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ウクライナ航空だけではない民間航空機撃墜という悲劇

AFP via Getty Images / ©2020 Cable News Network

“Protesters take to streets in Tehran, furious at their government for shooting down Ukrainian passenger plane.”

(イランでは、政府がウクライナ航空機撃墜事件を起こしたことに強く憤った人々が、抗議のためテヘランの通りを埋め尽くしている。)
― CNN より

高まるイランとアメリカとの緊張感

 イランで発生したウクライナ航空機の墜落事件で、イラン側が誤射により同機を撃墜したことを認めたことは、世界に大きな衝撃を与えました。
 このことが、意図的な行為ではなかったにせよ、罪もない民間人が殺害されたという事実は重いものです。イラン国内でも、軍が誤射した上に、政府がそれを即座に認めなかったことへの怒りの声が人々の間に上がっているようです。
 この事件の背景には、アメリカとイランとの長年にわたる緊張関係があったことは否めません。しかも、イラン軍の指導者バクダッドでアメリカ軍によって殺害された報復攻撃の連鎖が、この悲劇の原因であることは誰もが知るところでしょう。
 
 実は、イランとアメリカとの緊張による民間航空機への誤射は、今回だけではないのです。すでに32年前に全く同じことが、しかもアメリカ側の誤射によって発生し、290名もの命が失われた事件があったことを忘れてはなりません。
 それは、テヘランからドバイに向かったイラン航空655便をアメリカ海軍が撃墜した事件です。この航空機には6カ国の乗客290名が搭乗しており、全員が死亡しています。
 従って、今回の事件が報道された直後、私はもしかするとアメリカ軍からテヘランにある空港へミサイルの発射があり、そのミサイルが誤ってウクライナ機を追尾してしまったのではと思ったほどでした。
 
 イランとアメリカ双方の関係者の心の中には、その時にアメリカが行なった行為と今回の悲劇とが、複雑に交錯していたことでしょう。アメリカは事件発生後9年経って、犠牲者への賠償金の支払いには応じたものの、それは犠牲者を含む人的物的被害の全てをカバーするものではなかったのです。
 
 今回、イラン側は相当動揺したようです。アメリカによる戦闘行為に怒りの拳を振り上げた直後に起きた誤射だけに、世界に対してどのように説明すればよいか、発表までにあれこれと考えたことでしょう。もともとの原因となったアメリカによるイラン軍責任者の殺害行為が世界から懐疑的に見られていた時だけに、誤射事件でアメリカへの非難自体がしにくくなることを懸念したはずです。
 ただ、起こったことはできるだけ透明に迅速に対応することが、国際間での信頼関係を維持するためには絶対に必要です。そうした教訓を我々に伝えるためにも、今回の事件はしっかりと調査するべきであることは言うまでもありません。
 

繰り返される民間機撃墜の悲劇

 国家間の緊張や戦闘行為が、こうした思わぬ惨事へと繋がった事例は、他にも多々あります。代表的な事件としては、冷戦の緊張の最中の1983年に、誤って領空を航行していた大韓航空機が旧ソ連軍によって撃墜された事件や、最近では2014年に紛争地域であったウクライナ上空を航行していたマレーシア航空機が、親ロシア派とみられる戦闘員のミサイル攻撃で撃墜された事件が記憶に新しいはずです。いずれも愚かなことです。
 
 今回の場合、イランが今後被害者の所属する国や遺族にどのような対応をするかは、これから見つめていかなければなりません。ただ、それと同時に、過去に同様の事件が何度も繰り返されている事実を、もう一度検証するべきではないでしょうか。
 紛争地域や国際間の緊張が高まっている地域を全て回避して民間航空機が航行することは、事実上不可能かもしれません。それだけに、テロを事前に防止するのと同様の注意や管理が、当事国となる国々の中で行われるように要望したいものです。
 
 アメリカの場合、今回の事件とイランとの緊張とを混同して、ただイランを一方的に責めることは慎むべきかと思います。実際、アメリカの場合、これ以上イランとの緊張が高まれば、ロシアなどイランと緊密な関係にある国家との関係はもとより、ヨーロッパなど多くの国々との信頼関係にも影響が出てくるでしょう。それはイランにとっても同様です。
 
