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ニューヨークの年末はカオスと好景気

“Some folks like to get away. Take a holiday from the neighborhood. Hop a fight to Miami Beach or to Hollywood. But I am taking a Greyhound on the Hudson River line. I’m in a New York State of mind.”

(休暇を取って逃げ出す奴もいるね。マイアミビーチやハリウッドに。でも俺は、グレイハウンドに乗って、ハドソン川に沿って走ればいい。だって、ニューヨークに俺の心はあるんだから)
ビリー・ジョエル ”New York State of Mind” より

マンハッタンを走り抜けるタクシーの車中にて

 年末、ニューヨークに到着して、マンハッタンイーストリバー沿いに通るFDRと呼ばれる高速道路を走っていました。
 といっても、タクシーの後部座席に座って、渋滞の中、雨にくすむ川を眺めながら、この原稿を書いていたのです。
 タクシーの運転手は、渋滞にため息をつきながら、電話で仲間と話しています。言語は分かりません。英語ではなく、おそらくバングラデシュかどこかのローカルな言葉なのでしょう。彼らには、彼らの移民ネットワークがあるのです。
 
 ニューヨークは、いつ訪れても相変わらずの印象です。車の渋滞、空港の混雑と、様々なトラブル。クレイジーな街だと多くの人が批判します。
 しかし、なぜかそんなニューヨークに戻ってくるとほっとするのは、ここに16年間住んでいたためでしょうか。
 それだけではないかもしれません。この街は、表向きは何も変わっていないようですが、その内側は常に変化しています。ちょうど、人間の外見は変わっていなくても、内臓は常に進化しているような、あるいは頭脳がどんどん変化しているような、極めて特別な印象をニューヨークは持っているのです。
 
 これは大きな視野で見れば、アメリカ一般にも言えることでしょう。
 几帳面な日本の社会から見れば、大雑把で、この国のサービスは決して良いとは言えません。自分から激しくアピールしない限り何も動きませんし、ある面ではとても理不尽なことも起こります。
 しかし、アメリカの内臓や頭脳は常に進化を続けています。それは、たとえトランプ大統領が移民を制限しようが、世界との関わり方を変えようが、一時的なインパクトはあるものの、大きな流れを変えることはできません。
 
 相変わらずだなと思う背景には、この街では常に大きな工事があちこちで行われ、交通が制限され、そのために渋滞などの不便がつきまとうからかもしれません。無秩序に古いものが新しいものへと変わるため、歪みがあちこちに出るわけです。
 しかし、このことからもお分かりのように、それは常に新しいものがそこに生まれている証拠なのです。
 
 我々日本人は、ともすればこうしたアメリカの姿を見過ごしてしまいます。
 整然と物事が進化するのではなく、各々がそれぞれのニーズと欲望、そして期待によって勝手に変化を続けるのです。そして、その変化に対して、公はそれに沿った法則を作り、政策を発議するのです。民間の方が官より常に先に進み、国を変えてゆくのが、この国の特徴とも言えましょう。
 

好景気に沸くニューヨークのホテルでの一幕

 さて、そうこうしているうちに、ニューヨークのホテルに到着しました。
 ホテルは、アメリカの景気の良さでごった返しており、チェックインにも長い列ができています。こちらのニュースによれば、クリスマスシーズンから年末にかけて家族旅行に出かける人は過去最高とのこと。
 
 これは、中国との摩擦などが続きながらも、アメリカの経済状態が最高潮であることを物語っています。当然、この景気が続くならば、今年の大統領選挙でトランプ大統領に追い風となるはずです。とはいえ、それを防ぎたい人が多くいることは、アメリカに来れば肌感覚で分かってきます。今回の弾劾裁判の後の審判がどうなるか、上院の中で共和党がどう反応するか。大半の人は、大統領は失職しないと言い切っています。ただ、共和党の中でどのような風波が起こるかは、興味深いものです。
 
