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指導体制の強化で見える中国と世界の今後の関係

Harvard shifts Program from “Unfriendly” Beijing to Taipei.

(ハーバード大学は「友好的ではない」北京から台北にプログラムを移動)
― Bloomberg より

習近平体制の継続により不透明になった東アジア情勢

 中国で全人代が終わったとき、多くの人がこれでゼロコロナ政策は終わるのかと安堵しました。しかし、その気配はいまだ見えてきません。中国はほぼ鎖国をしているかのような状態で、この2年間息を潜めています。
 アメリカでは、中国経済の鈍化に対して、我々は中国を過大評価していたのではないかという論調も増えています。アメリカが金利を引き上げてドルが強くなったことで、世界の通貨は軒並み価値が鈍化しています。中国元も例外ではありません。
 
 しかし、中国の経済の先行きが不透明な中で、この数か月、水面下で激しい権力闘争が行われていたのではないかという中国の指導体制が、今回の全人代を終えて習近平氏の求心力強化という形で決着しました。共産主義青年団出身のエリートで序列No.2の李克強氏との対立が噂されながらも、大きな波紋もなく習体制が継続し、鄧小平体制以降、脈々と続いていた改革開放を推し進める指導体制も胡錦濤、李克強氏のラインを最後に終焉したかのように思われます。
 
 このことはアメリカにとっても、ヨーロッパや日本にとっても、多少想定外の出来事であったはずです。今回の全人代を通して、中国に何らかの変化があり、そのことで台湾をめぐる緊張など、様々な課題解決への糸口が見えてくるのではないかという期待が先送りされたからに他なりません。
 では、これから東アジアはどうなってゆくのでしょうか。台湾は本当にウクライナのような脅威に怯えなければならないのでしょうか。そして、何よりもその脅威に対抗するために、アメリカの軍事力や経済力に依存しなければならないのでしょうか。
 
 今年の春にアメリカの大物議員が続々と台湾を訪問し、中国を刺激したのも、実は10月の全人代を狙ったアメリカの揺さぶりだったはずです。
 今回、アメリカに出張をしたときにも、中国に対するアメリカの空気が明らかに冷めきっていることを実感しました。その最も象徴的なことが、中国語学習熱の冷却化です。ゼロコロナ政策によって、中国は海外からの人の流入をせき止めました。海外からの影響を直接受けることなく、インターネットもコントロールして香港を完全に中国化し、次の矛先を台湾に向けています。国内では、厳しいメディア統制で世論を操作し、習近平体制の強化が押し進められました。それに呼応するように、アメリカ国内でも国民の中国への関心がどんどん希薄化していったのです。そして、あぶり出されるように軍事的な脅威だけが表面化してきました。
 

習近平政権で「下放」組の王毅氏は生き残れるのか

 李克強氏は、北京大学出身のいわゆるエリートで、外交手腕の上でも有能な人物でした。鄧小平が次世代の指導者としてじっくりと育て上げた胡錦濤氏によって引き上げられ、党の幹部に昇進してきた能吏です。一方の習近平氏は、文化大革命時代に下放され、高等教育を受ける機会も逸したまま、政治力でのし上がってきた叩き上げです。さて、そんな習近平氏にとって海外とのネットワークの要として必要だった人物が王毅氏です。王毅氏は、李克強氏が来年退任したあとに生き残れるか、それともさらに重用されるか我々は注目する必要があります。
 
 王毅氏は習近平氏と同じく文化大革命での下放組で、最終学歴は政治の中枢への花道とは縁遠い北京第二外国語大学です。専攻は日本語で、極めて異例とも言われる外交部への抜擢のあと、駐日大使も務めました。台湾問題でも外交の要としてその微妙な業務をこなし、習近平政権でさらに頭角をあらわしました。ただ、極めて国内志向の強い習氏とは対照的に外交官として華々しい功績を積み重ねています。そんな異なる人物像が協調へと向かうのか対立へと向かうのか、少々興味が湧きます。確かに、王毅氏はリスクの高い中国の政界の中で器用に泳ぐことにも長けているため、日本としては彼が日本語を話し日本への理解があるということだけで、ただ安心できない側面もあるのです。
 
 一方、以前にも解説しましたが、王毅氏は周恩来の子どもであるという噂があり、そのことが彼の例外的な出世にも影響を与えてきたという人も多くいます。実際、彼の行動は文化大革命を見事に生き抜いた周恩来に重ねてみると、類似点が多く、習近平政権の中でも、自分の立ち位置を守りながら、外交力によってサバイブしてゆくのではという人も多くいます。
 

内向きの世界で評価される台湾/評価されない日本

 コロナ以来、多くの国が内向きになってしまいました。その最たる例が中国といえましょう。一方、日本はコロナでの経済的な打撃から立ち直れません。コロナ禍は、歴代の政権によって積み上げられた国の債務を軽減し、経済力の再生を目指した矢先の災禍で、免疫力の弱った日本を狙い撃ちしたかのような出来事でした。
 ここで強調したいのは、アメリカを中心とした西側諸国で中国熱が冷却したときに、日本が再評価されなかったことです。ハーバード大学での中国語や中国に関する学術交流の提携先が北京から台北へと移行したものの、日本との交流の再評価という方向には誰も興味を示しませんでした。
 円安はアメリカとの金利差が原因という人が多くいますが、円を買うという魅力がもはやなくなっていることが、その本質です。金利を上げれば負債で喘ぐ国が破綻するということを世界の市場は見越しているはずです。
 
 台湾では今大学が連携し、学生が複数の大学で学習し単位を習得できる仕組みが整ってきています。英語を台湾華語(中国語)と共に公用語とする政策により、英語での授業も受けられることから、日本からの留学にも広く門戸を開いています。ドル高で、アメリカなどで学ぶよりも生活費の安い台湾で、という動きも出てきています。
 
 中国がこれから軍事的脅威だけではなく、積極的な文化経済交流の復活へと舵を切れるかどうかが不透明な今、中国の政治を注視しながらも、相対的に台湾の株が世界で浮上していることも興味深い事実なのです。
 

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『中国語は英語と比べて学ぼう! 初級編』船田 秀佳 (著)中国語は英語と比べて学ぼう! 初級編』船田 秀佳 (著)
中国語を学ぶのに、英語を使わない手はない!SVO型で似ていると言われる2大言語、「英語」と「中国語」。本書では、英語と中国語の厳選した 80の比較項目から、似ている点と違う点に注目し、ただ英語と中国語の羅列や併記をするのではなく、しっかりと比較しながら学べるようになっています。中学·高校でせっかく学んだ英語の知識を活用し、日本語·英語、そして中国語の3カ国語トライリンガルを目指しましょう!
※本書は、国際語学社より出版されていたものを一部、改訂改題したものです。

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