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ニューヨークでのユダヤ系のパレードから世界をみれば

イスラエルの建国を祝うユダヤ系の人々

“More than 1,000 police officers will secure the Israel Day Parade in New York City. The annual event will make its way up Fifth Avenue on Sunday.”

(ニューヨークでのイスラエル建国記念日のパレードを1000名以上の警察官が警護。日曜日の五番街で記念行事が敢行。)
JTA(Jewish Telegraphic Agency)より

6月3日の日曜日にニューヨークでは、ユダヤ系の人々の大きなパレードがありました。
五番街を中心に道路を封鎖して、ニューヨーク各地のユダヤ系のコミュニティの人々が、イスラエルの独立70周年を祝ったのです。
パレードはお祭り気分で、ニューヨーク選出の議員やテレビの著名なコメンテーターまで、様々な人がマーチに加わります。
ニューヨーク市警は、パレードの妨害を警戒してバレードの現場のみならず、その周辺の道路まで車の立ち入りを規制。その地域のホテルにチェックインする人も、タクシーを途中で降りて荷物を運ばなければなりません。
 
先日、アメリカはエルサレムに大使館を移動させることを決め、エルサレムがイスラエルの首都であることを公認しました。この決定にアラブ系の人々が猛反発。流血騒動にまで発展したことは記憶に新しいはずです。
 
「ニューヨークの人はトランプ嫌いが多い。でも、今回のエルサレムへの大使館の移転には賛成している人が多いのです」
そう私の友人はコメントします。
「でも、今回のパレードはそのこととは関係ないはず。70周年の記念行事は相当前に予定していたはずだから」
 
実は、私の友人にもユダヤ系の人がいます。エルサレムからカナダのトロントに移住し、英語関係のオンライン教育の分野で活躍するその人は、「これでよかったんだ。テルアビブが首都だというのは単なる外交上の妥協だった。ユダヤ系の人は皆エルサレムに首都があってこそのイスラエルだと思っているさ」というのです。彼も確かにトランプ政権には懐疑的な人だったのですが。
 
アメリカの世論は複雑です。トランプ政権の政策に不満をもっている人でも、各論の中では様々な意見が飛び交います。そして、ユダヤ系の人々のスタンスは、当然世論に大きな影響を与えるはずです。
「ニューヨークタイムズは、リベラルな新聞だというけれど、ことユダヤ系の人々に関する論調となると慎重になるんだよ」
とニューヨークの友人は指摘します。
そうした背景を証明するかのような今回の大掛かりなパレードをみたときに、その盛況の背景には、やはりエルサレムが首都としてアメリカに承認されたことがあるのではと疑ってしまうのです。
 
ところで、北朝鮮がミサイルでアメリカや日本を威嚇していた頃、アメリカにとってはイスラエルが絡む中東問題が外交の基軸で、中東での火種がおさまらない限り、北朝鮮と交戦状態になることはないのではと解説したことがあります。
そんなアメリカの心理をついて、韓国が北朝鮮にアプローチをかけ、トランプ政権はその機会を逃さずに行動にでようとしたのです。そして、同じタイミングで、エルサレムへの大使館の移転を発表します。これは偶然の一致ではなく、アメリカの世界戦略を考えれば当然の帰結といえましょう。
 
このパズルを日本が把握できずにいることが、今回の北朝鮮問題で日本が蚊帳の外におかれている理由でもあるのです。ニューヨークを意気揚々とマーチするユダヤ系の人々と、北朝鮮問題とは、アメリカの外交政策の中でのコインの表と裏だということがお分かりになったと思います。
 