 さて、そんな好景気に揺れるニューヨークのホテルで、幸い私はメンバーなので、チェックインの長い列に並ばなくてもよいはずだと思って安心していました。私と数人の顧客はそれを期待して、メンバーの特別ラインに並びます。ところが、いつまで経ってもその列が進まず、メンバーの人はむしろ置き去りにされているのです。
 やっと自分の番になって、フロントに問題点を指摘すると、「私は今、ランチが終わって戻って来たばかりだから、そんなこと言われてもどうしようもないわよ」という応対です。
 やれやれ、やはりニューヨークは変わらないなと思いながら、それでもチェックイン後、マネージャーを呼んで、起こった事を冷静に時間軸に沿って説明しました。
 そして、「これはホテルのサービスのためにお話ししていることだし、私のメンバーとしてのプライドのためにもお話ししていることです。特別なことをお願いしているわけではないのですよ」と丁寧に話します。そして最後に、冷静な落ち着いた言葉で「でも、これには怒りを感じました」と説明します。
 するとマネージャーは、「お客様のおっしゃることはごもっともです。我々はフロントの誰がお客様の応対をしたか、調べればすぐに分かります。ちゃんとフィードバックをしておきます。それから、この部屋に移動していただけますか」と言って、24階のスイートルームを用意してくれたのです。
 
 アメリカでは、何か起こったとき、感情的に話すより、事の経緯を冷静に描写する方がはるかに相手を動かすことができるのだということを実感しました。というのも、私はマネージャー個人を責めているのではなく、ホテルのサービスの課題を指摘しているのだ、というものの言い方が相手に伝わった方が、相手もしっかりとビジネスとして受け取って対応してくれるからなのです。
 

進化を続けていくニューヨークの街並み

 こうして、ニューヨークの夜は更けてゆきます。
 今、ニューヨークはハドソン川に面した地域の開発が進み、昔はヘルズ・キッチンと呼ばれ恐れられていた地域が、モダンなショップやビジネスセンターが立ち並ぶエリアに様変わりしているとのこと。景気の実態を調べに、その辺りを散歩しようかと思っています。
 

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『心が伝わる英語の話し方』しゅわぶ 美智子 (著)心が伝わる英語の話し方』しゅわぶ 美智子 (著)
英語でコミュニケーションするということは、頭の中で日本語を英語に置き換えるだけでなく、「文化の違い」や「思考・行動システムの違い」、そして「言語構造の違い」を理解することが必要になってきます。
本書では、多文化コミュニケーションで実行すべきポイントや準備を詳細に学ぶことで、英語文化の中での表現方法や行動様式に適応する力を身に付けます。
日本文化の影響を色濃く受けている日本人が陥りやすい外国人とのコミュニケーションの問題点を、グローバルな視点で見つめ直せる一冊です。

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北朝鮮問題と素人好みのポピュリズム政権が生み出す「脅威」の関係

©ロイター / Leah Millis

“With North Korea’s deadline for American concessions fast approaching, the North announced Sunday that it had conducted a ‘very important test’ at a missile-engine site.”

(アメリカとの譲歩の期限を目前に、北朝鮮はミサイルのエンジンに関する「極めて重要なテスト」を行ったと表明)
― New York Times より(一部編集)

プロの政治家たちが掲げる理想「ネオコン」とは

 先週末、自宅でケーブルテレビを見ていると、たまたま History Channel北朝鮮を特集した番組に出くわしました。そこで専門家が口を揃えて、すでに誰も北朝鮮を追い込むことができなくなった、と述懐しているのが印象的でした。
 トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官として、北朝鮮問題にも深く関わったことのあるジョン・ボルトンも、そうしたコメントをした一人でした。彼は、歴代のアメリカの政権が現在の北朝鮮を育ててしまったと、アメリカの朝鮮半島への関わり方を厳しく批判しています。
 
 ジョン・ボルトンは、アメリカの政治家の中でも極めて保守色が強く、オバマ政権で進められてきたイランキューバなどとの融和政策を痛烈に批判していました。従って、彼がトランプ政権のチームに加わったときは、どこまでアメリカがイランに対して強硬な対応をとるのか、多くの人が危機感を抱いたものでした。しかし、ボルトン氏は、今年の秋にトランプ大統領とも袂を分かち、政権から離脱してしまいます。
 
 トランプ政権の不思議なところは、彼の政策を象徴するような右寄りの政治家が、政権のチームに加わっては去ってゆくことです。
 そのことを理解するには、トランプ政権の成り立ちを振り返る必要があります。
 まず思い出したいのは、今世紀初頭にアメリカで台頭し、世界の注目を浴びたネオコン(Neoconservatism)という考え方です。ネオコンは新保守主義とも呼ばれ、ジョージ・W・ブッシュ政権などを支えていた人々の多くがそうした主張をしていました。彼らはアメリカという国家の理想のためには、他国に対して軍事介入をも辞さず、強いアメリカとそうしたアメリカを支えてきたキリスト教的な価値観に回帰し、移民政策に対しても多様化するアメリカ社会にブレーキをかけようとしていました。
 
