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ドゥテルテ政権とアメリカの世論のギャップが語ること

ROBINSON NIÑAL JR./PRESIDENTIAL PHOTO

“Leaders of China and the Philippines have preliminarily agreed to cooperate on oil and gas exploration, a move that has angered many Filipinos wary of Chinese territorial expansionism in the region.”

近郊での領土拡張政策に不安をいだくフィリピン人を刺激しながらも、中国とフィリピンのリーダーは石油とガスの資源開発での協力について基本合意に。
(CNNより)

ダイアローグ:ドゥテルテ大統領とアメリカ世論

「ねえ、アメリカの人って一般的にフィリピンの大統領のことをどう思っているの?」
あるフィリピンの友人が、先日マニラでにこう問いかけました。
「残念ながら、ドゥテルテ大統領は人権を無視して、人を裁判なしで殺害するような、とんでもない指導者だと思っている人が多いと思うよ」
私は、ドゥテルテ大統領に対するアメリカの一般的な世論を率直に伝えました。その上でさらに、
「確かにあれは、オバマ政権の時の外交の過ちだったかもしれない。オバマ政権はリベラルで様々な功績を残したけれど、外交では中東問題などでも失敗している。フィリピンに関していうならば、フィリピンの実情を熟慮せずに表面に現れた事柄だけでドゥテルテ大統領を批判したことが、両国の関係の悪化につながったことは否めないね」と付け加えました。

「アメリカ人って、自分たちの価値観を平気で押し付けてくる。フィリピン社会がどれだけ賄賂や麻薬などに苦しめられてきたか、誰も理解していないのよ。私の近所でもドラッグが横行し、政治家は腐敗していた。だから誰も将来に希望を持てなかったの。この深い闇を是正するには、強権によるリーダーシップがどうしても必要だったのよ。それを豊かな国の人が、人権の侵害なんて綺麗事じみた言葉で批判するのは簡単だけど、それは的外れ。どうかと思う。実際、ドゥテルテが大統領になって、犯罪も政治の腐敗も少なくなった。社会が発展するために最小限必要な土台ができつつあるのよ。今までは何をしようとしても、お金が政治家に流れるだけで、社会インフラも整わなかった。オバマ大統領には、そんな現実を見据えた上でコメントしてもらいたかった」

友人はそう説明をしてくれます。

「いえね。アメリカの世論を味方にすることは、外交上極めて大切なことではあるけれど、それは容易なことじゃないんだ。特に、海外で人権という金看板が侵害されていると報道されると、民主党にしても共和党にしても、アメリカの国内世論を考えて、それはとんでもないことだというふうになってしまう。それはフィリピンだけのことじゃないよ。日本だって女性の人権が侵害されているとか、移民に対する差別が横行しているなど、様々なことがアメリカ社会で問いただされてきた。アメリカは大きな国で、多彩な移民社会だけに、物事を白か黒かという単純な図式で説明しないと意図が社会に浸透しにくいんだ」

「そうね。アメリカ人のいうリベラルって言葉が時々独りよがりで偽善的にすら聞こえてくるのは、そのせいかもしれないわね。例えば、フィリピンでいえば、独裁者だったマルコスは悪人で、その政権を倒した後にしばらくして大統領になったコラソン・アキノは、民主化されたフィリピンで女性初の大統領ということで、アメリカのリベラルな人々に支持されていた。でも、現実はといえば、彼女の政権は賄賂で汚れた政権だった。ドラッグ問題もほとんど改善できず、フィリピンは犯罪の多い危険な国になっていた」

「確かにね。しかも、ミンダナオ島を中心にイスラム原理主義によるテロも頻発していたよね」
「そう。そんなミンダナオ島の問題を解決し、麻薬組織も追放したことが、ドゥテルテが大統領になる前のミンダナオの知事だった頃の功績だったのよ」

ドゥテルテが導くフィリピンの未来は

今、フィリピンは東南アジアの中で微妙な位置に置かれています。
フィリピンは、一時南シナ海の領土問題で中国と緊張関係におかれ、アメリカとの同盟強化を意図していました。しかし、ドゥテルテ大統領になって社会改革が進む中で、それを強権政治と批判したアメリカとの感情のもつれがとれないまま、今フィリピンはここで紹介されているように、一部の有権者の不安をよそに、中国との関係改善に極めて前向きです。中国から資金を調達し、社会基盤を整えることにも積極的です。
ベトナムやインドネシアなど、中国の覇権を警戒している国々の列から、明らかにフィリピンは離脱しつつあるのです。
 
