“I think China felt they were beaten so badly in the recent negotiation that they may as well wait around for the next election 2020 to see if they could get lucky & have a Democrat win-in which case they would continue to rip-off the USA for $500 Billion a year…”
「中国は今回の交渉でひどく打ちのめされたと思っているはずだ。彼らが辛抱強く2020年の選挙まで待って、運良く民主党が勝利すれば、彼らは我々から毎年5000億ドルかすめ取り続けられるというわけだ」
― ドナルド・トランプ氏 Twitterより
アメリカの対中外交に見る「実用主義」という意識
アメリカが中国からの輸入品の関税を25%に引き上げました。今回は、アメリカの対中国外交での強硬姿勢について考えます。 そもそも、なぜアメリカがそんなトランプ政権を生み出し、今なお強い支持率を保っているかについては、多くの人がコメントしています。 そこで、今回は少々視点を変えて、アメリカ人の根本にある「意識」と「価値観」に光を当てながら、トランプ政権の政策を分析してみたいと思います。
ポイントは、アメリカ人独特の pragmatism「実用主義」という意識です。私はアメリカが移民国家であることを頻繁に指摘します。移民の特徴は過去にこだわらず、未来と現実を生活的判断の基軸に置くことにあります。それは、彼らが新大陸で生活基盤を作る上で必要不可欠なことで、アメリカ独特の実用主義的な価値観を生み出しました。
第二次世界大戦後、日本に膨大なアメリカ人が占領軍としてやってきた当時は、彼らの6割以上が移民の2世、3世の時代でした。我々は彼らを一つにしてアメリカ人と呼んでいましたが、そのルーツは様々だったのです。 そんなアメリカに、新たな移民がアジアなどから殺到したのが70年代以降でした。彼らも元々のアメリカ人が培ってきた移民の精神を心の中で消化させながら、自らのライフスタイルをアメリカに同化させてゆきました。
21世紀になり、アメリカは円熟します。すでに、アメリカのコアな価値観を培った人々から4世代、5世代、時には6世代以上を経た人々がアメリカ社会の中核を担うようになったのです。彼らは、すでに自らを移民の子孫とは意識しません。アメリカこそが自らのルーツであり、アメリカで培われた伝統や価値観を生まれながらのアイデンティティとして意識します。祖先にルーツのある実用主義を、裕福で円熟した社会の中で自らのものとして受け継いでいるのです。 彼らは、現在外から入ってくる新たな移民を実用的な労働資源として意識します。円熟した社会を維持するために移民の労働資源を維持するべきだと考える人の多くは、トランプ政権の政策に反対します。対して、移民が自らの職を奪うものと錯誤している人々はトランプ政権を支持するのです。 「錯誤」と書いたのには理由があります。アメリカの労働者を圧迫しているのは移民が仕事を奪うからではなく、アメリカ社会が豊かになり円熟し、国内で安くかつ良質な部品や製品を作れなくなっているからなのです。社会の基盤を作る労働者には移民の協力が必要不可欠であることと、職が奪われることは同質ではないのです。
建国当初の「政教分離」と矛盾する現在のアメリカ社会
さて、ここでもう一つのアメリカ人の物の見方を考えます。 イギリスの圧政から独立したアメリカは、その経験から独裁政治を極端に嫌います。同時に、建国当初から多くの移民が宗教的な迫害を逃れてアメリカに渡ってきた経緯から、彼らは政治が宗教や個人の価値観に介入することにも強いアレルギーを抱いています。ですから、アメリカは歴史的にも共産主義やファシズムなどと対抗し、そこから避難してくる人々の受け皿となっていたのです。
しかし、ここで皮肉なことが起こります。 宗教の自由を求めてアメリカに渡ってきた人々は、新天地で自らの宗教的信念を貫こうとする人々でした。彼らは入植した地域ごとにコミュニティを形成し、強い宗教的絆の中で社会を成長させたのです。政治介入を嫌う人々は自治を重んじ、彼らはコミュニティごとに政治的な判断を行い、それが成長するに従って、アメリカ社会全体に影響を与えるようになったのです。その代表が、最近よくコメントされる、福音派と呼ばれるプロテスタント系保守派の人々です。 宗教と政治との分離によって信教の自由を望んできた人々の社会が成長し、自らの宗教的理念をもって政治を左右させるようになったわけです。これはアメリカ社会の大きな矛盾です。そして、彼らこそがトランプ政権の支持母体となったのです。そんな保守派の人々に対して、政教分離と、それが守られないことによって懸念される個人の価値観への政治介入を怖れる人々との意識の対立が、アメリカ社会の分断を生み出したのです。
そもそも、福音派に代表される古いプロテスタント系の移民社会を尊重する人々から見れば、社会が分断されているとは意識しません。自らが作ったアメリカの理念を守り、成長させようと思っているに過ぎないのです。しかし、他の人々は、その考え方こそが政教分離を脅かし、個人に他者の宗教的価値観を押し付けるものであると感じます。 そこで福音派に代表される人々は、自らへの反論をかわすために、イスラム教徒やアジアからの移民といった非キリスト教徒、さらには伝統的にプロテスタントと対立するカトリック系の人々の多いメキシコなどの影響から自らを守るべきであると主張し、彼らをスケープゴートにするのです。
トランプ流の「実用主義」政策と向き合う日本の外交
とはいえ、アメリカは無数のグローバル企業が成長している社会です。企業には世界中から様々な価値観を持った人々が集まり、アメリカ経済の成長に貢献しています。そうした多様な社会で育った人々は、当然のことながら、従来のプロテスタント系移民社会がもたらす軋轢に脅威を感じているわけです。 そこでトランプ政権は、閉鎖的な保守層以外の人々からの支持を拡大させ、移民が仕事を奪っているのではないと分析している人々を納得させるために、アメリカへの輸出大国・中国との貿易摩擦を強調し、強硬姿勢を貫きます。 同時に、福音派に代表される人々の支持を維持するために、福音派の人々が融和政策をとるイスラエルを支持し、メキシコなどカトリック系の国家からの移民を規制します。加えて、イスラム教国家の中でもアメリカと強く対立してきたイランへの強硬な姿勢を貫くのです。
この二つの政策は一見、無関係に思えます。しかし、アメリカの広範な人々の支持を得て再選を確実なものにするためには大切な政策の両輪なのです。これが、アメリカの pragmatism「実用主義」に支えられたトランプ流の政策なのです。例えば、サウジアラビアとイランとでは宗派の違いはあっても、アメリカにとってはどちらもイスラム教国家であることに変わりはありません。しかし、サウジアラビアと軍事的、政治的に繋がり、中東の利権を維持していた方が、アメリカにとって理に適っているのです。
日本が外交政策で注意しなければならないのも、この「実用主義」です。現在と未来に変化の兆しがあれば、右が左になり上が下になっても、彼らは罪悪感なくそれを外交政策に反映させます。自らのスタンスを変化させることへの罪の意識は希薄です。特に、プロテスタント系アメリカ人保守層に支えられているトランプ政権は、アメリカ第一主義を貫きます。であれば、この実用主義に則った政策を維持する傾向は、過去のどの政権よりも強いはずです。 アメリカ人の中にある伝統的な「実用主義」。これとポピュリズムとが結びついて世界を翻弄しているのが、現在の国際情勢なのです。
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『日英対訳 アメリカQ&A』山久瀬洋二 (著)IBCパブリッシング刊地域ごとに文化的背景も人種分布も政治的思想も宗教感も違う、複雑な国アメリカ。アメリカ人の精神と社会システムが見えてくる!