 従って、トランプ政権が誕生したとき、共和党支持者の中でネオコンの流れを汲む右派の人々は、トランプ大統領が表明したアメリカ・ファーストという政策を強く支持してきたのです。ジョン・ボルトンもその一人でした。
 しかし、トランプ大統領は、彼らから見るとあまりにも素人臭く、政策への一貫性が見えてきません。やがて、ネオコンの政治家たちは、トランプ大統領の個性について行けずに乖離し、政権チームから離脱し始めたのです。
 
 実は、トランプ政権は今までのプロフェッショナルによる政治を嫌っていた、ごく普通のアメリカ市民の支持によって誕生した政権なのです。一般の人々の中でも、リーマン・ショック以来失業に怯え、移民の流入で地域社会が変化してゆくことへの不安を抱えた、保守層の支持によって誕生した政権なのです。言葉を変えれば、素人臭さこそが、トランプ大統領の人気を支えてきたのです。それに対して、ネオコンを標榜する人々の多くは、トランプ政権が発信してきた考え方には共感しながらも、彼ら自身はプロの政治家だったのです。
 

©Oliver Contreras / Pool via Bloomberg

素人目線が生み出したトランプ「ポピュリズム」政権

 今、アメリカのみならず、世界中でプロの政治家への不信感が蔓延しています。
 前回の大統領選挙は、ヒラリー・クリントンというまさに政治、外交のプロと、素人で分かりやすい発言で有権者を取り込んだドナルド・トランプとの、プロ対素人の闘いでした。
 多くの有権者には、複雑な国際関係のしがらみや利害関係など、どうでもよいことです。自らの収入が安定し、地域社会が今までと同じように維持されれば、それでよしということになります。移民がアメリカにやってくる理由や、移民の多様性による社会の進化がアメリカを支えてきたと、プロの政治家が理想を語っても、自分たちの職や社会を守るためにはよそ者を安易に受け入れるべきではないと主張した方が分かりやすく、説得力があるように思えるわけです。この素人臭さこそが、ポピュリズム政権を生み出すエッセンスだったのです。
 
 ネオコンの政治家は、同じ考え方を持っていたとしても、その底流には伝統的なアメリカの政治のあり方へのイデオロギーがありました。合衆国憲法独立宣言に端を発し、強く大きな政府が良いのか、地方分権が良いのかという、アメリカの伝統的な政治理念における対立の一つの極に、ネオコンの存在がありました。彼らは世界情勢にも目を向け、その上で、アメリカの利益を守るためには強硬な手段も必要だと主張しました。その結果、ジョージ・ブッシュ元大統領はイラクと戦争を始め、サダム・フセイン政権を崩壊させました。
 
 しかし、トランプ大統領を選んだ人々は、こうした世界におけるアメリカのあるべき姿などに興味を持ってはいないのです。むしろ、アメリカは強くて当然で、世界一のアメリカであるはずなのに、自分たちの地域社会は経済的に困窮し、治安の上でも混乱していると考えます。ですから、トランプ大統領の単純明快な発言が彼らの心の琴線に触れたのです。そして、仕事を守るためにメキシコとの国境に壁を作ろうと思ったのです。ネオコンブームとポピュリズムとの違いは、このプロと素人との発想の違いや溝を見ればよく分かってきます。
 
 トランプ政権の誕生と、その後の様子に目を向ければ、ポピュリズムが一般大衆の政治不信を源流として、次第に大きな濁流へと発展してゆく様子が見えてきます。今、この濁流が世界中を席巻しそうな勢いです。そして、日本も例外ではありません。アメリカの場合、共和党民主党がお互いをチェックすることで、どちらから大統領が選ばれても、そこには一定のバランスが保たれていました。そうしたバランスそのものが政治の醜い取引であると、多くの人々の目には映っていたのでしょう。
 