安倍政権は外交でかなりの成果を上げていると自民党の中では評価されていますが、実際はその逆なのではと考えてしまいます。まず、第一にアメリカの生々しい民衆の感触に対して安倍政権はあまりにも鈍感です。トランプ政権ができる前、外務省はヒラリー・クリントンが当選するものと決め込んで、トランプ側の人脈とはほとんどコンタクトを持たなかったといわれています。先ほど解説した、アメリカの世論の複雑さを考えたとき、それはあり得ないアプローチです。そしてトランプ大統領が登場したとき、慌てて安倍首相はアメリカを訪問したわけです。
こうしたボタンの掛け違いがなぜ起こるのか。
それは、政治家の無知と官僚のおごりのせいかもしれません。しかし、さらに言えることは、海外の人と庶民レベルのネットワークができていない日本の外交戦略に瑕疵があることをここで指摘したいのです。
 
そんなことを思いながら、パレードを見ていると、人々がひときわ熱狂してきます。みると、ニューヨーク出身の上院議員チャック・シューマーがパレードに加わって歩いていたのです。ニューヨークのブルックリン地区には大きなユダヤ系コミュニティがあります。彼はそこで生まれ育った生粋のユダヤ系移民の子孫なのです。そして、彼は民主党の上院議員。共和党の保守派が地盤のトランプ政権とは対立した存在です。
しかし、そんな彼でも、エルサレムへの大使館の移転の決定には強い支持を表明したのです。この複雑さを理解できない限り、そしてこうした人々とのネットワークをしっかりと維持しない限り、日本はアメリカの世界戦略に翻弄され続けるのかもしれません。
 
午後4時、パレードの喧騒が一段落し、週末のニューヨークに静けさが戻ってきました。
私は、ある友人の家を訪ねるためにタクシーに飛び乗ります。タクシーの運転手は運転中ずっと無線を使ってウルドゥ語で友人と話しをしています。彼は明らかにパキスタンから移住してきたイスラム教徒です。ニューヨークのタクシーの運転手にはそうしたイスラム系の人々が多くいます。彼らは今回のパレードを複雑な気持ちでみていたはずです。
 
ニューヨークから世界情勢が見えてきた一瞬です。
 

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『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
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アメリカの中間選挙にも影響を与えるアイルランドの動向とは

Irish Timesで取り上げられているPro Choice運動勝利の瞬間(Irish Timesインターネット版より)

“Ireland Votes to End Abortion Ban in Rebuke to Catholic Church”

(アイルランドはカトリック教会を非難。中絶の権利を国民投票で認める)
New York Timesより

ニューヨークは今メモリアルデイ Memorial Day の連休 long weekend で、多くの人が街を離れています。
そんな郊外に向かう渋滞を整理する警察官の多くはアイルランド系です。彼らの祖先は、19世紀中盤以降、本国の飢饉や貧困に追われて海を渡ってきた人々でした。彼らはほとんどがカトリックで、元々プロテスタント系の人々の多いアメリカでは社会の底辺で、一時は差別に苦しみました。
現在アメリカにはアイルランド系の移民が3600万人も生活しています。そのため、多くのアメリカ人がアイルランドの動向には敏感です。
 
アイルランドは、長い間隣国イギリスの植民地でした。
その後、過酷な独立運動の過程を経て、1931年に主権を回復します。
現在のアイルランドの人口は459万人。ということは、アメリカに住むアイルランド系の人口の方が、本国の総人口よりもはるかに多いということになるのです。面白い事実です。
 
そんなアイルランドで2017年5月に首相に就任したのが、レオ・バラッカー Leo Valadkar でした。
彼は、首相に選出される前に、自らがゲイであることを公表していました。
彼の父親は、インドからイギリスに移住してきた移民で、イギリスでアイルランド人の母親と結婚しました。バラッカーは幼い頃は両親の合意の元、カトリックとして育てられたといいます。
 
移民、そして国際結婚という背景を持つバラッカーが首相となったアイルランド。その社会の変化に多くの人が注目しました。
アイルランドは元々カトリック教会の影響の強い保守的な国家でした。そしてイギリスからの独立の経緯からみても、民族意識の強い国だったのです。そんなカトリック教会は、今でも同性愛や妊娠中絶に対して否定的です。
従って、バラッカーの首相就任はアイルランドのみならず、カトリック界全体の注目するところとなったのです。
 