 一般的に言って、現在の武器は小型化かつ無人化しています。アメリカがイランの軍事関係者を殺害したときは、ドローンが使用されました。また、ターゲットを破壊するときは弾道ミサイルが使用されます。スピードやサイズからして、レーダーによってそれが民間機のような大型で多人数が搭乗しているものか否かは見分けられるはずです。特に、アメリカやロシアといった防空に長けた大国は、そうしたレーダーをはじめとする察知機能は充分に進化しているはずです。それでも民間機が撃墜されるということは、軍隊の現場が本当にそうした先端技術にしっかりと依拠し、かつ指揮命令系統が徹底しているのかどうかをしっかりと調査する必要があることを物語っています。
 

すべての失われた命に祈りを

 実は、イランとアメリカとの緊張が高まり、こうした事件の連鎖が起こったとき、私はちょうどロサンゼルスからの帰国便で太平洋の上空を飛んでいました。
 太平洋はその名前の通り、最も安全な公海かもしれません。それでも、今回のフライトは気流が悪く何度も大きく揺れ、嫌なものでした。ウクライナ航空に搭乗していた犠牲者の恐怖と苦痛がどれほどのものだったかと想像するだけで、心が痛みます。
 
 そして成田空港に到着後、車で帰宅するときにラジオをつけると、なんとあるFM局で株の専門家が、音楽を交えたカジュアルな番組の中で、今アメリカとイランとの間の戦争によって、軍事物資を生産する企業の株が買いだという解説をしていました。
 思わずなんと酷い解説だと怒りを覚えました。人が死に、傷つくことと、株価の上下との関係が無縁ではないことは充分に理解していても、そうした解説をFM局のカジュアルな番組で平気でする人と、そんな株の売買に熱を上げる人がいること自体が、現在の世界の危機の象徴なのではと思ってしまいます。
 
 これ以上、イランとアメリカとの関係が悪化しないよう、宗教や思想信条を超えて一緒にお祈りをしようよと、帰宅後アメリカに住むイラン系の友人と、スカイプを通したビジネスの打ち合わせで語り合ったのは、ほんの数日前のことでした。
 

* * *

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異文化対立への模索にゆれるアメリカ社会

“Inclusive leadership is a process of bridge-building. It involves careful listening, outreach to people with different perspectives, and persistent, stubborn efforts to find common ground.”

(インクルーシブ・リーダーシップとは、人々に橋をかけるプロセスのことだ。それは、異なるものの見方に対して粘り強く、かつ諦めずに耳を傾け、その人たちの言葉をしっかりと聴きながら語りかけ、共通項を見出すための努力を意味している。)
― Ernest Gundling・Aperian Global から

人々の語りから聞こえる閉鎖的なアメリカの軋み

 アメリカに到着した二日後、アメリカの真ん中にあるオクラホマのイラン系のレストランで、仕事相手の一家と夕食を共にしました。
 彼はアメリカ中西部で、留学生に向けた英語学校を9校運営する事業家です。出身はイラン。若い頃に祖国の混乱に追われてアメリカに移住してきた彼は、自らの経験から子供の頃に多言語に接することがいかに人の頭脳に良い影響を与えるか話してくれます。

「今、トランプのために留学生にビザがおりにくくなっているね。だから国内での多言語教育に力を入れなければならないんだよ」

 彼はそう語ります。確かに、留学生に関係する教育機関は、どこもトランプ政権の閉鎖的な政策の影響が自らに及ぶことを懸念しています。

 
 次の日の夕方、3時間のフライトの後、ロサンゼルスに着きました。ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカにあるビーチクラブには富裕層が集まり、夕食を楽しんでいます。

「おい。俺たちの中ですら、トランプを支持している奴がいるそうだ。大きい声では言えないけど。あいつもしかすると再選されるかも」

「そんなことがあったら、俺はカナダ人になるよ。この国に未練はないさ」

「それよりお前の持っているメキシコの別荘、どうするんだよ。メキシコとの国境がいよいよ閉鎖されるかもしれないって言っているよ。週末向こうで遊んでると、帰れなくなるぞ。気をつけろよ」

「かまわんさ。やれるものならやってみろ」

目指すべきは異なる宗教や人種、価値観の融和

 さらに次の夜、サンタモニカの別のレストランで、シアトルから出張してきている会社の社長と夕食を共にしました。最後にコーヒーを飲みながら、彼は自分の身の上についてぼそぼそと語り始めました。