©2019 Dow Jones & Company, WSJ

世界秩序を保ってきたパワーバランスの崩壊を前に

 トランプ大統領は、自らがそうした背景で誕生した素人出身であるということを否定するために、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)と電撃的な会見を実現させました。しかし、現時点でそうした政治ショーはその後の成果とはなっていません。
 北朝鮮が核を保有する以上、彼らを追い詰めすぎるとまずいものの、彼らの政策を容認するのも危険であると専門家は見ています。だからこそ、そもそも核を持たせるまで傍観していたアメリカの歴代政権を、ジョン・ボルトンは厳しく批判したわけです。政治的立場への是非はともかく、そこに見えてくるのは妥協と謀略とを繰り返してきたプロの政治家を、ネオコンのプロが批判したという皮肉な現実です。
 
 ちょうどアメリカが、共和党と民主党という二つの政治プロ集団によってバランスを保っていたように、20世紀後半は米ソ冷戦による政治的駆け引きが、皮肉にも世界のバランスを維持していました。
 しかし、冷戦終結後、そのパワーバランスが崩壊した隙をついて、中東には過激なテロ集団が、極東には北朝鮮という核保有国が生まれたのです。彼らには通常の国際常識にのっとった交渉が機能しません。
 世界は、ポピュリズムとテロ集団という、極めて対処が困難な政治的環境の中でもがいているのです。
 

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グローバルに生きるってこういうことだ!

『GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)
30年にわたり米国企業でアメリカ内外の戦略業務を展開後、国連ボランティアとしてアジア諸国を回った日本人の冒険譚。
世界的規模の競争と共生が進む現代社会において、グローバルな生き方を目指す人々の「生きた教科書」となる体験談を英文で楽しむ1冊。

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世界を気にしなくなったアメリカと、その波紋に揺れる世界の今後は

“Trump’s trade war spooks markets as White House waits for China to blink.”

(トランプの経済戦争に市場はおどおど。ホワイトハウスは中国が混乱することを期待しているのか。)
― New York Times より

石油にわくアメリカ経済と中東情勢

 イラクアブドルマハディ首相が辞意を表明したことが、中東の新たな不安要因として注目されています。治まらないテロや貧困、イスラム教内の宗教上の対立、そして政府の腐敗などに、市民がしびれを切らしてデモを起こしました。そのデモの鎮圧によって、400人近くの犠牲者が出ていると言われています。
 
 本来、戦後から何度となく続く中東での戦火に常に翻弄されてきたのは、石油資源を中東に頼る、日本をはじめとしたアジアの国々でした。
 それでいて、中東で政治的なつばぜり合いをしてきたのは、常にアメリカとロシア、それに元々の宗主国ともいえるイギリスやフランスでした。
 
☆ ☆ ☆
 
 先日、アメリカのオクラホマ州に出張しました。
 同地の空港に降り立ったとき、滑走路の横で石油の掘削が行われていたことに驚かされました。30年前にオクラホマシティを訪ねたときとは打って変わり、街には新しい高層ビルが建ち、さびれていた中心街も綺麗に整備されています。石油景気なのです。
 この石油景気は、アメリカにトランプ政権が誕生したことと無縁ではありません。そして、中東の今後の不安要因とも無縁ではないのです。
 
 2014年3月28日の記事で、私はアメリカの未来を変えるフラッキングと呼ばれる新しい掘削技術で、アメリカが世界有数の産油国に変貌する可能性を紹介しました。そのときはロサンゼルス・タイムズの記事を参照しました。
 今、アメリカは石油の需要を自国の生産で補えるのです。フラッキングによる安価な掘削技術が、オクラホマやテキサスなどで油田ブームを巻き起こしているのです。
 言葉を変えれば、アメリカは中東の産油国を気遣う必要がなくなり、過去に中東戦争での悪夢となったオイルショックに怯える必要がなくなったのです。
 
 このことは、アメリカが中東において軍事的、政治的なプレゼンスを維持する根本的な動機が希薄になったことを意味します。それが、トランプ政権が「アメリカ・ファースト America First」と豪語し、諸外国の秩序維持に介入することの愚かさを強調して、大統領に当選した背景の一つとなったわけです。リーマン・ショック以来、長くアメリカを覆っていた不景気から脱却し、中国に堂々と貿易戦争を仕掛けるまでに経済が回復した背景も、石油や天然ガスといった国家の基盤となる資源供給の構造の変化が、大きく後押ししていたことは言うまでもありません。これは、日本ではあまり知られていない事実です。
 
