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エジプト珍道中、お金の交渉は強かに、そして時には緩やかに

No need to thank us. We are just doing our duty.

(「お礼はいいよ。ただやるべきことをやったまでだよ」アスワン(エジプト)の運転手のメッセージより)

世界一「面倒臭い国」の洗礼:アスワン空港での白熱の交渉ゲーム

  旅行者の多くが、世界一「面倒臭い国」というと、それはエジプトだったり、インドだったりします。旅をしていると、土産物売りや怪しげなガイドまがいの人物がよってきたりして、それをうまくいなすのも大変です。
これをゲームだと思って楽しまない限り、旅で嫌な思いをすることもあるでしょう。しかし、それでいてやはりエジプトやインドは旅人を強烈な個性で惹きつけます。そこで、面白い体験談を紹介します。
 エジプトのアスワンでのことです。空港に着くと街まで公共交通がないに等しいので、事前に車でもチャーターしていない限り、タクシーに頼らざるを得ません。心の準備をして空港のターミナルを出ると、案の定「車はいらないか」と、しつこく声をかける客引きがいます。彼らに何度も”No thanks.”といいながら、タクシースタンドに直行すると、今度は運転手たちに囲まれます。「いくらなんだい」と聞くと160ユーロといってきます。
「あのね。街まで行くだけなのになんでそんな高いの。200エジプトポンドしか払わないよ」と大声で運転手達に言い放ちます。160ユーロといえば2万円以上、現地通貨で200ポンドは600円強。これくらいハードルの高い?ゲームを仕掛けてくるのは当たり前のことです。しかし、エジプトで一般のサービスについて交渉するとき、なぜか160ユーロという金額をよく聞くのも不思議なものです。
すると彼らは一様に「あり得ない」と言います。見渡すと、客は私一人。つまり、交渉のカードはこちらにあります。私一人をなんとかゲットすることで、彼らはそれなりの収入にありつけるからです。
10分間押し問答を繰り返し、「いいよ。それなら空港に戻ってホテルに電話して車をまわしてもらうだけだから」 そう言って立ち去ろうとすると、一人の年配の男が近寄ってきて、「いくらなら出すんだい」というので、「200ポンドって言ったよね」と繰り返すと、耳元で、「500でどうだい?」と言ってきます。
外国人の場合、700ポンドぐらいすることもあると情報を事前に頭に入れておいたので、「300なら手を打とう。君がいいドライバーなら、翌日も仕事を頼むかもしれないし」「わかった。300。それでいいよ」
 そうして、その男のタクシーに乗りました。車内で少し打ち解けたので、「本当に160ユーロ払うやつがいるのかい」と笑いながら聞いてみると、
「いるんだよ。こっちの物価とか何も知らないで、言うがまま払うお客もいるから、みんな160ユーロと最初にふっかけるのさ」と悪びれることもなく、彼はそう言います。町まではものの20分の距離でした。

交渉の先にある出会い:ツアーでは味わえない「現地のリアル」

 そして、その翌日160ユーロを同じドライバーに支払って、片道300キロ近くを時速160キロで疾走して憧れのアブシンベル宮殿まで往復してもらいました。朝7時に出発し、ホテルに戻ったのは午後8時ごろ。スーダンとの国境が近づくと、戦闘の続くスーダンに向けて物資を運ぶトラックの数が増えてきます。国境のすぐそばで左折して、古代エジプトの壮大な宮殿へとタクシーは向かいます。
多くの人がこうした交渉が面倒なためにツアーを頼みます。しかし、そうすれば自由は奪われ、ガイドに従って歩いて、お土産物屋に寄ってというふうに、本当のその国の風俗習慣に身をもって感じることはできません。トラックの列がスーダンに物資を運んでいる現実も、タクシーの運転手が話してくれなければその実態は分かりません。そして、食事は運転手の友人のレストランで、文字通り現地の淡水魚を焼いたもの。これは確かに絶品でした。支払ったのは200ポンド少々。


憧れのアスワン神殿まで行けたのもあのドライバーのおかげ。

時間と安全はお金で買う:カイロの深夜到着で見せた「旅の極意」

 では次の話題に移りましょう。知っておきたい旅のコツは、ここは騙されて高くついても構わないという場所やタイミングをしっかりと心得、そこでは敢えて使う価値のあるお金を使うことです。こんなことがありました。カイロへのフライトの前日、ドイツからカイロのホテルにメールをし、夜遅く空港に着くので迎えを頼むとメッセージを送ったのです。返信があり、空港からホテルまで130ドル(これも約2万円)というのです。カイロではUberでもタクシーでも高額な料金を言ってくることもあり、しかも夜遅い場合、慣れない土地での治安の問題もあります。しっかりしたホテルとのやりとりでもあり、「いいよ。お願いします」と答えました。すると、「空港に着いたら、飛行機を降りてゲートを出たところにホテルのロゴに名前を書いたボードを持って待っているよ」というメッセージが入ってきました。
 深夜に空港に着くと、なんとビザの申請ゲートやパスポートチェックの前、文字通り飛行機を降りて空港の廊下を歩き出したところに男が私の名前のボードを持って立っています。なぜここまで入ってこれるんだろう、ときょとんとしていると、「パスポートを手渡してくれ」と言われます。するとその男はものの5分でパスポートにビザのスタンプを押して戻ってきました。そして、長蛇の列の入国審査の列の脇にある空いた窓口の入国審査官にウインクしながら通り抜け、税関審査の係官にも同じ対応。空港に到着して外に出るまで、ものの10分ほどだったのです。もし、これをしなければ、1時間以上入国に手間取り、そしてタクシーの運転手とアスワンでの交渉のような一幕が待っていたのでしょう。しかも、深夜の大都会カイロの運転手は、アスワンの運転手よりは、かなりすれているはずです。
 カイロのホテルまでは40分。そのタクシー代を入れて130ドルは、価値ある出費でした。それにしても、入国審査の前にホテルの男が待っていたことには少々驚きでした。国際情勢の緊迫した中東で、もし私がテロリストだったら、などと考えるのは考え過ぎなのかもしれません。というのも搭乗したフランクルトの空港では、厳密な荷物検査やパスポートのチェックを何度も受けていたからです。

エジプトやインド、あるいはこれからも見知らぬどこかの国を旅するとき、この二つの事例を常に頭に入れて、安全と時間はお金で解決しながら、よしやるぞというときは、決して相手の言い値にのらず、交渉のゲームをしぶとく楽しむことができれば、その国の「本音」を満喫できる旅になるはずです。

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『日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)
さまざまな宗教・言語・民族が出会う世界の交差点・中東の課題を、日英対訳で学ぶ! 2023年10月に始まったハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃と、イスラエル軍によるガザ地区への激しい空爆と地上侵攻は世界に大きな衝撃を与えました。中東情勢の緊迫化は、国際社会の平和と安定、そして世界経済にも大きな影響を及ぼします。地理的にも遠く、ともすれば日本人には馴染みの薄い中東は、政治・宗教・歴史などが複雑に絡み合う地域です。本書では、3000年にわたる中東・パレスチナの歴史を概説し、過去、現在、そして未来へと続く課題を日英対訳で考察します。読み解くうえで重要なキーワードや関連語句の解説も充実!

 

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