「俺はなあ。11歳のとき、エリトリアからスーダンまで11日間歩いて亡命したんだよ。エリトリアって知っているかい?」

「ああ、エチオピアの北にある小さな国だね。その頃何があったんだい」

「エリトリアは当時エチオピア領だった。そして独立運動が起きたとき、運動を起こした青少年に対して凄惨な虐殺があったんだ。子供にも容赦なかった。だから父親は俺を守るために、エリトリアからスーダンに密かに亡命させたのさ」

「なるほど。それからサウジアラビア経由でアメリカに移住してきたわけだね」

「そうだよ。ところで、日本ではニュージーランドでおきた惨劇はどう報道されている?」

「一応、ショッキングな事件なので報道はされているけど、日本は平和だよ。大きなリアクションがあるわけではない。君の住むシアトルではどうなんだい」

「シアトルでは皆がモスクに集まった。それもムスリムだけじゃない。キリスト教徒もユダヤ教徒も、様々な心ある人がね。そして、人種や宗教による対立をなくそうと話し合ったよ。この動き、アメリカの各地で起きてね。一つのムーブメントになっている。俺もムスリムだから、ニュージーランドのことは人ごとじゃない。この動きをしっかり支援しているよ」

「そうか。今度シアトルに行ったら、一緒に連れて行ってくれよ」

 翌日のこと、同じ会社のオーナー夫婦に誘われました。彼らは悠々自適な生活を楽しむ70代後半の夫婦です。

「ヨウジ。お前マリファナショップに行ったことがあるかい」

「ないよ。いきなりなんだい。確かカリフォルニアでは合法になったとは聞いているけど」

「面白いよ。身分証明書を提示して、20歳以上であることを証明すれば誰でも入れる」

「なるほど。でも連邦政府は違法だって言っているだろ」

「そうだ。でも州は認めている。皆で合法にするか否かの投票をしたからね」

カリフォルニア州で合法で、連邦政府で違法だとは奇妙だね」

「まあ、その奇妙なところがアメリカさ。だからトランプがいても、ここではしっかり移民が働いている」

 彼に連れられてマリファナを購入する店を見学してみると、店内は思いの外モダンで、アップルストアか何かのようでした。様々な商品があり、店員が説明をします。

「あそこにATMがあるね」

 私はオーナー夫婦に質問します。

「デビットカードかキャッシュでしか購入できないからね。連邦政府と対立しているから、銀行が支援しないんだよ。だから常にキャッシュ商売というわけだ。でも、このビジネスに将来性があるからと投資する金持ちは多いんだよ」

 もちろん、私は日本で違法なマリファナを買えません。その後、夫婦に連れられて映画を見た後、夜遅くまで世界情勢など様々な話題について語り合いました。

多様性が広がる世界、そして日本に求められるものは

 それから二日経った夜。私はサンフランシスコ郊外の海辺のレストランにいました。古い友人との夕食です。彼は、国際企業でのリーダーシップやコミュニケーションに関するコンサルティング会社を経営しています。

「最近どうだい」

「会社の人事部門から、いかに社員間の対立をコントロールすればいいか相談がひっきりなしだよ」

「いざこざって?」

「考えてもみな。アメリカの会社では多様な背景を持った人が働いている。考え方も様々なんだよ。そこにトランプ政権ができて、移民政策をコントロールし始めた。職場でいきなりトランプを支持する野球帽をかぶったクレイジーな奴が立ち上がって、他の人たちを非難しかねないだろ。そうしたことを防ぐにはどんな研修が必要かっていうことさ」

「そうか。オクラホマで打ち合わせをした奴も、サンタモニカで出会った社長も皆中東からの移民だった。彼らも苦労しているようだよ。でも、カリフォルニアはマリファナを合法化するぐらいだから、まだリベラルな人々の聖域じゃないのかな」

「そんなことはないよ。ここだってどうなるかわからない。大切なのは inclusive leadership(インクルーシブ・リーダーシップ)を誰がとれるか、ということだね。つまり、人々の違いを受け入れながら、それをまとめてゆく力をリーダーが持たなければ、これからの組織での前向きなチームワークは難しくなる」

「なるほど。異文化でのコミュニケーションをさらに掘り下げているわけだ」

「ああそうさ。すでに多様性にさらされている世界企業で働く人々が、政治や一部のポピュリズムによって分断されてはまずいからね」

 
 多くの人が、今の世界の状況を憂いています。しかも、アメリカではそれが自分自身の仕事や生活と深く関わっていることが、こうした会話から理解できます。さて、日本人はこうした会話に接して何を感じ、どう思いを馳せるのでしょうか。
 

* * *

『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。
本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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「戦争とビジネス」、そして「グーグルとビッグデータ」

Delegations during signing of the Treaty of Versailles

“We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.”