11月30日に、コラソン・アキノが大統領であった頃のアメリカの指導者、ジョージ H. W. ブッシュが死去したというニュースが飛び込んできました。94歳でした。
両名が大統領であった頃、実はアメリカとフィリピンは緊張関係にあったのです。アキノ政権は、日本にとって沖縄の米軍基地にあたるスービック基地を閉鎖し、アメリカとの軍事同盟にくさびを打ち込んだのです。しかし、その後長い間フィリピン経済は低迷し、東南アジアの他の国々の伸長と比較しても、状況は改善されませんでした。
 
今、ドゥテルテ政権になって、そんなフィリピンにようやく未来が見えてきたという人が多いのも事実です。
豊富な人口資源と8000もの島を有する広大な国土をみれば、確かに今フィリピンに将来性を感じるのは当然です。
 

 

複雑なフィリピン社会とステレオタイプ

「だから、アメリカの世論が常に正しいとは限らない。フィリピンは長い間スペイン領で、その後アメリカが植民地にした。第二次世界大戦では日本に占領され、その後はずっとアメリカの傘下にあった。だから、フィリピン人と一言でいっても、先祖はさまざま。中国系、スペイン系、アメリカ系、日本系などなど。これがフィリピン人の顔だなんてないのよ。一人一人まったく違ったルーツがあるのだから。言葉だって、地方地方で異なっている。フィリピンの言葉はタガログ語だと思っている人が多いけど、タガログ語はマニラ周辺の言葉を無理やり国の言葉にしただけのこと。だからこそ、英語が多くの人にとっての共通語になるわけ。そんな複雑なフィリピン社会を一つの国家として発展させてゆくには、時には強力な指導者が必要なわけ。アメリカ人ってそういった事情を理解せずに、なんでも自分の尺度でものをいう。腹が立つわね」

「アジアの価値と欧米の価値とは、その土台が異なるために、よくぶつかってしまう。アメリカはある意味で、欧米の価値を代表しているように思えるけれど、ヨーロッパとアメリカとではものの考え方が大きく異なるのも事実。ただ、ことアジアへの評価となると、そこにはやはり欧米に共通したステレオタイプがあることは否めない。フィリピンの複雑な過去や社会的現実に対して、彼らのほとんどは無知なはず。それだけに、いかに正しい情報を欧米社会に伝えるかという課題にいつも苛まれるんだね」

日本にしろ、フィリピンにしろ、はたまた他のアジアの国々にしろ、一度ステレオタイプに批判を受けると、その背景を説明しようとすればするほど、それが言い訳のための自己弁護に聞こえ、さらに誤解が深まってしまうというジレンマもあります。ドゥテルテ大統領への評価に対するアメリカの厳しい世論は当分続きそうです。

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『言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)

日本人を誤解してきた、外国人のアッ!と驚く言い分。
欧米をはじめ日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人のもっとも頻繁に起こるビジネス摩擦を28例挙げ、それぞれの本音から解決策を導き出す。今、まさに外国人とのコミュニケーションに悩む、多くの日本人に向けた究極の指南書。異文化との出会いが楽しくなるコミュニケーション術。異文化の罠を脱出せよ!

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中間選挙を前に分断されるアメリカ社会

“As President Trump and his allies have waged a fear-based campaign to drive Republican voters to the polls, far right communities have parsed his statements. Looking for hints of their influence.”

