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日米韓の関係からみえる脆弱な日本の外交

Someone in the Biden administration called Aso’s visit “completely vulgar and totally unacceptable”

(バイデン政権の関係者は、麻生氏のアメリカ訪問〔トランプ前大統領を訪問〕はまったく下品で話にならないとコメント)
― 米国の複数のメディアより

日本とは対照的な韓国の高い政治意識

 イスラエルがラファでの掃討作戦に入ろうとして緊張が続いているなか、日本でもっと中東の事情を理解してもらうために中東情勢についての書籍をバイリンガルで出版しました。
 というのも、石油の供給が滞るなどといった生活に直結する問題が起こらない限り、日本社会がこの問題に対してあまりにも無関心だからです。
 
 先週、ソウルではイスラエル大使館の前に2000人が集まり、イスラエル軍の過剰な攻撃に対する抗議集会が行われました。アメリカに始まってヨーロッパなど各地の大学に飛び火した抗議の輪が広がっている影響によるものです。
 たまたま数年ぶりに東京で再会したソウルにある大学の学長、副学長と夕食を共にしたとき、彼らは韓国人の若者の政治意識について語ってくれました。
 
 韓国でも日本と同様に、若者の価値観は10年おきに変化していると学長は語ります。以前と比べれば、儒教社会の縛りもなくなり、上下関係もフラットになり、組織よりも個人を重んずる若者が増えていることは日本と同様です。
 しかし、そうしたなかで、韓国社会で変わらないものが二つあると彼はいいます。一つは徴兵制度が残るなか、軍隊で生活をともにした男性の横の絆の深さです。同じときに軍事教練を受け、同じ兵舎で過ごした者同士は、その後もさまざまな形で繋がりを維持できるというのです。そしてもう一つが、韓国社会における政治意識の高さなのです。豊かになった韓国社会で育った若者にとって、生活や仕事への価値観は変わっても、政治への意識は高いままだというわけです。
 
 政治意識といえば、気になるのが韓国での反日感情です。
 しかし、多くの人が証言するように、今の韓国では中国への警戒感は強くても、日本への意識は大きく変化していると、その学長も強調していました。そして、今日本でも若者を中心に韓国への好感度が上昇していると説明すると、韓国ではそうした情報は届いていないと驚きの表情をみせたのには、逆にこちらがびっくりでした。今、日本がしなければならない最も大切なことは、こうした世論の変化を韓国社会に浸透させることなのです。
 

韓国民主化の歩みと保守・リベラルの複雑さ

 そもそも、韓国社会が民主化の道を歩み始めて30年以上の年月が経つ中で、韓国の民主化と反日意識とは切っても切れないコインの裏と表となってしまいました。以前、韓国は長い軍事政権下で、経済復興に取り組みました。北朝鮮との緊張関係は、そんな軍事政権を維持する理由となりました。当時、経済と軍事双方で北朝鮮への優位性を強調していた軍事政権は、日本とはむしろ共にアメリカの傘下にある国家として協調してゆく姿勢をとったのです。
 そのために、戦前のさまざまな課題を精算して、日本の経済支援も取りつけながら、朝鮮戦争以来、貧困に苦しんでいた社会を復興させようとしたのです。
 
 しかし、80年代に軍事政権が民衆によって打倒され、韓国社会が名実共に民主化されると、過去の政権が行なってきた政策の一つひとつが批判の対象となったのです。まず、政権を維持するために言論を弾圧してきた検察組織に対して糾弾の目が向けられました。同時に、戦前の植民地政策で社会が受けた被害を黙殺しようとしてきた政策にも批判が集まったのです。
 
 ですから、皮肉なことに、民主化を進め、進歩的な政策を支持する人々を母体とする「共に民主党」は、リベラルと反日によるナショナリズムに支えられているという、ねじれをもっているのです。逆に、保守党として現在の尹(ユン)大統領の母体となっている「国民の力」は、伝統的な検察などのエリート層を維持しながら、北朝鮮と対峙する上でも日本との関係改善を求めているのです。
 