(われわれは、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということは、自明なる真実であることを信じる。)
― アメリカの独立宣言より

パリ講和会議に見る「アメリカの世紀」

 ちょうど100年前の1月18日から、パリで第一次世界大戦後の体制を決定するための講和会議が開催されました。
 会議の名前は、パリ講和会議。日本を含む主要な戦勝国5カ国を中心に、世界大戦に関与した国々が集まり、戦後の世界のあり方について討議したのです。
 
 世界史に興味のある人ならお分かりのように、この会議では当初、敗戦国には賠償金を請求せず、恒久的な和平を実現するために国際連盟を設立することなど、様々な理想が討議される予定でした。
 しかし、実際に締結された講和条約には、敗戦国ドイツに対する高額な賠償金の支払いが盛り込まれ、国際連盟にアメリカ合衆国は参加しませんでした。その結果、経済的に破綻したドイツが国家主義に走り、ヒトラー政権を生み出したことは、多くの人の知るところでしょう。
 
 講和会議では、世界史で初めてアメリカの存在感の大きさが注目されました。20世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれています。20世紀初頭に移民による豊富な労働資源と消費パワーに押され、さらに19世紀に開拓した広大な領土と、そこで根付いた産業に押され、アメリカは経済大国へと成長したのです。
 アメリカは世界の金融市場にも大きな影響を与えるようになります。もともとアメリカは、イギリスの経済的束縛から脱却しようと独立した国家です。ヘッドラインで紹介した独立宣言にも書かれているように、アメリカは「幸福を追求すること」を国民の基本的な権利であると、世界に先駆けて保障した国家です。この「幸福を追求する権利」の保障こそが、アメリカ人の資本主義精神の背骨となるのです。言い換えれば、アメリカでは経済活動、資本主義活動は、国民の根本的な価値観に沿った行為であるといえましょう。
 
 さらにいえば、こうした経済的発想こそが、アメリカ人のいう「business」という感覚なのです。例えば、日本人は露骨にお金の話をすることを伝統的に忌避する傾向があります。ですから、「business」感覚をむき出しにせず、商業活動においても物事を婉曲に進めることを求めがちです。しかし、20世紀になって、そうした「business」的な風土を持つアメリカが世界経済に大きな影響を与えだすと、人々は以前よりも資本主義を信奉し始めるのです。
 

John Trumbull: Declaration of Independence

資本主義が推進する「戦争」という名の「ビジネス」

 第一次世界大戦は、そんな経済的な論理の影響を強く受けた、最初の戦争といっても過言ではありません。アメリカの金融界は戦争に対して投資を行い、その投資した資金の回収を強引に進めます。特にイギリスやフランスへの投資が無駄にならないようにと、アメリカは経済界の圧力の下、伝統的な孤立主義を打ち破って自らもヨーロッパ戦線に参戦します。そして、戦争が終わると、敗戦国からの賠償金の取り立てによって投資の回収を急ぎます。当時のアメリカのウィルソン大統領が提唱した理想主義も、金融界のそうした動きの中で封じ込められてしまうのです。
 
 それ以降、「戦争はビジネス」という一つの常識が生まれました。戦争は国家による巨大な消費行動です。武器のみならず、ありとあらゆる産業が戦争に動員されます。このことが、金融業界や資本家を益々豊かにしてゆきます。
 戦争は、必ずしも有利に展開するとは限りません。しかし、仮に味方が不利であったとしても、生産活動やそれに対する投資には追い風になるかもしれないのです。ある時期まで、ヘンリー・フォードをはじめとしたアメリカの経営者の多くが、ヒトラーを支持していたことは有名な話です。彼らの心の中によぎったのは、こうした資本主義の理念が、ソ連によって打ち砕かれることへの恐怖でした。ドイツに共産主義の浸透を阻止する壁となって欲しかったのです。同時に、独裁国家によって急成長を遂げるドイツの軍備、そして経済への投資にも興味があった彼らにとって、ヒトラーを支持することは、一石二鳥の効果があったのです。
 
