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コロナで生まれた差別を防ぐ「二つの理性」のすすめ

Since February, the agency has recorded 248 reports of harassment and discrimination related to coronavirus, more than 40% of which were anti-Asian.

(2月以降、エージェンシー(ニューヨークの人権委員)は248件のコロナウイルス関連のハラスメントや差別の報告を受けているが、その40%以上はアジア系の人々に対するものである)
― CNN より

アメリカ社会に拡大する「アジア系」への偏見と差別

 今、アメリカではアジア系の人々が社会の中で苦しんでいます。
 新型コロナウイルスが中国で発生し、それがアメリカに前代未聞の被害を与えているからです。
 日本にいると気づかないことですが、アメリカで生活すると必然的に日本人もアジア系人種の一つとみなされます。ちょうど我々が、誰がロシア系で誰がドイツ系なのか、なかなか見分けられないように、アジア系はアメリカでは一つのカテゴリーとして扱われがちです。
 ですから、中国発のウイルスによってアメリカが被害を受けると、中国系の人のみならず、あらゆるアジア系の人々への偏見が芽生え、差別が生じるのです。
 
 ただ、理解しなければならないのは、アメリカにおけるこうした偏見や差別は、常に特定の人種に対して起こっているわけではないということです。
 第一次世界大戦の頃には、ドイツがアメリカと対立していたこともあり、アメリカの中西部に多く住んでいたドイツ系の人々が差別の対象になったこともありました。それ以前には、プロテスタントの多いアメリカに後から入植してきたカトリック系のアイルランド系やイタリア系の人々、さらにはロシアやポーランド、そして現在のウクライナなどから流れてきたユダヤ系の人々への差別も執拗でした。
 もちろん、解放された奴隷の子孫としてアメリカに暮らす黒人系の人々が差別の対象になっていたことは言うまでもありません。
 
 つまり、人が人に対して偏見を持つ理由は多種多様だったのです。
 最近では、同時多発テロ事件の後の中東系の人々に対する偏見や、不法移民の多さからメキシコをはじめとした中南米の人々への偏見など、政治的な衝撃がその震源地となる地域に住む人々への偏見に直結した事例が目立ちます。
 さらに、メキシコ系移民や19世紀に問題になったユダヤ系移民への差別を見ると、そこにはもう一つの事実があぶり出されます。例えば、すでにメキシコからアメリカにやってきて、経済的にも余裕のできた人々が、メキシコからの新たな入国者を白い目で見るというケースです。19世紀のユダヤ系移民は、主に東ヨーロッパからの貧しい移民でした。彼らに対して、それ以前に入植していたポルトガル系などのユダヤ人が冷たく接していたという記録も残っています。
 
 「アジア系移民」としてアメリカで一つのグループとして捉えられるものの、その中でも、様々な確執があることは事実です。原因が彼らの本国での政治的な対立に起因しているものも少なくありません。
 移民は、自らの「アイデンティティ」を自身の「プライド」としながら生活しています。そのことが、時には母国の政治状況などへの同情となり、その心理が他の移民との対立を生み出すのです。
 

アイデンティティを持つ移民を尊重する「二つの理性」

 ということは、差別や偏見を考えるとき、「二つの理性」に注目する必要があるようです。
 一つは、「政治と個人とは異なる」という大原則を守ることです。
 例えば、中国が覇権主義をとり、言論の自由を抑圧しているという政治上の事実と、中国人個人とを分離して、個人は個人として尊重する姿勢が必要です。
 二つ目は、移民は政治と文化とをしっかりと分離させて、自らのアイデンティティを大切にするということです。
 多くの移民は政治的な理由で祖国を捨てています。そこでの政治を移住先に持ち込めば、それが新たな移民同士の対立へとつながります。文化を尊び政治と距離をおいた個人が集まり、新しい国家の中で共存することが、健全な多様性を生み出す要因となるのです。
 この「二つの理性」によって、移住先の国の政治に平等に参加することが理想となるのです。
 
 ここで、もう一つの事実を考えます。
 それは100年前、中国が帝政から民主国家へと移行するにあたって、指導者であった孫文がアメリカに渡り、アメリカに住む中国系の移民を組織化して清王朝への抵抗運動を継続させたという事実です。
 また、ソビエト連邦時代、ロシアから共産主義を嫌って逃れてきた人々がアメリカでの反共運動の原動力となったこともありました。
 このように、確かに政治と移民とは深くリンクしています。しかし、この二つの歴史的事実に共通していることは、移民が母国の政治を擁護していないという事実です。移民が母国の政治と一体となったとき、それは移住先での様々な偏見や差別、さらには他の移民との対立の原因となるのです。
 
 現在の課題は、移民が必ずしも経済的な、そして政治的な難民でもなく、豊かな国から豊かな国へと、資産の拡大や知識への投資を理由に国境を渡る人が多いという事実です。こうした人々の中には、母国の政治をそのまま自らのアイデンティティとしているケースが多いのです。
 このことが、中国からコロナウイルスが拡大したときに、罪も責任もない一般の中国人への偏見につながり、それに反発する中国系の人々と他の人々との対立の原因となっているのかもしれません。
 

人類共通の脅威を前に「グローバル・シチズン」を目指す

 「二つの理性」はアメリカにとって極めて大切な概念といえます。
 さらに進めて考えてみましょう。それは、国家への忠誠がナショナリズムの原点であるとするならば、あえてナショナリズムを放棄し、文化への愛着をアイデンティティとしたグローバル・シチズン(地球市民)へと人類が進化できるか、という課題です。
 コロナウイルスが人類共通の脅威であるという事実を、チャイナ・バッシング(中国叩き)からこうした新たな世界観へとシフトする原点にできれば、人類にはまだまだ未来があるのではないでしょうか。
 

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