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移民――アメリカ、さらに西側から見た政治的ネットワーク

China Holds War Games Encircling Taiwan in Warning to Island’s Leader

(中国は台湾のリーダーに対して、台湾を包囲した戦争ゲーム〔軍事演習〕によって警告を行う)
― New York Times より

10月初旬のニューヨーク・チャイナタウンを眺めてみると

 10月初旬は中国と台湾とが最もプライドをぶつけ合う時期です。国民党を台湾に追いやって、大陸で中華人民共和国が成立したのが1949年10月1日で、北京ではこの日を国慶節として祝日にしています。それに対して、孫文のもとで清朝を倒し、中華民国が成立したのが1911年10月10日で、この日を台湾では双十節として祝福します。互いに自らが現在の中国を正当に継承する国家であるということを主張するわけです。
 それに加えて、最近台湾側から発信される「独立した台湾」というメッセージが、中国をさらに刺激します。そして、今回のヘッドラインのように、中国側も台湾周辺での過激な軍事演習を実施します。
 この対立を太平洋の反対側のアメリカから眺めてみると面白いことがわかります。
 
 ニューヨークのチャイナタウンには、10月初旬になれば台湾(中華民国)の旗が並び、双十節を祝います。ここに居住する中華系の人口は70万人を超えるといわれています。もちろん、彼らの全てが台湾系ではありません。世界中に拡散するチャイナタウンには、中華人民共和国を支持する人々も居住し、お互いのアイデンティティによる分断もおきています。とはいえ、海外に2世代以上にわたって居住し、資産を蓄えている人々の多くは、台湾系、つまり中華民国系の人々といえましょう。
 

ニューヨークのチャイナタウンの様子。
(左)ビルの屋上に中華民国の旗が並んでいる。(右)左奥のビルの屋上に中華人民共和国の旗が掲揚されている。

パンダ・エクスプレス創業者にみる中華系移民の歴史

 ここで一つのエピソードを紹介しましょう。
 それは、程正昌という1948年生まれの人物の歴史です。
 アメリカの主要な空港や高速道路のサービスエリアなどに行けば必ずといっていいほど目にする、中華料理のファストフード店があります。最近日本にも進出しているパンダ・エクスプレスで、彼はその創業者です。中華の鍋料理によってメニューを組み合わせ、簡単に安く提供するこの店が目立ちはじめたのは、20世紀終盤になってからのことでした。
 
 程氏の人生は、20世紀の中華系移民の歴史を象徴しています。
 中国が共産主義国家として生まれ変わったのは、程氏が生まれて1年もしないときでした。そのために元々シェフであった彼の父親が、国民党と共に台湾に移住し、程氏が18歳のときにアメリカに留学生として居住したことが、彼とアメリカとの関わりの始まりでした。
 
 彼はその後、カリフォルニアで中華料理のレストランをはじめます。パンダ・エクスプレスの1号店が南カリフォルニアに誕生したのは1983年のことでした。それが10年後には全米で100店舗を数えるチェーン店にまで成長します。中低所得者向け、あるいはテイクアウトを好む出張族などが簡単に利用できる中華料理店として、アメリカ各地で支持されたからです。
 彼は中華系移民の集中するチャイナタウンをでて、アメリカの広大な市場に目を向けました。味付けはアメリカ人好みの濃口です。従って、我々のようなアジア系の多くはその味を調整するためにホワイトライス(白米)と料理とを組み合わせて購入します。それに対して、濃い味付けの好きなラテン系や黒人系の多くは、醤油味のチャーハンや焼きそばに料理を組み合わせて購入します。
 
 この巨大チェーンを生み出した程正昌氏は、子どもの頃に親と共に横浜に移住し、横浜中華学院に通っていました。彼は今でも同学校への寄付を積極的に続けていて、横浜との絆を大切にしている人物でもあるのです。この軌跡は、あたかも日本に亡命した後アメリカやイギリスで当時の清朝への抵抗を続けた孫文にどことなく似ているように思えます。孫文も中国での革命の資金や支援をアメリカで調達したのです。彼は、アメリカの華僑の連携を構築するのと同時に、アメリカ人にも旧制度にこだわる清朝を倒し、民主国家として中国を建て直すことの必要性を訴え、世論の支持を取り付けたのです。
 当時、アメリカ大陸の開拓も終わり、アメリカはアジアの広範な市場に目を向けていました。孫文の活動は、そんなアメリカの意向と見事に噛み合ったのです。
 