そんなアイルランドで先日、妊娠中絶を違法とする憲法改正の是非を問う国民投票が実施されました。もちろん、カトリック教会はこの国民投票にも激しく反発。多くの人がその経緯を見守りました。
結果は、中絶を合法とする人々が勝利。
 
中絶容認を求める運動は、Pro Choice movement と呼ばれています。
欧米では、中絶は女性が出産という自らの運命を決める自由を保証する権利として、常にその是非が問われてきたのです。しかし、アイルランドでは、カトリックの信条からみて、中絶は胎児への殺人行為であるという見解が支持されてきたのです。
 
このアイルランドの変化はアメリカにも大きな衝撃を与えました。
ニューヨークの主要メディアは、昨日からその結果を大きく報道。北朝鮮とアメリカとの首脳会談の行方よりも、アメリカ人には注目されたニュースとなりました。
 
それには背景があります。
まずは、この結果がトランプ政権にもダメージとなるからです。
トランプ政権が成立し、アメリカをはじめ世界中が右傾化の潮流にさらされました。その中で、フランスやオランダなどで極右政権が成立するのでは、と危惧されます。しかし、選挙の結果はリベラル派がことごとく勝利。そしてアイルランドでも、中道左派を進む39歳という若手のレオ・バラッカーが首相となったのです。少なくともヨーロッパでは、トランプ政権に異論を唱える国家が増えていることになります。
そして、トランプ政権はカトリックではないものの、プロテスタント系保守派を支持母体としています。彼らの中でも特に保守色の強い人々がPro Choiceへ異議を唱えているのです。トランプ大統領は彼らに支えられているわけで、アメリカでのPro Choice movementにも懐疑的です。
 
アイルランドでは、同性の結婚も合法化されています。そして、今回憲法までも変えて中絶を合法化したことは、世界中の注目する大きな変化だったというわけです。
 
こうした欧米の動きが今秋のアメリカでの中間選挙にどのような影響を与えるかは未知数です。しかし、極端な保守化への警戒の波が逆流となって、欧米の政界を揺るがしていることは動かせない事実です。
トランプ大統領としては、華やかな外交舞台で北朝鮮との会談を成功させ、追い風となっているアメリカの好景気を自らの政策の勝利として強調することで、支持率を固めてゆきたいところです。
 
とはいえ、伝統的にアメリカに友好的なアイルランドで、トランプ政権に対しても批判的だったバラッカー首相の主張が国民投票で追認されたことは、アメリカの世論にも少なからぬ影響を与えることは間違いないのではないでしょうか。
 

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アメリカの移民社会を象徴する「テヘランジェルス」

“Iranian Americans or Persian American are among the highest educated people in the United States.”

(イラン系、あるいはペルシャ系アメリカ人はアメリカ合衆国の中でも最も教育レベルの高い人々である)
(Wikipediaより)

 
ロサンゼルスにシャリフとキャシーというカップルがいます。
シャリフは中東のレバノンにルーツを持つ名家の末裔で、彼の父親はイラクで生活していました。一方、キャシーはイランにルーツがあり、父親は以前イランを支配していたパーレビ国王の支持者でした。
 
二人の両親は共に祖国の政変によって投獄され、過酷な人生をおくりました。
「私はイラン人というよりペルシャ人なの。何世紀にもわたってイランで生活してきたペルシャの人々。そう我々は意識して、今のイランと自分とを分けているわけ。カリフォルニアには、そういったアイデンティティ(identity)を持つ人が多くいるのよ」キャシーはよくこのようにいいます。
 
イランは中東の大国です。そして、もともと王国でした。
国王であったパーレビは、アメリカとも良好な関係を維持しながら、西欧化を進めていました。
当時は冷戦の最中。ベトナム戦争につまずいたアメリカが、その間隙を縫うように中東に爪を伸ばしてきたソ連の動きを警戒していた頃のことでした。
伝統的にインドと友好関係を維持してきたソ連は、まず政治的な混乱に乗じてアフガニスタンに侵攻し、インドの西側、つまり中東の東端を抑えます。
 