トランプ大統領が、共和党への投票につなげるために恐怖心を煽るキャンペーンを進めてゆくなか、極右のコミュニティは大統領の発言をいかに利用して自らの影響力へつなげようかと策を練っている。
(New York Timesより)

中間選挙を直前に控えたアメリカ。その状況を理解するために、ここに一つの議論のサンプルを紹介します。
 
まず、一人の人が発言をはじめます。
彼の名前はロバート。彼はトランプ大統領を支持する典型的な人物です。年齢は50代になったばかりの男性で、元工場労働者。妻は地元の会計事務所で長年、会計士のアシスタントとして働いてきました。二人が住んでいるのは、アメリカの中央部にあるミズーリ州のとある小さな町です。

「我々は、週末には教会に集まり、家族を大切にし、勤勉に働く。この教会に集まるのはみんな、そんな仲間だよ。そんな伝統が崩れてゆく。外国から文化も価値も共有できないような連中がきて、我々の生活の中に入り込んでくる。私に言わせれば、今そうした連中によって、我々が培ってきたアメリカ社会が蝕まれているように思えてならないんだよ」

 
この発言に対して、一人の女性が反論します。彼女はシェイリーという名前で、サンフランシスコに住み、現地の大学の図書館に勤務。夫はシリコンバレーのハイテクベンチャーで、マネージャーとして勤務しています。

「あなた方だって、移民の子孫じゃなかったんですか?アメリカは多様な移民が集まることで、知恵も集まり、アメリカならではの平等な価値観が育まれているんですよ。それを閉ざしてしまえば、アメリカはアメリカじゃなくなるし、何をいっても今まで何年もかかって培われてきた、人権や自由を尊重する社会が壊されてしまうと思うんですが」

 
ロバートは、彼女のこの発言に即座に反論します。

「それじゃあ、我々の生活はどうなんだい。私が勤めていた工場は、海外の安い労働力に押されて閉鎖されてしまった。自分たちの生活を守ろうと思っても無理だよ、これでは。しかもそんな国からの移民まで受け入れるって、どういうことだい。我々は自分たちの地域社会を守りたいんだよ」

 

「今、サンフランシスコをみればわかるけど、ここには世界中の人が集まっている。そして、実際に世界中の経済は繋がっているんですよ。あなたの工場が閉鎖されたのは気の毒だけど、資本主義の世の中は、知恵や工夫のある企業が勝ち抜いてゆくのは当たり前のことでしょ。今、アップルグーグルといった世界を牽引している企業は、そんなアメリカ社会で成長した企業なのです。しかも、そこには世界中から優秀な人が集まってくる。肌の色も、宗教も、そして風俗習慣も異なる人々が集まって、我々と一緒になって世界中で販売できる競争力のある商品を作ろうとしている。そのためにも、世界に開かれた社会こそが、これから必要とされているんじゃないんですか」

 
ロバートは、シェイリーの一言一言が気に入らないようです。

「うんざりだよ。グーグルにしろ、アップルにしろ、もっとアメリカ人を雇用するべきだよ。そして、アメリカの企業から部品を買うべきだ。国家が自分の国の利益を考えて、何がいけないんだろう。海外のものには関税をかけ、自分の国の産業を守ろうとするのは当然じゃないか。今の大企業には、そうしたモラルはまったくないよ。アメリカを第一に考えてこそ、我々の生活が守られるはずだと思わないのかい。愛国心がないんだね。君たちには、あの伝統的なキリスト教徒としての家族意識やコミュニティ意識が欠如しているんだよ。それは、あの耳にタコができるほど聞き飽きた、グローバルというまやかしの言葉を使い続ける大企業の連中にもいえることだ。アメリカは元々、偉大な国家だった。でも、君たちによって汚された。アメリカは世界一の超大国だよ。それは、我々のようにアメリカ人としての伝統を守ってきた仲間が創ってきた国なのさ」

 

「一体いつの時代のことを言っているんですか。例えば、アメリカだけで、全ての部品が賄えて、衣食住に必要なものが調達できるとでも思っているのですか。アメリカが他国に関税をかければ、それはあなたが買い物をするときの物価に跳ね返ってくる。それって単純な論理じゃないですか」

 
ロバートは、彼女の話を途中で止めます。

「まてよ。我々だって、世界のどこの連中より素晴らしいものを作れるよ。中国でも日本でも、自分たちだけに都合のいい規制に守られて、安い物をこちらに送り込んでくる。アメリカ人は寛容だったのさ。お人好しといってもいいほどにね。メキシコなんて、自分の国の国民を食べさせてゆけない責任を、こちらに負わせているじゃないか。こんなことをしていたから、あのイスラム教徒の悪魔たちが、セプテンバー11のようなことまで起こしてしまった。我々アメリカ人は、そんな外国の影響から独立して、実直で誠実な暮らしに戻るべきだ。昔のように勤勉に働いて、しっかりと我々のために我々でものを作るんだ」