 中東の不安が他人事となったことは、アメリカの極東政策にも影響を与えるでしょう。石油の供給ルートであるアラビア海からインド洋、そして南シナ海に至る公海を、アメリカが高額な経費を支払って守る意味も少なくなります。アメリカが日本をはじめとしたアジア諸国と、「石油」という絆で結ばれた同じ利害を共有する仲間ではなくなるからです。
 

バブルの波が押し寄せるアジアの国々

 このアメリカでの景気回復によって生まれた資金は、様々な金融商品として世界を貫流します。日本のような低金利政策の続く国にとって、高い利子での資金の運用は魅力的です。世界中で、以前リーマン・ショックを生み出した構想に似た資金供与が行われています。業績の悪い企業に対して、利息を高くしてリスクヘッジしながら資金を融資する「低格付け債権」が流通しているのです。こうした不安定なバブルが、石油によって生まれた富の運用先として活用されていることは、低金利政策をとる日本にとっては極めてリスクの高いことなのかもしれません。
 
 オクラホマで目の当たりにした景気は、トランプ政権にとっても追い風です。しかも、ウクライナなどが絡んだスキャンダルにトランプ大統領がどれだけ耐えられるかは未知数です。もしも大統領の弾劾が行われ、上院で共和党に造反組が現れたとして、実際に大統領を失職させるだけの票数が集められるかはまだまだ何とも言えません。
 その中で、大統領としては、新たなリーマン・ショックだけはなんとか避けたいと思っているはずです。そのために America First という政策をどう他国に押し付けてくるか。日本にとっても韓国にとっても、はたまた台湾や東南アジアにとっても先の読めない状況が続いているのです。
 
 一つだけ期待したいことは、アメリカは基本的にキリスト教と民主主義の二つのモラルによって政治が左右されている国であるということです。その側面から見た場合、最も右寄りにあるトランプ政権でも、香港での混乱、そして香港市民を不安に陥れている中国の強大化に対して、有権者レベルで強い反発意識があることを無視はできないはずです。このアメリカ人の価値観が、中東や極東からの急速なアメリカのプレゼンスの退潮にブレーキをかけるのでは、と楽観する声があることも事実なのです。
 
☆ ☆ ☆
 
 そんな様々な世界の要因を、今マニラのホテルの一室からCNNなどのニュースを見ながら考えています。
 マニラにあるモール・オブ・アジアという巨大なショッピングモールは、クリスマス商戦初日ともいえる週末を迎え、買い物客でごった返していました。このモールで売られる家電や衣料品は、フィリピンのほんの一部の人しか購入できません。彼らはいまだに月収3万円から5万円という賃金で働いています。しかし、そんな実態が嘘のように、人々はマニラを代表する海辺のショッピングモールに繰り出しています。
 
 裁かれるトランプ政権、安定しない中東情勢、デモや騒乱に揺れる香港や南米各地の政治情勢が、新たに世界的な信用不安が顕在化することで、一つのベクトルに収れんしたとき、フィリピンのような発展途上国は、その影響を国家レベルで受けてしまいます。そうなれば、世界中の人々が一層内向きになり、自国の利益を優先したブロック経済が横行するかもしれません。
 

モール・オブ・アジア

来る混乱の予兆を前に我々が考えるべきことは

 2019年はこれから起こる様々な混乱の予兆の年だったのかもしれません。
 人々は、ほんの数年先の世界すら予測できない状況にあるのです。その点では、我々は中世や近世からほとんど進化していないといっても過言ではないのでしょう。
 フィリピンから帰国したら、再びオクラホマを含むアメリカ中西部への出張が待っています。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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アメリカ特殊部隊の電撃作戦の背景、そして今後の課題は

10月27日、米ホワイトハウスで「イスラム国」の指導者バグダディ容疑者について話すトランプ大統領(ロイター=共同)

“Last night, the United States brought the world’s No. 1 terrorist leader to justice,”Mr. Trump said in an unusual morning nationally televised address from the White House. “Abu Bakr al-Baghdadi is dead.”