 その後、孫文はロンドンでも活動します。そのことに神経を尖らせた清朝政府は、彼をロンドンの清国大使館に拉致しました。しかし、これが却って欧米の世論が孫文に同情するきっかけになったのです。そうした活動の結果、1911年に中国で国民党政権が誕生します。さらにそれから数十年が経過したあと、台湾に国民党が追い出されたあと、孫文の妻の妹・宗美齢が、夫の蒋介石のためにアメリカに渡り、過去の人脈を駆使してアメリカの台湾に対する同情と支援を取り付けたことも忘れてはなりません。
 

世界情勢に影響を与える移民のネットワーク

 この程氏と孫文とのエピソードは、中国の脅威に晒されながらも台湾が存続できていることと無関係ではありません。
 ニューヨークのチャイナタウンに代表されるように、海外に移住した中華系移民の経済力は、直接にも間接にも、台湾の存続の基盤になっているのです。そして、現在ではモリス・チャン氏のように、アメリカの企業で技術を磨き、台湾に半導体の大帝国ともいえるTSMCを開いた人物もでてきています。台湾は建国以来、このようにアメリカや日本に居住する華僑の経済的・政治的な支援を受けながら、器用に自らの立ち位置を築いているのです。
 程正昌氏は、自らが少年期を過ごした日本、特に横浜に愛着があります。その資金は、横浜中華学院などをコアにして、日本の台湾系華僑の繁栄にも貢献しています。忘れてはならないのは、台湾系に限らず、日本に住む海外からの移民は、その家族の中に必ずといっていいほど、欧米で活躍する人物を持っていることです。日本社会からは見えにくい、国際情勢の動向に少なからず影響を与えるこうした人脈のネットワークを我々は知っておくべきです。
 
 世界最大級のチャイナタウンのあるニューヨークから、遥か14,400キロ彼方の台北。そして、その中継地点とも言える横浜など、世界の動向をみるには世界に拡散する拠点を結ぶ人々の動きを知るべきです。
 今、台湾でもアメリカでも、中華系の人々の大陸(中国)離れが進んでいます。自らを中国のルーツをもつ台湾人として、大陸から切り離してみてゆこうとする新たなジェネレーションが育っています。こうした人々を含め、実際にどれだけの台湾系の人々がアメリカで活動しているかは、アメリカの人口統計の調査によってもまちまちで、その実態はつかみにくいといわれています。
 
 華僑や印僑、さらにはロシアやウクライナ系、ユダヤ系、中東系など、欧米に居住する人々は必ずこうした見えない糸で世界とつながり、母国とも繋がっています。今年、日本でも双十節の式典が横浜や東京など、主要都市で華やかに行われました。その直後にニューヨークに行けば、チャイナタウンでも規模の大きな祭典が開かれています。きっとアメリカ国内の他の都市のみならず、ロンドンなど、欧米各地でも同様のはずです。中国政府が神経を尖らせ、台湾に対して威嚇をするのは、単に台北からのメッセージに反応しているからだけではないのです。
 
 一見、人種のるつぼとされ、混沌とするニューヨークの向こうに、このような世界情勢が見えてくるのも面白いものです。アメリカの大統領選挙においても、候補者が常に気にしているのは、一般有権者の動向と共に、こうした海外からの在住者の資金力であり、影響力であることは否めない事実といえましょう。
 

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『基礎から学ぶ 実用台湾華語 初級』国立台湾師範大学国語教学センター (著)、古川 裕 (監修)基礎から学ぶ 実用台湾華語 初級
国立台湾師範大学国語教学センター (著)、古川 裕 (監修)
国立台湾師範大学が台湾華語の標準テキストとして作成した学習書の日本語版が登場! 中国語の学習経験がない学習者を対象にした本書は、台湾に留学して中国語を勉強する学生や、 海外の高校や大学で中国語を勉強する学生に広く使用されており、口語から書き言葉、そしてリアルな日常会話まで、基礎から本格的に学べる学習書です。

・台湾で日常的に使われている現代中国語を採用
・ピンイン(漢語拼音)を併記
・文法及びタスクベースの2種類の練習問題
・中華文化に関する読み物を掲載
・台北を中心にした親しみやすい会話
・会話文の簡体字も掲載

 

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