 
シェイリーはうんざりしたような顔をして、ロバートの話を遮ります。

「あなたが移民を排斥して、アメリカが閉ざされた国家になれば、それこそ、アメリカは偉大ではなくなるのよ。寛容の精神もなく、昔のように他所からきた人を差別する社会に逆戻りすれば、アメリカ社会そのものが萎縮して、経済的にも貧困になるはず。しかも、キリスト教徒の伝統っていうけど、信教の自由は社会の基本ですよ。あなた方だって、祖先はプロテスタントとし迫害を受け、宗教の自由を求めて、アメリカにやってきたのでしょ。そのことをお忘れなの?」

 
今、アメリカはこの二人のように、全く相容れない立場と考え方に分断されているのです。それは、過去にはなかったような敵愾心までお互いに対して抱いています。
150年以上前に、アメリカは南北に分断され南北戦争を戦いました。今は、そうした境界線が人々の心の中に築かれて、新たな分断を生み出しています。
人々が最も危機感を抱いているのは、トランプ大統領を支持する人と、そうでない人との間に、こうした全く妥協を許さない分断が起きていることなのです。
 

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アメリカ人と文化の壁を超えてビジネスをするために!

『トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)
国家・民族・言語・宗教の境界を超えてアメリカ人と対等にわたりあう、80の絶対法則!
欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル会社で100社4500人の異文化摩擦を解決してきたカリスマコンサルタントである山久瀬 洋二氏が、トランスナショナルなアメリカ人を正しく理解し、対等にビジネスするための奥義を、豊富な事例と図解でわかりやすく説明します。英語よりも、MBAよりも、もっとずっと大切なものがここにあります。

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「核」の時代の再来への一歩となる中間選挙前の大統領の意思表示

“President Donald Trump announced Saturday that the US is pulling out of the landmark Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty with Russia, a decades-old agreement that has drawn the ire of the President.”

トランプ大統領は、土曜日にアメリカはロシアとの歴史的な中距離核戦力全廃条約から離脱すると発表。長年にわたる取り決めが、大統領の憤りの前で崩壊しつつある。
(CNNより)

アメリカのトランプ大統領が、アメリカが旧ソ連と締結した中距離核戦力全廃条約を破棄する意向があると発表したことが、世界中に衝撃を与えています。
 
この条約が締結されたのは、1987年のことでした。
当時のアメリカの大統領はロナルド・レーガン、ソ連はミカエル・ゴルバチョフが舵をとっていました。
この条約は、ソ連の最末期に締結されました。それは、冷戦を終結させ、疲弊した経済の立て直しを目論むソ連と、ベトナム戦争以後のデタントと呼ばれた米ソの緊張緩和の目に見える成果を欲していたアメリカとが合意した、歴史的な条約です。
その後ソ連が消滅し、ソ連時代の外交上の取り決めを継承したのがロシアであったため、現在では、この条約がアメリカとロシアとの間の条約として効力を有しているのです。
 

ロシア・中国の脅威とアメリカの焦燥

今回のアメリカの発表の背景には、この15年間でロシアがソ連終焉後の混乱を収拾し、強国として復活していることがあるはずです。しかし、それ以上に、当時は予測不可能だった速度で中国が成長し、軍事大国としてアメリカに脅威を与えていることが指摘されます。冷戦時代の条約に縛られているアメリカが、思うように軍拡の道を進めず、その合間に中国が伸長してきたことへの焦りがあるのです。
ということは、この条約破棄の意向表明は、中国の隣国である日本にも微妙な影を落とすことになるはずです。
 
トランプ大統領は、ロシアが過去にこの条約に違反してきたことを強調しています。特に2008年以降、ロシアはこの条約に対して真摯ではないと、アメリカのみならず、アメリカとヨーロッパ諸国との軍事同盟であるNATOの幹部も指摘していました。トランプ大統領はそうした背景をもって、ロシアへの強い意志を表明したことになります。
 

