陳教授の指導するアンテナの技術はその典型ともいえるわけです。

「これからナノテクノロジーも駆使して、半導体もさまざまな形状のものが開発されるはずです。その時に、半導体そのものの中で発生する電磁波の問題をいかに解決し、複雑に飛び交う電波をコントロールしながら、ニーズに基づいて正確に情報を電送することが、携帯などの未来にとって必要不可欠な技術なのです。さらに生成AI技術を駆使して、電波をどのように誘導し活用するかを分析することも大切なテーマです。こうしたテーマで一歩先をいくことで、世界の先端産業で圧倒的に優位に立とうと、台湾が官学、さらに産学共同で取り組んでいる様子が、今回の龍華科技大学の動きからみえてきますね」
 
 東北大学の教授はそうコメントし、さらに、東北大学や東京工業大学の識者の招聘にとどまらず、産業界、学術界とグローバルにネットワークしようとする積極的な姿勢がみえてくることはとても参考になると付け加えてくれました。
 
 単に中国リスクによって国論が二分され、その上でより台湾としての独立した路線を貫いてゆこうと主張して当選した頼次期総統が、正式に総統の椅子に座る直前、台湾はその公約を産業界で世界を圧倒することで実現しようとしているようです。
 「龍華科技大学は、アジア全体での電子分野をリードする大学として成長を続ける」というスローガンは、単に龍華科技大学だけではなく、主語を台湾という国に変換しても、見事に当てはまるビジョンになりそうです。
 

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