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ナバホの人の、日食を通したノスタルジー

【海外ニュース】

Eclipse in full view May 20 at Grand Canyon. Moon to pass fully in front of sun at 6:34 p.m. On Sunday visitors to both rims of Grand Canyon National Park will be able to view a rare annular eclipse of the sun.(Grand Canyon News より)

5月20日、完全な日食がグランドキャニオンで。午後6時34分に太陽の前を月が完全に覆いながら通過。日曜日にグランドキャニオンを訪れる人は、峡谷の両岸でこの珍しい金環日食を見ることができる。

【ニュース解説】

今週、日本でも話題になった日食 eclipse ですが、アメリカではネバダ州からアリゾナ州、ニューメキシコ州にかけて日曜日の夕方に太陽が月に覆われました。

当然のことですが、科学の発達していなかった近世までは、日食は世界各地で不吉なことの前兆 omen だと思われていました。そして今なおその伝統を受け継ぐ人々がいないわけではありません。今回日食が通った場所は、アメリカン・インディアン(英語ではネイティブ・アメリカン Native American)の人々が多く生活しているところ。グランドキャニオン近郊は、ナバホ族 Navajo tribe の人々が多く、その中には伝統的な生活様式を守っている人も沢山います。彼らにとって、日食は Eating the sun と呼ばれ不吉な兆候。従って彼らは、日食の間は屋内に閉じこもって過ごします。

People hurried to corral their livestock, ran inside, woke up sleeping relatives, built a fire and prayed.(人々は家畜を柵の中に追い込み、家に駆け込み、寝ている親族がいれば起こして、火を焚いて祈ったものだ)とあるナバホの人は過去を振り返ります。
No food was consumed, and even the livestock were prevented from eating or drinking, as it could contaminate their flesh and make them unfit for human consumption when they were eventually slaughtered.(日食の間、何も食べてはならず、家畜にも餌も水も与えない。というのも、そんなことをすれば家畜の肉に影響して、後でその肉を食べられなくなるから)と彼は続けています。

実はナバホ族の住むこの地域、グランドキャニオンの他にも、国立公園が多く、Native American の文化が色濃く残っていることから、一年を通して多くの観光客がやってきます。まして日食ともなると尚更です。しかし伝統を守るナバホの人の中には、自分たちの住む地域に日食の間、観光客をいれることを拒否しようとした人もいるようです。

日本でも歴史上、日食は忌み嫌われていました。過去に日本を大々的に覆った金環日食は、平安時代の末期 1080年。当時は貴族政治が衰退し、社会が混乱していた時代。次の例は、1336年に京都近郊を暗くした皆既日食。その年は建武の新政が瓦解し、南北朝の混乱に入った年でした。また、日本の神話で有名な天岩戸伝説も、実は日食でなかったかといわれています。実際、大和朝廷の成立直前にあった邪馬台国の女王卑弥呼が死んだとされる 247年から 248年にかけて、二回も皆既日食が日本南部を覆ったといいますから、それはまんざらデマでもなさそうです。

現代人は、科学的に日食を分析し、それを不吉なものとは思いません。しかし、こうした自然現象と天変地異 natural disaster や社会の混乱は本当に無縁なのでしょうか。ちょっと面白い統計があります。それは、ニューヨークの犯罪率。実はニューヨークの警察官が特にピリピリするのは夏の暑い日と満月とが重なった日。確かに、満月とか新月の日は、人の精神状態が不安定になりやすいという研究結果もあるようです。ちなみに、満月や新月の日に出産が多くなるというのは有名な話です。

月の満ち欠けと人間の体調や精神状態との関連は、科学的にも立証されえるものかもしれませんが、昔の人は本能的にこのような自然現象を通して、心が揺れ、何が不吉なことが起きることを体感していたのかもしれません。日食はそのさいたるものだったのかも。

とはいえ、ナバホでも、どれくらい多くの人が、日食の風習を本気にしているかは疑問です。ただ、こうした風習を大切にすることで、彼らが部族としての伝統やアイデンティティ identity に敬意を表してゆこうとしていることは事実のようです。彼らには、失われつつある伝統へのノスタルジーを、日食を通して語っているのです。

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