(「昨夜、アメリカは世界最強のテロリストに鉄槌を下した」トランプ大統領はホワイトハウスから、異例の朝の全米向けテレビ中継でそのように語った。「アブー・バクル・アル=バグダディはすでに死んでいる」と)
― New York Timesより

このタイミングで作戦実行した背景とは

 つい先日、トランプ大統領が、アメリカの特殊部隊がシリア北部に潜伏していたISのリーダー、バグダディ容疑者を追い詰め、彼が3人の息子を道連れに自殺を遂げた、と発表したニュースが飛び込んできました。
 このニュースは瞬く間に世界を駆け巡りました。
 ISは、長年にわたってイラクやシリアでの混乱を利用して活動領域を広げ、インターネットなどを駆使した今までにない動員力とネットワーク力をもって、世界中でテロ活動を試みてきた組織です。
 拘束したジャーナリストを斬首したり、対立する部族や宗派の人々を処刑したりレイプしたりするなど、その残虐な行為は、世界の国々の利害を超えた共通の脅威とされました。
 
 こうした背景から、アメリカの特殊部隊は、通常は微妙な国際関係に揺れているシリアやロシアとも情報を交換し、シリアの領土に部隊を送り込んで作戦を実行したことになります。ある意味で、国際的な軍事ネットワークなどのサポートを土台にした作戦だったと、トランプ大統領が強調しているようです。そして、その協力関係の中にはクルド人組織も含まれていたと言われています。
 
 ただ、ここで一つ疑問がわいてきます。
 なぜ、このタイミングでアメリカは特殊部隊を送り込んだのでしょうか。アメリカはつい最近、シリアのクルド人支配地域からの全面撤退を進めましたYPGと呼ばれるクルド人勢力は、アメリカと共同でISの掃討活動を実施してきた人々です。そんなクルド人は国家を持たない民族として、トルコなどでの差別に直面していました。アメリカ軍の撤退を受けて、トルコはシリアのクルド人居住地域への攻撃を始め、このことがシリアとシリアを支援するロシアとの新たな緊張につながるのではないかと懸念されました。実際、攻撃を受けた市民の多くが死傷したことで、アメリカはクルド人を利用するだけ利用して見捨てたのだという批判に晒されました。
 さらに、こうしたアメリカのプレゼンスがなくなった中東に、権力の空白地帯が生まれ、そこにISが進出して新たな展開をするのではという脅威も強く指摘されていたのです。
 
 今回、シリア領からの米軍撤退によるこうした懸念にピタリと蓋をする絶妙なタイミングで、ISの指導者が殺害されたのです。人々に恐怖を与える指導者がいなくなったことは、決して悪いことではありません。しかし、今回の作戦行動が、ここに記した様々な懸念を払拭するために最適のタイミングで実施されたことから、そこにはトランプ政権による世界からの批判をかわすためのしたたかな宣伝工作の意図があったのではと思われます。
 

PC: ASSOCIATED PRESS

バグダディ死亡の余波と懸念される報復

 中東の情勢は極めて複雑で、安易に評論することはできません。イスラム教の様々な宗派や部族、さらにはイスラム教と対立する人々との利害など、中東のもつれをうまく解ける人は日本のみならず世界でも数少ないのではないでしょうか。それだけに、今回のあまりにもすっきりとした作戦の実行と、その成功の次に起こることへの不安は隠せないのです。
 まず、ISの創始者とされるバグダディ容疑者を暗殺したことで、世界に拡散されたISのネットワークが崩壊するとは思えません。むしろ西欧への反感を刺激し、報復などといったさらなる活動が世界で展開されない保証はどこにもありません。もちろん、日本も例外ではないのです。
 
 例えば、中国を例にとりましょう。
 中国ではウイグル族などイスラム教徒への不平等な扱いへの不満が、中国政府を震撼させるテロへつながるのではという脅威を抱いています。そこで、彼らの政治活動への激しい弾圧と迫害が行われているといわれ、西欧諸国も彼らへの人権侵害を事あるごとに指摘してきました。そして、中国政府の弾圧でさらに追い詰められた人々が過激な行動に出るとき、ISの組織で訓練を受けていたことは周知の事実なのです。
 
 さらに、アメリカがもともと世界戦略のために利用してきた人々が、逆に反米テロの指導者へとなった事実も忘れてはなりません。9.11世界貿易センターなどを破壊したアルカイダの指導者だったオサマ・ビン・ラディンも、元はといえばアメリカのイラン戦略などの折にアメリカに協力した人物だったのです。
 そして、彼らの影響を受け、イラク戦争の折に拘束されたアメリカの収容所の中で、世界へのテロの構想を練りネットワークを始めたのが、今回殺害されたバグダディ容疑者だったのです。
 