 その後、ヒトラーの政策が過激になり常軌を逸してくると、彼らの態度も一変します。しかし、この「戦争とビジネス」との関係は、第一次世界大戦以後、現在に至るまで継続しているのです。ベトナム戦争はアメリカに苦い教訓を与えました。しかし、当初ベトナム戦争に消極的であったケネディ大統領を押し切って、泥沼の内戦への介入を強く求めたのは、アメリカの経済界だったのです。中東でも同様のことがおこります。「戦争とビジネス」、それは今もなお切っても切れない、人間の欲望の追求のテーマとなっているのです。
 
 もちろん、こうした発想にブレーキをかけようと、人々が良心に訴えてきたことは事実です。しかし、戦争とビジネスとの相乗作用によって世界がより便利になり、軍事技術が通常の産業に転用され、人々の「幸福を追求する権利」への甘い蜜となったとき、我々はともすれば妥協をして、そうした繁栄を享受しようとしがちです。
 
 21世紀に入り、「戦争とビジネス」との関係は新たな段階へと「進化」しました。それは、サイバーセキュリティという新たなビジネスが、戦争やそれを遂行する国家運営と手を組んだことです。
 世論を操作するために、グーグルなどによるデータが、国家のニーズに沿って活用されつつあることも懸念材料です。個人の様々な消費行動や趣味趣向がビッグデータに集積され、それが世論操作へ活用されようとしています。選挙はいまや、ネットビジネスにおける巨大な市場の一つです。民主主義を操るツールとしてSNSやAI、さらにビッグデータが活用されていることは周知のことです。しかし、それが第一次世界大戦以降の「戦争とビジネス」との婚姻関係が進化し、モンスター化した結果であることに気づいている人は少ないかもしれません。
 

2019年、「戦争とビジネス」はどこへ向かうのか

 18世紀から19世紀にかけて、人々はアメリカでの綿花の生産を支えるために、進んで奴隷貿易に投資しました。奴隷を捕獲し輸出したのは、アメリカの資本家だけではありません。それによって利益を享受した、イギリスやオランダも奴隷貿易の恩恵にあずかったのです。そのモラルが問われたとき、人々はさらに巧妙に民主主義やグローバリズムの衣を被りながら、「戦争とビジネス」との婚姻を進めました。そして現在、その婚姻関係の蜜月を享受しようと、新たなツールであるインターネットやAI技術に目をつけているのです。
 
 ビジネスは、人々に幸福と不幸を同時にもたらす諸刃の剣であることを、我々は今まで以上に知っておく必要があるわけです。
 パリ講和会議からちょうど100年経つ今、我々は改めて「戦争とビジネス」との関係に注視するべきなのです。
 

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『The Mark Zuckerberg Story (Facebookを創った男: ザッカーバーグ・ストーリー)
』トム・クリスティアン(著)The Mark Zuckerberg Story (Facebookを創った男: ザッカーバーグ・ストーリー)』トム・クリスティアン(著)

世界を席巻する巨大メディアFacebook創始者マーク・ザッカーバーグ。最新の話題をシンプルな英語で読む!ビジネスシーンで使えるボキャブラリーも満載。
利用者が全世界で増え続ける交流サイト最大手”Facebook”のアイデアは、米ハーバード大学の寮の一室からはじまった。2004年のことだ。その部屋に住む男子学生の名前は、マーク・ザッカーバーグ。数年で巨大メディアを生み出すことなど想像もしない19歳の学生だ。その若き実業家ザッカーバーグの大学時代の活動から、最新の超大型企業買収までを平易な英語で綴る。

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海峡と川を隔てた明暗が南北問題を浮き彫りに

“An 8-year-old boy from Guatemala died in United States custody early Christmas Day, the second death of a child in detention at the southwest border in less than three weeks, raising questions about the ability of federal agents running the crowded migrant border facilities to care for those who fall ill.”