冷戦の基軸から「自国第一主義」へ

さて、我々はこの問題を、どういった視点で分析したらよいのでしょうか。
背景は複雑です。まず、現在の世界の指導者の多くが、いまだに冷戦時代の記憶に縛られていることを強調します。冷戦時代、世界の国々はアメリカとソ連との2つの超大国を基軸に、どちらの陣営に加わるか、緊張と緊張緩和の動きの中でどのように外交の舵取りをするか、という基準で動いていました。しかし、ソ連が消滅した直後から、その常識と基準が崩壊したのです。
 
レーガン元大統領とゴルバチョフ大統領(当時)が条約にサインをし、握手をして間も無く、ソ連が崩壊しただけではなく、中東では湾岸戦争が起こり、冷戦の基軸を失った世界は混乱に見舞われました。極東では日本のバブル経済が崩壊し、中国が成長しました。世界の国々が直面したのは、2つの「極」を見つめる外交から、多方面のパワーバランスを同時に把握しなければならない外交方針への転換の必要性だったのです。
 
その結果、多くの国では、指導者の発想が内向きに傾斜しました。ロシアはプーチン大統領の下で、ソ連時代のパワーをもう一度とばかり、強いロシアの復活が叫ばれました。その結果、ロシアは国内の民族運動を武力で弾圧し、ウクライナからクリミア半島を奪取し、その過程で新たな軍備拡張を強行したのです。それが、トランプ政権やNATOが指摘する条約違反の嫌疑へと繋がったのです。
 

「国内の目=世論」に目を光らせる指導者たち

一方のアメリカも、対共産主義の旗印のもとに同盟国を糾合する求心力を失っていました。中東が不安定になり、一時は東ヨーロッパにも戦火が拡大しました。そして新たに台頭してきた中国も、急成長による貧富の格差など国内の不安定要因を払拭し、政権を安定させようとします。そのために、時には強い外交政策によって国民への支持を取り付けなければなりません。
2000年代には、尖閣諸島の問題などによる反日活動が加速し、その後は少数民族への弾圧や南シナ海への武力進出など、ロシアとも類似した政策が目立つようになったのです。
 
そして、この内向きの動きがアメリカにも影響を与えます。今までの「世界のためのアメリカ」という発想から、「まずはアメリカの利益を」という国民の意識を支持へと繋げたトランプ政権が誕生したのです。
こうした動きの延長に、今回のトランプ大統領による中距離核戦力全廃条約の破棄への意向表明があったのです。
 
現在、世界の指導者の多くが、過去にはないほどに、世論への支持に神経を尖らせています。それは一見、民主主義の原則が浸透したかのようにみえるかもしれません。しかし、皮肉なことに、冷戦時代には冷戦が熱い戦争にならないための抑制が働いていました。第二次世界大戦の記憶がまだ新しかった時代だけに、双方の指導者の間に無言の圧力としての重しがあったのです。
冷戦の崩壊は、第二次世界大戦の記憶の希薄化に直結しました。それに、インターネットの普及による情報社会の到来が拍車をかけ、指導者はより「国内の目」を気にし、同時にインターネットを逆手にとって「国内の目」を操作するようになったのです。
 

条約の破棄、そのとき日本は

中間選挙目前のトランプ大統領の今回の発表により、この条約が実際に破棄されたとき、アメリカの世論はトランプ政権にどのような意思を表明するのでしょうか。
そして、被爆国日本の指導者は、冷戦時代の常識に従ったアメリカのみを見つめた政策を維持しながら、今回の発表を黙視するだけなのでしょうか。
冷戦終結から30年近くを経た現在、新たな世界の「安定」がどのような指導者の理想によってもたらされるのでしょうか。
今回のトランプ大統領の発表は、混沌とした現在を象徴するようなニュースであるといえましょう。
 

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外国人とビジネスをするためのテクニックを学ぶなら

『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
IBCパブリッシング刊
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トランプには保守層への南北戦争以来の明快な答えが必要??

“Gary Langer of ABC News points out that Trump has the lowest approval rating for a president heading into his first midterms in polling dating to 1954.”