 そして、韓国の政治も変化しています。まず、家族のスキャンダルや低迷する経済問題への有効な対策が打てないでいる尹大統領の支持率が低下するなかで、「国民の力」の国会での議席数が大幅に減少し、「共に民主党」が圧倒的な多数派になってしまいました。
 
 こうなると、次期大統領選挙では反日を掲げてきた「共に民主党」が勝利するかもしれません。しかし、「共に民主党」も党内は一枚岩ではなく、党の分裂という火種を抱えています。文在寅(ムン・ジェイン)政権の折に、法務部長官を務めたあと、子供の進学等に絡むさまざまなスキャンダルに見舞われ訴追された曹国(チョ・グク)氏が、検察改革を急進的に進めるべきだとして「祖国(チョグク)革新党」を結党したことも話題になりました。そこに韓国の若者たちの意識の変化がどのように影響してくるかは未知数です。
 

国民の無関心に依存するお粗末な日本の政策

 今、日本政府は、アメリカに対しては次期大統領選挙での「もしトラ」を心配して、自民党の有職者である麻生太郎氏がトランプ前大統領と面会してアメリカ政府の顰蹙を買いました。同時に、韓国に対しては尹政権との蜜月にほっと胸をなでおろしています。しかし、このどちらをとっても、その方針があまりにも優柔不断です。韓国での尹政権の後への備えも必要であれば、アメリカへの対応はあまりにも節操がなく、みっともないという一言に尽きます。
 
 韓国もアメリカも日本にとっては貴重な隣国です。この二つの国への外交政策がその場しのぎに見えるのはなぜでしょうか。
 今日本には、隣国と腹を割って議論のできる強力な人脈がなくなっているのです。この人材不足の問題は、最近に始まったことではありません。中国との関係などでこの課題が指摘されてから、すでに10年以上が経過しています。国家という機能だけで外交を行い、人と人との紐帯を促進する人材育成を怠ったツケが今回ってきているように思えます。
 
 ちなみに、中国の場合、深刻な経済難に見舞われながらも、したたかに沈黙を守り、外圧に従い経済改革を実施することは見送っています。自力で体力が回復するまで我慢を決め込んでいるのです。これは、中国がバブル崩壊以降の日本の方針から学んだことだという人がいますが、言い得て妙だと思います。今、そんな中国とも気軽に連絡を取り合い、腹を割って話のできる人脈が不足しているのです。
 
 そのために、状況に翻弄されコウモリのような外交を続けざるを得ないのが今の日本の実情です。これは日本という国への信頼低下に直結します。
 では、将来にわたる韓国とアメリカとの関係を体系的に構築するにはどうすればよいのでしょう。囲碁でいうなら、石の置き方と順序が逆なのです。
 尹政権との蜜月の間に、単なる政府間協議を離れて、韓国の世論に日本人の親韓意識の強さをしっかりと植えつける外交が必要です。そして、韓国と日本との関係が強化され、盤石にしたうえで、そのパワーを利用してアメリカでの変化に強い姿勢で対応するしたたかさを持つことが大切です。日韓関係をEUのような関係に進化させれば、それはアメリカや中国への強いカードとして持つことができるのです。
 
 日本人の国内外の政治への無関心は、国が長年にわたって作ってきた風土であり、ある意味での国策による愚民化といえましょう。
 そんな国民意識の上にあぐらをかいている限り、外交政策がどんなにぶれても政権は大丈夫という奢りが日本の政府と官僚組織にあるとするならば、そこに強い戒めが必要であることは言うまでもないことです。
 

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『日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)
2023年10月に始まったハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃と、イスラエル軍によるガザ地区への激しい空爆と地上侵攻は世界に大きな衝撃を与えました。中東情勢の緊迫化は、国際社会の平和と安定、そして世界経済にも大きな影響を及ぼします。地理的にも遠く、ともすれば日本人には馴染みの薄い中東は、政治・宗教・歴史などが複雑に絡み合う地域です。
本書では、3000年にわたる中東・パレスチナの歴史を概説し、過去、現在、そして未来へと続く課題を日英対訳で考察します。読み解くうえで重要なキーワードや関連語句の解説も充実!

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