(グアテマラからの不法移民として、アメリカ当局に収監されていた8歳の少年がクリスマスの日に死亡。アメリカ南西部の国境地域では、この3週間未満で2件目のできごととなる。このことは、混み合った施設で連邦政府の当局者が不法入国者の健康問題などへ対処する能力に限界があるのでは、という疑問を投げかける)
 
―NY Timesより

 ヘッドラインで紹介した記事を分析するために、まずはアメリカを離れてみます。
 北アフリカの西の端、スペインと海を挟んで対峙するモロッコを飛行機で発てば、30分もしないうちにヨーロッパ上空に至ります。そこにあるジブラルタル海峡は、世界の南北問題を象徴する海峡です。
 一方、メキシコとアメリカとの国境に流れる川、リオ・グランデの川幅はそれほど広くありません。メキシコとアメリカとの国境は、ここに報道されている通り、移民の受け入れをめぐるもう一つの南北問題を象徴する現場となっています。

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ドゥテルテ政権とアメリカの世論のギャップが語ること

ROBINSON NIÑAL JR./PRESIDENTIAL PHOTO

“Leaders of China and the Philippines have preliminarily agreed to cooperate on oil and gas exploration, a move that has angered many Filipinos wary of Chinese territorial expansionism in the region.”

近郊での領土拡張政策に不安をいだくフィリピン人を刺激しながらも、中国とフィリピンのリーダーは石油とガスの資源開発での協力について基本合意に。
(CNNより)

ダイアローグ:ドゥテルテ大統領とアメリカ世論

「ねえ、アメリカの人って一般的にフィリピンの大統領のことをどう思っているの?」
あるフィリピンの友人が、先日マニラでにこう問いかけました。
「残念ながら、ドゥテルテ大統領は人権を無視して、人を裁判なしで殺害するような、とんでもない指導者だと思っている人が多いと思うよ」
私は、ドゥテルテ大統領に対するアメリカの一般的な世論を率直に伝えました。その上でさらに、
「確かにあれは、オバマ政権の時の外交の過ちだったかもしれない。オバマ政権はリベラルで様々な功績を残したけれど、外交では中東問題などでも失敗している。フィリピンに関していうならば、フィリピンの実情を熟慮せずに表面に現れた事柄だけでドゥテルテ大統領を批判したことが、両国の関係の悪化につながったことは否めないね」と付け加えました。

「アメリカ人って、自分たちの価値観を平気で押し付けてくる。フィリピン社会がどれだけ賄賂や麻薬などに苦しめられてきたか、誰も理解していないのよ。私の近所でもドラッグが横行し、政治家は腐敗していた。だから誰も将来に希望を持てなかったの。この深い闇を是正するには、強権によるリーダーシップがどうしても必要だったのよ。それを豊かな国の人が、人権の侵害なんて綺麗事じみた言葉で批判するのは簡単だけど、それは的外れ。どうかと思う。実際、ドゥテルテが大統領になって、犯罪も政治の腐敗も少なくなった。社会が発展するために最小限必要な土台ができつつあるのよ。今までは何をしようとしても、お金が政治家に流れるだけで、社会インフラも整わなかった。オバマ大統領には、そんな現実を見据えた上でコメントしてもらいたかった」

友人はそう説明をしてくれます。

「いえね。アメリカの世論を味方にすることは、外交上極めて大切なことではあるけれど、それは容易なことじゃないんだ。特に、海外で人権という金看板が侵害されていると報道されると、民主党にしても共和党にしても、アメリカの国内世論を考えて、それはとんでもないことだというふうになってしまう。それはフィリピンだけのことじゃないよ。日本だって女性の人権が侵害されているとか、移民に対する差別が横行しているなど、様々なことがアメリカ社会で問いただされてきた。アメリカは大きな国で、多彩な移民社会だけに、物事を白か黒かという単純な図式で説明しないと意図が社会に浸透しにくいんだ」

「そうね。アメリカ人のいうリベラルって言葉が時々独りよがりで偽善的にすら聞こえてくるのは、そのせいかもしれないわね。例えば、フィリピンでいえば、独裁者だったマルコスは悪人で、その政権を倒した後にしばらくして大統領になったコラソン・アキノは、民主化されたフィリピンで女性初の大統領ということで、アメリカのリベラルな人々に支持されていた。でも、現実はといえば、彼女の政権は賄賂で汚れた政権だった。ドラッグ問題もほとんど改善できず、フィリピンは犯罪の多い危険な国になっていた」