(ABCニュースのゲイリー・ランガーは、トランプ政権は1954年に中間選挙への世論調査が始まって以来、最低の支持率となったと指摘)
(New York Timesより)

我々が歴史を検証するとき、ともすれば過去に教えられた「常識」に従いがちです。
しかし、歴史上の重要なイベントは一つの常識だけでは分析できません。
そこには、常に現在にもつながる様々な矛盾や、そこから導かれる原因と結果が含まれます。
 
今回は、来月行われるアメリカの中間選挙を見据えて、その視点から150年以上前にアメリカを二つに割いた南北戦争について考えます。
 

南北戦争と「奴隷制度」

南北戦争といえば、アメリカから奴隷制度 slaveryが廃止された戦争として知られています。
それは、奴隷制度を廃止しようとしたアメリカ合衆国から離脱して独立しようとする南部諸州 Confederateと、あくまで統一したアメリカを求める合衆国政府 Unionとの間の戦争でした。
 
一般的にみれば、奴隷制度を廃止し、その人権を擁護したことが南北戦争の意義として評価されています。
しかし実際は、南北戦争によって黒人への差別が廃止されたわけではありません。むしろその後、アメリカを再度統一国家にするには、様々な矛盾を乗り越えなければなりませんでした。それは、奴隷制度を廃止して前に進もうとする社会に、多くのブレーキをかけたのです。
 
まず、再び国家が分裂しないように、南部にどう対応するかということが大きな課題となりました。南部の諸州は戒厳令下に置かれ、政府の監視の中で復興してゆきます。しかし、その一方で南部との妥協も必要でした。
その妥協の過程で、アメリカ政府は、南部諸州がジム・クロウ法 Jim Crow lawsと呼ばれる法律によって、黒人と白人とを分離させ、差別することを許容する法律を黙認します。その妥協のもとに、南部諸州はアメリカ合衆国に復帰したのです。
 
アメリカは、自由と平等を国是とする国家です。
そんなアメリカに黒人や非白人系の人々への差別が、公民権法が制定される1964年まで組織的に認められることになります。
 

南北戦争と「地方分権」

一方「自由」といえば、アメリカは独立当初から、人々が中央政府 Federal governmentに拘束されることを嫌い、それぞれの地域の政治的な自立と自由裁量を認めていました。そのため、アメリカ人の多くは、伝統的に中央政府が強くなることに警戒感を抱いてきました。この地方の自主独立の原則を盾に、南部が反抗したことが、南北戦争へとつながったのです。結果として、南北戦争後は、連邦政府が強権を発動して鎮圧した戦争となり、以後アメリカでも地方の権限より中央の権限の方が重んじられるようになったのです。そして、この地方と中央との確執は、その後ずっとアメリカの政界を左右してきました。
 
例えば、オバマ前大統領が政府主導の健康保険をといえば、それは中央の管理が強くなるということで、反対がおこります。銃規制を行おうとすれば、それは個々人、そして各地域の事情を無視し、政府だけが武器をもてる危険な状態だとして、反対運動がおこります。トランプ大統領は、そうした地方の権利を容認する政策を打ち出し、大統領に当選したといっても過言ではありません。
 
ここで、トランプ政権の支持母体について考えてみます。
彼らの多くは大都市ではなく、地方都市、農村に居住しています。
彼らこそが、伝統的に中央の影響を嫌い、銃を所持し、自らの住む地域の自立を支持する人々です。彼らは、共和党右派の支持母体です。
そもそも南北戦争の頃は、地方の権利を主張し、綿花栽培などのプランテーション経営のコストを削減するために、奴隷制度を存続させることを容認していたのは、民主党でした。そして、奴隷制度を廃止し、アメリカを国家として統率してゆこうとしていたのが、共和党だったのです。リンカーン大統領は共和党の大統領でした。
 
しかし、その後、南部との妥協や西部の開拓などによって巨大化したアメリカ社会の中で、共和党が保守化し、民主党と政策や立場が入れ替わっていったのです。
20世紀になると、民主党は労働組合などとの連携を深め、人権や人種差別の撤廃などに対して、国家が率先して改革をしてゆく立場をとってゆきます。
そして、共和党は伝統的な地方分権をよしとして、より中央政府の関与を制限し、「小さな政府」という立場を支持するようになりました。
 