 物事を善と悪の二つの色で簡単に評価し、その時の必要性に応じて自らの利益のためにそうした人々を利用してきた欧米への反感は、中東では特に根深いものがあるのです。そして、インターネットやSNSというツールを使って、世界中でこうした反感を持った人々をバーチャルにネットワークしたことが、ISのようなモンスターを生み出した原因となったのです。
 

10月21日、シリア北東部カミシュリで、米軍の車両にジャガイモを投げる住民ら(ANHA・AP=共同)

目的はテロの撲滅か、再選のための対策か

 トランプ大統領が自らの手柄として、彼への支持率を上げるために今回の行動を指示したことは事実でしょう。もちろん、それによってテロ活動の一翼が粉砕されたことは評価しなければなりません。しかし、大統領がその成果のみを誇示し、テロが起きる中東の複雑な背景に蓋をしたとき、そのツケはさらに大きなものとなって地球上に拡散するはずです。テロの撲滅をポピュリズムとつなげることのリスクを、我々はこれからじっくりと考えるべきなのです。
 
 とはいえ、クルド人支配地域からの米軍撤退への批判をかわすための戦略としては、今回のタイミング良い判断がトランプ大統領への追い風となったことは否めない事実でしょう。
 

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『オンラインで英語をはじめて、つづけて、うまくなる』松本晃秀 (著)オンラインで英語をはじめて、つづけて、うまくなる』松本晃秀 (著)
費用が安く、自分の好きなタイミングで受講できると、人気の学習法である「オンライン英会話」ですが、一方で始め方がわからない、続かない、上達が実感できないなど、挫折した経験のある方も大勢います。本書では、そんな学習者に、オンライン英会話をフル活用するためのポイントを紹介します。準備編から始まり、続けるコツ、さらには上達のコツまで、詳細に解説し成功へ導きます。
オンライン英会話に興味がある方なら誰にでも役に立つ1冊です。

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トランプ大統領の弾劾と選挙の行方

Shealah Craighead / White House / ZUMA Press / アフロ

“President Trump must turn over eight years of his personal and corporate tax returns to Manhattan prosecutors, a federal judge ruled.”

(トランプ大統領は、過去8年間の個人と法人の税務申告書を、連邦裁判所が管轄するマンハッタンの検事に提出しなければならない)
― New York Times より

米史上初の大統領「弾劾」となるか

 最近”impeach“(告発する・弾劾する)という言葉をよく耳にします。
 まず、韓国の前大統領であるパク・クネ氏が弾劾され、2017年2月に大統領の座を追われました。
 そして今、アメリカのトランプ大統領も、ウクライナに政治的圧力をかけ、次回の大統領候補でライバルのバイデン氏に不利となる証拠を捏造しようとしたとして、弾劾を受けようとしています。この審問がうまくいくかどうかはまだ分かりません。ただ、もし弾劾が成立し、トランプ氏が大統領の座を追われるようになった場合、それはアメリカ政治史上初のケースとなります。以前、ニクソン元大統領が「ウォーターゲート事件」で、政敵の情報を盗聴していたとして、弾劾勧告を受けました。
 しかし、彼は失職する前に自ら辞任したのです。従って、アメリカで実際に大統領が弾劾されたケースは今までにはないのです。
 この弾劾の動きに刺激されて、最近にわかに大統領に関する様々な疑惑や調査が目立っています。今回のヘッドラインは、以前に大統領によるニューヨークでの脱税行為疑惑が持ち上がった際の調査に関する記事です。この調査に、大統領とはいえ協力しなければならないという連邦裁判所の裁定が下されたというわけです。
 

©NHK

来年の大統領再選を見据えて

 来年は、大統領選挙の年にあたります。
 アメリカの場合、大統領選挙は現職の大統領が圧倒的に有利です。
 現職の大統領は、様々な政治的成果を最大限に利用して自らの行政力をアピールすることができ、それによって、その能力が未知数である対立候補を追い込めるからです。
 とはいえ、現職の大統領がいかに有利であるといっても、選挙に勝利するには自らの成果をどのようなタイミングでアピールするか、慎重に判断しなければなりません。
 例えば、今好景気であったとしても、大統領選挙の年、しかも選挙のある11月に向けてその好景気を維持できるかどうか、慎重に判断しなければなりません。もし、景気が追い風にならない場合は、外交などその他の成果を強く印象付ける必要に迫られるのです。
 
