Nippon Steel Corporation (NSC) to Acquire U. S. Steel, Moving Forward Together as the ‘Best Steelmaker with World-Leading Capabilities’
日本製鉄のUSスチール買収が米大統領選挙の争点に
彼は日本製鉄(もと新日鐵住金株式会社)が2兆900億円でUSスチールを買収したことで、会社がこの先どのようになってゆくのか不安だったのです。
これはその人物に限ったことではありません。今、USスチールの組織の中では、日本企業が彼らにどのように対応してくるのかという未経験な状況への不安が広がりつつあるようです。
一方のトランプ前大統領は、明らかに外国企業によるアメリカの伝統的な大企業の買収に対する国民感情に訴え、私が大統領になればこうしたことは一切認めないとコメントしたのです。
そしてペンシルベニア州は、伝統的に製造業が多く、そこに働く労働者の組合活動も活発な土地柄といえましょう。さらに、ペンシルベニア州は大統領選挙の行方を左右する、民主党と共和党が競り合っている州としても知られています。ですから、バイデン大統領としては、この買収劇への対応を誤れば、お膝元の地盤が揺らぐことになるのです。そのことを最もよく理解しているのが、対抗するトランプ前大統領であることはいうまでもありません。
日本企業による老舗企業の買収に動揺するアメリカの世論
そもそも、USスチールはあの鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーや、20世紀初期に政財界を動かしたピアポント・モルガンなどといった、アメリカの歴史を代表する錚々たる人々によって設立され、その後のアメリカの繁栄を象徴していた会社です。
さらに、今回の買収資金の調達も、日本製鉄への金融機関の融資によって行われていることも気になります。つまり、ともすると複雑になりがちな日本側の買収の意思にある本音の部分、意図するところが、正確にアメリカのメディアに伝わっているかどうかが気になるのです。このことは、USスチールに勤務する人々の不安の拡大にも影響を与えるはずです。
そうした意味で、大統領選挙の年に大統領の座を目指す両候補が、民意に対して敏感になるのは当然のことといえましょう。しかも、これが全米鉄鋼労働者組合の本部があるピッツバーグでの買収劇であれば、大統領選挙と関連して、相当なハレーションが出てくるはずです。
意思決定の透明性や経営陣の多様性などを考慮した手続きを
まず、日本の大企業の多くは、本社の取締役が日本人だけで占められている現実を指摘します。過去には日産にカルロス・ゴーンがやってきたことだけで大ニュースになるほど、日本企業の経営体質は海外に向けて開かれているとは言い難いのです。これは、もともと移民社会に寛容で、海外からも積極的に人材を投入する欧米の企業とは対照的です。
その結果、買収した企業への権限移譲ができずに迷走するか、あるいは買収した企業をコントロールできずに損失を被ってしまうかといった、負のスパイラルが生まれやすいのです。その事例は、東芝によるウェスティングハウス・エレクトリックの買収が迎えた悲劇的な結末など、さまざまです。
USスチールとその地元のピッツバーグ、さらにはペンシルベニア州という地域文化、そこに住む人々の支持なくしては、思わぬことで足をすくわれ、大きな損失へとつながることがありうるのです。
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