Football Association of Ireland chief executive David Courell says it had a request to keep the Republic of Ireland and Israel separate in future competition draws rejected by UEFA.
アイルランドサッカー協会の最高経営責任者デイビッド・カウエル氏は、後の大会の組み合わせ抽選でアイルランド共和国とイスラエルが対戦しないよう求めたものの、欧州サッカー連盟(UEFA)に拒否されたと明らかにした。
BBCより
対戦への抗議とアイルランドの歴史
今ヨーロッパ諸国ではドイツで極右政党が台頭し、スペインとイタリアでは移民の受け入れをめぐる対立が表面化するなど、様々な政治問題に揺れています。その背景には、世界中で課題となっている社会の分断や物価高などへの不安があり、民意も左右に揺れています。その中で、アイルランドとイギリスとの微妙な関係が思わぬところで表面化したことが今回の話題です。
今、欧州サッカー連盟(UEFA)の主催によるネーションズリーグが開催されています。その中で、アイルランド国内では、自国の代表チームと同じグループにイスラエルが入っていることに、強い反発の声が上がったのです。アイルランドの国内にイスラエルのガザ地区での殺戮への根強い民意の反発があり、こうした反発から、アイルランドのチームがイスラエルとのサッカーの試合をボイコットするべきだという世論が高まっているのです。
ウクライナにロシアが侵攻したとき、スポーツ界を含めロシアに厳しい制裁を加えておきながら、イスラエルがガザに侵攻し一般市民の生活と生命を破壊していることには、どうしてサッカー界ではロシアと同様の参加停止措置が取られないのか、という疑問の声が上がっています。
では、なぜその問題がアイルランドで特に強い世論のうねりになったのでしょうか。そこには、アイルランドの人々の中に、イスラエルとガザの関係を、自国とイギリスとの歴史に重ねて見る人がいることも関係していると考えられます。
アイルランドは長年イギリスの植民地でした。その間独立運動によって多くの血が流れ、イギリスの圧政に苦しむ人々はアメリカにも移民として流出しました。1922年、北アイルランドの6つのカウンティ(郡)を除く26のカウンティは、アイルランド自由国としてイギリスから独立しました。その後、1949年に共和国となり、現在のアイルランド共和国へとつながっていきます。北アイルランドには、イギリスへの残留を望むプロテスタント系の人々が多くいたからです。
その後もイギリスに組み入れられた北アイルランドでは、イギリスから離れ、アイルランドとの統一を求める運動が続き、一時はテロ行為も頻発していました。IRAによる武力闘争などで不安定な時期が続いた北アイルランドで、イギリスとアイルランドの両政府や現地の主要政党が和平に合意したのは、1998年のことでした。
こうした歴史に思いを寄せるアイルランドの人々からみれば、イギリスの圧政に苦しんできた自らの歴史を振り返ったとき、イスラエルがガザ地区を占拠し、武力によって弾圧をしている行為は他人事のように思えなかったのです。
一方、イギリスは、2016年の国民投票の結果、2020年にEUから正式に脱退します。しかし、北部のスコットランドは、EU離脱への反発もあり、イギリスからの独立運動が再燃しそうな気配が続いています。北アイルランドの民意が、そうした動きに対してどのような反応をするのか、イギリス政府も神経を尖らせているのです。
ところで、植民地支配に苦しんでいたアイルランドは長年経済的に取り残されてきましたが、近年大きな経済成長を遂げています。この経済成長も、アイルランド国民の新たな自信となり、EUなどでの発言権も時とともに強くなってきたのです。

