Japanese decision making often takes quite long time with tremendous information sharing.
(日本の決裁プロセスはしばしば膨大な情報共有と時間を要してしまう)
― ダナンのオフショアマネージャーのコメント より
熾烈な人材の獲得競争に敗れる日本企業の問題
ベトナムの
ダナンといえば、南北に長いこの国の中部地域の中核都市です。
1960年代から70年代にかけては、ベトナム戦争の激戦地として、徹底的な破壊の対象となったこの都市も、今では中部ベトナムの産業と観光の要として世界中とつながっています。
今、ベトナムは経済発展が著しいなかで、まだ先進国との間での賃金格差が際立っているため、安い賃金で豊富な人材を獲得できる地域として、世界のオフショアビジネスの中核になろうとしています。
オフショアビジネスとは、IT関連企業の業務を請け負う外注先を意味していますが、実はベトナムに代表される経済発展を続ける国では、そうしたビジネスにおいて優秀な人材を長くキープしておくことがなかなか困難です。人材の移動が激しいだけではなく、現地企業も成長を続けていることから、それぞれがより有利な条件によって人の獲得に懸命になっているからです。
そうした加熱する人材獲得競争のなかにあって、日本企業が抱える深刻な問題と、それを克服するための条件について、今回は取り上げたいと思います。
ダナンでシステム関連の業務をコーディネートするファン・グェット・ミンという知人がこぼしていたことがあります。彼女は長年日本企業との間に立って、人材を派遣しているのですが、そうした人の多くが欧米の企業の方が日本企業より働きやすいといって転職してしまうのです。
それは賃金の問題なのかと訊けば、そうではなく、働くモチベーションの問題だというのです。
実は、円安などの影響もあり、雇用条件の格差が日本企業からの人材流出の原因であると多くの人が考えているようですが、理由は決してそれだけではないのです。彼女は言います。日本企業との仕事はともかく困難だと。
こうした話はベトナムだけではなく、広く東南アジア各地から聞こえてきます。
日本企業はともかくスペックにうるさく、きちんと指示通りに動かないと、とたんにクレームや叱責となるので、ストレスがたまるというわけです。
これを聞けば、それは当然のことだろうと多くの日本人は思うはずです。お金を出して働いてもらっているのだから、こちらの言う通りに仕事をするのは当然だと。
しかし、それが当然ではないのが世界の事情だということを知っている日本人はそう多くはありません。一体どういうことのなのでしょうか。
企画~決裁~進行のプロセスにみる日本と欧米の違い
理由はこうです。日本企業は物事を決裁するとき、詳細の詳細まで決めてから前に進もうとします。そのために、企画を出した場合でも、決裁までにはさまざまなプロセスと試行錯誤による苦労がつきまといます。そして、一度最終的に準備が整い前に進み出すと、今度はそこから変化することを嫌い、決めた通りに業務を完遂しようとするわけです。
したがって、オフショアビジネスにおいて、現場から企画を出した場合は、細かいチェックや質問があるにもかかわらず、日本側の決裁までには相当の時間がかかってしまいます。それは現地にとっては、要求だけが多い割には時間を無駄にしていると解釈されてしまいます。
さらに、決裁をしたプロジェクトをオフショア側に発注する場合は、すでに日本側では詳細まで事細かに物事が決められているために、一切のクッションや変化は拒否されてしまいます。現地の事情に対して、日本側は柔軟に対応できないのです。
では、欧米ではどうでしょうか。欧米では、プロジェクトを進めるかどうかという決裁は、日本とは比較にならないほど早い段階でなされます。そして、オフショアサイドと共同して試行錯誤を繰り返しながら、最終的にプロジェクトを完成させるために進もうとするのです。したがって、オフショアサイドでも、そのプロジェクトに参画しているという意識が強くなり、チームワークも強固になるわけです。
であれば、当然ですが、何か物事がうまくいかなくなった場合でも、変化に対しては柔軟です。
オフショアサイドからみると、企画を出して承認されるまでが早く、細かな問い合わせも少ないわけです。さらに決裁された後でもどんどん状況に応じて対応や必要となった変化などに関する判断が共有できるわけです。
ITやAIなど、先端技術の側面援助をオフショアサイドが担う場合、欧米の企業は、日本企業よりはるかに迅速に前に進むことを決め、仮にその後に問題が発生しても、変化に対して寛容に対応してくれるというわけです。この違いがアジア各地で人材が日本企業から海外の企業へと流れてゆく原因となっているのです。
日本の事業運営に求められる構造改革と意識改革
充分に準備して、すべてのコンセンサスをとってから決裁し前に進む日本式のやり方と、まず前に進んでみて、状況に応じて対応を変えながらプロジェクトを進めていこうとする欧米型のスタイルの違いが、こうした人材獲得の現場に影を落としているわけです。
特に、システム関連やIT関連のイノベーション事業の場合、プロジェクトを進めながら試行錯誤をするという体制は、技術革新が日進月歩である以上、避けられないのが現実です。完璧に準備をすること自体、不可能であるはずです。であればこそ、緻密な準備の上で上意下達方式によってオフショアに発注する日本式のやり方が、現実に即さなくなっているのです。外注先や現地法人内のモチベーションを上げるには、賃金だけでは解決できない決裁に関係した構造改革と、現場と対等な関係でチームワークを作ってゆく意識改革が必要なわけです。
この問題はM&AなどでのD.D.(
デューディリジェンス)、つまり財務法務監査などでも見受けられます。相手側の企業をあまりにも日本の常識で事細かに査定しようとするあまり、何を一緒にやろうとしているのかという本質的な意識の共有ができなくなり、他国の企業にそのチャンスを奪われてしまうケースも多発しているのです。
コンプライアンス重視のあまり、誰も責任を取ろうとしない日本の組織。そして、組織としてすべての合意ができない限り前に進めない日本企業の姿が、柔軟で変化に富む事業運営にとってマイナスになっている実情を、我々はダナンなどでの事例などから学ぶ必要があるようです。
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『2030年までに知っておきたい 最重要ボキャブラリー1000』
アンドリュー・ロビンス (著)、岡本茂紀 (編・訳)
ITやAI技術が目覚ましく進歩し、人々の生活や社会との関わり方、コミュニケーションのあり方が大きく変化して、その影響が言葉使いそのものにも現れています。この現象がもっとも鮮明に現れている言語が英語です。さらに、ジェンダーや人種などの分野でも、多様な価値観や趣向に対して寛容に、さらには平等に対応しようという社会変革も進められ、それが新たな用語を創造しています。本書では、ごく近未来を見据えたとき、これだけは知っておかなければ会話にも支障をきたすのではと思われる1000語を厳選。英語を学ぶと同時に、よりグローバルな感性も磨くことができる一冊です!
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