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日本型の組織への期待が通らない欧米型企業文化とは

The western company come to the negotiation table with the goal to address relatively short-term quantitative benefits. However, Japanese came to the negotiation table to build a common vision over the long term.

(欧米の企業は交渉において、より短期的で具体的なベネフィットをもとめてくるが、日本企業はより長期的なビジョンを共有しようとする)
― Wendy Hall 著 Managing Cultures より

海外企業とプロジェクトを進めようとしたある日本企業の話

 ある日本企業でのことです。
 その会社は、クライアントである大手メーカーのために、次世代の車の部品調達を行っています。
 最近、彼らはボストンにあるオーディオ機器の会社と共同して、部品の開発をしようとしていました。このオーディオ機器の会社は日本にも支社があったので、支社の営業部員と条件交渉を行い、先方の本社の担当副社長とも電話会議を行ったうえで、部品の開発を進める合意を取り付けたのです。
 
 ところが、その合意からほんの3ヵ月後に副社長が転職し、新しく彼のあとを引き継いだ人物がなかなか思うように動いてくれません。
 結局いつまでたっても開発は進まず、その会社の窓口になっている支社の営業担当者も困り果てている様子です。
 開発のスケジュールは大幅に遅れ、その会社の担当者はクライアントとの間で困り果ててしまいます。どうすれば問題を解決できるのでしょうか。
 

日本企業が海外企業との仕事でつまずく「組織構造」の違い

 まず、この手の話は、海外と事業を進めるときに、日本の企業がよく直面する課題なのだということを知っておくべきです。
 約束した製品の開発が途中でストップしたり、納期が遅れたりといったときに、日本側はどのように対処してよいかわからず、結局コスト面でも予算を上回る資金を投下して、やっと難局を乗り越えるといったケースが続出しています。
 
 欧米のグローバル企業のネットワークを考えるときに、忘れてはならないことがあります。
 それは、多くの企業が M&A などを重ねて大きくなっていることもあって、組織内のレポートライン(指揮系統・情報経路)の構造が日本の常識とは異なっているという事実です。
 そもそも海外の企業の中では、日本風のピラミッド型の組織構造とは異なった、機能優先のレポートラインが複雑に交差しています。こうした組織のことを「マトリックス型の組織」という人がいます。
 
 具体的にいえば、会社の製品ごと、あるいは部門ごとに担当者が世界中に拡散していて、日本の支社の中のレポートラインも、日本の支社長にはつながっていません。
 その製品の開発を担当する開発センターがチューリッヒにあれば、レポートラインはそこの担当責任者に直結します。そして、日本にいる支社長は支社を管理してはいるものの、業務そのものへの指揮権は持っていないのです。
 もし、支社が何かの事業で特別に予算を取りたいときにも、予算部門のレポートラインと技術部門のレポートラインとが異なっていることもあります。アジア全体の予算や人事を管理するセンターはシンガポールにあるものの、その製品の技術開発についての決済はチューリッヒにつながり、支社の運営そのものはアメリカのシカゴにある本社の管轄下に置かれている、といった状況が至極当たり前なのです。
 
 したがって、今回紹介した例のように、担当の副社長が転職した場合、その引き継ぎについて技術部門の責任者や予算を統括する部門などが別々に稼働しているため、日本側が率先して相手に働きかけ、コーディネートを行わない限り、袋小路に入ってしまうこともあり得るのです。
 しかも、日本の支社の営業部に勤務する担当者も、もともと他の日系企業などから転職してきた人物で、このマトリックスな組織に馴染んでいないことも間々あります。
 さらに、日本支社の支社長の椅子に日本人が座っていることもよくありますが、それはその企業が日本で活動するときのネットワークのためにヘッドハンティングしてきた人物で、逆にその人は、自社の海外組織とのやりとりに関するノウハウを持っていない場合も見受けられます。
 
 大切なことは、プロジェクトごとにこうしたネットワークのポイントをしっかりと押さえておくことです。
 日本企業が外資系企業の日本支社だけに頼って仕事を進めようとしたり、一人の担当者だけとパイプを維持したりしているとき、それは極めて脆い人脈となってしまうのです。
 人が変わることも常に予測し、複数のパイプを維持するだけではなく、プロジェクトの重要性と相手にとってのメリットを常に強調しながら、迅速に状況に対応できる決裁のシステムを自社の中に持っておくことも忘れてはなりません。
 

双方のビジネス文化の相違を理解し、業務姿勢の転換を

 日本の企業は相手との人間関係をしっかりと構築し、目に見えない信頼関係や安心感が担保できるまで、前に進もうとしません。したがって、日本支社の「知っている人物」を優先し、そこの窓口だけに頼って物事を進めようとします。
 それに対して、欧米の企業は極めて実務的です。つまり、今現在、何をいつまでに、どのように進めてどういった利益を得られるのかといった、短期的で具体的な図面がしっかりと見えていない限り、物事を前に進める動機にはならないのです。
 日本人が期待するしっかりとした「絆」を求めた慎重な対応は、彼らにとっては、ただ決裁に時間だけがかかる非効率な動きとしてしか映りません。曖昧で共有できない情報として捉えられてしまうのです。これが、今回ヘッドラインで紹介した、日本と欧米とのビジネス文化における根本的な相違なのです。
 
 よく、日本人はこうした海外の複雑なシステムを非効率で無責任な構造だと批判し、日本型のピラミッド式の組織構造の効率性を強調しようとします。しかし、個々人が自らの専門性をもって、自立して業務を進めている海外の企業から見ると、逆に日本の組織は硬直し、決裁にも時間がかかると批判されます。何かを決めるときも重層構造の組織の階段を一つずつ固めていかなければならないために、彼らからは見えないところに情報の核が隠れているように思われてしまうのです。
 欧米の企業のマトリックスをうまく理解できれば、迅速に物事が機能し、合理的に起動してゆくはずです。組織を上下関係で考える日本人と、ネットワークとして位置付ける海外の関係者とのビジネス文化の違いが、共同プロジェクトでの納期の遅れや商品開発の停滞へとつながってしまうのです。
 
 また、忘れてはならないことは、海外では責任者や担当者が変わるとき、日本で思っているような緻密な引き継ぎは行われません。
 そのため、日本側が自らのニーズとして、去る者と新任者との双方に、さらにはその上席や関係者にプロアクティブに働きかけない限り、案件そのものが放置されてしまうこともあり得るのです。
 待つ姿勢から、自分のニーズに応じて自ら行動を起こし、相手を動かす姿勢へと対応を変化させなければ、思わぬ落とし穴にはまってしまうことになってしまいます。
 
 これからは、IT や AI といった未来型の技術開発や商品調達の必要性が、これまで以上に強く求められます。
 下請けとメーカーのような、納入業者と顧客といったタテ社会の常識が全く通用しないネットワーク型の常識にのっとった業務姿勢への転換が、あらゆる業界で求められています。
 そうした意識に最もついていけていないのは、日本の大手企業もさることながら、もしかすると政府などの公の組織、そこで活動する官僚や学識経験者たちかもしれません。
 

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