そしてイランはアフガニスタンと国境を接しています。
当時イランには西欧化に反発する保守的なイスラム教徒が多くいました。彼らには急激な西欧化による貧富の差などの怨嗟もありました。そうした人々が立ち上がり、1979年に革命を起こし、親米政権であったパーレビ国王を国外に追放したのです。革命の暴徒はアメリカ大使館を占拠し、アメリカに対する強い憎悪を剥き出しにします。イランは西欧化途上の国家から、保守的なシーア派のイスラム教国へと変身したのです。
これはアメリカにとっては不幸なことでした。当時、アメリカはベトナム戦争の後の世論の揺れ戻しの中で、リベラルなカーター大統領が政権を担っていたのです。イラン革命はそんなカーター大統領の穏健な外交政策に大きな打撃を与えたのです。
 
硬化したアメリカの世論によって、アメリカに再びレーガン大統領による保守政権が誕生します。
レーガン政権は、イランに対抗するためにイランの西にあり、スンナ派サダム・フセイン政権に接近します。フセイン政権はシーア派のイスラム教徒への弾圧も進め、イランと緊張関係にあったのです。アメリカはさっそくイラクに援助を行います。その結果1980年にイラクとイランは戦闘状態になり、多くの血が流されたのです。ところが、その後サダム・フセインが増長し、アメリカが支援していたクエートを自国の一部と主張して侵攻したことが、その後のイラクとアメリカとの確執の原因になったのです。
 
一方、アフガニスタンを占領したソ連は、現地のイスラム教徒の抵抗にあい、泥沼の内戦になやまされます。最終的にソ連はアフガニスタンから撤退し、アフガニスタンにはソ連とアメリカ双方に強く反発するイスラム教過激派が支持するタリバン政権が生まれたのです。
アメリカは、イラクとイランの双方との関係を失い、アフガニスタンにまで影響力を喪失したことになります。
ところが、アフガン侵攻などの失敗もあってソ連も経済的に瓦解し、国家自体が崩壊したのです。その結果冷戦体制が終焉します。これはアメリカにとってはありがたいことでした。
冷戦崩壊後10年少々でアメリカは、タリバン政権が温存していたアルカイダが起こした同時多発テロ事件を契機に反タリバン勢力支援し、アフガニスタンを抑え、イラクにも侵攻し、サダム・フセイン政権を崩壊させたのです。
 
ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカに向かうと、途中にウエストウッド Westwood という街があります。すぐ横は有名なビバリーヒルズです。
この一帯はペルシャ人街で、通称:テヘランジェルス Tehrangeles と呼ばれています。ここにはイラン系のみならず、中東系のレストランなどが並ぶ地域です。彼らの多くが、今回解説した70年代以降中東を見舞った混乱によってアメリカに移住してきた移民たちなのです。
 
「私たちはパーレビ氏(革命で亡命したパーレビ国王の息子)がイランに戻り、宗教と政治とを分離した民主的な国家を作ってくれることを祈っているの。まだ時間はかかるかもしれないけど」
キャシーの娘は今ドイツでAIの技術者として活躍しています。そして、彼女のボーイフレンドであるシャリフは、アメリカに移住してきたあと、アメリカへの留学生のための保険を扱う仕事で成功し、ロサンゼルスで裕福な生活をしています。彼は、イラクで民主化運動をしていたということでサダム・フセイン政権によって8年間も投獄されていた父親をアメリカに引き取り、その最期をみとりました。
 
アメリカには、複雑な国際関係によって祖国を失った人々が多く生活しています。アメリカは国際政治の舞台では超大国として利権を維持しようとしながら、一方でその結果流入してきた移民の才能を活かし、活躍の場を与えてきました。その結果成長したのが、シリコンバレーなどのハイテク産業でもあることを忘れてはなりません。
 

今、トランプ政権はこうした移民を制限しようとしています。しかし、海外からの移民をステレオタイプ(stereotype)によって一つの色に塗り替えてゆくことは、単純に誤った知識によって社会を硬直化させる結果しか生み出さないことが、このエピソードからもわかってくるのです。

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「アメリカの裏庭」という意識を嫌うメキシコとは

Latin America is no longer the “US’ backyard” and the US shouldn’t be “lecturing less developed countries” on “rights and freedoms,” while breaching international law with massive surveillance campaign itself.