新たなる「分断」の時代へ

トランプ大統領は、まもなく中間選挙の洗礼を受けなければなりません。
スキャンダルや二転三転する政権内の人事問題などで支持率が陰りながらも、好景気と北朝鮮との融和や中国への関税制裁など、独自の外交政策で人気を挽回したいというのが、彼の本音でしょう。
そして、彼が中間選挙を勝ち抜き、共和党が議会の多数派を占めることで安定した政権を維持するためには、ここで解説した共和党の支持者の心理をしっかりと把握してゆくことが必要です。南北戦争以来の、保守系の人々の民意の揺れ動きに同情してゆくことが必要です。
 
地方分権を支持する人々は、大きな権力を持つ中央政府と同じように、大きな影響力を持つ国際的な大企業を嫌います。
グーグルアップルといった企業が移民政策を巡って、トランプ大統領と対立する構図は、それを際立たせることで、保守的な有権者への有効なアピールとなるはずです。
 
ただ、南北戦争の頃と同様に、現在のアメリカは、この共和党保守層と民主党系の人々との確執が、論争の域をこえて感情的なものへと変化しつつあります。
お互いに相手方を敵視し、議論の余地もなくなるほど対立が激化しています。
現在は、南部と北部との分断ではなく、この世論の分断が大きな社会不安になろうとしているのです。中間選挙はそうした緊張の中で、その結果が注目されているのです。
 

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あの名演説からアメリカを学ぼう!

『I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)
「I have a dream.」のフレーズで有名なこの演説は、20世紀最高のものであるとの呼び声高い。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの肉声で聞き、公民権運動のみならず、現在のアメリカに脈々と受け継がれている彼のスピリット、そして現在のアメリカのビジネスマネジメントの原点を学ぼう。山久瀬洋二による詳細な解説つきで、当時の時代背景、そして現代への歴史の流れ、アメリカ人の歴史観や考え方がよく分かる1冊。
* アメリカ人が最も愛するスピーチを対訳で展開
* スピーチの「歴史背景」と使われている「英語表現」の意味を徹底的に解説!
* 特別付録:「アメリカ独立宣言」全文対訳
* ワードリスト付きだからストレスフリーで読み通せる

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各論にこだわる日本、「しがらみ」を捨てたアメリカ

ロシアは日本を求めている?

 

“Putin: It’s important to look for Russia-Japan WW2 peace treaty, solution that would reflect the strategic interests of both. “

(プーチン大統領は、第二次世界大戦を解決した平和条約を見つめ、お互いの戦略的連携を見つめてゆきたいと表明)
Reuterより

モスクワの街を歩けば、スーパーマーケットに寿司が並んでいます。
この寿司を生産しているのは、日本企業ではないとのこと。アメリカで発案されたカリフォルニアロールがヨーロッパ経由でロシアにはいってきたのです。この日本とアメリカとロシアが関わって流通している寿司をみると、それが現在の極東情勢を象徴したものとして映ってくるのも事実です。
 
ロシアの広大な国土の半分以上はアジアにあります。
その国境の向こうには、モンゴルがあり、さらには中国があります。
1960年代、共産主義社会での覇権をめぐり、中国とソ連とが激しく対立しました。以来中国とソ連、そしてソ連の権益を引き継いだロシアとは、アジアのライバルとしてお互いを意識し続けてきたのです。
 
そもそも、中国とロシアとの対立は旧ソ連時代にはじまったことではありません。
帝政ロシアの頃、南へと利権の拡大を目論んでいたロシアは、当時中国を統治していた帝国への進出を目論みます。このロシアの南下に対して当時の日本(大日本帝国)が脅威を感じた結果勃発したのが、日露戦争であったはずです。
 
なぜロシアと中国との関係をここで解説する必要があるのかというと、そこには大きな理由があります。それが北朝鮮への日本のアプローチのヒントになるからです。
確かにロシアは、アジアにおいては常に中国を意識してきました。そんなロシアにとって、実は日本は極めて組みやすい相手なのです。
しかも、シベリアには日本が欲しがる膨大な資源が眠っています。そんなロシアがシベリアの開発のために日本の経済力に期待しているのも事実です。
こうしたお互いの利益を前向きに捉え、ロシアと強力なパイプを造ることができれば、中国とアメリカとの間で硬直した日本の北朝鮮政策に新たな可能性が生まれるはずです。ロシアのプーチン大統領は、日本のそうしたアプローチを強く望んでいることが、このヘッドラインからも見えてきます。
 
