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北朝鮮を巡る国連安全保障理事会での駆け引きの奥にある本音とは

【海外ニュース】

Haley urges Security Council to move quickly
(CNNより)

ヘイリーは、安全保障理事会に迅速な動きを求める

【ニュース解説】

8月15日の記事で北朝鮮の核の問題について解説しました。
その後、北朝鮮は日本の上空を通過する大陸間弾道弾を発射し、さらに水爆実験をも強行しました。その矢継ぎ早な対応に、アメリカをはじめ多くの国が振り回されています。

日本時間の今週月曜日から火曜にかけての夜に、国連で安全保障理事会 Security Council の緊急会合 emergency meeting が招集されました。
そこでスピーチをしたアメリカの国連大使ニッキー・ヘイリーについてまず知っておきましょう。彼女は、シーク教の父母を持つインド系の背景を持ちながらプロテスタントの本流にも近いメソヂストに改宗し、その後サウス・カロライナ州知事に選ばれた、共和党の中でも最も保守的で特異な経歴を持つ人です。
そして、ニッキー・ヘイリーは、トランプ政権の外交政策の懐刀として、国連大使をつとめているのです。

そんな彼女が、ほんの数時間前に国連安全保障理事会の会合で発言した内容は、あらゆる種類の言葉を使って北朝鮮を非難し、今までにない強い制裁を求めるものでした。
そこで使われた言葉は、enough is enough (もう我慢の限界を超えている) とか、金正恩に対して he is begging for war (彼は戦争をしたがっている)、あるいは、there is no more road left (もう道は残されていない) など、あたかも北朝鮮への宣戦布告前の最後通牒を思わせる極めて強いものでした。
アメリカは事前に日本と協議をしていたようで、日本も Security Council cannot waste time (安全保障理事会は時間を浪費してはならない) とアメリカの発言の直後にヘイリーの言葉への全面的なサポートを表明しました。

安全保障理事会は過去24年にわたって、北朝鮮の核開発に対して厳しい決議 resolution を繰り返してきました。しかし、その実施 implementation には疑問も残っています。北朝鮮の崩壊による難民の発生や、共産主義社会の覇者として北朝鮮をコントロールしたい中国が、その実施を徹底させていないのではと指摘されているからです。

今回、アメリカや日本の強い非難に対して、中国は再び穏健な対応を主張しています。中国は China will never allow war on Korean peninsula. (中国は半島での戦争を求めるものではない) とアメリカを諌めるような言葉を使い、同時に more dialog for demilitarization is much more needed (非武装化への議論がもっと必要) と強調しました。 ロシアは明らかに中国と足並みをそろえています。Urgent need for all to stay calm and not to yield to the emotion (今必要なことは冷静になることで、感情に走ってはならない) と発言しました。

この4カ国の発言を比べるときに、中国やロシアは空母を北朝鮮近海に派遣したり、日米、日韓合同演習を繰り返したりするアメリカと同盟国の動への牽制の意図がみえてきます。そして、それがゆえに北朝鮮はますます硬化し、無謀な試みを繰り返すのだという皮肉が込められています。
つまり、中国とロシアは、北朝鮮問題についてアメリカがこれ以上イニシアチブをとることを嫌っているのです。

しかし、このやりとりをみるときに、外交ゲームの奥義をみるような気がしてなりません。実はアメリカは日本や韓国と同盟する立場上、強い表現で威嚇はするものの、そのまま戦争に向けて地滑りを起こすことは避けたいのです。イラクやアフガニスタンでの軍事行動からの痛みに加え、今回は核の脅威が加わっています。従って、アメリカとしては、強い言葉は使い、自らのプレゼンスを強調しながらも、中国とロシアがアメリカの対応に水をかけることを暗に望んですらいるのではないでしょうか。
日本からしてみると、日本も北朝鮮問題では頭を痛めているものの、もしドナルド・トランプが国内の人気取りに走って「華々しい」戦争を仕掛けると、それはそれで日本本土が戦争に巻き込まれるリスクがでてきます。これが日本が本音で恐れていることです。

しかも、アメリカ政府は今テキサス州での大洪水や、西海岸での山火事など、国内の災害への対応に懸命で、トランプ政権としては、災害への対応によって人気を回復するチャンスがある以上、あえて国際問題の混沌に首を突っ込まなくてもよくなりそうです。

中国やロシアはこうした状況を見つめながら、あえてアメリカの発言に対して水をさしているのでしょう。北朝鮮はそうした事情を知ってか知らずか、複雑な世界情勢の綱引きを利用して、非常識な行動を継続し、さらに頻発させているのです。

これからは、トランプ政権の人気に再び陰りがでたときに北朝鮮がさらに暴挙を繰り返さないか。あるいは、中国の面子を北朝鮮が台無しにするような行動を起こさないかをしっかり見つめてゆく必要がありそうです。
中国が自らのリスクで北朝鮮問題を解決するチャンスがあれば、アメリカとその同盟国が反発し、逆の動きがあれば、中国とロシアが共同して足止めをするという、三すくみの状況が今の北朝鮮を巡る国際環境です。しかも、そのすべての国が、火中の栗を拾うことへのためらいをも抱いています。国際政治の駆け引きの典型を、今回の安全保障理事会での発言にみることができるのです。

北朝鮮を犯人とするなら、アメリカや日本、韓国が bad cop (犯人を強く責める警察官) となり、中国とロシアが good cop (優しく接して自白を引き出す警察官) の役割を演じながら、同時に北朝鮮に対するそれぞれの政治的立場を模索しているわけです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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