(ラテンアメリカはもはやアメリカの裏庭ではない。アメリカは新興国に対して人権と自由について講義するなんておこがましい。自分こそ他国を自らの思い通りに管理しようと国際法を常に無視しているにもかかわらず)
RT Newsより

トランプ政権になって、メキシコからの移民の問題が話題となっています。
我々は、メキシコのことを考えるとき、アメリカの存在があまりにも大きく、経済格差もあることから、メキシコをアメリカから切り離してみることを忘れがちです。
 
先日カリフォルニア州からのメキシコの玄関口ティワナに出張しました。車で国境を越えてメキシコに入れば、確かにそこがいかにアメリカにぴったりとくっついた場所であるかを実感します。
 
しかし、日本に帰国しようと、ティワナからロサンゼルスに飛んで、日本への帰国便に乗り継ごうとアレンジ(arrange)を試みたとき、ロサンゼルスまでの旅客機がないことに気付きます。ティワナからはメキシコの首都メキシコシティに飛んで、そこから日本への帰国便に乗り継がなければなりません。
そうなのです。アメリカに接しているとはいえ、メキシコは独立した大国です。ティワナに住む人の目は、アメリカではなくメキシコに向けられていて当然なのです。移民問題等で、我々がついつい誤解しがちな中南米のもう一つの顔。つまりアメリカとはまったく異なるラテンアメリカの文化圏がそこにあり、メキシコシティはその核の一つであるということを、忘れてはならないのです。
 
ティワナからメキシコシティまでは空路で3時間かかります。アメリカの側にある国としてついつい捉えがちなメキシコは、実は国土は日本の5倍以上と広大で人口も日本と同規模。経済的潜在力もGDPでいえば世界11位という大国なのです。メキシコの人がトランプ政権の処置に憤りを感じる理由の一つは、不公正な移民政策への抗議ではないのです。豊かなラテンアメリカの伝統を引き継ぐメキシコという国家のプライドを踏みにじったからなのです。
 
16世紀以降にマヤ文明アステカ文明といった先住民の国家群のあったメキシコはスペインの侵略を受け、その後先住民の文化とスペイン文化が融合します。我々はともすれば、スペイン側が侵略者であると一方的に考えがちですが、当時の中南米はそもそも先住民同士でも勢力争いが続いていました。そうした彼らの目からみれば、スペインの侵攻も、ヨーロッパの中南米の植民地化ではなく、単に今までみたことのない別の部族の侵略と捉えたはずです。
 
いずれにせよ、メキシコをはじめ中南米の広範な地域では、それ以来アングロサクソンのプロテスタントによって開拓されたアメリカとはまったく異なる文化圏が形成されたのです。
メキシコの中央部には、そうした文化の香りが漂う美しい街並みを残す都市が点在しています。銀山の街として、過去にはスペインに収奪されたこともあった古都グワナファト。そこから車で1時間半ほどのところにあるサンミゲル・デ・アジェンデなどを訪ねると、古い教会や昔から変わることのない街並みが旅人を魅了します。中南米の街はどこにいっても中心街に大きな教会と広場があり、そこを核に旧市街が広がります。その風景は、メキシコからアルゼンチンやチリに至るまで、どこの地域にも共通しています。
 
 
そして、ラテンアメリカの国々のほとんどがスペイン語圏です。
英語はなかなか通じません。英語は一部の人がビジネス上のニーズで話す言葉にすぎないのです。そして、ラテンアメリカの人々の多くは敬虔なカトリック信者です。プロテスタントの常識や宗教観が席巻するアメリカとは対照的です。
その昔、これらの地域は、中南米の鉱物資源の恩恵を受けようと、スペイン人が現地の人々を奴隷として酷使した過酷な歴史を経験しています。メキシコの場合、19世紀初頭から独立運動の波が高まり、現在のメキシコに至りました。
 