試合に臨んだ選手たちの葛藤
こうした歴史的な背景もあって、アイルランドではイスラエルのガザでの軍事行動に対する強い抗議が起こり、それがスポーツの場にまで広がっているのです。UEFAは、イスラエルとの対戦を避けるよう求めたアイルランド側の要請を拒否し、結局アイルランドは、イスラエルと対戦することになりました。しかし、対戦に反対する選手もおり、ゴールキーパーのギャビン・バズヌは、良心に照らしてイスラエルとは対戦できないとして、出場を辞退しました。
9月27日、ハンガリーのデブレツェンで行われた試合会場では、アイルランドの選手はイスラエル側との握手を拒否し、黒い腕章をつけて試合に臨むという、異常な事態となったのです。イスラエルの国歌斉唱の場面でも、アイルランドの選手は頭を下げて抗議の意思を表明しました。試合は3対0でアイルランドが勝利しました。ただ、10月4日には、もう一度両チームの対戦が予定されています。「誰も心地よく試合をしているわけではない」とアイルランドの代表監督は記者会見で強調します。
一方、イスラエル側は、スポーツに政治を持ち込むなと反発し、握手をするセレモニーでは、イスラエルの選手は手を差し伸べると主張しました。しかし、この行為自体も政治的な意味を持つのではないでしょうか。そして実際は、イスラエルも手を差し出すことはありませんでした。両チームの主将も同様の行為をとり、試合後もお互いを祝福することはありませんでした。
UEFAの中にもイスラエルの参加については様々な意見があるようです。さらに、FIFAのインファンティノ会長が進めた大会事業への民間投資計画などをめぐり、UEFAとの対立も報道されます。トランプ政権がイスラエル寄りであることは周知の事実です。

イギリスの統合とスポーツの政治性
しかし、なんといっても、この事件がイギリスではBBCなどの主要なメディアで大きく報道されていることが、アイルランドの民意に対してイギリスがいかに敏感であるかを物語っているのです。
イギリスはUKと表記されますが、それはイングランドとスコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドとを合わせてUnited Kingdomと呼んでいることに起因します。イギリスとEnglandを混同する場合もありますが、正確にはEnglandは現在のイギリスの一部に過ぎないのです。
この統合の絆にイギリスのEU脱退から次第に歪みが入ろうとしているのです。アイルランドの民意が、この絆そのものにヒビを入れる引き金になれば、それはイギリスにとって大きな政治問題であるというわけです。
現在、イギリスの国内ではEUからの脱退を悔いている人々が多数派になろうとしているといわれています。トランプ政権になって以来の世界的な政情不安と経済的な課題にイギリスが単独で対応できるのかという疑問も残ります。
アイルランド・サッカーチームの選手の気持ちは複雑です。試合直前まで、イスラエルとの試合に応じるべきかどうかチーム内で議論が続いたと報道されています。そして、監督を含めアイルランドチームの関係者は、国内の世論とそれぞれの立場に向き合いながら、今回の試合に臨んだのです。
スポーツに政治を持ち込むことが正しいのかどうかという議論は残るでしょう。しかし、日本を一歩離れると、国際政治の荒波に選手がいかに敏感であるかを思い知らされます。選手は選手であると共に市民なのです。市民は自らの政治的なスタンスを自由に表明できてこそ、民主主義が成り立つわけです。市民としての思いと選手としての立場との間で葛藤が深まったことが、今回のアイルランド選手団の抗議行動に繋がったことになるのです。
関連書籍

日英対訳 英語で話す世界情勢
ますます混沌とする世界情勢を理解するために知っておきたい世界の課題を、日英対訳で解説!
今、世界でさまざまな影響を与えている事象について、単にニュース的な見解と報道を紹介するのではなく、日本人には理解し難い歴史的・文化的背景を踏まえ、問題の向こう側にある課題を解説。そして未来へのテーマについても考察します。また本書では、学校では習わないものの、世界の重要な課題に対して頻繁に使われる単語や表現もたくさん学べるので、国際舞台でより深みのある交流を目指す学習者にも有用な一冊です。
山久瀬洋二からのお願い
いつも「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」をご購読いただき、誠にありがとうございます。
これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。
21世紀に入って、25年が経過しました。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。
そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。
「山久瀬洋二ブログ」「心をつなぐ英会話メルマガ」にて解説してほしい時事問題の「テーマ」や「知りたいこと」などがございましたら、ぜひご要望いただきたく、それに応える形で執筆してまいりたいと存じます。
皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
※ご要望はアンケートフォームまたはメール(yamakuseyoji@gmail.com)にてお寄せください。






