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プロンプトエンジニアリングに必要な重要な配慮とは

AI cannot translate communicative gap between two cultures!

(AIでは二つの文化の間での行き違いは翻訳できない)
― 賀川洋(山久瀬洋二)Twitter より

日本人の起承転結をGPT-4に修正させてみた

 どこの国や地域でもそうですが、それぞれが独自の文化とそれに基づく人と人とのコミュニケーションスタイルを持っています。
 この文化に基づいたコミュニケーションスタイルを理解して、双方との信頼関係をつくり、ビジネスを前向きに進めてゆくノウハウが異文化ビジネスコミュニケーションのメソッドとなるわけです。
 
 最近、GPT-4DeepL、さらには文章自体の洗練度をチェックするためのGrammarlyなどが普及し、以前とは比較にならないほど海外とのコミュニケーションが楽になったと多くの人が思っています。
 
 そこで、一つの実験をしてみました。以前にも解説したことがありますが、日本人は意見を表明したり、プレゼンテーションをしたりするときに、得てして物事の背景から解説を始めます。そんなことはない、言いたいポイントからシャープに語っているよと思っている人でも、英語圏の人のように、極めて単刀直入に話したいポイントから始める人は稀なのです。
 
 そこで、次のような文章を作ってみました。
 
Now we are having a really hot summer. But we had a very cold winter this year. By the way, there are more typhoons attacking us than recent 10 years. So, I think the market of weather survival close is bigger and bigger in future. Let’s discuss the strategy of how to make these products in our factory this month.

(今、我々はとても暑い夏を経験しています。しかし、今年の冬は異常に寒かったことを覚えているはずです。ところで、この10年間を見るならば、台風の上陸回数も以前より多くなっています。こうしたことからも分かるように、異常気象への対処と防災に関する市場はこれからもっと大きくなるものと予測されます。そこで、今月は我々の工場での防災関連の製品開発の戦略会議を開催したいと思います)

 おわかりのように、これは正に背景から話を始めて結論へと向かう、日本人の典型的なレトリックです。起承転結法の見本といってもいいプレゼンテーションです。

 さてその上で、この作文をちゃんとした英語にするようにGPT-4に指示を出してみました。それが以下です。

Please correct this sentence for English speakers to understand the intension of the presenter logically. And correct English if you find some.

(プレゼンテーターの意図が英語のネイティブスピーカーに伝わるようにこの文章を修正してください)

 するとGPT-4は次のように回答してきました。

“We are currently experiencing a very hot summer, but earlier this year we had an unusually cold winter. Additionally, there has been an increase in the number of typhoons compared to the past decade. Therefore, I believe that the market for weather survival products will continue to grow in the future. Let’s discuss strategies for producing these products in our factory this month.”
 

 話の内容は一緒なので、あえて翻訳は省きます。確かに、英語上での誤りはきれいに修正され、文章も洗練されたものになりました。しかし、先に解説した「背景から説明する論理構成」は修正されていません。AIはそこまで気を回してレトリックを修正してはくれないことが、これでわかります。

 

生成AIに指示を出す我々が心得るべきこと

 そこで、さらに次のような指示を出してみました。

Do you make it more assertive for American listeners?

(もっとアメリカ人の聞き手にとって明快で堂々とした文章に変換してください)

 “assertive”は「自信を持って堂々と」していることを意味する単語で、欧米で相手を納得させるためには、assertiveなプレゼンテーションをすることが必要だからです。

 すると、GPT-4は以下のように文章を改善しました。

“Currently, we’re in the midst of an intense heatwave, but we also experienced an uncharacteristically cold winter earlier this year. On top of that, we’re facing an increased frequency of typhoons compared to the past decade. As a result, I strongly believe that there is a growing market for weather survival products. Let’s put our heads together and discuss strategies for producing these products in our factory this month.
 
 確かに英語はかなりシャープになりました。しかし、やはり背景からの説明に終始していることには変わりなかったことに気付かされます。これでは起承転結の文化のない欧米の人にとって、やはり言いたいポイントを誤解されてしまうおそれがあるのです。このことからわかったことがあります。AIはまだ異文化環境でのレトリックの変化に対してまでは配慮してくれないということなのです。では、どのようにすればよいのでしょうか。
 
 我々が異文化ビジネスコミュニケーションのノウハウを心得た上で、GPTに指示を出す必要があるということが、この問いへの答えなのです。以下の指示をまず出しましょう。
 
Please make this sentence for westerners to understand. Use their rhetoric starting with main point, then reason and example to reach the conclusion.

(この文章を欧米の人のロジックに合わせ、メインポイントから始めて、理由を語り、事例を表明した上で改めて結論を言うように書き換えてくだい)

 そこで出力された文章に、さらにクリアにメインポイントを表明させるために、Start this sentence with main point. と指示します。
 そしてそのあとで、Then, tell me the reason. と指示を出して、さらに、Give me two examples. と続けます。そうすれば、指示に従ってGPT-4は欧米のレトリックで順番に文章を出力してくれるのです。そして最後に、So what is a conclusion? と質問すれば、チャットボットは文章を自分で分析し、結論を最後にまとめてくれます。
 こうして出力されたものを統合すれば、あなたの言いたいことを欧米の人に理解できるように文章化できるわけです。最後に、その文章をGrammarlyなどでチェックすれば完璧です。
 

異文化への配慮とAIのリスクを心に留めて

 盲目的にコンピュータや翻訳ソフト、人間の通訳にすら頼ってしまうのは危険だということが、これでおわかりになったと思います。
 チャットボットを運用するためのプロンプトエンジニアリングを考えるとき、AIが出力したものを鵜呑みにすることはとても危険なのです。異文化への配慮を常に心に置いて、チャットボットの盲点に配慮しながらプロアクティブに指示を出さない限り、利便性のある最新の技術が双方の大きな誤解の原因になるリスクもあるということを、ここで確認しておきたいと思います。
 

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