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日本人らしさってなんだろう

Ikigai can be both: a deep life purpose and the small joys that motivate you to get up each day. 

「生き甲斐」とは人生に内在する「目的」と、日々を楽しみ、やる気を起こさせる小さな事柄の双方を意味している。

― ChatGPTの答えより

 今世紀に入ってから、日本の伝統的な価値観が世界に紹介され、話題になることが時々あります。

世界が「発見」した日本らしさ

 2004年に、ケニアで植林を通じた環境保護運動を率い、民主化や人権擁護にも貢献したことでノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ氏が、受賞の翌年に「もったいない」という日本語を世界に紹介したことを覚えている人もいるのではないでしょうか。その後「もったいない」はローマ字表記のまま、環境問題に関心のある人々に受け継がれ、資源を大切にする合言葉のように使われました。
 さらに10年ほど前には、日本の新幹線を視察したフランスの鉄道関係者のコメントが海外でも話題になりました。彼らにとって新幹線の技術以上に印象に残ったのは、短時間で効率的に清掃を行う人々の姿だったのです。テキパキと仕事をこなし、終了すると一列に整列して利用客の前に一礼する——その姿は、彼らにとって驚きでした。
 そうした日本人の行動様式を、スペイン人の二人の著者、エクトル・ガルシア氏とフランセスク・ミラージェス氏が沖縄で取材し、日本人の長寿の秘訣が「生き甲斐」という概念にあるとして2016年に出版した書籍が英訳されると、瞬く間に大ベストセラーとなりました。『Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life』という本がそれで、今でも欧米の書店ではベストセラーのコーナーに積まれています。  
 面白いのは、「もったいない」にしろ「生き甲斐」にしろ、こうしたメイドインジャパンの概念を、海外の人が日本に触れたときに発見し、世界に広めたことです。ありがたい限りです。

 

自ら語り始めた日本人の「ねじれ」

 ところが、同じ頃から日本で不思議な現象が起こりました。日本が東京オリンピックの招致に際して「おもてなし」という言葉をキャンペーンした頃から、日本人が自らの価値観を積極的に海外へ輸出しはじめたのです。しかし、この行動に対して、日本在住の海外の人々の多くはシニカルでした。「日本のこういうところが素晴らしい」という日本人自身の発信の中に、海外の人がナショナリズムを感じ取り、「日本は特別だ」という排外的な意識への拒絶反応を示した——そうコメントした人がいたことも覚えています。
 そして、コロナ禍前後から、世界中で広がった格安航空ブームに加え、SNSによる旅行情報の拡散で、日本にもインバウンド観光客が増えてきました。円安がそうした旅行ブームの背中を押したのも事実です。彼ら旅行者は、日本人のキャンペーンではなく、自らが発見したことを発信し、旅行の輪を広げています。私たちが気づかずにいる些細な行動や言葉、さらには受け継がれてきた伝統を、彼らが独自に見つけ出し、自らの判断で世界へ広めているのです。もちろん、そのヒントを与えてくれる「印象深い」ものが日本にあることは事実です。
 ここまで書いてみると、面白いことに気づきます。日本には伝統的に「謙遜」「遠慮」、さらには「謙虚」や「気遣い」といった価値観があり、長年にわたって、それが社会の構造の軸となってきました。ところが、30数年前にバブル経済が弾け、日本経済が暗黒時代に入った頃、そうした価値観の弱い部分があらわになり、海外からも「はっきりとモノを言えない日本人」「曖昧な日本人」といった、日本人や日本社会への批判が目立った時期がありました。また、それに反発するかのように、伝統的な価値観を捨て去り、官民一体となって社会を変えていこうとする動きがあったことも事実です。そこから、はっきりとモノを言うことや、自己アピールの必要性が説かれるようになりました。その結果、日本人の価値観に一つの「ねじれ」が生まれたように思えるのです。
 「謙虚」という、日本人が本来持っているはずの美徳がありながら、「日本は素晴らしい」と海外に向けてキャンペーンを張る——その矛盾に、どこか見苦しさを感じた人も多いはずです。また、社会の右傾化も手伝ってか、「日本」という国や文化そのものを、敢えて海外に「どうだ、すごいだろう」と言わんばかりに語る人も、ネット上などでよく見かけるようになりました。
「桃李もの言わざれども、下自ずから蹊(みち)を成す」——今では死語となりつつあるこの格言を実践して日本を紹介してくれているのが、ほかならぬ海外の人々です。一方で、その精神を忘れ、自らの伝統の本質を誤解したまま海外に自己をアピールする日本人がいる。この対比こそが今の社会現象の特徴だと言えば、誇張になるでしょうか。
 さらに付け加えるなら、新幹線の清掃作業員の礼儀正しい姿を見たとき、それに応えるでもなく無言で乗車していく日本人乗客のほうへ目を向けた海外の人は、あまりいなかったように思います。というのも、海外ではバスを降りるときに、運転手へThank youと声をかける習慣をよく見かけ、むしろ素晴らしいと感じたことがあるからです。「謙虚」であるとは、海外から素晴らしいと評価されたことを自慢せず、その背景にある負の部分にも目を向けることなのかもしれません。

伝統と世界、二つの方程式

 確かに、最近は空気を読めない人が増えたとか、自己主張の強い人が多くなったというぼやきをよく聞きます。それが良いことか悪いことかは分かりません。ただ、格差が広がるなど、社会から余裕が失われていく中で、日本人の意識に変化が起きていることは実感します。
 2週間前に台湾の大学で話をしていたとき、「確か日本では、一度就職したら一生同じ企業で働きますよね」と複数の人が口にするのを聞いて驚き、「それは数十年前の常識ですよ」とコメントしたことがありました。海外の人が抱く日本のイメージの多くは、こうした時間のずれによるものかもしれない——その時、そう思ったのです。
 日本人は、自らの伝統的な価値観と、いま社会に求められている世界レベルの競争力の維持とを、二つの矛盾する方程式のように折り合いをつけながら、調和させていく必要があるようです。日本が日本らしくありながら、同時に世界と協調していく——その柔軟性を保ち続けることは、難しい課題です。しかし、この課題は日本だけが抱えているものではなく、世界のほとんどの国がそれぞれに抱えている、21世紀共通の課題なのかもしれません。

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日本人のこころ』山久瀬 洋二 (著)
いにしえから現代まで受け継がれてきた日本人の感性を表す100のキーワードを、簡潔明瞭な英語で説明! 日英対訳バイリンガル書。「恩」や「義理」といった日本人の心の原点とも言える価値は、一体どこからきて、今の日本ではどのように捉えられているのか。本書はその壮大なテーマに挑み、日本を代表する「日本人のこころ」を100選び、日本語と英語の対訳で簡潔に説明する。キーワードの例:「和」「中庸」「根回し」「型」「武士道」「節度」「情」「忠」「禊と穢」「もののあわれ」「因果」「仁義」「徳」「わび」「さび」「幽玄」など。

 

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