 
メキシコにディエゴ・リベラという画家がいました。今では世界的に有名になった女流画家フリーダ・カルロとの愛憎劇でも知られる人物です。
1930年代、ニューヨークにロックフェラーセンターが建設されたとき、その中心となるビルの壁画の制作をロックフェラーは彼に依頼しました。ディエゴ・リベラがその壁画にレーニンを描き入れたことから、反共の砦アメリカを代表する資本家ロックフェラーは激怒。壁画は破壊され、ロックフェラーは別の画家にその制作を依頼し直すというハプニングがありました。
以来、ディエゴ・リベラはロックフェラーを堕落した資本家の象徴として風刺したといいます。メキシコ人のアメリカへの意識を垣間見るエピソードです。今、ロックフェラーセンターに描かれている壁画を仰ぎ見れば、リンカーンがそこに登場し、その後マテリアリズムで世界を凌駕したアメリカの栄光を象徴するような風景に圧倒されます。その壁画の場所に、ディエゴ・リベラ のレーニンがあったことなどなかったかのように。
 
アメリカとメキシコ。この二つが対等な、それでいて切ってもきれないアメリカ大陸の大国であることを、アメリカ人の多くはロックフェラーのように、気づいていないのです。
トランプ大統領に代表される多くのアメリカ人が、中南米やカリブ海諸国を「アメリカの裏庭」(America’s backyard)と意識して、思うままに操ろうという意識が横行する現実にそろそろメスがはいってもよいのかもしれません。
 

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メキシコでの日米談義はグローバルなコメントから

“Car plants from Michigan to South Carolina could pay more for the steel used to make engines and auto parts. Farmers across the Midwest would be a prime target for China, the biggest buyer of some American crops.”

(今回のトランプのアメリカの産業を保護するという関税は)ミシガン州やサウス・カロライナ州の自動車製造業はエンジンと部品の調達コストがあがるだろう。そして、中西部の農家も、最大の作物の買い手である中国の輸入制限という報復の対象になるはずだ。
CNNより

「メキシコ人はプライドが高いんだよ。実は本音でいえば、多くの人はアメリカ嫌い。トランプ政権のメキシコ蔑視の発言はそれに拍車をかけたことになるさ。でも、とはいえ、経済的にはアメリカは大きな影響力を持つ。だから、多くのメキシコ人は英語も勉強しようとしているし、アメリカに移住した親戚や友人にも期待しているんだ。」
メキシコ中部の中核都市グアダラハラのレストランで、そこに暮らすマイケルというアメリカの仕事仲間と夕食を共にしました。
「実はね。メキシコ人で英語をしゃべれるのは人口の5%に過ぎない。その5%の中に英語の初心者もいれば、上級者もいる。いかにこの国で英語が通じないかということがわかるだろう。」
すると、アメリカから一緒にグアダラハラに飛んできて夕食に同席したもう一人の知人が私に質問します。
「でも、メキシコ人はトランプ政権に強く反発しているよね。声にだして。日本ではどうなんだい。今回、鉄鋼やアルミにアメリカは関税をかけると発表したろ。日本人は黙ってそれを受け入れるのかねえ。」
これを受けて、もう一人のアメリカ人が言います。
「あれって確か中国に向けられたものだよね。日本も対象なんだ。でもさ、日本は軍事でもアメリカにタダ乗りしているし、まあ関税でもかけないとバランスが取れないんじゃない。」
「それって、事実に反するんだよ。」
私はそう言って反論しました。
「日米安保条約があって、アメリカ軍は日本に駐留しているけど、その経費のかなりは日本がもっているんだよ。むしろアメリカはその経費によって日本に軍隊をおいて極東でのプレゼンスをもつことができるという利益を受けている。知らなかったの。」
「そんな事実アメリカ人は誰も知らないよ。なぜなら日本はそのことを全然主張しないから。主張しなければアメリカの世論に届かないじゃない。」
確かに彼らのいう通りです。我々が思っているより強く主張して、初めて海外にはじんわりとメッセージが伝わるのだということを、日本人は知らなすぎます。日本人の考え方やスタンスについて、自分たちはちゃんと言っているというものの、実際はそのほとんどが的確に伝わっていないことがあまりにも多すぎるのです。
「じゃあ今回の関税の問題も、日本の声はアメリカには届いていないようだね。」
「そうだよ。韓国やヨーロッパ諸国はアメリカに強く反発した。でも、日本からの声は届いていないよ。韓国やヨーロッパ諸国もアメリカにとっては大切な友好国だろ。でも彼らはいうべきことははっきりいうさ。日本人って何か遠慮しているのかな。それともはっきり言いすぎることは美徳じゃないと本気で思っているんだろうか。だから日本だけはしごを外されたんだよ。」
 