「確かにね。しかも、ミンダナオ島を中心にイスラム原理主義によるテロも頻発していたよね」
「そう。そんなミンダナオ島の問題を解決し、麻薬組織も追放したことが、ドゥテルテが大統領になる前のミンダナオの知事だった頃の功績だったのよ」

ドゥテルテが導くフィリピンの未来は

今、フィリピンは東南アジアの中で微妙な位置に置かれています。
フィリピンは、一時南シナ海の領土問題で中国と緊張関係におかれ、アメリカとの同盟強化を意図していました。しかし、ドゥテルテ大統領になって社会改革が進む中で、それを強権政治と批判したアメリカとの感情のもつれがとれないまま、今フィリピンはここで紹介されているように、一部の有権者の不安をよそに、中国との関係改善に極めて前向きです。中国から資金を調達し、社会基盤を整えることにも積極的です。
ベトナムやインドネシアなど、中国の覇権を警戒している国々の列から、明らかにフィリピンは離脱しつつあるのです。
 
11月30日に、コラソン・アキノが大統領であった頃のアメリカの指導者、ジョージ H. W. ブッシュが死去したというニュースが飛び込んできました。94歳でした。
両名が大統領であった頃、実はアメリカとフィリピンは緊張関係にあったのです。アキノ政権は、日本にとって沖縄の米軍基地にあたるスービック基地を閉鎖し、アメリカとの軍事同盟にくさびを打ち込んだのです。しかし、その後長い間フィリピン経済は低迷し、東南アジアの他の国々の伸長と比較しても、状況は改善されませんでした。
 
今、ドゥテルテ政権になって、そんなフィリピンにようやく未来が見えてきたという人が多いのも事実です。
豊富な人口資源と8000もの島を有する広大な国土をみれば、確かに今フィリピンに将来性を感じるのは当然です。
 

 

複雑なフィリピン社会とステレオタイプ

「だから、アメリカの世論が常に正しいとは限らない。フィリピンは長い間スペイン領で、その後アメリカが植民地にした。第二次世界大戦では日本に占領され、その後はずっとアメリカの傘下にあった。だから、フィリピン人と一言でいっても、先祖はさまざま。中国系、スペイン系、アメリカ系、日本系などなど。これがフィリピン人の顔だなんてないのよ。一人一人まったく違ったルーツがあるのだから。言葉だって、地方地方で異なっている。フィリピンの言葉はタガログ語だと思っている人が多いけど、タガログ語はマニラ周辺の言葉を無理やり国の言葉にしただけのこと。だからこそ、英語が多くの人にとっての共通語になるわけ。そんな複雑なフィリピン社会を一つの国家として発展させてゆくには、時には強力な指導者が必要なわけ。アメリカ人ってそういった事情を理解せずに、なんでも自分の尺度でものをいう。腹が立つわね」

「アジアの価値と欧米の価値とは、その土台が異なるために、よくぶつかってしまう。アメリカはある意味で、欧米の価値を代表しているように思えるけれど、ヨーロッパとアメリカとではものの考え方が大きく異なるのも事実。ただ、ことアジアへの評価となると、そこにはやはり欧米に共通したステレオタイプがあることは否めない。フィリピンの複雑な過去や社会的現実に対して、彼らのほとんどは無知なはず。それだけに、いかに正しい情報を欧米社会に伝えるかという課題にいつも苛まれるんだね」

日本にしろ、フィリピンにしろ、はたまた他のアジアの国々にしろ、一度ステレオタイプに批判を受けると、その背景を説明しようとすればするほど、それが言い訳のための自己弁護に聞こえ、さらに誤解が深まってしまうというジレンマもあります。ドゥテルテ大統領への評価に対するアメリカの厳しい世論は当分続きそうです。

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『言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)

日本人を誤解してきた、外国人のアッ!と驚く言い分。
欧米をはじめ日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人のもっとも頻繁に起こるビジネス摩擦を28例挙げ、それぞれの本音から解決策を導き出す。今、まさに外国人とのコミュニケーションに悩む、多くの日本人に向けた究極の指南書。異文化との出会いが楽しくなるコミュニケーション術。異文化の罠を脱出せよ!

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