しかし、日本人には常にこうしたチャンスを見逃す弱点があります。
それは日本人の各論にこだわる癖に他なりません。つまり、日本人は各論にこだわりすぎ、大きな絵図面から外交問題を有利に解決するチャンスを何度も逸してきたのです。
ロシアとの間の北方領土問題、そして北朝鮮との間の拉致問題への日本の取り組み方は、そんな日本の弱点を象徴しています。不当に拉致された人々への家族の思いに疑問を抱いているわけではありません。拉致を解決するには、拉致からあえて離れた大きな視野と戦略が必要だと思うのです。
ロシアとの間も同様です。北方領土を解決するためには、日本とロシアとの経済協力が双方にとって無視できなくなるほど強くなることが大切なのです。
 
拉致問題一点に日本がこだわりすぎれば、北朝鮮への外交的な対応そのものが後手にまわります。そして北方領土にこだわれば、ロシアとの経済協力はなかなか進みません。そうした状況を一番利用できるのは中国であり、北朝鮮そのものなのです。
安倍首相は、トランプ大統領が金正恩との会談で拉致問題に触れてくれたことを、国民に強調しました。
しかし、トランプ大統領が、拉致問題に触れたというのは、日本のメッセージを伝えたよということに過ぎないのです。アメリカが積極的に日本の利益のために拉致問題に触れたのでない以上、それは何ら意味のない伝言ゲームにすぎません。
 
結局、日本は単独で北朝鮮と拉致問題について交渉をせざるを得ないわけです。そんな状況の中で日本が拉致問題を理由に北朝鮮との対話を進めないことは、北朝鮮からみるならば、日本を交渉相手からブロックし、中国を味方につけながらアメリカに対応するためには極めてありがたいことなのです。
 
一方、ロシアは北朝鮮への影響力を維持するためにも、日本との連携を視野にいれたいはずです。しかし、何かを持ち出せば北方領土にこだわる日本の対応にロシアの幹部がうんざりしているのもまた事実でしょう。
 
北朝鮮問題は、単に北朝鮮に核を断念させて、国際社会の仲間入りをさせることを意味しているわけではありません。北朝鮮問題は、北朝鮮という扱いにくい国家の存在を利用して、極東の中でいかに自らの利益や影響力の伸長をはかろうかと模索する関係国同士の外交合戦なのです。
日本が、北方領土と拉致問題という「動かない石」にこだわればこだわるほど、そうした関係国の複雑な交渉の蚊帳の外に日本が置かれてしまい、最終的に拉致問題や北方領土問題自体の解決も遠のいてしまうのです。
 
どこの世界でも、政治は「しがらみ」によって動いています。
アメリカの歴代大統領も、支持母体の政党や有権者という「しがらみ」を常に意識して政権を維持してきました。それは日本でも中国でも同様です。ところが、トランプ大統領はそうした「しがらみ」が最も希薄な大統領として選挙に勝利しました。そして、金正恩も中国という「しがらみ」を離脱した指導者でした。ですから、この二人は様々なスタンドプレーが可能だったのです。
 
日本の場合、多くの政権は国内では自民党内部の「しがらみ」があり、国外ではアメリカとの強い「しがらみ」に左右されながら外交の舵をきってきました。そんな政治家の「しがらみ」が、拉致問題と北方領土問題への取り組みにも大きな影響を与えているようです。
しかし、今のアメリカは「America First」というスローガンを大きく掲げています。「しがらみ」よりも自国の利益を優先させようとするアメリカに最も翻弄されているのが、今でもアメリカを「しがらみ」と捉える日本なのです。
 
日本がこうした実態を改めて見直しながら、改めて中国とロシアとの立ち位置を冷静に見つめた独自のリーダーシップを取ることができれば、北朝鮮問題への日本の影響力にも大きな変化がおこるはずです。
 
 

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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