 現在、アメリカは中国と貿易戦争を繰り広げています。外交面では、トランプ大統領は華やかで豪快なアクションで、ライバルである中国に強い圧力をかけているように国民にアピールします。一見素人っぽい外交であっても、要は一般の有権者に「かっこよく」映ればそれが票に繋がるのです。
 しかし、中国との貿易戦争はお互いにとって消耗戦となります。その結果、じわじわとアメリカ経済にもヒビが入り、その悪影響が大統領選挙のときにピークとなれば、彼は経済と外交の双方で失敗したことになり、再選への大きなハードルができることになるのです。
 
 ですから、トランプ大統領としては保険をかけなければなりません。
 保険のかけ方には、いくつか方法があります。
 まず、貿易戦争の波紋がこれ以上拡大しないよう、中国以外の国とは穏便に事を進め、アメリカ経済に悪影響が出てくるスピードを減速させることです。
 次に、トランプ大統領を支持している層が注目している、移民政策への過激な戦略アピールです。メキシコとの壁が実際に完成しつつあることを強調し、その一方でその費用はメキシコ側へと息巻いていた発言を控えながら、メキシコとの政治的緊張はうまく回避することです。
 当然、中国が香港の問題などで四苦八苦している状況を見極めながら、中国との貿易戦争をできるだけ有利に終結できるか、模索しなければならないことは言うまでもありません。
 
 以前の選挙公約のうち、選挙のために「フライング」した発言はうまく軟着陸させ、実践しているセグメントは強調します。同時に、大統領選挙の直前に国民が納得するように、そうした成果をアピールするタイミングを計ってゆかなければならないのです。
 一般的に、現職が二期を終えて、民主党からも共和党からも新しい候補が立候補する場合は、その勝敗は直前まで分からないというのが実情です。ヒラリー・クリントン有利と言われながら、当初は泡沫候補と目されていたトランプ氏が勝利したのは、それを象徴する現象でした。こうした実例はケネディ元大統領が当選した時など、過去にも何度かありました。しかし、一度当選を果たせば、二期目を狙うハードルはぐっと低くなるのが通例です。あとは、ここに記した通り、滑走路にしっかりと安全に着陸するパイロットのように、こうした政策の瑕疵を目立たせないようにしながら、スムーズなランディングのタイミングを見極めなければならないのです。
 

US Embassy and Consulates in Japan

世界に影響する米大統領の動き

 そんな大統領選を見据えているのは、アメリカ国民だけではありません。
 世界の指導者たちが超大国であるアメリカの大統領選の行方を見極め、自国に降りかかるリスクを最小限に抑えようとしていることも忘れてはなりません。
 例えば、イランの場合は、トランプ氏の票集めのための華やかな外交ショーの犠牲にならないよう、慎重に時間を稼がなければなりません。ロシアやトルコなど、アメリカと過去に強く利害が対立した国も同様です。
 通常、大統領は二期目に入ると、より自分の理念に従った政策を実行したがります。それは慣例として、大統領は二期より長く務められないからです。従って、最後の4年間は、政治的な駆け引きなく、自分の理想を追い求め、歴史に名を残したいというわけです。
 であればこそ、それぞれの国が、自らの事情でトランプ政権が存続するか否かを見極めたいというのが、これから12か月の世界の動きと言えましょう。この影響は、そのまま直近の日中関係にも、日韓関係、さらには香港情勢にとっても大きな要因となるはずです。
 
 以上の事情を考えた上で、トランプ大統領にとって、最大のアキレス腱が今回の弾劾の動きなのです。
 この動きによって指摘されることが、それまで圧倒的に彼にとって有利とされた次回の選挙に影響を与えるかは未知数です。
 しかし、この弾劾の動きが、それに付随して大統領の様々な過去を暴くことになることは、今回のヘッドラインからしてみても明白です。
 世界中がこうした弾劾活動の推移に注目し、それが今後の国際間の駆け引きにも影響してくることは、紛れもない事実なのです。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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