このアメリカ人のコメントには確かに耳を傾ける必要があります。
こちらでは、親しい友人が様々なことで口角泡を飛ばすように議論します。横でみていると喧嘩をしているように見えることも。でも、彼らはそうした議論をしてこそ、相手との理解を深めることができるというスタンスを持っていることを忘れてはなりません。異なる意見を戦わせることは、むしろ良いことなのです。
日本人で流暢に英語をしゃべり、海外通と呼ばれ教養もある人が、この一点を理解していないために、海外との交渉で思わぬ失敗をする場面が多いのです。
軍事や経済での日米の交渉も例外ではありません。正直なところ、こうした点を踏まえることのない、日本の官僚、大企業の幹部の交渉力のなさには苛立ちを感じるほどなのです。
ですから、今でもアメリカでは、日本に対する様々なステレオタイプが横行しています。ここで取り上げた日本タダ乗り論に加え、日本では女性が奴隷のように差別されている。ほとんどの日本人は内気ではっきりものを言わない。日本人は中国や韓国へ戦争責任について何も謝罪していない。日本には言論の自由がないなどなど。
 
確かにこれらのステレオタイプ(Stereotype)には、それなりの原因があるかもしれません。しかし、はっきりと英語で自らのスタンスを語ることのできない日本人が得る不利益は思っているよりも大きいのです。
「おいおい、アメリカ人は利益があると思えば、平気でスタンスを変えるよ。例えば、関税のことでも同様さ。トランプは今ひどい支持率だろ。だからアメリカの産業を自分が支えていることを強調するために、日本をスケープゴート(scapegoat)にするなんて当たり前のことなんだ。事実に反してもね。俺は中東の出身だからよくわかるけど、アラブ系の人がどれだけそんなアメリカの政策の被害にあってきたことか。トランプ政権はその最たるもの。知ってるかい、中東の混乱のため、俺の親戚の住むレバノンには、シリアから200万人の難民が流れ込んでいる。日本はこうしたことに何もしていない。俺たちからみても日本人は大人しすぎる。大人しければ、アメリカはこれ幸いにアドバンテッジ(advantage)をとってもいいと彼らは思っているんだ。」
同じテーブルにいたイラン系のアメリカ人が話し出します。
「いいかい。なんだったっけ今の日本の首相。」
「安倍首相かい。」
「そうそう、アベ。彼がトランプとゴルフをしたから大丈夫だって。馬鹿な話だよ。結果としてヨーロッパの多くの国はトランプを強く批判して、自分の国の利益を守ったじゃない。仲のいいことと、ビジネス上の利益とは違うんだよ。そこのところがどうしてわからないんだい。」
 
グアダラハラの夏の夜は、メキシコの話題から日本人論へと移りながらふけてゆきました。
その話題に加わる私の複雑な気持ち。それが、海外を実感したときに抱くやるせなさなのです。この気持ちを一人でも多くの人が共有できるようになったとき、日本は少しずつ変化してゆくはずです。そんな未来が来ることを祈りたいものです。
 

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